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頭痛に取り組む富士通。頭痛対策の世界的企業に認定される

 富士通は、国際頭痛学会世界患者支援連合(GPAC)から、頭痛対策プログラムの世界的リーダー企業に認定され、2022年3月2日、認定証を授与された。企業として認定されるのは世界初となる。

 富士通の時田隆仁社長は、「今回の認定を大変光栄に思う。富士通は2019年に、頭痛対策プログラムを開発し、実施してきた。約7万3,000人がオンライン研修を受講し、頭痛に関する相談を行なった富士通社員および家族は376人に達した。私は、CHO(最高健康責任者)も兼務しているが、引き続き、頭痛対策プログラムにしっかりと取り組むことを約束する。健康推進施策をいままで以上に重視し、世界に向けて情報を発信していく」とした。

 また、富士通 健康推進本部の三宅仁本部長は、「頭痛対策プログラムは、7万人以上の富士通社員の協力を得て実施したものであり、世界各国で片頭痛に苦しむ人にとって、プラスの影響があればいいと考えている。医学の研究は、幸せの研究でもある。人生を変える取り組みをしたい」と述べた。

頭痛対策プログラムの世界的リーダー企業の認定証
富士通の時田隆仁社長
富士通 健康推進本部の三宅仁本部長

 片頭痛は全世界で10億人以上が悩まされている病気であるが、労働現場では、周囲の理解不足により、軽視される傾向がある。その結果、片頭痛を始めとする緊張型頭痛などの慢性頭痛を持つ従業員は、頭痛発作に耐えながら就労を続けるケースが多く、生産性やQuality of Life(QOL)の著しい低下を招き、頭痛を持っている人が働きにくい環境が生まれている課題がある。特に、日本では片頭痛の有病率が高く、多くの人が痛みに悩んでいるという。

 富士通は、これらの問題を解決するために、頭痛による支障度の正しい理解と、改善に向けた職場や従業員の教育、頭痛に悩んでいる従業員への頭痛対策プログラムを開発。この取り組みが、企業における頭痛対策のモデルケースとして、国際頭痛学会に評価された。

 富士通では、2018年6月に、国際頭痛学会や世界保健機関(WHO)、日本頭痛学会との共同研究として、富士通社内における「職場における慢性頭痛による就業への支障度調査」を実施。約2,500人のうち、85%が頭痛を自覚していたことが分かるとともに、そのうち、84%の従業員が治療を受けた経験がないことも分かった。

 また、頭痛による休業やパフォーマンス低下によって、会社が受ける経済的損失は、慢性頭痛がある従業員1人あたりで、年間10万円となり、全従業員に換算すると年間26億円に達することが分かったという。これは、従業員全体の年間給与支給総額の約1%に相当するという。

 さらに、慢性頭痛がある従業員の健康関連QOL尺度は、日本全体の標準よりも低下していることも明らかになり、頭痛による仕事や生活への支障度は予想以上に深刻であると分析した。

 富士通では、GPACおよび日本頭痛学会と共同で、頭痛対策プログラムを活用した「FUJITSU頭痛プロジェクト」を、2019年7月からスタート。国内のグループ従業員約8万人を対象に、e-Learning受講によって正しい知識の習得や、頭痛患者へのビデオセミナー、専門医によるオンライン頭痛相談、頭痛体操やヨガなどを実施した。

 2022年2月までに、8万1,159人の管理者を含む社員を対象に、頭痛対策プログラムを実施。e-Learning受講者は、90.5%となる7万3,432人に達し、受講者の90.8%が大変有益あるいは有益だったと回答した。

 受講した社員からは、「頭痛持ちの人の苦労や対処方法を理解できた」「個人のパフォーマンス発揮のために非常に有用だと感じた」「頭痛の辛さは周囲が理解しがたいので、ありがたいと思った」などの声があがったという。

 また、「頭痛が日常生活への支障が大きい病気」と捉えていた人がe-Learning受講前は46.8%であったが、受講後は70.6%に拡大。「頭痛のある同僚への接し方が変わりそうだ」と回答した人は76.9%に達した。

 さらに、頭痛相談を受けた376人のうち、58.8%に運動指導、49.7%に生活指導を行なったほか、富士通クリニックに頭痛に関する初診で訪れる社員が増加していることなどを示し、頭痛に対する社員の意識が変わっていることが浮き彫りになったほか、頭痛相談が参考になったと回答した人が97%に達し、「自分の頭痛タイプを知ることができた」「頭痛を減らす方法があることが分かった」などの声が多くあがっていたという。

 受診した30代男性社員は、5歳の頃から頭痛があり、月に1~2回学校を休むこともあったという。検査では重度の支障があることが分かり、予防薬を処方。受診直後は頭痛が月15日以上だったものが、半年後には頭痛はほとんどなくなったという。

 社員家族の40代女性は、25歳頃から前兆のない片頭痛があり、一時は嘔吐を伴うほど悪化していたという。受診後、漢方薬を処方し、頭痛日数が減少したという。

 日本頭痛学会理事であり、富士通クリニック頭痛専門医の五十嵐久佳氏は、「片頭痛の患者は、長い期間、頭痛とともに生活をしているので、自分がどれぐらい辛いかを認識していないケースもある。頭痛ダイアリーを付けて、自分がどれくらい頭痛に悩まされ、生活に影響しているのかを、初めて認識することも多い。受診した社員や家族などからは、もっと早く受診すればよかった、頭痛がよくなることを知らない人が多いのではないか、治療できることをもっと多くの人に知ってほしいといった声がある。頭痛プロジェクトを企画してくれた富士通に感謝しているという声もある」とした。

