大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

レノボの新ゲーミングPCにバンドルされる「Xbox Game Pass for PC」とは?

今回はレノボ・ジャパンのデビット・ベネット社長と、日本マイクロソフトの檜山太郎執行役員常務が、オンラインで対談型のインタビューに応じてくれた

 レノボ・ジャパンは、ゲーミングPCの新製品として、「Lenovo Legion 750i」、「Lenovo Legion 550シリーズ」、「Lenovo IdeaPad Gaming 350i」を発表した。コアユーザーからエントリーユーザーまでをカバーする戦略的製品だ。

 このうち、Legionシリーズの2製品にバンドルされるのが、日本マイクロソフトの「Xbox Game Pass for PC (Beta)」である。100本以上の人気ゲームを定額料金でプレイできるWindows PC 向けのサービスであり、1カ月間無償で使用できる。その後も月額425円(期間限定)での利用が可能だ。

 Xbox Game Pass for PC (Beta)とはどんなサービスなのか、そして、このバンドルは、日本のゲーミングPC市場にどんなインパクトを与えようとしているのか。ゲーミングPC分野に力を注ぐレノボ・ジャパンのデビット・ベネット社長と、日本マイクロソフトの檜山太郎執行役員常務に、オンラインで話を聞いた。

ゲーミングPCに力を入れるレノボ

――レノボ・ジャパンは、ここ数年、ゲーミングPCにかなり力を入れていますね。

ベネット レノボ・ジャパンは、2018年からゲーミングPCブランドのLegionシリーズの国内展開を強化し、それ以来、好調な売れ行きを見せています。2020年第1四半期は、国内ゲーミング市場全体で前年同期比25%増という成長を遂げていますが、そのなかでLegionシリーズがナンバ―ワンシェアを獲得しました。

 昨年(2019年)までは2位や3位というポジションでしたが、いよいよLegionシリーズがこの分野で首位に躍り出たわけです。この勢いをさらに伸ばしていき、第2四半期、第3四半期、第4四半期とトップシェアを維持したいですね。

 Legionシリーズの特徴は、ゲーマー中心の設計、開発を行なっていることです。世界中のさまざまなゲーマーたちにインタビューを行ない、その声を反映しています。また、ゲーミングPCとして最大のパフォーマンスを発揮するために、つねに最新の技術を採用しています。さらに、キーボードのタッチなど、細かいところにも配慮し、スタイリッシュなデザインも高い評価を得ています。

レノボ・ジャパンのデビット・ベネット社長

 一方、日本におけるゲーマーとのエンゲージメントにも力を注いでいます。Legion Doujou(道場)は、PCゲームに触れたり、仲間と出会ったり、ゲームをもっと強くなりたいという人たちが集まる場所(サイト)で、ここから情報を発信したり、オンラインイベントを開催したりといったことを行なっています。

 オンライン大会は、回を重ねるごとに、参加者や視聴者が増えています。2020年4月以降の新たな取り組みとしては、VTuberオーディションを実施しているところで、予想を大きく上回る75件の応募がありました。VTuberキャラクターを作りたいといったことを支援していく活動もしていきたいですね。

 また、企業eスポーツ部支援プロジェクトを実施し、各企業におけるeスポーツに関するクラブ活動を支援したり、企業対抗戦を開催したりといったことにも取り組んでいます。2019年度は23社が参加していますが、2020年度は50社の参加を目指します。日本の大手企業も数多く参加しており、こうした人たちが、一緒になってゲームをプレイしている姿を見ているとワクワクします。

 そのほかにも、日本ユニシスなどと一緒に、ゲームプレイヤーのさらなる進化と豊かなゲームライフの実現を目指すプロジェクト「Game Wellness Project」を、2020年4月から開始しています。これは、ゲームプレイヤーの強化だけでなく、ゲームプレイヤーの活動データを活用して、心身や脳の健康、健康寿命の延伸に寄与することを目的としたユニークな取り組みです。

