イベントレポート

甘噛みするネコなど興味深い製品を世界にアピール。過去最高数の国内スタートアップ52社がCES出展

~CES展示会場レポート

ベネチアン・エキスポの1階「Eureka Park」にもうけられたJ-Startup/JAPANパビリオン、赤と黒を基調にしたカラーは結構目立っていた

 2022年のCESは、これまでのCESとはかなり趣が異なる中での開催となった。コロナ禍という特殊な状況に加えて、11月末から全世界的に新型コロナウイルスの変異株とされるオミクロン株の流行が発生したことで、大手企業を中心に対面参加を取りやめ、リモート参加に移行した影響で、基調講演が中止になったり、開催されてもリモート開催になったりという状況になったからだ。

 そうした難しい状況の中、独立行政法人「ジェトロ(日本貿易振興機構)」がCESの展示会場の1つ「ベネチアン・エキスポ」に設置していた「J-Startup/JAPANパビリオン」には過去最高となる52社が出展し、世界中のバイヤーや投資家などにアピールしていた。そうした展示の中から注目の展示を紹介していきたい。

参加者は2020年と比較して4分の1に減少。しかしCES 2022はコロナ禍でも2,300社が出展

CES 2022

 良くも悪くも、今年のCESは特殊な環境の中での開催だった。前回CESが対面で開催されたのは2020年1月に開催されたCES 2020で、その時はまだ新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックが始まる前だった。

 CESが終了した後の2月に、横浜で大型客船を巡る騒動を発端に日本や世界で騒がれるようになり、その後世界的な感染拡大でパンデミックになった……というのがもはや遠い過去のようだ。

 そうした影響を受けて、2021年1月のCESはフルデジタルの開催となった。基調講演や記者会見などはデジタル開催となり、対面の展示は行なわれなかった。

 開催地のラスベガスの経済に与えたその影響は小さくなかったようで、今年のCESの対面開催に向けて、地元からも支援があったとCESの主催関係者が明かしている。

 もちろんそれは資金的な援助というよりは、有形無形の援助という形だったそうだが、地元自治体などの支援というのはこうした巨大イベントを開催する上で不可欠なだけに、CESのような規模の巨大展示会では大いに役立ったことだろう。

ラスベガス・コンベンション・センターには新しい西館(ウエストホール)が新設され、自動車産業が北館(ノースホール)から移動。玉突き的に南館にいたデジタルヘルス関連が北館へ移動

 もちろん、参加者は2年前とは比較にならないほど減っている。主催者の発表によれば、CES 2022の参加者は約4万人とされており、2020年の約17万人と比較すると4分の1になっている。しかし、参加企業は約2,300社と2020年の約4,400社から半分にはなっていない。それだけの出展企業をこの混乱状況の中でよく集めたものだ。

このようにホールの中では不必要に空いているスペースが目立っていた。特に大手自動車メーカーが出展するはずだったと見られる西館にはこうした空きスペースが多かった
中央館のLGブース。展示はなく、スマートフォンのアプリを利用したAR展示に切り替えていた

 ただし、冒頭でも述べた通り、11月~12月にかけて世界的にオミクロン株の流行が発生したことを受けて、米国でも過去最高の陽性者が確認されるなど混乱が起き、大手企業を中心に出展を対面からリモートに切り替える企業が出た。

 それも結構直前(企業によってはクリスマス休暇後)に決めたこともあり、撤退したはずの企業のブースが残っていたり、展示ブースに不必要に広いスペースが残されていて、きっとここはどこかの企業が押さえていた場所なのだろうなぁ、というところをそこかしこで見ることができた。

過去最高の52社が参加して日本のスタートアップを世界にプレゼンしたJ-Startup/JAPANパビリオン

ベネチアン・エキスポ2階のJ-Startup/JAPANパビリオン、今回J-Startup/JAPANパビリオンは1階のEureka Parkと2階のこちらのブースと2カ所にブースを出していた

 そうした大変な状況の中だが、それでも感染対策をしっかりして参加している企業も少なくなかった。CES主催者のCTA(Consumer Technology Association、全米民生技術協会)によれば、直前に撤退を決めた企業は全参加企業の10%以下だったとのことで、もともと参加を予定していた企業の多くは予定通り出展したということだ。

