大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
NEC PC合併から10年経ったレノボ。ベネット社長のインタビューで振り返り、今後を展望
2021年7月1日 06:55
レノボ・ジャパンが、国内PC市場が年間トップシェアを獲得した。調査によると、2020年度(2020年4月~2021年3月)のブランド別シェアでレノボ・ジャパンのシェアは16.5%。2位のNECパーソナルコンピュータに0.6ポイントの差をつけた。同社が年間トップシェアを獲得したのは、2005年に国内市場に参入してから初めてのことだ。
過去最高水準の年間出荷台数となった国内PC市場において、GIGAスクール構想やテレワーク利用といった旺盛な需要を捉えた戦略が、レノボ・ジャパンの首位獲得につながっている。
そして、2021年7月1日には、レノボとNECによるPC事業のジョイントベンチャーを開始してから、ちょうど10年の節目を迎えた。この節目にあわせて、レノボ・ジャパンの社長であり、NECパーソナルコンピュータの社長を務めるデビット・ベネット氏(以下敬称略)に、2020年度のPC事業の成果と、2021年度以降の取り組み、そして、今後の方向性について聞いた。
大きな市場シェアを握るレノボ
――2020年度は、レノボ・ジャパンにとって、どんな1年でしたか。
ベネット 2020年度の1年間は、世界中が新型コロナウイルスの影響を受け、厳しく、大変な1年でした。そうした中でも、PC業界は、世界規模でのテレワーク需要の増大や教育分野でのPC導入があり、旺盛な需要がありました。とはいえ、半導体の供給の遅れや様々な部品のサプライチェーンの乱れがあり、困難を伴う部分もありました。
変化する市場環境において、レノボ・ジャパンは、いい結果を出すことができたといえます。これまでにも、NECレノボ・ジャパングループとしては、国内ではトップシェアを獲得していましたが、2020年度は、レノボブランド単独でトップシェアを獲得することができました。これは、レノボ・ジャパンが2005年に日本に進出して以来、初めてのことです。
市場調査によると、2020年度におけるレノボ・ジャパンのシェアは、16.5%となりました。ブランド別のシェアでは、前年度の5位から一気に首位となりました。出荷台数の伸びは、前年比で69.1%増となり、市場全体の成長を大きく上回る結果となっています。また、2位となったNECパーソナルコンピユータは、15.9%のシェアとなり、前年比で24.9%増という高いシェアを獲得しています。
さらに、IDC Japanの調べによると、富士通クライアントコンピューティングを加えたレノボ/NEC/富士通のシェアは、43.4%となり、前年度の40.3%から3.1ポイント上昇しています。競合他社が、前年実績を下回る中で、レノボ/NEC/富士通は好調な業績をあげることができました。
今回の2020年度(2020年4月~2021年3月)の本社決算発表にあわせて、初めて、日本における業績も発表できるようになりました。日本での売上高は67億8,000万ドル(約7,500億円)。中国、米国に続いて、全世界で3位の売上規模になっており、グローバル全体の約11%を日本が占めています。また、レノボグループ全体での対前年成長率は20%増ですが、日本での成長率はそれを上回っています。この点からも、レノボ・ジャパンを中心にした、日本における業績の好調ぶりを裏づけることができます。
――NECレノボ・ジャバングループが、日本において一人勝ちともいえる状況になった理由はなんですか。
ベネット 私は、2018年5月に社長に就任したときに、3つのエリアにフォーカスする方針を打ち出しました。それは、「働き方改革」と「教育」、「ゲーミング」の3つです。いずれも、2020年度に成長が著しかった領域であり、注目が集まった領域です。
コロナ禍でのテレワークの浸透、GIGAスクール構想による教育分野へのPCの普及のほか、ゲーミングPCも、巣ごもり需要の広がりに加えて、eスポーツに対する関心の高まり、ゲームストリーミングの浸透といった動きも見られました。レノボ・ジャパンは、3年前から、そこに向かって準備をし、その波に乗ることができたといえます。
