大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

過去最高出荷台数で快進撃が続く「レッツノート」の舞台裏

企業から高い評価を得ているレッツノートシリーズ

 パナソニックのレッツノートが好調だ。レッツノートの2017年度実績は、前年比30%増を達成。年間出荷台数は42万台となり、レッツノートの21年間の歴史のなかで、過去最高の出荷台数を記録した。2017年度末には品薄状態に陥るほどに需要が集中。現在でも前年並みの生産体制を継続している。

 さらに、2018年度中に、新たに月額数千円単位でレッツノートを購入できる仕組みを盛り込んだ「レッツノートLCMサービス」を開始することも明らかにしており、利用者拡大に弾みをつける考えだ。過去最高の売れ行きをみせるレッツノートを取り巻く「3つの出来事」を追ってみた。

過去最高の販売台数を達成

 レッツノートの好調ぶりは、過去最高のものになっている。パナソニックの発表によると、2017年度(2017年4月~2018年3月)のレッツノートの販売台数は、前年比30%増の42万台。過去最高の出荷台数となっている。

 調査会社の調べでも、パナソニックは、モバイルノートPC分野では、14年連続でトップシェアを獲得。2017年度実績は67%を獲得。3台に2台が、レッツノートになっている計算だ。

過去最高の月産台数を達成したパナソニックの神戸工場

 レッツノートの好調ぶりの背景には、いくつかの理由がある。

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長は、「企業における働き方改革が推進されるなか、軽量、薄型、バッテリ駆動時間が長く、信頼性が高いというレッツノートの特徴が受けている。ビジネス向けPCは、全体的に伸びているが、われわれの成長はそれを上回っている」とする。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長
パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部の坂元寛明事業部長

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部の坂元寛明事業部長も、「モバイルノートPCが、日本の企業の働き方の変化とあっている。出張先や出先から、直接自宅に戻って家でレポートを書くことで移動時間を削減したり、Skypeによる会議やフリーアドリス制の導入によって効率的に仕事をしたりといったさいに、モバイルノートPCが最適である。働き方改革の促進によって、デスクトップPCよりも、モバイルノートPCを採用する動きが企業で加速している」と語る。

 パナソニックでは、2018年度も同様の成長を見込んでおり、旺盛な企業需要に対応する体制づくりに力を注いでいるところだ。

 国内PC市場全体では、2014年4月のWindows XPの延長サポート特需の影響を受けた2013年度が過去最高の出荷実績となっているが、2020年1月のWindows 7の延長サポート終了前の特需は、来年以降、本格化するとみられている。それにも関わらず、現時点で過去最高の台数を更新したレッツノートは、今後、さらに記録を更新することは間違いないだろう。

レッツノート LVシリーズを持つイメージキャラクターの比嘉愛未さん

好調を支える生産体制

 パナソニックにとっての課題は、こうした過去最高を更新した出荷台数を継続するための生産体制の確立である。これがレッツノートを取り巻く1つめのトピックスだ。

 じつは、2017年度末となる2018年3月に、レッツノートは品薄の事態を招いた。予想を上回る需要となったのに加えて、筐体(キャビネット)や一部電子部品の調達が遅れたのが原因だ。

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長は、「年度末には納期の遅れによって、多くのお客様にご迷惑をおかけした」としながら、「だが、ほとんどのお客様がキャンセルせずに、納品を待っていただいた。待ってもらえるのはApple製品とレッツノートだけだと言われた。それだけ強い支持を得ていることを改めて実感した」と語る。モバイルノートPCとして求められる堅牢性や性能に高い評価が集まっていることが、こうした動きにつながっている。

 パナソニックでは、筐体の増産については、金型を増やすとともに新たな外注先を探し、加工、塗装、物流体制についても強化したという。これは中期的にも安定した筐体の調達、生産にもつながる取り組みにもなっている。

 パナソニックでは、こうした需要増とそれに対応した調達、生産体制の確立により、2018年2月および3月は、神戸工場のレッツノートおよびタフブックをあわせた平均月産台数7万台を大きく上回り、過去最高の月産台数を達成。2018年4月以降も、月によっては増減はあるものの、前年並みの実績で推移しているという。

生産体制を強化へ

 さらに、2020年に向けて、さらなるPC需要の拡大が予測されるなか、神戸工場の生産体制の強化の取り組みにも余念がない。

 神戸工場は、基板製造から組立までの一貫生産体制を確立しているが、基板製造ラインにおいては、ロボットの導入を促進。現在、検査工程において、「ゼウス」と「メディス」という名前をつけた2台の双腕ロボットを導入。これまでは6軸の多間接ロボットを利用して、SZシリーズなどの大ロット向けの機種に限定した基板検査のロボット化を進めていたが、双腕ロボットの導入によって、複数の機種の基板を同時に検査。少量生産品については、従来は人手で検査をすることしかできなかったものを完全自動化することに成功した。

