大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
今まで以上に製品に注力して“日本品質”の世界展開を目指す
~レノボ・ジャパン/NEC PC新社長デビット・ベネット氏インタビュー
2018年7月24日 06:00
2018年5月16日付けで、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)の代表取締役執行役員社長およびLenovo Groupグローバル バイスプレジデント兼レノボ・ジャパンの代表取締役社長に就任したデビット・ベネット(David Bennett)氏が、本紙の単独インタビューに応じた。
2018年7月20日に行われた会見では、2020年には「日本で販売しているLenovo製品の95%の修理を1日で完了させる」という目標を早くも打ち出す一方で、NEC PCを「秘密兵器」と呼び、今後NEC PCやレノボ・ジャパンが持つノウハウを、世界にも展開させる姿勢もみせた。
ベネット新社長に、新体制でのNEC PCおよびレノボ・ジャパンの今後の方針について聞いた。
――最初の質問ですが、これまでLenovoおよびNECのPCを使用した経験はありますか?(笑)
ベネット氏:私は、10年間に渡ってAMDに勤務してきましたから、当然、使ってきたPCはすべてAMD搭載モデルです(笑)。ThinkPadには、AMD搭載モデルがありましたから、それを使っていましたよ。
一方で、日本で最初の仕事として、日本AMDに入社した11年前には、NECにもAMD搭載モデルがありましたから、それを使ったことがありました。
――入社して2カ月ですが、いまはなにを使っていますか。
ベネット氏:3つのPCを使い分けています。1つはThinkPad X1 Carbonで、キーボードのタッチがとても良いですね。使い心地が良いので、長くタイピングするときに使っています。2つめは、LAVIE Hybrid ZEROです。これは出張のときに持ち運び用に使っています。軽くて良いですね。
そして、3台目が、ThinkPad A485です。理由は、AMDが搭載されているからです(笑)。Ryzen PROを搭載したThinkPadをどうしても使ってみたいと思っていましたし、映画を見たり、ゲームをやる場合にも最適なデバイスです。
――もう1つ気になったのは、就任日が、2018年5月16日という中途半端な日付だった点なのですが(笑)
ベネット氏:これは正直なことを言いますと、以前に勤務していた会社の都合ということであり、とくにこの日付に特別なものがあったわけではありません(笑)。6月を待たずに、一日も早くNEC PCおよびレノボ・ジャパンに合流したいということで、この日になりました。
――5月16日に社長に就任して、社員に向けて、どんなことを言いましたか。
ベネット氏:私がどこにフォーカスをしていきたいのか、どんな仕事のスタイルなのか、ということを話しました。そして、「Win Together, Lose Together」(一緒に勝ち、一緒に失敗もしよう)」というメッセージも出しました。成功をしたときには、一緒に祝おう。でも、毎回勝てるわけではない。失敗もある。その場合には、お互いにサポートしあおうということです。そして、失敗を恐れない会社であることを目指したいと思っています。
また、「Think Big」という言葉もメッセージの1つとして使いました。物事は大きく考えて、クリエイティブに発想をしていこうと呼びかけました。
もう1つ、社員に向けて言ったのは、私は、オープンにコミュニケーションをするタイプなので、フランクに話をしてほしいとお願いたことです。これまでは、日本の組織だけに留まりがちだったコミュニケーションのスタイルも、グローバルのLenovoグループにまで広げる努力をしてほしいと思っています。
――社長就任会見のプレゼンテーションのタイトルが、「Driving the Transformation」となっていました。会見ではその点には触れていませんでしたが、ベネット社長は、なにを変革したいと考えているのでしょうか。
ベネット氏:この業界は、常に大きな変化が起こっています。それに合わせて、組織も変わっていかなくてはなりません。なにか変化があった場合に、きちっとそれに合わせて、組織を変革し、コントロールするといったことが大切です。
タイトルはあまり深読みしてほしくないのですが(笑)、変化があったときに、継続的に、お客様に満足してもらえる商品やサービスを提供しつづける会社でありたいと思っています。
――2カ月が経過して、課題と感じた部分はありますか。
ベネット氏:当社には、日本のマーケットリーダーとしての責任があります。このポジションを活かして、顧客ニーズを満たす製品やサービスを出していかないと、「もったいない」と言えます。そこにチャレンジがあります。
