大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
富士通のLOOXが復活!600g台の2in1「FMV LOOX」を5月に発売
~富士通40周年モデルがいきなりCESでデビュー
2022年1月4日 11:00
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が発売を予告していた「40周年モデル」が、米ラスベガスで開催中のCES 2022にいきなり登場した。しかも、「CES Innovation Awards 2022」を受賞するという、快挙を成し遂げての鮮烈デビューを飾ったのである。
製品名は、「FMV LOOX(ルークス)」。
2000年9月に発売された伝説のモバイルPC「LOOX」の製品名を復活。重量600g台のLOOX本体と、クラウドファンディングで人気を集めたUHキーボードをベースに新開発した別売りのLOOXキーボード、本体を背面から支えてノートPCのように利用できる同梱の専用スタンドを組み合わせて利用する新たなコンセプトのPCだ。
現在、さらなる軽量化などへの取り組みや、量産化に向けた試験などが行なわれている段階であり、発売は2022年5月が予定されている。
FCCLの齋藤邦彰会長は、「LOOXは富士通パソコンにとって特別なブランド。40年間の集大成となるPCを、このブランドで改めて実現することができた」と自信を見せる。
40周年モデルとしてベールを脱いだFMV LOOXに迫った。
40周年企画の最後を飾る記念モデル
富士通ブランドの第1号PCであるFM-8が発売されたのが1981年5月20日。それから40年を経過した2021年5月20日に、FCCLが発表したニュースリリースでは、この1年に渡って、40周年サービスの提供、オンラインイベントの開催、記念グッズの製作とともに、40年記念モデルを発売することが盛り込まれていた。
第1弾となる「LIFEBOOK UH Keyboard」は、同社初となるクラウドファンディングで提供。2021年12月24日の締め切りまでに、支援総額は7,726万円に達し、達成率は1,545%と、目標を大幅に上回る人気ぶりとなった。
また、第2弾として、デジタル苦手さんをサポートする「ふくまろおしえてサービス」の提供を開始。第3弾として、「FUJITSU PC 40th Anniversary」の記念ピンバッチを制作し、関係者に配布した。
そして、第4弾として最後に予定していたのが、40周年モデルの発売である。
同社では、「これが、40周年記念の最後を飾ることになる」と、まさにラスボス的な役割を担うアニバーサリーモデルの投入を示唆していたが、その詳細などについては、これまで一切明らかにしてこなかった。
しかし、事前告知がないまま、2022年1月5日(米国時間)から米ラスベガスで開催されるCES 2022に登場し、関係者を驚かせてみせた。
タブレットとしても、ノートPCとしても利用
現時点で分かる範囲で、その概要をまとめておきたい。
FMV LOOX本体は、タブレットとして独立した利用が可能であり、13.3型の有機ELディスプレイを搭載。Windows 11を採用するとともに、最新のIntel CPUを搭載し、600g台前半の軽量化と、7mm台の薄さを実現することになる。
背面には1,300万画素のリアカメラを搭載。別売りのFMV LOOXペンにより、ペン入力が可能であり、ノートPCで会議や授業に参加しながら、手元のFMV LOOXでメモを取ったりといった利用ができるほか、本体には左右合計4カ所にスピーカーを内蔵。軽量タブレットとしての特徴を生かして、本体だけを持ち運んで動画再生などを気軽に楽しむことができる。
USB Type-Cポートを2基搭載しており、スマートセカンドディスプレイとしての利用も可能だ。世界最軽量を実現したLIFEBOOK UHシリーズなどの13.3型ノートPCであれば、双方の狭額縁デザインを利用して横並びで利用したりできる。
また、一体型デスクトップのESPRIMO FHシリーズなどに用意されている23.8型ディスプレイ搭載モデルであれば、縦位置に並べることで、違和感なくディスプレイサイズを拡張して利用するといった使い方も可能だ。
USB Type-CケーブルでPCに接続することで、FMV LOOXそのものをペンタブレットとして利用したり、接続したPCとのファイル共有や直接編集作業などを行なうこともできる。
同梱しているスタンドは、背面全体にマグネットで固定され、Surfaceシリーズで採用されているキックスタンドのように、無段階で任意の角度に調整して利用できる。
新開発のLOOXキーボードを用意
特徴的なのは、ここに、別売りのFMV LOOXキーボードを組み合わせることでノートPCとしての利用を可能としている点だ。FMV LOOXキーボードは、40周年記念第1弾となった「LIFEBOOK UH Keyboard」(UHKB)をベースに開発したものだ。