 さらに、双腕ロボットと多間接ロボットとの組み合わせによって、小ロット機種に関しても、基板の分割作業と、組立工程で使用するための箱詰め作業まで完全自動化するという。

 また、組立工程においても検査工程における自動化を積極的に推進。組み上がったPCのインターフェイス類などを、まとめて一度で検査できる機器を自ら開発して、検査作業の効率化と品質向上を図っている。

 そのほか、組立ラインでは、検査工程にセンサーなどを多用しており、自動化にも積極的に取り組んでいる。工数削減とともに検査品質の向上にも大きく貢献しているという。

 さらに、基板の実装ラインでは、多品種少量生産にも柔軟に対応できるように、需要動向に応じてさまざまな基板を生産できる体制を構築。基板サイズが異なっても、基板が流れるレールの幅を自動的に変更し、部品カセットを入れ替えることがなく、必要な部品を実装できるようにした。1日に10回以上行なわれている段取り替えも、自動的に行なえるフレキシブルラインを実現したことで、需要にあわせた柔軟な生産体制を確立できたという。

さまざまな基板サイズにあわせて自動的に幅を変えることができたり、自動修正を行なう機器を導入している
基板に装填する部品が収納されたカセット
段取り替えの管理はタブレットから行なう
神戸工場の双腕ロボットである「ゼウス」と「メディス」
双腕ロボットと連携する多間接ロボット
組立ラインでも検査の自動化が行なわれている

 基板実装ラインで見逃せない取り組みが、2018年3月から稼働させた新たな機器により、ミクロン単位の実装位置を判別し、修正すべき個所を自動的に判定して、それをフィードバックしたり、フィードフォワードする仕組みである。閾値を超える前に異常を検知して、それを自動で修正することで、品質の高い基板製造につなげることに成功しているという。基板実装ラインにおける先進的な取り組みの1つだ。

 さらに注目されるのは、パナソニックが2017年に買収した、ベルギーに本拠を置くゼテス(Zetes)の物流/人物認証ソリューションを神戸工場が導入し、今後、神戸工場の物流管理を改革するとともに、ゼテスの日本におけるショールーム的役割を果たすようになることだ。

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部プロダクトセンターの清水実所長は、「まずは、VMI(ベンダー・マネジメント・インベントリ)倉庫を対象にした物流管理に、ゼテスのソリューションを活用する。2018年9月には導入を開始する予定であり、従来の仕組みと比較して、2桁の効率化を図りたい」とする。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部プロダクトセンターの清水実所長

 ゼテスを活用した日本初の本格的に取り組みともいえ、「現場ソリューション」の提案を加速するパナソニック コネクティッドソリューションズ社にとっても、神戸工場の先行導入は重要な意味を果たすことになりそうだ。

 加えて、AIを活用した需要予測に基づく、生産の平準化といったことにもこれから取り組むことで、オペレーション改革にも挑む姿勢をみせる。予測精度を高めることで、調達面や在庫管理のメリット、生産の効率化だけでなく、予測に基づいた生産を行なうことで、特定機種の納期を短縮するといった成果にもつなげる考えだ。

 このように、神戸工場のスマートファクトリー化の動きは、これから加速しそうだ。

レッツノートLCMサービスを2018年度下期に本格化

 レッツノートを取り巻く2つめの出来事が、月額数千円でレッツノートを利用できるサービスを含む「レッツノートLCMサービス」を、2018年度下期以降、本格化することだ。

 レッツノートLCMサービスは、その名のとおり、レッツノートの導入から廃棄まで、ライフサイクル全体を管理するサービスであり、国内生産である神戸工場の仕組みを使って提供するものになる。

 同社では、「企業活動における生産性向上の必要性が高まるなか、PCの資産管理や、運用管理に費やされる手間やコストの削減、さらにはPC資産のオフバランス化によって、経営を効率化することに注目が集まっている。レッツノートLCMサービスによって、企業は、これまで以上に、レッツノートを、安心、安全、快適に使ってもらうことが可能になり、管理部門の運用や管理の負担も軽減できる」とする。

 これまでにも神戸工場では、コンフィグレーションサービスを提供し、レッツノートを導入する企業の要望にあわせて、製品出荷前に、神戸工場でアプリケーションソフトウェアなどをインストール。周辺機器との接続設定や社員1人ごとの環境設定などを行ない、1台単位で納品するといったサービスを提供してきた。さまざまな要望にあわせたカスタマイズは46万通りに達しており、一品一様のモノづくりを実現。現在、神戸工場で生産されるレッツノートの場合、すでに4割程度がカスタマイズをしたものだという。