さらに、ハードウェアだけでなく、エコシステムによって、課題を解決するソリューション提案が大切であると考え、GIGAスクール構想向けには、GIGAスクールパックを用意し、NTTコミュニケーションズのクラウド型教育プラットフォーム「まなびポケット」や、東京書籍の学校用プログラミング教材「みんなでプログラミング」を組み込むなど、各社との連携によって、ハードウェアとソリューションを組み合わせた提案を行ないました。
また、NECパーソナルコンピュータ群馬事業場のインフラを活用して、国内でキッティングできる体制を敷き、Windows Autopilotを利用したデプロイメントサービスも用意したことで、テレワーク需要などにおいても、IT部門の設定作業の負荷を削減する提案を行ないました。
そして、日本初や世界初の製品を投入した1年でもありました。代表的なのは、日本の大和研究所で開発した世界初の画面折りたたみ式 PCである「ThinkPad X1 Fold」です。また、CES 2021では、NECパーソナルコンピュータが8型液晶搭載の2in1PC「LAVIE MINI」を発表し、話題を集めました。このように、日本で開発して、世界に発信し、世界で話題を集めるといった製品も登場しています。他社ではやっていないものを、日本から発信することができた1年だったともいえます。
そして、NECパーソナルコンピュータの製品だけでなく、レノボ・ジャパンの製品においても、日本で開発し、生産し、サポートする体制が整ったという点でも大きな成果がありました。サービス面でも、月々定額で、ゲーミングPCと周辺機器、ゲームが利用できるサブスクリプションサービスの「スグゲー」の提供を開始しました。これも、他社にはないサービスです。製品、サービスの強化で成果があがり、それが、2020年度の大きな成長につながっています。
もう1つ付け加えておきたいのが、社会貢献のリーダーとしての役割を果たせた点です。例えば、テレワークに関しては、レノボ・ジャパンが、2015年から実施してきた「無制限テレワーク制度」のノウハウをもとにまとめた「テレワークスタートガイド」を無償で公開し、コロナ禍でのテレワークの導入を支援したり、使用しているPCのメーカーに関係なく、問い合わせに対応したりといったことを行ないましたし、テレワーク向けに試験導入をしたいという中小企業に対しては、PCを無償で貸し出すといったことも行ないました。
また、GIGAスクールコンソーシアムの設置を提案し、メーカー、OSを問わずに、教育現場への導入や運用について支援する体制を整えました。こうした取り組みが、PC市場の底上げにつながるとともに、そこでレノボを選択していただけるきっかけが作れたと思っています。
――テレワークに関して言えば、この1年で「テレワーク=レノボ」というイメージが定着した印象もありますが。
ベネット 「テレワークスタートガイド」は多くの方々に利用していただきましたし、グローバルで調査したテレワークの実態調査のデータも各方面で引用されました。また、内閣府や東京都のテレワーク推進サイトでは、レノボ・ジャパンの事例が紹介され、各種のイベントやウェビナーなどを通じた発信も積極化しました。
レノボ・ジャパンが2015年から、実施してきた「無制限テレワーク制度」は、対象部門を限定することなく、しかも、月単位や週単位で回数に上限を設けない仕組みであり、まさに多くの企業がコロナ禍で体験することになった働き方を、先行して経験してきたわけです。そうした経験をもとに、どんな環境を整えればいいのか、社内の文化やルールはどうすべきか、経営陣はなにに気をつけなくてはならないのか、社員の生産性を高めるためにはどうしたらいいのかといったノウハウを蓄積し、それを積極的に発信しました。テレワークの実施において、オピニオンリーダーとしての役割も果たせたと考えています。
GIGAスクールでは成功
――一方で、レノボ・ジャパンは、他社に先駆けて、2020年3月3日に、「GIGAスクールパック」を発表しました。準備期間を考えると、かなり前から進めていたように感じますが、それができたのはなぜですか。
ベネット 私自身、15年以上に渡って、世界中の教育分野におけるPC導入の取り組みを見てきました。しかし、それらの規模は最大でも年間200万台程度であり、今回のGIGAスクール構想のように、年間800万台もの規模で導入されたのは初めてのことです。しかも、政府が最初に打ち出した計画では、3年間で整備するものが1年間に前倒しになりましたから、ここまで集中することは想定してしませんでした。