 CTAは近年スタートアップの育成に力を入れており、2つの主要会場(ラスベガス・コンベンション・センター=LVCCとベネチアン・エキスポ)のうちベネチアン・エキスポの1階は「Eureka Park」と名付けて、スタートアップが出店できるブースとしている。料金表などは公開されていないため、ハッキリしたことは分からないのだが、どうやら出展料も通常の企業に比べて安めに設定されているようだ。

 そうした「スタートアップの園」と言えるEureka Park、そしてベネチアン・エキスポの2Fにブースを設置していたのが、日本の独立行政法人「ジェトロ(日本貿易振興機構)」だ。

 「J-Startup/JAPANパビリオン」という名称のブースは、文字通り日本のスタートアップやスタートアップに近い企業が出展しており、海外でディストリビューターを探し、投資家を募るという形になっている。

 こうした国家の機関がまとめてブースを出すというのは海外の展示会では一般的な取り組みで、中国、韓国などはどんな展示会にもいるほど熱心に取り組んでいる。また最近は欧州の国々も積極的に取り組んでおり、今回のCESにはイタリアが大規模なブースをEureka Parkに出展した話題を呼んでいた。

 ジェトロの関係者によればJ-Startup/JAPANパビリオンの取り組みは2019年から行なわれており、デジタル開催の2021年を入れて今回で4回目の取り組みになるという。

 今回は52社が出展しており、Eureka Parkでも赤と黒を基調にしたそのブースは結構目立っていた。実際欧米のメディアの取材を受ける企業も少なくなかったそうで、グローバルに注目を集めていた企業もあったということだ。また、そうした企業のいくつかは報道関係者向けのプレ展示会となるCES Unveiledにも参加していた(以下のレポートの写真にはCES Unveiledで撮影したものも含まれている)。

 すでに先進国の仲間入りをしてからだいぶ経つ日本では忘れられがちだが、どんな企業も最初はスタートアップだったという事実だ。今や日本を代表する企業であるトヨタも、ホンダも、ソニーも、パナソニックも、スタートした時にはスタートアップだった。それは米国のITジャイアントも同様で、今をときめくAppleも、Googleも、Microsoftも、そしてIntelも、みな元はスタートアップだった。

 そう考えれば、今回J-Startup/JAPANパビリオンに展示していた企業の中からも次の大企業が出てきてもおかしくないと言えるだけにそれぞれ要注目な展示だと言えるだろう。

ユカイ工学

甘噛みハムハム
このように指を入れると、甘噛みしてくれて癒やされる
すでに販売されているPetit Qoobo

 ユカイ工学はすでに国内では販売を開始している癒やし系ペットロボット「Petit Qoobo」に続く製品として「甘噛みハムハム」を展示した。

 説明員によればこの甘噛みハムハムは、同社社員の子どもが小さい時に甘噛みをしてくるのに癒やされたことをヒントにして作られたもので、指を入れると赤ちゃんや猫などが甘噛みしてくる様子が再現されているというペットロボットになる。

 単機能でシンプルな構造によって、従来販売してきたPetit Qoobo同様に低価格で販売できそうということだった。

ArchiTek

ArchiTek AiOnIcの開発ボード
エッジデバイスに入れてPoCを実現したデバイス

 日本の半導体ベンチャーArchiTekは「AiOnIc」と呼んでいる低消費電力でAI推論を可能にする半導体の試作品を公開した。

 AiOnIc はaIPEという独自のアーキテクチャを採用することで、超低消費電力(1~2W程度)で画像認識、音声処理などのAI推論を実現する半導体だ。すでに搭載したボードを動かすことができているほか、エッジデバイスに実際に入れてPoC(Proof of Concept、構想が実現可能かどうかを実証すること)まで行なっているという。

