大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

【新春恒例企画】2022年のPC業界はサプライチェーンに注意が必要!?

 2021年は引き続き、世界中が新型コロナウイルスの大きな影響を受けた1年だった。コロナ禍が2年目に入った2021年は、それまで新たな生活様式とされていたものが常態化し、変化した働き方や学び方、暮らし方が日常のものとなり、かつての生活には戻らないという考え方が浸透している。社会全体が変化を前提にした考え方に移行したことは大きな出来事であったと言える。

 コロナ禍が与えた影響は多岐に渡るが、中でも、大きな影響を受けたものの1つがサプライチェーンである。

 海外でのロックダウンや労働力不足によって工場の稼働が停止。部品不足の発生や完成品製造の遅れが見られる一方、コンテナ不足や人手不足による物流の混乱も生まれ、市場では製品の品薄や価格高騰といった状況が生まれている。IT/エレクトロニクス産業もこの影響を受けており、年間を通じて、PCや周辺機器といった主要製品の品薄状況が続いていた。

 そして、サプライチェーンの混乱は、多くの専門家が指摘するように2022年も継続することになりそうだ。

 そこで、新春恒例の言葉遊びで選んだ今年のキーワードは、この「サプライチェーン(Supply Chain)」。ここから、2022年のIT/エレクトロニクス産業の行方を見てみよう。この言葉にどんなトレンドが隠されているのか。例年通り、気楽な気分でお付き合いをいただければと思う。

 今年の言葉遊びは、サプライチェーンを英文字にしたSupply Chainから追ってみたい。

  1文字目の「S」では、「サブスクリプション」の広がりが2022年は注目される。

 クラウドで浸透したサブスクリプションモデルは、BtoBやBtoCを問わずに広がりをみせ、今ではハードウェア、ソフトウェア、サービスを含めて、様々な領域で利用されている。変化が激しい社会に最適な仕組みとも位置づけられ、ハードウェアまでを取り込んだサブスクの動きは、2022年はもっと加速することになる。

 主要ITベンダーでも、Dell TechnologiesのAPEX、HPE(Hewlett Packard Enterprise)のGreenLake、LenovoのTruScaleといったように、各社がPCやサーバーを始めとするハードウェアのほか、ソフトウェア、サービスまでを含めてサブスクリプションで提供するメニューを用意。これが今後のITベンダーの重要なビジネスモデルになってくるのは間違いがない。2022年はどこまでの広がりを見せるかが注目される。

Dell TechnologiesはサブスクリプションモデルであるAPEXを発表

 また、「S」という点では、「サステナビリティ」や「SDGs」に対する議論がますます進展しそうだ。年末に行なった主要IT企業トップへの取材でも必ず出てきた話題がサステナビリティであった。企業自らのサステナビリティへの取り組みだけでなく、これをソリューションとして提供するといった動きも加速しそうだ。
「U」は、すでに使い古された言葉ではあるが「ユビキタス」をあえて選びたい。

SDGsに関する話題も増えてきた(政府の資料より)

 コロナ禍において、あらゆる場所でPCやネットワークが活用できる環境は、ますます重視されている。まさにユビキタスの実現がコロナ禍での働き方、学び方、暮らし方では前提となっているのだ。様々なテクノロジやツールの活用によって、いよいよユビキタスが常態となる時代が2022年だと言えるのかもしれない。

Mesh for Microsoft Teams では、自身のアバターでイマーシブ空間に参加できる

  また、「U」では「ユニバース」にも注目したい。 これに「メタ」を組み合わせた「メタバース」の動きもどれだけ話題になるのかが気になるところだ。また、富士通は、「ユニバーサル」と「アドバンス」を組み合わせた造語である「ユーバンス」を使った新たな事業ブランド「Fujitsu Uvance」を制定。社会課題解決に向けた展開を推進する姿勢をみせている。

富士通の新事業ブランド「Fujitsu Uvance」

  「P」は、2つ並んでいるので、それぞれ別の分野からトレンドを探してみたい。1つ目の「P」は、「パソコン」の「P」である。 2020年のGIGAスクール構想やテレワーク需要の反動で、2021年のパソコン需要は低迷。この状況は2022年も続くことになるのは明らかだ。

 だが、テクノロジの進化は続いている。Windows 11では、同OSを搭載したPCのラインナップが拡大するほか、いよいよ目玉機能の1つであるAndroidのスマホゲームがWindows 11でもプレイできるようになる。Windows 11の需要にどれだけ弾みがつくのか。

 また、Intelの第12世代のCPUが出揃うことで、これを搭載したPCも数多く登場することになる。PC市場は、話題には事欠かない1年になりそうだ。

Intelは第12世代をフルラインアップ(2021年10月の資料から)

 ちなみに、2022年10月には、NECの「PC-9800」の誕生から40周年を迎える。これも隠れた「P」の1つである。ここ数年、PCの誕生から40周年の節目を祝う企画が続いてきたが、日本のPC市場の黎明期を牽引したPC-9800だけに、これにあわせてどんな仕掛けが行なわれるのかにも期待したい。