 こうした活動を含めて、さまざまな角度から、ゲーミングの良さを、もっともっと伝えていきたいですね。

 レノボ・ジャパンにとって、ゲーミングPCは、働き方改革や教育、エッジコンピューティングとともに、2020年における重要な事業の柱の1つです。そこに向けた投資はますます加速していきます。

――今回のゲーミングPCの新製品は、どんな狙いを持ったものになりますか。

ベネット 今回発表するのは、いずれもゲーミングノートPCで、「Lenovo Legion 750i」、「Lenovo Legion 550シリーズ」、そして「Lenovo IdeaPad Gaming 350i」の3製品です。ゲーミングノートPCのために独自開発した液晶ポリマーファンやベイパーチャンバーテクノロジーにより、冷却性能を大幅に向上し、パフォーマンスを最大限発揮できるようにしています。

 また、カジュアルにゲームを楽しみたいユーザーに適した製品も用意しましたから、コアなユーザーから、カジュアルにゲームを楽しみたいエントリーユーザーまで、さまざまなゲーマーが、ゲームを楽しむことができるようになります。

 日本では、PCでゲームをはじめたいが、どんなPCを購入したらいいのかがわからないという声をよく聞きます。レノボのゲーミングPCを買えば安心してゲームができるという提案をしたいと思っています。

 そして、今回の新製品では、新たにXbox Game Pass for PCをバンドルしました。ゲーミングPCを購入するユーザーは、ゲームをやりたいという目的があって、ゲーミングPCを購入するわけですよね。新たなLegionシリーズには、Xbox Game Pass for PCによって提供される100以上の人気ゲームが最初からバンドルされていますから、購入したら、すぐにそれらのゲームをプレイできます。LegionシリーズとXbox Game Pass for PCは、ゲーマーにとって最強の組み合わせになると期待しています。これによって、多くのユーザーがゲーミングPCを購入しやすくなりますし、それをきっかけに、日本のゲーミングPC市場をますます活性化したいと考えています。

Xbox Game Pass for PCがバンドルされるLenovo Legion 750i

Xbox Game Pass for PCとは

――Xbox Game Pass for PCとは、どんなものなのですか。

檜山 Xbox Game Pass for PCは、100以上の人気タイトルを、月額課金で提供するサブスクリプション型サービスとなっています。日本では、2020年4月14日から提供を開始しましたが、海外では、すでに41カ国でサービスが提供され、1,000万人以上が利用しています。

 海外で利用しているユーザーからは、「Xbox Game Pass for PCに加入しなければ、絶対にプレイしていなかったゲームに出会うことができた」といった声もあがっています。また、コアゲーマーは、プレイするゲームのジャンルが決まっているというように思われがちですが、Xbox Game Pasの加入者は、これまでよりも30%も幅広いジャンルのゲームをプレイしていることがわかりました。

日本マイクロソフトの檜山太郎執行役員常務

 さらに、Xbox Game Passに加入する前に比べて、40%も多くの種類のゲームを遊んでいるという状況もわかりました。ゲーマーがより幅広いジャンルのゲームをプレイしたり、より多くのタイトルをプレイしたりといった結果が出ているわけです。

 また、Xbox Game Passの加入者は、今年3月以降、Xbox Live上で延べ2,300万人以上も友達を増やしたというデータもあります。これは前年に比べて70%も増加しています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全世界で、「STAY HOME」の状況になっていますが、それによって途切れがちになった人とのコミュニケーションを、Xbox Liveを通じて補っている状況が生まれています。これを見てもわかるように、ゲームというエンターテインメントを通じた、新たなコミュニケーションのスタイルが、これから定着していくことになると期待しています。

 新たなLegionシリーズに、Xbox Game Pass for PCがバンドルされて登場することに、私はワクワクしています。優れたゲーミングPCへのバンドルによって、Xbox Game Pass for PCを世の中に送り出し、多くの人にゲームをプレイしていただく環境が整うことは、大きな意義があると思っています。