ただ、私自身、3年前から、日本の教育分野には、これまで以上にPCの導入が促進されることを確信していましたし、日本のトップPCベンダーであるNECレノボ・ジャバングループの社長として、むしろ、それを促進する役目を担わなくてはならないと思っていました。今後の日本の国際競争力を高めるためには、若い人たちがスマホだけを利用する状況に留まっているのではなく、しっかりとしたPCリテラシーを身につける必要があります。
一部には、教える教員のリテラシーが低く、効果が限定的になるという声もありましたが、今回のGIGAスクール構想によって、PCが一気に導入されて変化が起こったように、まずは教育現場にPCがないと、なにも始まりません。教員がわからなくても、子供たちが教えてくれます(笑)。そうした活動を通じて、日本全体のPCリテラシーを底上げすることが大切だと考えていました。
もちろん、現場で混乱がないようにすることが大切ですから、レノボ・ジャパンでは、ハードウェアの提供だけでなく、GIGAスクールパックとして、クラウド型教育プラットフォーム、端末管理ツール、学習コンテンツ、保証までをセットにしたのです。これを用意したことが、教育現場に受け入れられた要因の1つだったと思っています。
GIGAスクール構想向け製品の準備をはじめたのは、2019年夏頃です。GIGAスクール構想は、2019年12月に閣議決定がされましたが、レノボ・ジャパンは、それ以前から着々と動き始めていました。
――世界的な部品不足の中で、他社はGIGAスクール向けPCの調達に苦労していました。なぜ、レノボはこれだけ多くの数量を、国内市場に供給できたのでしょうか。
ベネット 私は、早い段階でGIGAスクール構想において、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの2社で、50%以上のシェアを取るという目標を掲げ、それに向けてはリスクを取る覚悟をしました。もともと国内の教育市場において、NECのシェアは高くても、レノボのシェアはほとんどありませんでしたし、この施策にレノボ・ジャパン社内でも懐疑的な見方はありました。しかし、今回のタイミングが大切だと思ったのです。3年間での整備計画が、1年間になったときには焦りましたが、「それならば、3倍にしちゃおう」と決めて(笑)、日本市場向けの供給体制の確立に力を注ぎました。
レノボグループは、世界ナンバーワンのPCメーカーですから、そのスケールを活かすことができます。アクセルを踏もうと思えば、一気に踏める環境にあるのです。部品の調達が難しい時期こそ、スケールの差が出ます。そして、冒頭、お話ししたように、レノボグループ全体の中で、日本は約11%の売上構成比がありますし、大和研究所や米沢事業場、群馬事業場といった重要なインフラもあります。レノボグループのなかにおいて、日本は重要な市場であり、そこにおいて、かつてない規模の新たな市場が創出されることになる。大きなオポチュニティが生まれるチャンスを確実に捉えたいと思い、本社と話し合いをしながら、アクセルを踏むことを決めたのです。
また、海外の教育分野での先行事例を捉えて、日本でも、Chromebookの販売が増加すると考え、レノボブランドのChromebookの供給にも力を注ぐ一方、NECブランドでは、国内PCメーカーとしては初めてとなるChromebookも用意しました。教育現場や教育委員会の声を聞きながら、Windowsにも、Chromebookにも対応できるような供給体制を敷き、比率が半々になっても、3対7になっても、対応できるようにしました。さらに、教育現場から声を聞き、早い段階からLTE版も用意しました。教育現場の声を聞き、それを製品づくりや調達にも反映し、しっかりと準備ができたといえます。
――ゲーミングPCへの手応えはどうですか。
ベネット 海外では、コンシューマPC市場の約25%がゲーミングPC市場となっているのですが、日本では4%程度です。見方を変えれば、まだまだ市場が大きくなる可能性があります。実際、eスポーツは、日本で急速に盛り上がりを見せていますし、ゲームストリーミングを視聴する人たちが比較的多く、そうした人たちがゲームをやりたいと思いはじめることも想定できました。