キーピッチは19mm、キーストロークは1.5mmとし、安定した打鍵感を実現。キートップは英数字だけのすっきりデザインとしているのもUHKBと同じ仕様だ。
FMV LOOX本体とはドッキングする仕様となっているが、自由な角度で使いたいという場合には、UHKBを利用することを推奨する。クラウドファンディングでUHKBを購入した人は、FMV LOOXのキーボードとして利用するといった用途も増えたわけだ。
また、LOOXキーボードは、折り畳めば本体カバーとして利用することもでき、背面側は同梱したスタンドがカバーになるため、持ち運び時には両面をサンドイッチする形でカバーすることができる。
スタンドやLOOXキーボードを加えた重量は現時点では未定だが、13型のSurface Pro 8や、12.9型のiPad Proで、キーボードやスタンドを加えた重量よりも軽量化することが目標となりそうだ。
軽量化に対する追い込みは、FCCLの得意技でもある。合計の重量で1kgを切ることができるかどうかが注目される。価格設定についても、これらの製品を視野に入れたものになりそうだ。
製造は、FCCLの国内生産拠点である島根富士通で行なわれ、独自のAIアシスタント「ふくまろ」も標準搭載されることになる。
ターゲットとして想定しているのは、大学生やビジネスクエイターなど。「場所を選ばず、仕事も勉強でも利用でき、オンからオフまで楽しめる究極のモバイルを実現することを目指す」(FCCL 商品企画統括部長の田中大氏)という。
なお、FMV LOOXは、40周年記念モデルではあるが、販売数量や販売期間は限定していないという。
想像を超える軽さと、創造できる賢さ
CES 2022での「CES Innovation Awards 2022」の受賞理由については明らかにはなっていないが、FCCLでは、「FMV LOOXのコンセプトや性能などが高く評価された考えている。軽量で、スタイリッシュな外観と、信頼される富士通ブランドの安心感を兼ね備え、現代の様々なライフスタイルに合わせたデザインが評価されたのではないか」(FCCLの田中氏)とする。
こうしたコンセプトをもとに、「想像を超える軽さと、創造できる賢さ」が、FMV LOOXでのマーケティングメッセージになりそうだ。
「世界最軽量、新たなペン技術、ユニークなPC連携の実現、有機ELディスプレイと4つのスピーカーによって、新たな体験を提供できるのが特徴。新たなコンセプトのPCになる」(FCCLの田中氏)と位置づける。
なぜ、LOOXブランドを復活させたのか
今回、「LOOX」という製品ブランドを復活させたことに、40周年記念PCに対するFCCLの強い思いが感じられる。
最初に登場したLOOXブランドのPCは、2000年9月25日に発表されたFMV BIBLO LOOXである。
「いつでも、どこでも、快適インターネット」をコンセプトに開発したモバイルノートPCで、8.8型ワイドXGA(1,024×512ドット)対応のTFT液晶ディスプレイを搭載し、A5コンパクトサイズ(幅243×奥行151mm)と、1kgを下回る約980gの軽量化を実現。別売の内蔵バッテリーパック(L)を利用すれば、最大で約8時間の使用が可能だった。
さらに、Transmetaの省電力CPUであるCrusoe(クルーソー) プロセッサを日本で初めて採用したほか、DDIポケットのH" LINK(エッジリンク)も初めて採用。電話機や通信カードを接続することなく、すぐにデータ通信が行なえ、リアルタイムでEメールの着信をランプで知らせるという機能を採用した。
どこにいても、PHS網に繋がり、ワイヤレス接続によって、ネットができる最初のPCであった。そして、デザインも、前方、左右にウェーブを作った斬新なものを採用していたのも特徴だった。
LOOXはその後も進化を続け、2007年には、感圧式タッチパネルの5.6型液晶ディスプレイを搭載し、約580gの超小型軽量筐体を実現したFMV-BIBLO LOOX Uシリーズを発売。外出先でも手軽にモバイルコンピューティングを楽しめる世界を進化させた。
LOOXシリーズは、2011年を最後に終了。今回のFMV LOOXは11年ぶりの復活ということになる。
ちなみに、LOOXは、見るという意味を持つ「LOOK」と、無限や未知の意味を持つ「X」を組み合わせた造語であり、LOOXを利用することで、インターネットの「無限」の情報と可能性を、いつでもどこでも簡単に「見る」(アクセスする)ことができるという意味を込めていた。
FCCLの齋藤会長は、「今回のFMV LOOXも、ブランドに込めた意味は基本的には一緒。だが、それに加えて、LOOKでは、高精細なディスプレイを搭載していることや、ノートPCとしても、タブレットとしても利用ができ、使う場所、使う時間、使う用途を自由に組み合わせて利用できる新たなPCのスタイルを『見せる』ことができる。
さらに、Xという点では、紙に書くように、書きたいものが書ける書き心地を実現したり、ほかのPCと組み合わせて利用するといった提案をしたりでき、1+1を3にすることができる新たな進化を遂げた。