 また、2018年2月から提供を開始している「働き方改革支援サービス」では、適正な労務管理や生産性向上を実現するための「可視化サービス」、快適なモバイルPCの操作環境を実現するための「ソフトウェア型VPNサービス」、モバイルPCの情報セキュリティ対策を行なう「HDD/SSD遠隔データ消去サービス」を提供。

 2018年夏からは、社員のストレスや健康管理を行なう「ストレス推定サービス」の提供も開始し、企業の働き方改革の支援に、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアの観点からも取り組んでおり、すでに150社以上が、このサービスに関心を示しているという。

 レッツノートLCMサービスでは、これまで提供してきた「工場キッティングサービス」、「拡張保証サービス」、「HDD/SDD遠隔データ消去サービス」、「コールセンター」、「ダイクト修理サービス」に加えて、「働き方改革支援サービス」、「バッテリ交換サービス」、「スピード交換&復旧サービス」、「データ消去&引き取りサービス」といった新たなサービスを用意。

 さらに、このうち、「コールセンター」、「ダイクト修理サービス」、「バッテリ交換サービス」、「スピード交換&復旧サービス」、「データ消去&引き取りサービス」の5つのサービスを組み合わせながら、月額でレッツノートを利用できるサービスを提供することになる。

レッツノートLCMサービスの概要
レッツノートLCMサービスのメリット
2018年度中に順次サービスを提供する
企業の要求にあわせてアプリのインストールなどを行なう神戸工場のコンフィグセンター

 「イニシャルコストが高いといった課題や、PCの運用管理者の作業が煩雑といった課題を持つ企業、さらには働き方改革の後押しが必要といった企業に対して、神戸工場が持つ高品質な管理や、ダイレクトのコールセンターおよび修理体制をワンストップで提供でき、さらに、利用しやすい月額サービスを組み合わせることで、これまでレッツノートを購入できなかった企業にも、レッツノートを導入してもらえるきっかけになる」とする。

 レッツノートを担当するコネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部では、パナソニックグループの社員が利用する40万台のレッツノートやタフブックを提供してきた実績がある。

 レッツノートLCMサービスで提供するサービスは、こうしたパナソニックグループ向けに提供してきた実績がベースになっている。世界各国のパナソニックグループ各社において、あらゆる環境で利用されているレッツノートやタフブックをサポートしてきたノウハウを提供するものになるといっていいだろう。

 また、月額での導入においては、自動車業界で採用されている残価設定型プランを活用し、数年後の下取り金額を設定した上で、支払金額を設定するといった仕組みも導入することになりそうだ。

 PC業界では、中古品として流通したさいにも価値が残るApple製品においては、ビックカメラなどが、残価設定型プランを活用して、製品を販売している例があるが、中古品として流通した際に価格下落が大きいWindows搭載PCの場合には、この仕組みが活用しにくい状況にあったのも事実だ。

 だが、レッツノートは、先に触れたように企業のモバイルノートPCとして高い評価を得ている製品であり、Windows搭載PCでありながらも、残価設定がしやすいともいえる。残価を設定しながら、月額販売の仕組みを導入することができるのもレッツノートならではの特徴といえるだろう。

 クラウド時代を迎えて、「所有」から「利用」、「消費」へとニーズが変化するなかで、レッツノート月額利用サービスは、デバイスを「資産」から「経費」に変更することで、企業のキャッシュフローを安定化。さらに、導入の敷居を低くするという点でメリットを生むことになる。

 現時点では、月額支払いの価格は未定だ。同社では、サービスを開始するする時期を、2018年12月までを示す「2018年中」ではなく、2019年3月までを期限とする「2018年度中」としていることから、1つの目安として、年明け以降には月額などの詳細が明らかになりそうだ。

 仮に20万円のレッツノートを48カ月で分割すれば、月額約4,000円という単純計算も成り立つ。レッツノート単体の価格ではなく、神戸工場ならではのさまざまなサービスが付加されること、さらには設定される残価がどの程度になるのかが未定であるため、予想は難しいが、いずれにしろ、月額数千円程度でレッツノートを購入できるようになる可能性があるというわけだ。

 これまで価格が高くて手が出なかったユーザーにとっても、「レッツノートLCMサービス」の月額サービスを活用することで、レッツノートが手に入りやすい環境が実現される。

