モバイラーが憧れた名機を今風に蘇らせる

第8回

富士通「LIFEBOOK U」(FMV-U8240/LOOX U50WN)

~ザ・UMPCにWindows 10を入れてみる

LIFEBOOK U

 この連載も8回目となるのだが、富士通の超小型モバイルPC「LIFEBOOK U」(FMV-U8240)を取り上げることにした。

 FMV-U8240という型番自体、馴染みがない方も多いだろうが、これは法人向けの製品名で、個人向けには「LOOX U50WN」という名前で投入されている……とくればピンと来るモバイラーも少なくないだろう。そう、FMV-U8240およびLOOX U50WN(以下、FMV-U8240で説明する)は2007年に富士通が投入した、世界初の“Intel Ultra Mobile Platform 2007”準拠の正真正銘のUMPCだ。

 FMV-U8240自体に“古さ”や“懐かしさ”があまりないのも正直なところなのだが、気付けば8年前のPCで、標準搭載されているWindows XPのサポートが終了している。つまり、れっきとした“クラシックPC”だ。

 さて、このコラムで2回連続で富士通製品を取り上げることになるのだが、今回はリリースが目前に迫るWindows 10のインストールを目論んでいる。というのも、この製品はギリギリのスペックでWindows 10が動作しそうだったからだ。

 Microsoftが公開しているWindows 10のシステム要件は、1GHz以上のプロセッサまたはSoC、1GB以上のメモリ、16GB以上のストレージ、1,024×600ドット以上の解像度、DirectX 9以上のビデオカード(WDDM 1.0ドライバ)とされている(いずれも軽い32bit版の要件)。プロセッサの動作周波数のみ、ちょっと不足を感じるのだが、うまくインストールできるかどうか興味があるところだ。

そもそもUMPCってなんだっけ

 冒頭でなんの解説もせずに「UMPC」と書いたが、このコラムを愛読しているモバイラーの諸兄にとって改めて説明する必要もないだろう。UMPCは“Ultra Mobile PC”の略であり、一般的には8型未満の液晶ディスプレイを搭載した(2006年~2010年頃は主にクラムシェル形態のもの)PCを指す。

 当然、Intel Ultra Mobile Platform 2007に準拠していればUMPCと名乗れるのだが、これはIntelのプラットフォーム戦略によって2007年頃からUMPCという名前が流行り出し始めたからで、このコラムに過去に登場した「Libretto」や「バイオU」シリーズも、Intelプロセッサ非搭載ながらもUMPCの類だと言って良い。しかし、FMV-U8240は初めてIntel Ultra Mobile Platform 2007に準拠した製品なので、一般的にUMPCと言う場合は本製品が元祖だ。

 そのIntel Ultra Mobile Platform 2007だが、CPUにA100(600MHz)またはA110(800MHz)、メモリは最大1GB、チップセットはノースブリッジにIntel 945GU Express、サウスブリッジにICH7U I/O Controller Hubを搭載することが要件となっている。詳細については後述するが、FMV-U8240はこれらを全て搭載している。

 液晶は1,024×600ドット表示対応の5.6型で、感圧式のタッチパネルを装備。ペンも液晶部に収納できる。また、液晶右側のフレームに指紋センサーを搭載するのもユニークだ。

 本製品最大の特徴は、液晶が回転するコンバーチブル型になっていること。今風の言葉で言えば2-in-1だ。今でこそ全世界的にコンシューマ向け2-in-1が流行しているのだが、当時のモバイラーにとってみればさほど珍しい機構ではない。むしろ今時の2-in-1が“今更”なのだ。

液晶は回転し、ピュアタブレットにもなる
液晶右側にはタッチペンを収納する

 以前取り上げた「バイオU」は液晶こそタッチ非対応だが、フォームファクタ的に本製品にとても似ている。特に、両手でホールドして、右手の親指でポインタ操作、左手でクリック操作を行なえるようにしている“モバイル・グリップ”が可能な点は両製品全く共通であり、FMV-U8240はバイオUのフォームファクタを真似ようとしていることが良く分かる。

右手の親指で操作できるスティック型ポインタ
左手の親指で操作できるクリックボタン
バイオUとの比較。フットプリントはより小さく、バッテリも飛び出さないのでより薄くなっている。ただしキーボードの配列はかなり妥協していることが分かる