NEC PCも、レノボ・ジャパンも、自分たちが持つポジションを活用し、これによって生まれる機会を捉えて、市場の活性化につなげていきたい。ユーザーの仕事の仕方を変えたり、ライフスタイルを充実させたりといったことを支援できる製品/サービスを提供する会社になりたいと考えています。
――会見では、NEC PCを「秘密兵器」と表しました。製品やサービスの品質の高さや、イノベーションの成果などを指したものですが、2011年にNEC PCを買収してから、7年が経過しているにも関わらず、いま「秘密兵器」と呼ぶのは、その間にNEC PCの良さがLenovoグループ全体に波及していなかったと感じたからですか。
ベネット氏:そうではありません。Lenovoグループとして、日本市場は重視をしてきました。では、なぜ、いま「秘密兵器」という表現をしたのか。それは、いま起こっていることに対する「タイミング」が背景にあります。
日本は、製品やサービスに高い品質を要求する、こだわりがある市場です。NEC PCは、長年に渡って、そうした要求に応えることができる製品やサービスを提供してきました。一方で、海外の市場では、そこまでのこだわりが求められていませんでした。しかし、ここ数年、日本以外の市場でも、製品やサービスの品質を重視する傾向が出てきています。
NEC PCがやってきたワールドクラスの品質は、こうした変化に最も適したポジションであり、他社にはない、ユニークな位置づけを担うことができます。こうしたタイミングが訪れているからこそ、「秘密兵器」という表現を使ったのです。Lenovoグループでは、昨年から「カスタマーセントリック(顧客中心)」という表現を用いていますが、その動きとも合致したものだといえます。
――ベネット社長が、ゴールの1つに掲げたのが、日本で展開していることを世界に展開することでした。これは、LAVIE Hybrid ZEROを世界で販売するといったデバイスのことを指すのでしょうか。あるいは、品質やプロセスのことなのでしょうか。
ベネット氏:これはさまざまなものを指します。LAVIE Hybrid ZEROは、北米で開催されたCESで、賞を総なめにしたこともありましたが、こうした製品を北米に展開していくといった機会もあるでしょうし、長期的には、これをより広く展開したいと考えています。
大和研究所で開発されたThinkPad X1 Carbonは、すでにグローバル展開していますが、こうした取り組みをもっと加速したいですね。また、サービスに関しても、米沢事業場のノウハウを活用することで、日本市場向けのレノボ製品の初期品質を30%も改善したという実績が出ていますし、モノづくりのプロセスをアジアに展開していくこともできます。
私が感じているのは、日本の社員は、米沢事業場や群馬事業場がやっていることは当たり前だと思っていますが、じつはこんなことをやっている工場は、世界中にはないということです。ダンボール1つにまで、細かく気を配って生産をしている工場ですから、PC本体の品質が高いのは当然です。米沢事業場を訪問したときに、「みなさんがやっていることは、もっと自慢して良いものなんですよ」と思わず言ってしまいましたよ(笑)。
日本人から見たら普通のことでも、外国人から見ると、とてもすごいことです。でも、日本人はあまり自慢をしたがらないので、そこは私が積極的にアピールしていきます。
――「秘密兵器」が世界市場にお披露目されるのはいつになるでしょうか。
ベネット氏:米沢事業場では、次のイノベーションに向けたR&D組織である「NT&Iチーム」を発足し、さまざまな作業を続けています。大切なのは、単なるイノベーションに留まらず、意味のあるイノベーションであるということです。それには時間がかかりますから、いまの段階で時期を言及するのは難しいですね。
――社長就任後、最初に発表した案件が、2020年までに、レノボ製品の修理の95%を1日で完了させるということでした。新製品ではなく、サービスの強化を最初に発表したのはなぜですか。
ベネット氏:製品を開発するには時間がかかります。就任して2カ月しか経過していない私が、「こんなにすごい製品を開発しました」といっても、あまり説得力がありません。
一方で、私は社長に就任してから、米沢事業場や群馬事業場を訪問することを優先したのですが、そこで良い意味で驚き、感銘を受けたのが、品質や標準化への取り組みでした。先にも触れたように、AMDの時代には、全世界のPCメーカーの工場を訪問して経験がありますが、ここまで徹底して、品質にこだわる工場はありません。
すでに、群馬事業場では、NECブランドのPCについては、24時間以内の修理率が98%以上になっています。Lenovo製品では、24時間以内の修理率は、いまは80%台ですが、これを95%に引き上げたい。難しいターゲットではありますが、努力をすれば、できるのではないかと考えました。そこで、私から、ぜひこれをやってみたいと提案しました。その結果が、今回のメッセージにつながっています。