2022年10月に発売40周年を迎えるPC-9800

 ちなみに、ThinkPadも発売から30周年を迎える。こちらも、グローバルモデルであるThinkPadが節目の年にどんな製品を投入するのかにも注目だ。

  2つ目の「P」では、まったく違う領域から「パワー半導体」を挙げておきたい。

パワー半導体は人に例えると筋肉や心臓の役割を果たすとも表現される

 パワー半導体は、日本の企業が得意とする分野であり、全世界で約3割のシェアを持つと見られる。利用範囲は広く、社会インフラのほか、データセンターやサーバー、車載向けなどでも活用されており、より高耐圧や軽量化、高効率化、高電力密度化を実現した次世代パワー半導体の開発に向けた動きが、いよいよ本格化するタイミングに入ってきている。

 政府では、「2050年カーボンニュートラル」を宣言するとともに、グリーン成長戦略を打ち出し、その中で、2030年までに新設するデータセンターのすべてにおいて、30%以上の省エネ化を実現。脱炭素化を目指すことを掲げている。ここでも、パワー半導体が果たす役割が大きくも、政府の後押しにも注目が集まる。

  「L」は、「ローカル5G」である。 パブリックネットワークとしての5Gの広がりとともに、エンタープライズネットワークを支えるローカル5Gの導入が本格化するフェーズへと入ることが、2022年のトレンドになるのは明らかだ。

 企業内や工場内において、高速、大容量で、安定した通信環境を実現できるメリットは大きい。また、ソニーワイヤレスコミュニケーションズが開始した「NURO Wireless 5G」は、集合住宅向けインターネット接続サービスとしてローカル5Gを活用。個人向けサービスにもローカル5Gが広がることになりそうだ。

NURO Wireless 5G向けのホームルーター

  「Y」は、「Yen(円)」である。 ここでは、コロナ禍における価格上昇について触れておきたい。原材料の高騰を背景にした価格上昇は、ガソリンや食料品などで見られているが、これはすでにPCや周辺機器でも見られている事象だ。

 以下の関連記事にあるように、本誌でも2021年12月にレポートしたが、PC本体やプリンタは、新製品が出るたびに発売直後の実売価格が上昇し、その後の値下がり率も低いという傾向が見られている。この背景には、部材価格の高騰や不足を背景にした価格転嫁の動きがあり、実質的な値上げになっていることが浮き彫りになっている。

 部品価格の高騰や部品不足の動きは、2022年も継続するという声が関係者の間では支配的であり、この傾向はしばらく続くことになりそうだ。

 サプライチェーンの後半となる「Chain」から、2022年の動きを見てみよう。

  「C」は、一般紙ならば「Covid」ということになるのだろうが、ここでは「CPU」としたい。 先に触れたようにIntelの第12世代CPUが出揃うと見られる一方で、AMDは、2022年にZen 4 Ryzenを投入する計画を発表。AppleもM1の後継CPUを2022年中に発表するのかどうかが注目されている。噂されているMicrosoftの独自プロセッサの動きも気になるところだ。

  「H」は、「ハイブリッドワーク」である。 2020年前半に、コロナ禍の緊急措置として実施されたテレワークは、いまでは働き方の1つとして定着。今後は、リアルとバーチャルを組み合わせたハイブリッドワークの働き方が模索される段階に入ってきた。

ハイブリッドワークは広く浸透することになりそうだ

 実際、2021年に100%テレワークを実施したシスコシステムズでは、社員を対象に調査したところ、毎日オフィスで働くことを希望している社員は、わずか2%に留まる一方、約8割の社員が、月2、3回程度、必要な範囲で出社したいという意思を示したという。

 同社では、2021年12月に、営業部門における働き方の制限を取り払い、社員がリアルとバーチャルを自由に選べる形にしたが、出社率は1割に留まっているという。

 2022年は、ハイブリッドワークを新たな働き方として捉え、社員の生産性とモチベーション、ウェルビーイングを同時に高めるための仕組みづくりが重要になると言えそうだ。

  「A」は、「AI」である。 いまやAIは様々な領域で活用されている。ビッグデータをもとにした分析があらゆる場面で進み、顧客への商品のおすすめやサービスの高度化だけでなく、企業経営における意思決定、医療分野における医師の判断支援、物流の最適化や機器の故障予知など、応用範囲は様々だ。

 テクノロジの進化も日進月歩で、音声認識や画像認識、顔認識といった領域でもAIが活用されている。こうした動きは、「AIの民主化」といった様相を呈しており、より多くの人がAIを活用できる環境が広がってきた。この広がりがさらに一歩進むのが2022年となりそうだ。

  「I」は、IoTである。 これまではセンシングの進化に支えられてきたIoTだが、これに加えて、ローカル5G、エッジコンピューティング、AIといったテクノロジの進化が、IoTの広がりを加速することに繋がっている。製造現場だけでなく、物流、小売、交通、金融などの様々な業種においてもIoTが導入され、社会課題の改善や生産性の向上に繋がっている。IoTの普及の速度はこれまで以上のものになりそうだ。