以前、メインのモバイル機にしようとしたのだが……

 ただキーボードに関してはバイオUと大幅に異なる。バイオUはキーピッチが窮屈で、一部変則的な配列があるのにも関わらず、1キー1アクションを目指して実装しているのに対し、FMV-U8240はキーピッチを優先し、一部のキーをFnキーと併用して入力するようになっている。

 また、バイオUはモバイル・グリップでも入力しやすいよう、「ThumbPhrase」と呼ばれる入力方法をソフトウェアで実装し、ケータイのテンキーのように日本語を入力できるのだが、FMV-U8240にはそのような仕組みが一切ない。

 実は当時、会社で取材用に使えるミニノートを探していた筆者は、FMV-U8240を約1週間試用する機会を得たのだが、結局このキーボードの配列がネックだと感じ、導入を諦めた経緯がある。

 1つ目はAの位置で、一般的なキーボードの感覚でAを入力しようとするとSになってしまう。これはキーピッチを狭くしてよかったので、もう少し右に寄って欲しかったところ。もう1つはハイフン(-)で、この業界ではよく使う記号なのだが、これがFn+Iでないと入力できない。

 そして“決め手”はカーソルで、これもFnキーと右下の一部記号との同時押しでないと入力されない。当時の日本語変換は今ほど賢くなかったので、文節の切り替えや変換の長さはしょっちゅう発生したものだが、本機の場合、最大で3キー(つまりShift+Fn+[または])同時押しとなるわけだ。脳裏に浮かんだ言葉をそのまま入力するなら、このぐらいのタイムロスは問題ないが、さすがに取材中プレゼンテーションを聴きながらキーを探す、というのは無理だった。

 そして何より、当時試用したモデルがメモリ512MBであったのがネックだった。Windows XP自体はそれほどメモリを消費しないのだが、富士通のユーティリティやランチャー類などが常駐し、もともと少ないメモリを更に圧迫していた。本機に標準搭載されているストレージはSSDではなく1.8インチのHDDであり、メモリから溢れたデータがHDDにスワップし速度低下していた。これも個人的に導入を見送った原因であった。

FMV-U8240本体
液晶を開いたところ
キーボードの配列は異色で、多くのキーがFnキーとの併用になっている
本体右側面。CFカードスロット、電源ボタン、USB 2.0を装備。排気口の隣に見える丸い部品だが、これは個人向けのLOOX Uでワンセグ搭載モデルのアンテナの口となっている
本体左側面。DC入力、SDカードスロット、ボリューム調節、音声入出力を搭載。余談だが、SDカード/CFともにPIOモード4による転送しか対応しておらず、やけに遅い
専用のタブレットボタン。専用ユーティリティを入れれば、コントロールパネル→タブレットの設定から、ショートカットなどを割り当てられる。標準では一番右はキーボードライトを点灯させるためのボタンとなっている
大容量バッテリ装着時は、本体後部に出っ張るが、約8時間の長時間駆動を実現する
底面は富士通おなじみのカーペットが貼られ、発熱を肌に伝えにくいようになっている
液晶右側の指紋センサーはAuthenTec製(現在はAppleに買収されている)。その下のボタンは長押しでCtrl+Alt+Deleteとして動作する

さすがのMade in Japan

 とは言え、FMV-8240はバイオUよりわずかに小さいフットプリントに抑えながら、バイオUで成し得なかった“嵩張らない、出っ張らない”標準バッテリを実現している点は、個人的にも評価している。これを実現できたのは、もちろんIntel Ultra Mobile Platform 2007準拠による部品の小型化が欠かせなかったのだが、富士通の高い組み立て技術も大きく貢献している。

 分解するのにあたって気付いたのだが、ネジの種類こそ2種類なのだが(ヒンジ部のみ長く、残りは同じ)、大きさの割にはネジの本数が多く、組み立ての構造も複雑だ。

 例えば、オーディオ/SDカードスロット基板はメイン基板と分かれており、フラットケーブルで繋がれている。スピーカーやポインティングデバイスおよびクリックボタン、ドックコネクタも独立基板であり、フラットケーブルで繋がれている。空間を少しでも立体的に利用することで、スペースを稼いでいることが分かる。ケーブルを這わすところもきっちり指定されており、そこにケーブルを入れないと筐体が閉まらなかったりする。

