大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
通常の3倍のMacを売り上げる家電量販店「エディオン」
2018年7月12日 06:00
名古屋を中心とした東海地区におけるMacの販売が増加傾向にあるなか、東海地区最大規模の量販店であるエディオンの動きが注目を集めている。
同社では、「エディオンでみつけたわたしのMacBook」をテーマにしたTV CMを8月末まで展開し、Macの販売に弾みをつけている。
Macをテーマに、量販店が個別にTV CMを行なうのは、世界的に見ても珍しい。こうしたなか、愛知県豊田市のエディオン豊田本店では、過去1年間のMacの販売台数が13.5%と2桁を突破。11カ月間に渡って、2桁以上のシェアを維持したという。
エディオン豊田本店におけるMac販売の取り組みを通じて、東海地区におけるMac販売の動きを追った。
新技術に関心のある街
エディオン豊田本店は、名鉄豊田市駅から、車で5分ほどの距離にある。
このエリアは、トヨタ自動車が本社や工場を構えていることもあり、クルマ文化の都市となっている。主要道路の道幅が大きいのは、このエリアの特徴ともいえる。
おのずと小売業も、大型の郊外型店舗が中心となる。
地元量販店の代表格となるエディオン豊田本店も同様に、国道153号線と飯田街道の交差点に位置し、近隣に第4駐車場までを用意。最大で400台が駐車できる規模を誇る。
エディオンは、名古屋に本拠を持っていたエイデン、広島に本拠を持っているデオデオが合弁して設立。関東の石丸電気や、近畿のミドリ電化を傘下に収め、店舗ブランドを「EDION(エディオン)」に統一してきた経緯がある。
エディオン執行役員でもあるエディオン豊田本店の藤井伸一郎店長は、旧デオデオの入社だが、各社が本拠を持っていた4つのエリアと、九州エリアで、主要な役割を担ってきたユニークな経験の持ち主だ。その藤井店長から見ても、豊田市の市場や顧客層は、ほかのエリアとは大きく異なるという。
藤井店長は「このエリアは、新たな技術やガジェットに興味を持つ人たちが多いこと、若い人たちが多いこと、そして口コミで広がっていくというのも特徴。これはトヨタ自動車の本社およびグループ会社、関連会社が多い街であるからこその特徴だ」と切り出す。
「新しいものや、良いものには高い関心を持っている人たちが多い。一方で、良いものを長年に渡って使い続けている人も多い。自らがモノづくりをしている人が多いだけに、モノに対する熱意がある」と分析する。
同店では、プリンタや掃除機などの修理依頼が多い傾向にあることからも、モノを大切に使い続けるという姿勢が見える。
豊田市の第2次産業の構成比は44.5%。そのうち、約半分が製造業だという。また、エディオン豊田本店の2km商圏をみると、単身世帯が38%と多く、さらに30代以下が半分を占めるという。
「郊外型店舗の場合、購入者の平均年齢は55歳前後になることが多い。だが、豊田本店では、客層が若く、20代後半~30代後半の男性の来店が目立つ。また、人口の5%が外国人。工場に勤務するブラジル、中国、フィリピン、ベトナムなどの人たちの来店も多い」とする。
エディオン豊田本店では、2階と3階の2フロアを売り場とし、約2,700坪の広さを誇る。
家電だけに留まらず、玩具や時計、リフォームなどの売り場も展開。さらに、免税店や家電の修理サービスなどのコーナーも設けている。これも、豊田市の地域特性にあわせた形で、売り場構成を変化させてきた結果といえる。
「ファミリー層の来店も多く、子供とのコミュケーション能力が高いスタッフを揃えているのも、エディオン豊田本店の特徴」と、藤井店長は胸を張る。
10年以上の実績を持つApple専門コーナー
エディオン豊田本店が、Apple専門コーナーである「Appleショップ」を開設したのは、2007年9月である。すでに10年以上の実績を持つ。
「トヨタ自動車に勤務する技術者やデザイナーなどから、Macに対する関心が高まってきたこと、このエリアに住む外国人からの要望が高まってきたことが背景にある」とする。
Appleショップでは、MacやiPad、Apple Watchなどを展示。自由に触って、試すことができるほか、Apple専任スタッフを配置して、さまざまな質問や相談に対応できる。
専用の什器を設置し、ネットワークも安定した環境で接続しているため、自らの用途にあわせて、アプリを試用してみることも可能だ。