従来は、ゲーム専用機とスマホ、PCでプレイするゲームは別々のタイトルだったのですが、いまでは同じゲームがすべてのプラットフォームでプレイできる環境になってきました。そうなると、最もいい環境でプレイできるのがPCです。クラフィックもスムーズですし、カメラやヘッドセットを使ってコミュニケーションも取れます。また、ゲーミングPCであれば、GPUも搭載していますから、ビデオ編集やビデオ配信などにも適していますし、そのまま在宅勤務にも使うこともできます。PowerPointの資料を作成するのにも最適ですよね(笑)。ゲーミングPCは、万能に使えますから、それに気がついたユーザーが、コロナ禍でゲーミングPCを購入するという動きも出ています。
レノボ・ジャパンでは、2018年12月から、LegionブランドのゲーミングPCを日本市場で本格展開してきました。それ以降、日本におけるゲーミングPC市場が急速に拡大し、世界中で最も高い成長率を記録しています。レノボ・ジャパンのシェアは、3年前にはゼロだったものが、日本のゲーミングPC市場が拡大する中で、2020年度には、国内ゲーミングPC市場で、Legionが初めてナンバーワンシェアを獲得しました。個人的にも思い入れがある分野ですから、この成果はとてもうれしいですね。
日本のトップシェアが世界にも影響
――振り返ってみると、2020年度のレノボ・ジャパンのトップシェア獲得は、他社との調達力の差が大きく影響したことを感じます。
ベネット コロナ禍やサプライチェーンの問題があっても、これまでの日本における実績をもとに、いまは日本のためにサプライを取る自信があります。2020年度は、それがプラスに働いたと言えます。
また、レノボ・ジャパンの存在感が高まることで、製品開発においても、日本のニーズをより伝えやすくなります。これまでは日本市場特有のニーズに対しては、NECブランドのPCで対応していましたが、ThinkPadやIdeaPadの開発にも、日本の企業やコンシューマユーザーからの声をより反映するようになりました。NECがこだわる品質を、レノボブランドの製品に反映するといった取り組みも行なっています。
レノボ・ジャパンが強くなれば、全体的な品質もあがり、日本のユーザーが求めているニーズや機能を組み込みやすくなります。結果として、日本市場における顧客満足度を高めることができるでしょう。このように調達力だけでなく、日本の市場のニーズに最適なPCを開発し、生産し、それを市場に供給し、日本でサポートことができるのはレノボ・ジャパンの強みです。ほかの外資系PCメーカーにはない部分を生かせたことが、トップシェアにつながったと考えています。
――これまではグローバルモデルのレノボ、日本のニーズに応えるNECという棲み分けでしたが、これは変わりますか。
ベネット それは変わりません。レノボは、グローバルのニーズに対応した製品づくりが中心となり、NECは、日本固有のニーズにしっかりと応えていく製品づくりを続けます。ただ、最近では、日本のユーザーも、グローバルモデルのニーズと合致する部分が増えていると思います。
ノートPCでは、薄さと軽さの要素を比べると、米国は薄いことが優先されますが、日本では軽いことが優先されます。とはいえ、軽さだけを追求すると、単なるマーケティングメッセージになり、ユーザービリティが落ちるという課題が生まれます。NECブランドのPCは、ユーザーが一番喜んでくれるものを作りたいと思っています。世界最軽量ではないが、すごく軽くて、すごくキータッチが良くて、すごく丈夫であるということを、高い次元で実現したものを作りたい。これが日本のユーザーが一番喜んでくれるPCの姿だと思っています。
――これまでのシェアを見ると、常に、NECの下にレノボがありました。しかし、今年は、初めて、NECを抜いて、レノボが上になりました。今後のマーケティング戦略に変更はありますか。
ベネット NECのブランドは知っていても、レノボのブランドを知らない人が多い。ですから、グローバルキャンペーンの一環として、日本においても、レノボのブランドをもっと訴求したいと考えています。日本ではシェアナンバーワンのブランドになりましたから、大きく投資をしていくチャンスであると思っています。
レノボは、外資系PCメーカーというカテゴリに入りますが、日本で開発し、日本で製造し、日本でサポートする体制が整っていますから、ワールドワイドカンパニー、ワールドワイドスケール、ワールドワイドテクノロジーという点に特徴を持ったブランドでありなからも、ベリーベリーベリージャパンの会社であることを訴求したいですね。