 このため、組み立て手順を一歩間違えると、大幅に手順を遡らなければならなず、1人で組み立てようとするとかなり大変だ。

 筆者の場合、今回写真撮影のために分解したのだが、最後にフレームをはめ込む段階で、DCケーブルのコネクタの挿し忘れに気付き、マザーボードごと全て外すことになったり、ファンとディスプレイのケーブルがヒートシンクに挟まってカバーが閉まらなかったり、無線LANオン/オフのスイッチを入れ忘れたりと、何度も試行錯誤しながら元に戻すこととなった。

 とは言え、本製品は天板200kgf加圧をクリアするために、マグネシウムのフレームや比較的柔軟性に富んだプラスチック部品を採用しており、過去に取り上げた製品のように爪が折れてしまうといったトラブルとは無縁だった。手順さえきっちり踏めば、組み立てはさほど難しくない。1台のPCを複数人で作業を分担し、流れで組み立てるトヨタ式生産を採用している富士通だからこそ実現できたと言えるだろう。

本体底面の4本のネジを外せば、とりあえずMini PCI ExpressスロットとHDDにアクセスできる。なお、もう1つのMini PCI Expressスロットの空きパターンもあるのだが、こちらはUSBしか配線が来ていないようである(スロットが付いている方は逆にUSBが来ていない)
搭載されている東芝製1.8インチHDD「MK4007GAL」。今回最大の改善すべきポイントだ
マザーボードへアクセスするためには、フレームを取り外していく必要がある。内部も複雑で、ネジも多い
取り外したマザーボード。キーボードとオーディオ基板を接続するケーブルの外し方が分からなかったので、そのままにしてある
マザーボード表面
マザーボード裏面

Atom登場の前触れ、Stealeyを搭載

Stealeyプロセッサとその周辺のチップセット

 それでは、搭載部品を1つずつ見ていこう。CPUには、Stealeyのコードネームで知られる「A110(800MHz)」を搭載する。このプロセッサはPentium IIIの流れを汲むDothanコアをベースとしており、TDPを4Wに抑えた、言わばUMPCのためのプロセッサだ。

 Intelは2008年に、低消費電力を実現したAtomプロセッサを投入したが、Stealeyは言わばその前触れだった。当時のAtomのBonnellアーキテクチャは低消費電力を実現するために、インオーダーの命令実行方式を採用していたのだが、StealeyはDothanの流れを汲むアウトオブオーダー実行のため、クロックあたりの処理性能(いわゆるIPC)では上である。

 Bonnellでは低いIPCの代わり、SSE3命令やHyper-Threading、64bitへの対応などが図られ、高い性能を実現するプロセッサではあったし、当初から消費電力を重視して設計されたアーキテクチャだった。一方StealeyはDothanが当初から持つIPCから、動作クロックを落とすことで消費電力を4Wに抑え、言わばBonnelとは対立した設計思想のCPUであったと言えるだろう。

 Dothanとの決定的な違いはパッケージの大きさだ。ダイそのものはDothanと同じく90nmなので、その点なんら変更はないのだが、パッケージは35mm角から19×14mm程度へと大幅に縮小された。このため、UMPCのような小型フォームファクタに適した実装が可能となったわけだ。

 DDR2メモリは、Micron製の「D9」シリーズを採用している。表裏に合計8枚装着されているので、1枚あたり128MB(1Gbit)の容量を持つと見られる。

 チップセットは、先述の通り小型パッケージのものを採用し、ノースブリッジはIntel 945GU Express、サウスブリッジはICH7U I/O Controller Hubこと「PC82801GU」を採用している。このチップセットはA100/A110専用に誂えたもので、945GUのパッケージサイズは22mm角(フルの945GMは37.5mm角)、ICH7Uのパッケージサイズは15mm角(フルのICH7は31mm角)と、デスクトップ向けのものと比較して大幅に小型化されている。