  「N」は、様々な言葉が当てはまるが、2022年は、「ノーコード」としておきたい。 コーディングのノウハウを持たない人でも短期間にアプリケーションを開発したり、業務フローの自動化が行なえるノーコードは、現場のデジタル化を促進し、DXを推進するためのベースになる。

 日本では、企業における技術者不足が指摘され、内製化の促進が課題となっているが、そうした状況を打破するためにもノーコードの動きは注目を集めている。各社から登場しているノーコード、そしてローコードの動きは、2022年はさらに加速するのは間違いない。

【番外編】佐川急便とヤマト運輸とDHL

 サプライチェーンを支えるのが宅配事業者である。この宅配事業者の社名にも、2022年のIT/エレクトロニクス産業のキーワードが含まれている。サプライチェーンの番外編として、こちらにも触れておきたい。

  最初は佐川急便だ。SAGAWAという英文がロゴマークになっているが、このSAGAWAの文字の中には、IT産業を支える主要クラウドベンダーが隠れている。

 2文字ずつを組み合わせると、「SA」は、2021年秋に、CEOに就任したアダム・セリプスキー氏(S)が率いるAWS(A)。「GA」は、Google Cloud(G)を展開するアルファベット(A)。そして、「WA」は、Windows(W)とAzure(A)を展開するMicrosoftである。

 日本のクラウド市場は、この3社がリードしているが、とくに注目しておきたいのが、デジタル庁での調達案件の行方だ。これまで2つの大型調達案件があったが、AWS(Amazon Web Services)とGCP(Google Cloud Platform)が先行。ここまで2連敗のMicrosoftの巻き返しが注目される。

 2022年春にはこれまでに比べて大規模なガバメントクラウドの調達が予定されており、Microsoftは、デジタル庁専門チームを設置するだけでなく、これまで事実上行なってこなかった直販機能を持たせてまで、この案件を取りにかかろうと躍起だ。

 2022年春のデジタル庁の調達は、これまでの案件とは異なり、今後の勢力図の行方を大きく左右する案件とも言われている。マルチクラウドが前提となる中で、国産クラウドベンダーの動きを含めて、注目しておきたい動きとなる。

  ヤマト運輸は、クロネコヤマトの名称で展開しているが、この「クロネコ」には、生徒1人1台のデバイス整備が行なわれたGIGAスクール構想におけるこれからの注目点が隠れている。

 それは、Chromebook(クロ)、ネットワーク(ネ)、高校(コ)である。小中学校のGIGAスクール構想において、最も導入されたデバイスが「Chromebook」であり、文部科学省の発表では、40.0%をChrome OSが占めている。これが、コンシューマ市場にどう波及するのかが1つ目のポイントだ。

小中学校における端末のOS別シェア(文部科学省)

 そして、デバイスを整備したものの、「ネットワーク」環境の整備の遅れは現場での大きな課題となっており、MM総研が全国1,136の教育委員会から得た回答をまとめたところ、44%の教員委員会において、通信環境が1人1台端末接続に耐えられないと回答。ネットワーク環境の解決のための予算措置がない教育委員会が7割以上に達していることが明らかになっている。これも、早急に解決すべき課題となっている。

 また、「高校」でのデバイス整備は、国の財政負担が部分的な補助となっていることから、調達方法は「国や自治体が全額補助する整備」、「保護者の一部負担」「生徒が所有しているデバイスの使用」など様々な形態があり、整備が進んでいないのが実態だ。中には、生徒が所有する私物のスマホを利用するといった使い方もある。

 小中学校では、PCを使って授業を行なっていたものが、高校に入るとスマホで授業を行なうといったように、PC利用の継続性に対する課題も生まれることになる。

 文部科学省では、教育委員会などにあてた2021年12月27日の通知の中で、「高等学校段階においても1人1台の学習者用コンピュータ端末環境を早急に整備することが必要」と指摘。「義務教育段階で学んだ児童生徒が、高等学校に進学しても切れ目なく同様の環境で学ぶことができるよう、高等学校段階における端末の整備について万全を期するよう重ねてお願いする」と要望している。

 2022年は、GIGAスクール構想でのデバイス導入後のChromebookの行方、ネットワーク整備の課題、高校におけるデバイス整備の進展といった「クロネコ」が注目点になる。

  最後がDHLだ。ここはそのままズバリ、Dell Technologies(D)、HP(H)、Lenovo(L)のPCメーカー3社を指す。

 グローバル市場では、数年前からDHLの3社がPC市場の約3分の2を占めてきたが、この状況は日本でも同様になってきている。
MM総研が発表した2021年度上期の国内PCメーカー別シェアによると、首位がNEC Lenovoの25.4%。これに富士通クライアントコンピューティングの13.0%を加えると、Lenovo陣営で38.4%を占める。2位の日本HPは15.6%、3位のDell Technologiesが14.2%となり、いわゆるDHLで68.2%と、3分の2以上の市場シェアを占めている。

2021 年度上半期国内パソコン出荷実績

 注目しておきたいのが、ここ数年、DHLの3社から、日本市場のニーズを捉えたデバイスが積極的に投入されている点だ。2022年には、これらのDHLの3社からどんなPCが登場するのかが楽しみだ。