また、豊田本店のAppleショップでは、早い段階から、Macのカスタマイズにも対応しており、ユーザーの要求にあわせた仕様変更も可能になっている。
さらに、2016年10月には、Apple製品の正規修理サービスコーナーを、カメラのキタムラと連携することで設置。iPhoneやMacの修理も行なえるようにした。
「Apple直営店であるApple名古屋栄まで行かずに、豊田市で修理が行なえるという点で、地元のAppleユーザーに喜んでもらうことができた」とする。
また、MacおよびiPad、iPhone関連のアクセサリの展示は、Appleショップに隣接する場所に設置。2018年6月には、スマートフォンケースの展示数を3倍に拡張。App Store & iTunesカードCARDの展示を2.5倍に増加したという。
「スマートフォンケースを豊富に展示することが、iPhone購入者の増加にもつながる。また、このエリアの市場調査をしたところ、App Store & iTunesカードの購入者の多くがコンビニエンスストアで購入していることがわかった。展示スペースを広げることで、App Store & iTunesカードの販売増加につなげることができた」という。
市場平均の3倍の売上
こうした取り組みの成果もあり、エディオン豊田本店におけるApple製品のシェアは高い。
市場調査などによると、名古屋を中心とした東海地区におけるMacのシェアは5%程度になっているが、エディオン豊田本店のMacのシェアは、この1年間の実績で13.5%となっている。
今年に入ってからは15%前後で推移しており、市場平均の3倍の実績だ。「Macのシェアは、ここ数年で3~5ポイント上昇している」という。
また、iPhoneの販売シェアは70%に達しており、これも突出した実績となっている。トヨタ自動車と資本関係にあるKDDI(au)を契約する購入者が圧倒的に多いのも、この市場の特徴だという。
「エディオン豊田本店の商圏の特性をみると、Apple製品が受け入れられやすい市場だと感じている」と、藤井店長は自己分析する。
それにはいくつかの理由がある。1つは、若い世代の家庭が多いことから、小さい子供が多く教育に熱心だという市場性だ。
「小学校でのプログラミング学習の必須化を控えるなど、教育とPCとのつながりが、より緊密になるなかで、Macを使いたいとする若い親の姿がみられる。Appleショップの売り場でも、子供がMacを触っている姿を多く見かけるようになっている」とする。
2つめは、大学生などの購入が多い点だ。エディオン豊田本店の周りには、7つの大学がある。
大学生の間でもMacは人気アイテムの1つであり、指名買いする大学生の姿も多くみられている。
Appleを訴求するTV CM
大学生向けの訴求という点では、エディオン独自の施策として、2つの取り組みが挙げられる。1つは、エディオングループで実施している「U-25 Fair」である。
6月15日~8月31日まで、25歳以下のiMacおよびMacBookの購入者を対象に、Apple Care+for Macに同時加入すると、5,000円割引になるというものだ。これは、エディオンだけで行なっている特別な取り組みで、大学生などがこのキャンペーンを活用してMacを購入しているという。
もう1つは、Macを取り上げた独自のTV CMを行なっていることだ。
TV CMは、「エディオンでみつけたわたしのMacBook」をテーマにし、MacBookを使っている先輩女子大生の姿に憧れて、自分もそれを真似てMacBookを購入する女子大生を描いたもので、家電量販店のCMとしては、あまり例がない印象のつくりになっている。
このTV CMが、大学生に共感を得ているというのだ。
じつは、Apple製品を個別に取り上げて量販店がTV CMを行なうのは、世界的にみても珍しい。その点でも、Appleとエディオンとの緊密な関係がわかる。
このAppleを題材にしたエディオンのTV CMは、2016年からスタートしており、今年で3年目だ。この企画に最初に取り組んだのが、当時、マーケティング部門を統括していた藤井店長だった。
藤井店長は、かつて話題になったセリーヌ・ディオンさんを起用したエディオンのTV CMの制作でも中心人物として携わっており、こうした企画センスが活かされた格好だ。