 パナソニックでは、年間で約10万台が月額サービスに販売になると想定しており、レッツノートの販売に弾みがつくのは間違いないだろう。

タフブックブランドへの統一

 そして、3つめのポイントは、パナソニックのPC事業において、レッツノートと並ぶ、もう1つの柱であるタフブックおよびタフパッドを、「タフブック」のブランドに統一する動きである。

 これについては、本コラムでも一度レポートしているが、ブランド一本化の狙いを、「グローバルで認知度の高いタフブックに、ブランド統一することで、グローバルでのブランド・エクイティ(資産価値)を高めることができる」と、同社では位置づける。

 タフブックは、1996年に誕生し、これまでに数々の製品が投入されてきた。

 そのなかでも、2001年には、堅牢ハンドヘルドPCの「CF-P1」や、2009年にはヘルスケア分野に最適化した堅牢タブレットの「CF-H1」などをタフブックブランドで投入してきた経緯があった。

 だが、2012年に発売したAndroid搭載の堅牢タブレットの「FZ-A1」では、はじめてタフパッドブランドで商品化。現在もタフパッドブランドの製品が継続的に販売されている。

 タフパッドブランドは、2010年に発売されたAppleのiPadに代表されるように、タブレットをPadと呼ぶ流れができたことで、この領域の製品のマーケティングには、Padの名称が最適であるとの判断から、タフパッドの名称を採用した背景があった。

 堅牢性の高いタブレットという意味を持たせるという点で、最適な名称であったといえる。

パナソニックはタフブックへのブランド統一を発表した
ブランドが統一されるタフブックシリーズ

 その一方で、ブランドが分散していることでのマイナス面や、タフブックで目指した商品マーケティングにおいては当初の目的を達成したと判断したこと、そして、グローバルのブランド・エクイティ(資産価値)を高めるためには、1996年の発売以来、22年に渡る歴史と、16年連続で堅牢ノートPCナンバーワンという実績を持つタフブックにブランドを統合することが得策と判断したことなどが、今回のブランド統一の背景だという。

 2018年10月から出荷を開始する「タフブック FZ-T1」は、ハンドヘルド端末ながら、タフブックのブランドを採用。タブブックブランドを採用したタブレット復活の第1号製品となる。

 現在、タフパッドとして販売されている製品は、生産が終了するまでは、そのままタフパッドのフランドを使用するが、新製品の投入時点でタフブックにブランドを切り替えることになる。

 もちろん、キーボードがついてないデバイスにタフブックというブランがつくことに違和感があるのは事実だろう。

 だが、「タフ(頑丈)なブック型デバイス」という意味ではなく、さらに広い意味で「タフなデバイス」を指すブランドとして新たに定義すれば、違和感があるブランドにはならない。

 たとえば、レノボのThinkPadがタブレット形状ではなく、ノートPC形状がメインとなっているのに、多くの人がPadという名称に違和感を持たないのと同じことが、これからのタフブックにも起こり、定着していくことになるのだろう。

 同社では、「タフブック」が、パナソニックの堅牢デバイスを示す、1つのブランドとして定着していくことが、これからの同社のブランド戦略に位置づけているが、これは、モバイルソリューションズ事業部がグローバルに取り扱うハードウェアすべてにおいて、タフブックブランドを使用するという基本姿勢を示しことにもつながっている。

 仮定の話として極端な例をあげるならば、もし、同事業部門で、ウェアラブルデバイスやドローンを、グローバル展開するようなことがあれば、それはタフブックブランドで販売されることになる、ということを明確にしているのだ。

 そして、タフブックブランドが適用される範囲は、ハードウェアだけに留まらない。パナソニックでは、先に触れた「レッツノートLCMサービス」に代表されるように、「ハード単体」から、「ソフトウェア」、「サービス」、「ソリューション」へとビジネス拡大しようとしている。

 そのなかで、同社では、ハードウェアだけでなく、ソフトウェア、サービス、ソリューションまでを包含する統一するグローバルブランドとして、「タフブック」ブランドを使用する考えを示す。

 つまり、「タフブック○○ソリューション」といったソリューション製品も登場することになる。

 モバイルソリューションズ事業部にとって、2018年度における最大の意思決定が、じつは、タフブックへのブランド統一といえるかもしれない。

 パソナニックのレッツノートを中心としたPC事業を俯瞰すると、このように3つの大きな出来事が起こっている。

 働き方改革の推進や、Windows 7からの買い換え需要、そして、グローバル展開の強化にあわせて、パナソニックのPC事業は、さらにアクセルを踏む体制が整おうとしているところだ。

 2018年下期のパナソニックのレッツノートおよびタフブックの事業は、さらに加速することになりそうだ。