 ただしその分、チップセットとしての機能も大幅に削られており、例えばIntel 945GM Expressチップセットは最大667MHzのFSB、4GBまでのメモリ、x16レーンのPCI Express、250MHz駆動のグラフィックスエンジンなどを備えているが、945GUのFSBは400MHz、メモリは1GBまで、PCI Expressレーンはわずかx1、グラフィックスエンジンも133MHz駆動となっている。もっとも、本機の実装を考えれば十分だ。

Stealeyこと「A110」。Dothanをベースとしており、アウトオブオーダーで命令を実行する。動作クロックは800MHzで、SpeedStepにより600MHzにクロックダウンする
かなりパッケージサイズを抑えた「Intel 945GU Express」。GPUのクロックダウンやPCI Expressのレーン数の削減など、Intel 945G Expressのサブセット的な位置付けとなっている
サウスブリッジのICH7U I/O Controller Hubこと「PC82801GU」。こちらもパッケージがかなり小さい
表裏にMicronのDDR2メモリチップ「D9」シリーズを4枚ずつ搭載している

 オーディオのコーデックはRealtekの「ALC262」。こちらは4チャネルのHigh Definition Audio Codecsとされており、Universal Audio Architectureに準拠した設計となっている。内蔵するDACのS/N比は100dB、ADCのS/N比は90dBと平凡だが、24bit/192kHz出力、24bit/96kHz入力できる点が侮れない。

 EthernetコントローラもRealtekの「RTL8101L」だ。コストを追求したコントローラであり、特筆すべき点は特にないだろう。このほか目立つチップとしては、O2Micro製のCardBusコントローラ「OZ711MS1BN」、外部ディスプレイ出力を行なうためのChrontel製SDVO/RGB DAC「CH7317A」、ファームウェアを格納するSTMicroelectronics製フラッシュメモリ「M50FLW080A」などが見える。

 CPUに供給する電力は、CPU上部/サウンド基板の接続ケーブル付近に見える「MAX1532」が司る。このコントローラは2フェーズのQuick-PWMステップダウンコントローラで、IntelのIMVPに準拠したCPUコアへの電力を供給する。すぐ隣にあるTexas Instrumentsの「TPS55120」は3.3Vおよび5Vのスタンバイ電源を生成するステップダウンコントローラで、100mAのスタンバイレギュレータを内蔵している。まさにノートPCのために設計されたチップだ。

 基板の底面に目を移すと、バッテリ端子付近にMaxim製のバッテリ充電のためのコントローラ「8724E」が見える。また、CFスロットの下に絶縁シートで覆われている富士通製のコントローラが2つ見えるが、「MB90F378」は16bitのマイクロコントローラで用途は不明。一方その隣の「S1L50552F33N200」はデータシートが見つからないのだが、セイコーエプソンが設計したゲートアレイ「S1L50000」シリーズではないかと推測される。

 分解して分かる通り、筐体にはファンも装備されているのだが、CPU/チップセットは、前回紹介した「LOOX S80C/W」と同様、大型の1枚のアルミ製放熱板と接触しており、これによって熱を拡散している。さすがに筐体が小さすぎるため、LOOX Sのようにファンレスを実現できなかったのだが、それでも動作中は筐体全体がそれほど熱くなることなく、そしてファンがさほど高速に回ることないのは、この放熱板のおかげだろう。

24bit/192kHz対応のオーディオコーデック「ALC262」
Ethernetコントローラの「RTL8101L」
O2Micro製CardBusコントローラ「OZ771MS1BN」
Chrontel製SDVO/RGB DAC「CH7317A」
ファームウェアを格納するSTMicroelectronics製フラッシュメモリ「M50FLW080A」
2フェーズのPWMステップダウンコントローラ「MAX1532」(左)、およびスタンバイ電源用ステップダウンコントローラ「TPS55120」(右)
Maxim製バッテリ充電コントローラ「8724E」
「MB90F378」は富士通製の16bitマイクロコントローラ
資料が無いため「S1L50552F33N200」は不明だが、ゲートアレイだと推測される
このほか電源回路回りには「D6553」や、ICSのクロックジェネレータとみられる「9UMS900AKL」などが実装されている
フレームはマグネシウム合金と見られる。高い剛性を誇っている
ファンは独立していてヒートシンクなどはなく、単純に排気を行なうだけのものとなっている
LOOX S80C/Wと同様、大型の放熱板を装備しており、熱を均一に拡散する