――日本でのサービス開始時期が少し遅かったのではないですか。

檜山 マイクロソフト社内では、Xboxのビジネスを独立した事業というかたちで位置づけていた時期がありました。それが、約2年前から、コア事業の1つに位置づけられるようになりました。その背景にあるのは、ゲーミングがエンターテインメントという切り口からの提案だけでなく、コミュニケーションのツールとしても有用であるという捉え方をしはじめたからです。

 かつては、リビングルームの大画面TVに、Xboxなどのコンソールゲーム機を接続してプレイするというスタイルが中心でしたが、それが変化し、「いつでも」、「どこでも」、「だれとでも」プレイできるような、マルチプラットフォーム環境が重視されるようになってきました。それに伴い、PCが果たす役割が重視されるようになってきました。

 この「いつでも」、「どこでも」、「だれとでも」というのは、じつは、働き方改革の考え方と一緒なんです。ワークスタイル変革とゲーミングという事業は、同じフォーマットで展開できるとも言えるわけです。言い方を変えれば、マイクロソフトがプラットフォーマーとして事業を展開する上で、ゲーミングはコアとなる戦略の1つになります。マイクロソフトの事業が、そうした捉え方にシフトするなかで、ゲーミングへの投資を拡大し、その一環として、日本でもXbox Game Pass for PCの提供を開始し、ゲーミングPCへのバンドルを開始したわけです。

 一方、日本のゲーミング市場を俯瞰しますと、もともとはコンソールゲームや、スマートフォンでプレイするというユーザーが多く、ゲーミングPCの利用者は少ないという状況にあったのも事実です。しかも、この15年近くは、1日に使用する時間としては、PCよりもスマートフォンの方が長く、ゲームをプレイする環境も自ずとスマートフォンを利用することになっていました。しかし、ここ2~3年でPCの成長率は上昇傾向にありますし、1日に利用する時間もPCは伸びています。この点からも、Xbox Game Pass for PCを利用してもらえる土壌が日本でもできてきたと言えるでしょう。

Xbox Game Pass for PCの画面

――Xbox Game Pass for PCのゲーミングPCへのバンドルは、日本だけの取り組みですか。

檜山 これはグローバルで展開しているもので、すでに海外では、Xbox Game Pass for PCをPCにバンドルして発売している例があります。

 また、日本においても、レノボ・ジャパンのほかに、ASUS JAPAN、エムエスアイコンピュータージャパン、サードウェーブ、富士通クライアントコンピューティング、マウスコンピューターが、協力デバイスパートナーとなっており、各社から、Xbox Game Pass for PCをバンドルしたゲーミング PC が今後発売される予定です。

――レノボ・ジャパンとの話し合いはいつ頃からはじめていたのですか。

檜山 2018年5月に、ベネット社長が就任した直後ぐらいから話し合いをしていました。

ベネット 従来は、マイクロソフトとゲーミングに関する話をすると、どうしてもXboxというコンソール中心に話になっていましたが、2年前からは、コンソールだけでなく、PCを含めたゲーミング市場の話が増えてきました。そうした話し合いのなかで、一緒にPCゲーミング市場を日本で作っていこうという動きにつながりました。

 いまは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、生活の仕方が大きく変わり、ニューノーマルという新たな世界において、PCの重要性がさらに増しています。今後も、家にいる時間をいかに有意義にするかということは重要なテーマになると思っています。家のなかでの仕事をどうするか、家のなかでの教育をどうするか。そして、家のなかでのエンターテインメントの楽しみ方はどうするか。そこに、PCの果たす役割がますます重視されます。今回のXbox Game Pass for PCのサービス開始と、バンドルの開始は、とてもいいタイミングだと思っています。

Xbox Game Pass for PCの魅力とは

――日本におけるゲーミングPCの普及率は、欧米に比べて遅れているという指摘もありますが。

ベネット たしかに、日本におけるゲーミングPCの普及率はまだ低いといえます。しかし、この2、3年で、日本のゲーミングPC市場は大きな成長を遂げています。しかも、ゲームをプレイする人だけでなく、ゲームを配信する人たちや、ゲームを見る人たちも増えています。日本のゲーミングPC市場は最も成長が期待できる分野の1つだと捉えています。