確かに、製品の話をした方がエクサイティングではあります。ただ、日本のユーザーは、NECブランドが提供している品質に対して、大きな価値を感じているのは明らかです。この“品質”には、製品品質だけでなく、短納期だったり、修理のスピードだったりといったことも含まれます。サービスの強化は、日本のユーザーにとって、大きな意味を持った取り組みだといえます。
――新製品という意味では、「ThinkPadの父」と呼ばれた内藤在正氏が退任し、「LAVIEの育ての親」である小野寺忠司氏が退き、これまでのようなユニークな製品が投入し続けることができるのかといった不安が残ります。
ベネット氏:彼らが残してくれた伝統は、開発チームにしっかり根づいていますし、DNAとして生き続けています。その点では、懸念はしていません。
私は、製品が大好きなんです。ですから、今まで以上に製品にフォーカスをしたいですね。品質へのこだわりはこれまでとは変わりませんし、日本のユーザーにフィットする製品も作り続けたい。そして、それを、世界に展開していくことにも取り組みたいと考えています。
NEC PCおよびレノボ・ジャパンの国内におけるシェアは、これまで以上に成長させたいと考えていますし、その余地もあります。いまのシェアに満足はしていませんよ。
――2020年までは、国内のPC市場の成長が見込まれていますが、それ以降は需要の低迷が予測されています。NEC PCおよびレノボ・ジャパンは、その時代に向けて、いまからどんなことに取り組みますか。
ベネット氏:Windows 7の延長サポート終了に伴う買い替え需要や、消費増税にあわせた需要が見込まれる2020年までは、成長が続くのは確かですが、それ以降はその反動が見込まれます。ただ、そうした市場のなかでも、チャンスはあります。
マーケットリーダーである当社は、次の機会はどこにあるのかを見い出していく役割もあります。日本では、働き方改革が叫ばれ、テレワークを採用する企業も増加しています。新たな働き方を捉え、それに最適な新製品はなにかといったことを模索していくことが必要です。
また、教育現場では、ブログラム学習が必須化されたり、デジタル教科書が導入されたりといった変化がはじまっています。これが将来的には、生活や仕事の変化にもつながります。それにあわせた動きも重要ですね。
一方で、Lenovoグループでは、「3-Wave Strategy」を推進していますが、その3つ目の波と位置づけているのが、スマートデバイスやクラウドサービスによる新たな領域となります。当社が持つハードウェアやソリューションと、パートナーが持つソリューションと組み合わせて提供することで、現状の課題を解決したり、新たなビジネスに創出につなげたりといった支援ができます。ARやVRを活用した新たなソリューション提案も、その1つになります。
また、マーケットリーダーとして、カスタマーエクスペリエンスを満たしていく必要もあります。今後、なにが必要とされるのかといったことを見極めながら、新たな需要を創出する責任もあります。新たな需要の開拓は、私たちがやらなくてはならないことだと肝に銘じています。
――2020年以降、3つ目の波の領域はどれぐらいの構成比になりますか。
ベネット氏:それはわかりません。ただ、私たちは、1つめの波であるPCやタブレットを蔑ろにすることはしません。そこに、私たちの強みの根本があるからです。
ここでも、意味があるイノベーションを生み出す機会があると考えています。新たなことにばかり目を向けてしまい、自分たちの根源を忘れてしまってはいけません。
――Lenovoグループに、富士通クライアントコンピューティングが入り、2020年以降は、開発、生産体制の過剰感も感じられます。NEC PCおよびレノボ・ジャパンは、なにに取り組みますか。
ベネット氏:富士通クライアントコンピューティングとは、独立した運営であることは変わりません。そして、NEC PCおよびレノボ・ジャパンは今後も成長することを前提としています。
縮小するPC市場のなかで成長するだけでなく、PCを超えた世界においてもポートフォリオの拡大を狙っていきます。米沢事業場のNT&Iチームは、その役割を担う組織であり、新たな市場での事業拡大も見込んでいます。
そこに、NEC PCおよびレノボ・ジャパンの存在感が発揮できると考えています。
――最後に、PC Watchの読者にメッセージをお願いします。
ベネット氏:今回は新製品の発表はありませんでしたが、先にもお話したように、私は製品が大好きです。情熱を持って製品づくりに取り組みますから、これから登場する製品を楽しみにしていてください。実は、私も楽しみにしているんですよ(笑)。
NECらしいものも、NECらしくないものもやっていきたいですね。そして、NEC PCとレノボの力をあわせて、これまで以上に良い製品を作っていきたいと考えています。これから登場する製品にも期待をしていてください。