5,400円で落札、しかしOSはなし

 今回もヤフオクで5,400円で落札した。製品が届いてびっくりしたのは筐体の状態の良さ。ディスプレイには2つほど浅い傷が付いているのだが、キーのすり減りや外装の塗装の剥がれや汚れが一切なく、「本当に使ったのか?」と首を傾げたくなるほど綺麗であった。特にこのような白い筐体は、日焼けやタバコのヤニなどですぐに変色してしまうのだが、本製品は先述の画面の傷以外ほぼ新品に近い状態だ。

 もっとも、FMV-U8240は元々法人向けのモデルである。よってこの製品もどこかの法人に買われて、2~3回利用した後さほど使わず仕舞になった可能性はある。このようなUMPCはマニア向けの製品であり、このフォームファクタを必要とする業種があるのか……というのが本製品登場時の筆者の正直な感想だったのだが、個人向けに先立って発表して投入したということは、何かしら法人ニーズがあったのかもしれない。

 今回購入したモデルはメモリ1GBと最大容量を搭載していたものの、無線LANアダプタは残念ながら非内蔵。また、ミニD-Sub15ピンおよびEthernetに変換するアダプタも付属しておらず、ネットワークについてはUSBで解決する必要がある。

 ACアダプタは付属しており、バッテリは本体後部へ突き出す大容量タイプを搭載していた。この大容量バッテリはまだ生きており、6時間以上の駆動が可能だった。内蔵HDDは40GBでこれもBTOで選択できる最大容量だが、残念ながらOSは入っておらず真っさらの状態だった。

 OSに関しては冒頭で述べたように、当初からWindows 10(作業時はInsider PreviewのBuild 10162)を入れて試す予定であったので問題ない。ネットワークもUSBでなんとかなる。メモリは増設できないので諦めるとし、唯一問題となりそうなのは、1.8インチで遅いHDDぐらいだ。

 もう1つ気になったのは、バッテリとACアダプタ両方を抜くと、内蔵のCMOSが完全にクリアされてしまう点。CMOSバックアップ電池自体は装備されているので、本来そのようなことは発生しないはずなのだが、やはり本機は長時間使われていなかったのだろうか、電池が完全に消耗してしまったようだ。

液晶に僅かに傷が入っている程度
白の天板はまるで新品のようだ
CMOSバックアップ用電池が消耗しているようだ

PlextorのM6Mに入れ替える

 とりあえず、HDDの状態でWindows 10をインストールしてみる。本機はこれまで登場したモデルとは異なり、標準でUSBメモリや光学ドライブからのブートをサポートしているので、Microsoftが公式に配布している「Windows USB/DVD Download Tool」を利用して、Windows 10 Insider PreviewのISOイメージをUSBメモリに書き込んで、ブータブルのUSBメモリを作成。その後FMV-U8240のUSBポートに接続し、BIOSでブートの順番を上に持ってくれば(USBメモリではなくUSB HDDとして認識されるようだ)インストールできる。

 インストールは思いの外早く、約1時間弱でインストールが完了した。ただしこの状態だと、ディスプレイドライバが入っておらず、指紋センサーや独自のボタン群による操作を実現するためのドライバなどが当たっていない。また、タッチパネルも画面半分ぐらいしか正常動作しない妙な状態である。

 ディスプレイドライバに関しては、Windows 7用としてIntelが配布しているものか、インターネットに接続している環境であれば、Windows 8用にMicrosoftが用意したドライバが自動的に適用できる。Windows 8用のドライバは画面の回転などがサポートされていないため、フル機能を活用するためにはWindows 7用のドライバが望ましいのだが、今回は画面回転を行なわなくても良いと判断したので、Windows 8のドライバを使う。

 一方指紋センサーのドライバは、富士通がVista用に配布しているものを当てれば利用できる。そして驚くことに(?)、この指紋センサーはVistaのドライバでWindows 10の生体認証機能「Windows Hello」をサポートしており、ログインやロック画面からの解除などがワンタッチで行なえるのだ。これは便利に使える。

 タッチパネルに関しても、富士通が配布しているVista用のドライバで問題なく動作できるようになる。Vista以降、ドライバモデルが大きく変更されていないのは助かる。Windows XPからVistaのアップデート時は、本当に多くのハードウェアが(ドライバの開発が止まったせいで)ゴミと化したものだ……。