――任天堂のSwitchが品薄になるほどの人気になったり、ソニーが、PlayStation 5の年内発売を計画しているといった動きは、ゲーミングPC市場の盛り上がりにはマイナスになりませんか。

ベネット 私はそうは思いません。新たなコンソール向けにゲームが発売されると、PC向けにも同じタイトルが発売されるといったことが想定されます。その点を考えれば、新たなコンソールが登場することは、ゲーミングPC市場には追い風になると思っています。同じタイトルでもPCでプレイした方が、グラフィックなどをより楽しむことができるものもあるでしょう。

 また、PCは多くのプレイヤーとコミュニケーションがしやすく、ソーシャル環境での楽しみ方ができます。むしろ、ゲーミングPCの良さを理解してもらえる機会が増えるのではないでしょうか。

――改めてお伺いしますが、Xbox Game Pass for PCの魅力はどこにあるのでしょうか。

ベネット Xbox Game Pass for PCは、ファーストパーティーのタイトルや大手パブリッシャーのタイトルだけでなく、インディと言われるISVのゲームソフトも提供されています。そして、多くのコアゲームファンを持つ人気タイトルのほか、カジュアルゲームやファミリーゲームも用意されています。どんな人でも、自分の好きなタイトルを見つけることができます。また、ゲームを通じて、コミュニケーションができる点も特徴です。

 Xbox Game Pass for PCには、全世界に1,000万人のユーザーがいます。これだけの規模のコミュニティは多くはありません。STAY HOMEのなかで、コミュニティづくりができるというメリットも大きいと言えます。

――無償期間が1カ月というのは短くないですか。最近では新型コロナウイルス感染症への対策として、数か月間無料で使えるコラボレーションツールも増えています。

ベネット 私も、もう少し長くしてほしいと言ったんです(笑)。実際にやってみると1カ月では終わらないゲームもありますからね。

檜山 ゲームタイトルをサブスクリプションモデルで提供するというはじめての試みですし、まだ、β版として、様子の段階であるというところをご理解いただきたいと思います。2カ月目以降は、いまであれば月額425円で契約できます。2カ月目以降は、ぜひ有料でご利用をいただければと思います。

――Xbox Game Pass for PCのなかでお勧めのタイトルはありますか。

ベネット 私自身、ゲーマーですから、Xbox Game Pass for PCで提供される数々のタイトルには本当にワクワクしています。「Ori and the Will of the Wisps」は、アニメーションがとてもきれいで、好きなタイトルの1つです。

 また、「Sea of Thieves」は、ほかのプレイヤーとコミュニケーションを取りながら進めることができるゲームであり、PCならではの特徴が活かせます。そしてもう1つは、Game Pass for PCではなくWindows 10でのゲームにはなりますが、「Minecraft」ですね。GeForce RTXのレイトレーシングによるグラフィックスの進化にはとても期待しています。想像以上のものに仕上がっていると感じていますよ。これらは私の好みという観点からのお勧めタイトルですが、100タイトル以上ありますから、みなさんも気に入るタイトルが必ずありますよ。

檜山 ベネット社長にあげていただいたMinecraftのRTXによるレイトレーシングの体験は、PCだからこそ実現する世界だといえます。マイクロソフトのタイトルである「Forza Horizon 4」は、私の好きなゲームタイトルの1つで、Xbox Game Pass for PCのユーザーにはぜひプレイしてほしいですね。

――一方、NECパーソナルコンピータでは、ゲーミングPCの投入計画を発表しています。その後の進捗はどうでしょうか。

ベネット NECパーソナルコンピータでは、2019年8月に、ゲーミングPCプロジェクト「プロジェクト炎神(エンジン)」を発表しました。日本でナンバーワンのコンシューマPCブランドであるNECが、はじめて投入するゲーミングPCになります。みなさんの期待に沿った、満足ができるものができないと出しません。そのためには時間をかけながら、じっくりと作っているところです。急いでやるつもりはありません。みなさんの期待を超えるものを投入したいですね。