現在のTV CMは8月末まで放映する予定であり、エディオングループ全体で、Macの販売に弾みをつける考えだ。
トヨタ社員によるApple製品の購入
藤井店長が、このエリアにおいてApple製品が受け入れられやすいと考える3つめの理由が、トヨタ自動車および関連会社の社員が、Apple製品に高い関心を寄せていることだ。
トヨタ自動車では、全社的にWindowsを採用しており、日本マイクロソフトにもトヨタ自動車グループ向けの専任営業部門が設置されているほどだが、部門によっては、Macが採用されていたり、自宅ではMacを使っている社員が多いようだ。
「MacであればWindowsも利用できるという点が理解されることで、さらにMacの販売に弾みがつきはじめている」という。
ここでは、興味深い購入例も出ている。それは、工場に勤務している人たちに、Apple Watchが売れているというのだ。
多くの工場の場合、情報漏洩などを理由に、iPhoneをはじめとして、カメラ機能を搭載しているスマートフォンの現場への持ち込みは禁止されている。
だが、カメラ機能を持たないApple Watchであれば、持ち込みを許可している例が多いのだという。
「緊急連絡があった場合に、Apple Watchであれば、直接連絡を受けることができる。とくに外国人労働者は、家族と連絡を取れる状態にしておきたいという理由から、Apple Watchを購入する例が多い」という。
さらに、工場などでは、勤務時間が正しく管理されていることから、趣味などに時間を使う人も多かったり、自己管理のためにスポーツに講じる人が多かったりするという。
「アクティブに活動する人たちが、Apple Watchを利用して、健康管理を行うといったニーズも高い」
もともとiPhoneの販売比率が高いエリアということも、MacやApple Watchの販売が増加する要因にもなっていると言えそうだ。
アプリ会員向け告知を強化
若い人が多いということもあり、新聞購読率は50%強に留まるのもこのエリアの特徴だと、藤井店長は指摘する。
量販店にとって、新聞の折り込みチラシは集客の上で重要な手法だが、この地域特性を捉えて、エディオンのアプリ会員向けの告知を強化するといった取り組みにも余念がない。
「新たなデバイスなどに高い関心を持つ人たちが多いエリアであり、アプリやメールを通じた告知にも積極的に取り組みたい。とくにこのエリアでは、職場や地域コミュニティなどを通じて、口コミで広がっていくことが多い。折り込みチラシに加えて、デジタルや口コミを活用した展開にも力を注いでく」とする。
冷蔵庫や洗濯機などは、壊れたときに量販店を訪れるケースが多いが、Apple製品の場合は、ユーザーが欲しいと思う提案が購入につながることが多い。その点で、デジタルや口コミを活用して来店を促す訴求は、Apple製品向けの取り組みとして不可欠だ。
「Apple製品は、どんなことができるのかを知ってもらうことが大切。店舗のスタッフに対しては、MSTNK(見て、触って、体験して、納得して、購入してもらう)が大切だといっている。Apple製品は、まさにそれに合致する製品だ」とする。
Appleショップでは、Apple専任スタッフやApple Prefessionalを配置。さらには、日本語とポルトガル語を話すことができるブラジル人スタッフも配置し、Apple製品を詳しく説明できる環境を整えている。
「Apple製品を知り尽くしたApple専任スタッフがいることから、さまざまな質問に対応したり、ショートセッションやフリーセッションを通じて、Apple製品の活用方法などを紹介するといった取り組みも行なっている。
また、ポルトガル語で詳しい説明を行なえるスタッフがいることで、ブラジル人の来店客からは、安心して相談できるという声をもらっている。Apple製品を購入するのならば、エディオン豊田本店というイメージが定着し、安心感を提供できている。これが他店との差別化になっている」とする。
だがその一方で、「まだまだ、Apple製品の良さが伝わり切れていないと反省している。たとえば、健康という面でも、Apple製品は内面の健康、外面の健康という両面からの提案ができる製品であり、こうしたことが訴求できる売り場づくりにも取り組んでいきたい」とする。
Apple製品の販売は、さらに拡大できると藤井店長は見込んでいる。さまざまな知恵を使いながら、地域特性にあわせたApple製品の提案を進めていく考えだ。