 そのほか、ディスプレイ周囲のボタン動作を実現するためのドライバなどいくつかあるが、これらは富士通のシンガポールのサポートページ(Support→Computing Products→Tablet PCs→U→U1010を選ぶ)からダウンロードできる。また、キーボードのライトを点灯させるためには、「Button Utility」が必要だ。なお、Button Utilityのインストールには、.NET Framework 3.5が欠かせないので、予め「Windowsの機能」で追加しておくと良い。

ドライバを一通り当ててButton Utilityをインストールすれば、タブレットの設定でボタンを割り当てられるようになる
キーボードライトはソフトウェア制御なのだが、問題なく利用できた
AuthenTecのVista用ドライバではWindows Helloも使える

 さて、めでたくWindows Helloも使えるし、ほぼWindows XPインストール時とさほど変わらない機能をも実現した本機だが、やはりHDDでは遅すぎる。起動に4分近くかかる上に、その後も何かをするごとにHDDへのアクセスが発生してしまい、とにかくストレスなのである。

 こうなったらSSD化してみるのが手っ取り早い。今回は本機のために、Plextor製で定評のあるmSATA用SSD「PX-M6M」の64GBモデルを購入し、mSATA SSDをZIFタイプの東芝1.8インチHDD互換に変換する基板「MSATA2ZIF」を用意。ただし本機はZIFではなく東芝の1.8インチ50ピンなので、さらにZIFから50ピンへ変換する変換名人の「IDE-ZIFB18B」を用意し、接続した。

 なお、ZIFのケーブルや変換基板にはピンアサインが書かれていないので、表裏を変えながら接続を試行錯誤するハメになったのだが、mSATA→ZIF変換アダプタは、コネクタを上向き/手前向きにした時、一番右のピンが1番、一方でFMV-U8240本体側は裏返してドックコネクタを手前側にした時、一番左のピンが1番となる。ZIFケーブルは、いずれもロック機構がある面と逆の面が端子接触面だ。そして白いテープが貼ってある方はデバイス側、青いテープが貼ってある方がホスト側となる。

 よって、白と青のテープ各々が逆の面に付いているケーブルを選択し各々の基板を接続、最終的にmSATA→ZIF変換アダプタを裏返した状態、つまりmSATAのドライブが見えない状態で接続すると良い。

 ちょうどこの作業を行なっている時に、Windows 10のBuild 10240が配布された。不必要な書き込みを避けるために、HDDの状態でアップデート作業を行ない、その後ディスクのクローンでデータ移行を行なうことにした。

 最後にCMOSバックアップ用の電池だが、当初充電用のコイン電池ではないかと踏んでいたのだが、割ってみれば至って普通のリチウムコイン電池「CR1620」が使われていた。そこでダイソーに足を運んでみたのだが、CR1620がなく、代わりにより薄いCR1616があった。電圧は共通なので、今回はこれで代用する。

 ただし元から付いている電池はタブごとハンダ付けされているのだが、CR1616はハンダ付けに対応していない。こういったものをハンダ付けするには、高出力で一瞬でハンダ付けできる、100W以上のハンダゴテが必要になる。まあ、導電すれば良い、ということなので、タブを力づくで剥がし、新しいコイン電池は接触部以外はシールで絶縁し、粘着性が高いシールで電極に貼り付けて戻すことにした。

変換に変換を重ねたSSD。今回は基板とケーブルを組み合わせたため、ケーブルを工夫しないと1.8インチのスペースには入らないが、ProjectMの「ZIF2PIN50」を使えばもう少し楽に入るだろう
CMOSバックアップ電池は、ダイソーで購入したCR1616で代用した

やはり1GBのメモリがネックか

 さて、最新のWindows 10と強力なSSDによって、まさに“今風に蘇らせる”のコラム名に恥じぬマシンに生まれ変わったFMV-U8240……なのだが、はっきり言って使用感はあまり良くない(涙)。

 正直なところ、UIはびっくりするぐらいにスムーズだ。タイルはスムーズに書き換わるし、Microsoft Edgeのスクロールも60fpsは出ていると思えるほどスムーズ。しかもMicrosoft Edgeでは、ページのデコードなど、何らか重い処理を行なっていてタイトルに「(応答なし)」と表示されている間ですら、コンテンツのスクロールが行なえる。Google Chromeより高速と謳っているEdgeだけあって、投入されている技術は半端じゃない。