 また、「経済産業省が取り組んでいる健康経営度調査においては、2021年の調査票の項目に、新たに『片頭痛・頭痛』が追加された。企業が健康経営を考える上では、従業員の片頭痛、頭痛への取り組みが重要であることが認識されてきた」と指摘した。

 なお、今後の展開については、「今日時点では、富士通社内で頭痛対策プログラムを実行し、その成果を広く伝えた。今後、どんな形で横展開していくかについては、頭痛学会などと相談しながら考えていきたい」(富士通 健康推進本部 統括部長の東泰弘氏)としている。

富士通クリニック頭痛専門医の五十嵐久佳氏
富士通 健康推進本部 統括部長の東泰弘氏

 富士通では、「健康経営」に取り組んでおり、2017年8月1日に、「富士通グループ健康宣言」を制定。社員一人一人の自律した健康管理を積極的に支援したり、健康経営に関連するICTの提供を通じて、社員や顧客、社会全体の健康づくりや生産性の向上に貢献することなどを盛り込んでいる。今回の頭痛対策プログラムも、健康経営の一環として取り組んだものである。

 2021年度の重点テーマとして、「生活習慣病対策」「メンタルヘルス対策」「がん対策」「喫煙対策」などを掲げ、健康意識向上から行動変容への取り組みを加速するために、健康意識や健康リテラシーの向上に向けて、グループ全従業員を対象とした健康教育を実施。2020年には、「頭痛教育」をテーマにあげ、2022年度は「腰痛教育」に取り組むという。

 富士通 健康推進本部 統括部長の東泰弘氏は、「頭痛は大きな病気だが、周りからは、『たかが頭痛で休むのか』、『頭痛で病院に行くのか』といった見方が多いのも事実である。頭痛を正しく認識するための教育を行ない、社員が頭痛の治療をしっかりと行ない、安心して治療を受けられるといったように、心理的安全性を確保した職場づくりを進めていく必要がある」と指摘した。

 国際頭痛学会世界患者支援連合(GPAC)の代表理事であるデービッド・ドーディック氏は、「全世界で10億人以上の人たちが片頭痛に悩まされており、神経的疾患として最も多い病気となっている。特に18歳~55歳に多い疾患であり、家庭や職場における関係づくりに大きな影響を与える。片頭痛のために欠勤する人は数百万人に達し、職場にはいるが、生産性を高めた仕事ができない人も多い。片頭痛や様々な頭痛に苦しむ社員や患者のためにコミットし、これまでにない取り組みを行なった富士通を評価したい」とする。

 また、「調査をもとに実態を把握し、教育を通じて片頭痛に対する理解が促進され、社員が専門医による適切な診療を受けられる取り組みを広げることができた。2019年に富士通本社を訪れ、経営層と会い、話し合いを行なったが、そのときの成果が生まれている。職場が大きく変わることにつながった。片頭痛の影響を受けている人たちの生活の質も改善した。世界各国の企業が見習うべき取り組みである」などと述べた。

 世界神経学会のウォルフガング・グリソルド プレジデントは、「頭痛は個人の人生に大きな影響を与えてしまう疾患である。頭痛に関する認知を高めていくことが必要であり、それが世界的な課題になっている。今回の富士通の取り組みは、大手の国際企業が、新たな視点からアプローチするという点で大きな意義があり、様々なステークホルダーが協力し、頭痛に苦しむ人たちを救おうとしたこと、データを活用していることなどは、この分野にブレイクスルーを起こしたとも言える。世界各国に刺激を与えるものであり、その活動にお礼を述べたい」と語った。

国際頭痛学会世界患者支援連合(GPAC)のデービッド・ドーディック代表理事
世界神経学会のウォルフガング・グリソルド プレジデント

 国際頭痛学会のクリスティーナ・タソレリ プレジデントは、「片頭痛は多くの人が苦しんでいる疾患であり、患者の3分の1が、月5日以上苦しんでいる。また目に見える疾患ではなく、起き上がって活動していると正常に見えてしまう。片頭痛を持つ人は、普通の生活を送りたくてもそれが可能であるかどうかが分からず、働くために2倍の集中力が必要となり、その努力を続けると、片頭痛がさらに悪化し、苦しい状態が続くことになる」。

 「片頭痛は、人を殺すことはないが、人生を奪うものである。キャリアの機会を奪うこともあるし、仕事を辞めた人もいる。職務を果たせないという責任から、職場は拷問の場所になる場合もある。片頭痛の患者は、頭痛のままで仕事をすることを恐れているのではなく、仕事ができなくなることを恐れている。そうした観点からも、富士通の取り組みには拍手を送りたい。世界中の頭痛に苦しむ人にとってプラスになる成果である。多くの企業が追随する模範となるだろう」と話した。

 国際頭痛学会元プレジデントであり、埼玉国際頭痛センターの坂井文彦センター長は、「片頭痛は、病気としての認知度が低い。だが、多くの人たちが、仕事の能率が上がらない、集中できないといった悩みを持っており、経済的な損失も大きい。今回のプロジェクトによって、どれぐらいの人が悩んでいるのか、どれぐらいの経済的損失があるのかも理解できた。会社全体として、頭痛という課題に取り組む会社は、富士通が初めてである。社会全体を見ても大きな一歩だと言える」とした。

国際頭痛学会のクリスティーナ・タソレリ プレジデント
埼玉国際頭痛センターの坂井文彦センター長
(左から)富士通の時田隆仁社長、埼玉国際頭痛センターの坂井文彦センター長、国際頭痛学会世界患者支援連合(GPAC)のデービッド・ドーディック代表理事(画面)