ただ、その一方で、NECブランドのPCに対するマーケティングを弱めるつもりはありません。レノボはGIGAスクール構想の中ではトップシェアですが、コンシューマPC市場ではNECの方が上です。GIGAスクールの需要が終われば、また状況は変わると考えています。
2020年度という1年を振り返ってみますと、日本においては、GIGAスクール構想という特需があり、コロナ禍でテレワークも一気に浸透しました。一方で、半導体の供給不足をはじめとして、サプライチェーンが大きな打撃を受けた1年でもありました。こうした状況において、レノボのスケールがうまく利用できたからこそ、多くのPCを出荷でき、日本の教育市場や、テレワーク需要に対応できたといえます。
私自身も日本の教育分野に対してPCを普及させたかったので、本社もフルサポートすることを約束してくれました。世界でも例がない年間800万台のPCを教育市場に供給する上で、レノボのパワーを活かすことができたのは、よかったと思っています。
今後の戦略とNECブランドのこれから
――2021年度も、レノボブランドでのトップシェア維持を狙いますか。
ベネット それは考えていません。日本のユーザーに無理やりにレノボブランドのPCを押しつけることはしません。もちろん、レノボを選んでもらえるのであれば、それは、ぜひ購入をしていただきたい。でも、NECがいいのであれば、ぜひNECを選んでください。2つのブランドを通じて、日本のユーザーが欲しいものが届けられたらいいと思っています。
――2026年6月に、NECブランド使用に関する契約が終了することになっています。今回、レノボブランドが年間シェアトップとなったことで、かつて、IBMブランドを契約終了前に止めたように、あと5年の間に、NECブランドを止める方向に舵を切りやすくなったようにも見えます。
ベネット NECブランドを止めることはまったく考えていません。1979年に世界初のエンドユーザー向けのパーソナルコンピュータであるPC-8001を発売して以来、40年以上の歴史を持つPCブランドの存在はとても大切です。日本では、PCといえばNECですし、日本のPCの歴史は常にNECがリードしてきました。
レノボは海外PCブランドと戦い、NECは、国内のPCブランドと戦います。この2つのブランドを持っていることこそが強みになるのです。レノボがNECのブランドをリプレースすることは、私はまったく考えていませんし、それは本社も考えていません。日本で愛され続けているブランドは、これからも維持します。日本のニーズに応えるNEC、グローバルのスケールを活かしたレノボという「二刀流」でやっていきます。
――2011年7月1日に、レノボとNECのジョイントベンチャーを開始して10年の節目を迎えました。
ベネット いまから10年前には、これから先、日本のPCブランドはどうなってしまうのかという不安の声があがっていました。このままでは、なくなってしまうのではないかと思った人もいるのではないでしょうか。
しかし、いまは、その状況は、まったく逆のものとなっています。2020年度の結果を見ても、NECパーソナルコンピュータがシェアを拡大できたのは、旺盛な需要と部品不足の中で、レノボグループのスケールを活かすことができた点が見逃せません。日本だけでビジネスを展開しているPCメーカーは、部品調達にかなり苦労したのではないでしょうか。NECパーソナルコンピュータも日本だけで展開していますが、レノボのスケールを活用し、さらに、10年間に渡って、日本における開発や生産、サポート体制の強化にも投資をしてきました。レノボ・ジャパンに続いて、日本で2位のシェアを獲得できたことは、10年前から始まったジョイントベンチャーの成果だといえます。
――2021年度の国内PC市場は縮小することが想定されます。その中で、どんな事業戦略を打ち出しますか。
ベネット 年間800万台という新たな需要を生んだGIGAスクール構想による導入が終了しますから、その反動として、2021年度のPC市場規模が減少するのは明らかです。しかし、まだまだ日本のPC市場には機会があります。1つはテレワークのニーズが続くという点です。レノボ・ジャパンは、テレワークや働き方改革に関する提案には、これからも力を注ぎます。個人的には、中小企業におけるシェアにはまだ満足していません。言い換えれば、この市場では、レノボ・ジャパンが成長できる余地があるともいえます。