FMV LOOXは、革新的なものを、使いやすく、人に寄り添う製品にしたいという富士通パソコンの40年間の想いを、どれぐらい実現できたのかを示す製品。40年目の集大成として、新たなLOOKとXのコンラプトを備えたPCへと進化させた」とする。
実はFCCLの齋藤会長は、初代LOOXの開発に自らエンジニアとして関わっていた。
「LOOXは、常に革新的であり、モバイルという環境において、他社にはないものを投入し続けてきた。新製品を投入するたびに、毎回、多くの試行錯誤を繰り返し、従来のモデルを超えることを目指し続けてきた。LOOXの精神は、いまのFMVに繋がっているものであり、世界最軽量を維持し続けるFCCLの開発思想の元祖のような製品である」と位置づける。
そして、こうも語る。
「簡単にLOOXというブランドはつけられない。これまでの延長線上の製品ではなく、大きなハードルを越えて、新たな世界を作り、新たな使い勝手を体験してもらう製品がLOOX。だが、LOOXブランドの製品が10年以上誕生しなかったということは、モバイル領域において、革新的なPCが出せていなかったという反省でもある。『これぞLOOXである』というものを40年目の区切りに出せたと自負している」。
かつてのLOOXは、ノートPCのブランドであるBIBLOのサブブランドとして使われ、当時の製品名も「FMV BIBLO LOOX」であった。それになぞらえれば、今回の製品は、「FMV LIFEBOOK LOOX」となるはずである。
しかし、40周年モデルは「FMV LOOX」とした。ブランドの格を1つ上げたとも言える。
「LOOXというPCの生い立ちやこれまでの実績、コンセプトを考えれば、LIFEBOOKとは異なることが明白である。LOOXは、特別な領域である」と、今回のブランドとして背景を説明する。
LOOXの源流となるFrame Zero
もう1つ、今回のFMV LOOXには源流がある。
それは、2009年10月のCEATEC JAPANで行なわれたパネルディスカッションで公開した「Frame Zero」である。これは、齋藤会長が本部長時代に、競合他社のトップが同席する中、自ら公開したものだ。
Frame Zeroは、ディスプレイの枠がなく、画面いっぱいに画像やデータを表示できるようにした未来のPCのコンセプトモデルだ。
そして、当時主流だった折り畳み式携帯電話と並べると、利用できるディスプレイサイズが拡大。これを繋ぎ合わせることで、机一面までディスプレイの表示サイズを広げたり、Frame Zeroのデバイス同士が連携してデータを共有したりといったことが行なえる。
この考え方は、2012年に社内で公表したNew Work Style PCにもつながっており、ここでは、今回のFMV LOOXで実現されるデスクトップPCとタブレットを組み合わせてディスプレイサイズを拡大し、ワークスペースを広げたり、データを連携したりといったことが提案されていた。
「画面が組み合わさったり、複数のデバイスが連携したりすることで、用途の広がりや、効率性の高まりに繋がり、1+1が3になる効果が生まれる。Frame Zeroや、New Work Style PCでは、そうしたコンセプトがベースにあった。10年以上前に描いていたものの一部が、FMV LOOXで実現することになった」と、齋藤会長は振り返る。
FMV LOOXの2022年5月の発売に向けて、さらなる軽量化への努力が進められているほか、放熱における改善、PCとの連携時における使い勝手のいいUIの開発などに取り組んでいるという。
「ここには、PCづくりのノウハウだけでなく、1994年に発売したSTYLISTICシリーズ(スタイリスティック)シリーズから25年以上の歴史を持つタブレットづくりのノウハウも生かしている。
また、13型タブレットを最初に出したのは富士通。誰も想像しなかったサイズと薄さを実現しながら、剛性を保つというノウハウも蓄積している」と、最後の仕上げに向けて自信を見せる。
今後もLOOXは進化していくのか?
今回、40周年記念モデルとして復活したFMV LOOXは、今後どう進化していくのだろうか。
齋藤会長は、「具体的なプランがあるわけではない」と前置きしながら、「FMV LOOXは、毎年進化を遂げていくものでなくてもいいと考えている。無理に新製品を作り上げるというよりも、FCCLならではのコンセプトを形にしたいという場合に、新製品として投入するということが許されるブランドとして位置づけたい。LOOXの新製品が出るということを聞き、多くの人の期待が高まるというブランドにしていきたい」とする。
また、「Frame Zeroや、New Work Style PCのコンセプトは、これで完成したわけではなく、目指す世界はさらに先にある。2022年のFMV LOOXは完成形ではない。さらに進化を続けていくことになる」とする。
40周年をきっかけに復活した「LOOX」は、富士通パソコンの次の40年の未来に向けて、挑戦し続けるブランドになりそうだ。