 ArchiTekはファブレスの半導体メーカーになる予定で、現在出資者大募集中とのことで、今回のCESへの出展に至ったという。

 現在日本では、政府が半導体製造に補助金を出すなど半導体産業の再興に注目が集まっているが、大事なことは製造だけでなく、どんなアプリケーションをもった半導体を製造するのかだと思われるので、そうしたファブレスの半導体メーカーの育成も次の段階として考えていかないといけないと思う。

RABO

すべては猫様のために
Catlog
こちらは猫のトイレで、重量などにより尿の量を量ったりなどもできるという
スマートフォン用アプリ

 「すべては猫様のために」というなかなかキャッチーなフレーズでブースを出していたのがRABO 。Catlogという猫用のIoT首輪を販売しているメーカーで、首輪の中に入っているセンサーにより猫がどのような行動をしていたかを記録し、スマートフォンのアプリなどでそれを参照して猫の健康を管理できるという。

 IT業界に多いと思われる「すべては猫様のために」教徒の皆さんにとっても気になるデバイスではないだろうか。すでに日本では販売されているが、今回CESに出展したのは海外での販路などを探るためということで、日本発の猫さま向けデバイスは世界でも注目されそうだ。

フェアリーデバイセズ

CES Innovation Awardで3部門同時受賞
本体
会場では回線状況が悪いため画質は落とされていたが、カメラ自体は4Kに対応しているとのこと

 CESの主催者が参加企業に付与する「CES Innovation Award」で、なんと3部門で同時に受賞したフェアリーデバイセズは、特注Tシャツを作ってアピールしていて目立っていたが、展示されていたデバイスは真面目そのもの。

 同社が展示していたのはLTEで通信できる首かけカメラデバイスで、内蔵している4Kカメラを利用して撮影した動画を、携帯電話回線を通じて遠隔地などへ送信できる。

 例えば、自動車のメンテナンスエンジニアがリモートに派遣されたが、自分ではどう直して良いか分からない時などに、エキスパートのエンジニアに映像を送り、その指示で修理を行なうなどのアプリケーションが想定されているという。

 なお、充電はUSB端子で行なえるので、モバイルバッテリを組み合わせて使えば、1日ずっと使い続けるなどの使い方も可能になるとアピールされていた。

ラングレス

新しいイヌパシーは首輪サイズのコンパクトモデルに
従来モデル
犬の気持ちはスマートフォンのアプリで確認できる

 ラングレスのイヌパシーは犬の鼓動を計測することで、犬の気持ちを推定して飼い主に教えるというIoTデバイス。これまではやや大型のセンサーを提供してきたが、より小型犬などにも使えるように首輪サイズの新しいセンサーを開発し、今回のCESで展示していた。

SteraVision

ソリッドステートLiDARの試作機

 SteraVisionはLiDARを開発するファブレスメーカー。今回のCESにはソリッドステートLiDARと呼ばれる可動部分がないLiDARを参考出展した。

 一般的な自動車に採用されているLiDARは内部に可動部があり、それが首を振ることで幅広い範囲をカバーする仕組みになっている。

 SteraVisionが参考展示したソリッドステートLiDARは、同社が開発したMultiPoolという方式を採用しており、そうした可動部がなくてもより幅広い範囲をカバーできるという。それにより高寿命で、低コストなLiDARを作ることが可能になるということだった。

mui Lab

mui Labのデモ、Wake upと手書きして送信するとランプが点く

 京都をベースにしているmui Labは壁に掛けるセンサー型のIoTデバイスを販売している。すでに日本では製品としてB2Bで展開しているが、今回のCESではMatterに対応する予定で、ほかのデバイスと連携してシームレスに利用できるようになると明らかにされた。

 MatterはAppleやGoogleといったスマートホームをリードする企業などにより推進されている、スマートホームデバイス同士が接続する際のプロトコルの仕様で、今後そうしたメーカーの製品で採用される予定になっている。CESでもSamsung Electronicsが対応を強調するなど、今回のCESで注目を集めている話題の1つだ。

 mui Labは手書きのコマンドでライトを点けたり、消したりというデモを行なっていた。手書きでWake upと書いて送信すると、ライトがオンになる様子などを確認できた。Matterの登場により2022年はスマートホームが本格的に飛び立つ年になるかもしれない。