 タッチも感圧式ながら軽快そのもの。もちろん爪の先やペンで押す必要はあるのだが、「これが本当に感圧式センサーなのか?」と思うぐらいヌルヌル動く。OSのインターフェイス回りのチューニングがこれだけ進めば、同じハードウェアでもこれだけ体感が違う例だ。

 ところが、Edge起動後にスタートボタンを押したり、通知のチャームやネットワークのチャームを出そうとすると、数秒待たされてしまう。どうやらEdgeの起動によって、これら本来オンメモリで動作するUIの部分がSSDにスワップされてしまうらしく、そこからメモリに書き戻しながら、Edgeが使用した部分を逆にSSDに退避しなければならないようで、処理によっては20秒以上かかることもある。

 スタートボタンを押して20秒何も反応がない……というのは、近代的なマシンならOSの起動ですら辿り着ける秒数なわけで、2007年のPCでタッチやWindows Helloまで動く技術デモとしては大変面白いけど、正直実用には程遠い。IDEをSATAに変換しているオーバーヘッドもあるので、この辺りは致し方ないところか。

 Webを使わない旧来のWindowsデスクトップアプリの動作は至って快適であることから、ボトルネックになるのは“1GBしかないメモリでWeb関連の作業を行なった時”の一言に尽きる。近年はオンラインを使った作業が当たり前となっているし、Windows 10の設計自体もオンラインが前提なので、Edgeやメールを使わずして、この近代的なOSで何のデスクトップアプリを走らせる? と問われてもなかなか答えられない。オフラインでデスクトップアプリを走らせるのなら、Windows XPの方が幸せになれるだろう。

動作中のメモリ使用量の様子。使用中は確かに528MBと表示され、一見少なそうに見えるのだが、実際はそうではない
CrystalDiskMark 4.0の計測結果。一応キューイングは効くし、TRIMコマンドも発行できるのだが、フルスペックとは程遠く遅い

新しいUMPCはいつの日か

 Windows 10を入れてみて、動作はしたものの、ちょっと微妙だった本機。やっぱり実用的なのはWindows XPだ。そんなわけで今度時間を見てWindows XPを入れてみようと思う。

 実はWindows 10をインストールできてしまった時から、本気でこの製品を使ってみようという気になって、本体の重量とフットプリントを削減できる標準バッテリを1,000円(しかも新品)で落札。さらに白い天板とシャープなラインはどこかユニコーンガンダムをも彷彿とさせるところがあることもあり、ガンプラの汎用デカールを貼ってみて、ちょっとカッコよく見せようとしたりもした。

ガンプラ用の汎用デカールを貼ってみた。まあこれぐらいなら程よいアクセントだろう

 しかし、実用度は近代的なSSDを持ってしてもWindows 10を走らせるにはあまりにも残念であった。これからWindows 10軽量化のテクニックがさまざまなところから上がるだろうから、インストールしたディスクをそのままに、しばらく別のディスクでWindows XPを運用するのもアリだ。

 Intel自身が提唱したUltra Mobile Platformだが、モバイラーの心をくすぐるデバイスを登場させる土台としては素晴らしいものであった。性能的には限りがあったのだが、モバイラーが求める低消費電力と小型化にとことん追求していた。今の時代はこうしたプラットフォームを用意せずとも、UMPCのフォームファクタはいくらでも実現できると思うのだが、やはり市場がニッチすぎるのだろうか。

 最近、(富士通ではないのだが)メーカーに要望を出すと「それは市場の需要があるんですかね」と聞かれる。もちろん、市場の既存需要を満たす製品を作り出すのもビジネスをする上では重要だが、本来市場の需要そのものを新たに作り出すのがモノづくりをするメーカーの役目であることを忘れないで欲しいものだ。

【表】購入と復活にかかった費用(送料/税込み)
LIFEBOOK U(FMV-U8240)5,400円
標準バッテリ1,680円
PX-64M6M5,630円
MSATA2ZIF1,980円
CR1616108円
合計14,798円

(劉 尭)