日本の中小企業の要望に応えることができる製品やサービスを用意していますし、2021年度はここにもっと力を入れていきます。そして、ゲーミングPCにも力を入れます。コンシューマ市場の25%を占めるまでには、まだ距離がありますから、それまでは重点事業の1つとして加速し続けます。
Windows 11の正式リリースも予定されていますから、それも起爆剤になることを期待しています。もう1つあげるとすれば、PC本体の出荷台数は減少しますが、サービスやソリューションの領域は増加する可能性がありますので、そこにも力を注ぎたいですね。PCは、使うことが目的ではなく、仕事をしたり、学んだり、遊んだりすることが目的です。そのためのツールがPCです。
なにかをしたいと思ったときに、ハードウェアとソフトウェア、ソリューションを組み合わせて、やりたいことをやれるような環境づくりを支援をしたいですね。ここは、2020年度から、積極的に力を入れはじめた領域です。2021年度はさらに力を入れていきます。
NECパーソナルコンピュータの群馬事業場では、NECブランド向けのサポート体制の強化だけでなく、レノボブランド向けのリペアフロアを1.3倍に拡張したり、サポート窓口を強化したりしています。実は、GIGAスクール構想によって、多くのPCが教育現場で利用されるようになってから、少し乱暴に扱ったりすることが多いようで、これまでとは違うような壊れ方が増えています。こうした修理にも迅速に対応できるように体制を強化しました。
それと、Chromebookを使いたいという人も増えていますね。メールやコラボレーションのために使えればいいとか、仮想デスクトップやクラウド利用を促進している企業が利用したり、あるいは、学校に入っているChromebookと同じものを購入したいというコンシューマニーズもあります。こうしたニーズにあわせて、レノボ・ジャパンでは、ユーザーの選択肢の1つとして、Chromebookのポートフォリオを揃えていく予定です。
――富士通クライアントコンピューティングの社長に、レノボ PCSDアジアパシフィックSMBセグメント担当エグゼクティブディレクターだった大隈健史氏が就任しました。ベネット社長と、同い年とのことですが。
ベネット 大隈さんとは、昔からとても仲がいいんですよ。自宅も近所ですし(笑)。FCCLは強い競合相手ですし、そうした強い相手があるからこそ、私たちも進化できます。私は多くの国を見てきましたが、日本のユーザーにとって、NECと富士通という2つのPCメーカーがあることは、とてもラッキーなことだと思います。40年間に渡って、両社が競うように新たな機能を搭載し、日本のユーザーのためのPCを開発し、高い品質の製品を市場に送り出し続けてきました。2社の戦いが日本のユーザーのベネフィットになっています。その関係は、これからも変わらないと思います。
――ジョイントベンチャーから、10周年の節目では、記念モデルのようなものは考えていますか。
ベネット まだ発表はしていないのですが、なにかやりたいと思って準備はしています。レノボ・ジャパンも、NECパーソナルコンピュータも、日本の市場のなかに開発、生産、サポートのすべてのインフラを持っている強みを活かして、日本のユーザーに喜んでもらい、満足してもらえるものを出し続けます。
NECは、品質やテクノロジーについては、すでに高い評価がありますし、2021年度は、「NECは、こんなことをやるんだ」といわれるようなこともやっていきます。また、レノボ・ジャパンは、グローバルナンバーワンのテクノロジーカパニーであること、そして、グローバルスケールを活かせることを強みとして、日本のユーザーからより信頼され、憧れのブランドと言われるようにしたいですね。
レノボのスケールがあったことで、日本のGIGAスクール構想を完遂できたと自負していますし、レノボのノウハウでテレワークへの移行を図ることができたといってもらえる企業からの声もあります。こうした社会貢献という観点からの取り組みにも一層力を注ぎます。
レノボグループでは、「Smarter Technology for All(すべての人に Smarter テクノロジーを)」というタグラインを使っていますが、この言葉が示すように、社会貢献を含めて、すべての人にSmartなテクノロジーを使ってもうらための努力は、これからも惜しまないつもりです。