大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

パナソニック CNS社の樋口社長が語る生き残り戦略

~レッツノート/タフブックはニーズに合わせて体制を変更

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長

 パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長(パナソニック 代表取締役専務執行役員)は、CES 2018の会場において共同取材に応じた。

 国内のPCメーカーの事業再編の動きを受けて、「なんらかの差別化ができ、独自性を発揮できるPCを投入し続けることが生き残りにつながる」と語ったほか、東京に同カンパニーの本社機能を移転した効果についても言及。「組織全体がダイナミックに動けるようになってきたことで、今期の数字には確実にプラス効果が出ている」とした。

 また、パナソニックノースアメリカの社内分社であるパナソニックシステムソリューションズノースアメリカを、2018年4月1日に、米ニュージャージー州ニューアークに新設することを発表した。

 なお、取材には、樋口カンパニー社長のほか、原田秀昭カンパニー副社長、山口有希子カンパニー常務(エンタープライズマーケティング本部長)、パナソニックシステムコミュニケーションズノースアメリカの中山正春社長も参加した。

――国内PCメーカーの再編が続いています。レットノートは、好調のようですが、PC事業の生き残りに向けて、パナソニックがやるべきこと、そして、やってはいけないことは何だと考えていますか。

樋口 日本マイクロソフトに在籍していた立場からは言いにくいのだが、MicrosoftとIntelだけが付加価値をつけて、PCメーカーは単にアセンブリをするだけという状況は、PCメーカーが「やってはいけないこと」であった。レッツノートやタフブックには、一貫した信頼性、品質に対する妥協がないこだわりがある。

 レッツノートを生産している神戸工場では、オンリーワンを作り上げるというマインドが高い。今や、日本のメーカーによるメイド・イン・ジャパンがなくなりつつあり、レッツノートに対するニーズも高まっている。PCにかぎらず、アジアのプレーヤーに対して、なんらかの差別化を追求していくことが大切である。独自性を持つことが、生き残りにつながる。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の原田秀昭副社長

原田 レッツノートにも、タフブックにも共通しているのは、この20年間に、お客様のニーズの変化にあわせて事業体制を変えてきているという点。これは、パナソニックの事業のなかでもめずらしい。

 設計をして、開発をして、モノを作って、サービスをするというサイクルではなく、納品前にあらかじめカスタマイズやセットアップをしてほしいという要望があれば、コンフィグレーションセンターを設置して、それに対応したり、海外でも同様の要望があれば、同様に海外にコンフィグレーションセンターを配置したりといったように、お客様からの要望にあわせてサービスを変え、事業部の体制を変えてきた。これができないと、パナソニックのPC事業は生き残れない。

――パナソニックのPCの年間出荷台数は、100万台規模に到達する水準に近づいてきましたね。

原田 だが、数を追ったり、シェアを追ったりすると、ろくなことがない。2017年度はレッツノートの販売は非常に好調である。これは、お客様からの信頼によるもので、だからといって台数の増加にこだわるつもりはない。100万台にはだいぶ近づいてきているのは確かだが、焦らずに、2020年ぐらいにはその数値に到達するぐらいの感じでいる。

――現在、コネクティッドソリューションズ社ではどんなことに取り組んでいますか。

樋口 コネクティッドソリューションズ社は、レッツノートをはじめとするPCやPOS端末、セキュリティカメラ、プロジェクタ、FA、ロボティクス、溶接機、部品実装機、PBX、FAX、アビオニクスなどを取り扱っており、パナソニックにおけるBtoBの集合体となっている。

 また、コネクティッドの状態で利用されるものが増加していることを捉えて、“コネクティッドソリューションズ社”と呼んでいる。パナソニックには、BtoBtoCやBtoBtoBを行なっている事業がほかにもあるが、ソリューションをインテグレートした形で、あくまでも「B」のお客様をエンドユーザーとして納めることを目指したところが、ほかのカンパニーの事業とは異っている。

 日本の製造業では、運びやすい軽薄短小の製品を中心に、コモディティ化したり、グローバル競争が発生し、中国企業のキャッチアップが早かったりするなかで、いかに利益を出せる体質にするかが課題となっている。

 かつての欧米企業がシフトしたように、パナソニックも、黒物家電から白物家電に、あるいはBtoCからBtoBへとシフトし、選択と集中をせざるを得ない状況にある。そうした変化の代表格が、コネクティッドソリューションズ社である。

 パナソニックは、2018年に100周年を迎えるが、この状態のままでは、これからの100年は、厳しい100年になるのは明白である。これから100年をサスティナブルするには、昨日と同じ今日があって、今日と同じ明日があるというのではいけない。

 パナソニックが、必要な変化をするために、コネクティッドソリューションズ社が、その変化の先頭に立ってほしいという津賀(パソナニックの津賀一宏社長)の期待を受けて、いまは、3階層の取り組みでビジネストランスフォーメーションを進めているところである。

――3階層の取り組みとはどんなものになりますか。

樋口 1階は「風土改革」である。これは当たり前のことを当たり前にやることであるが、歴史が非常に長く、大きくなってしまった企業は、つねに風土改革にチャレンジしていかないと企業が活性化しない。私自身、25年間にわたって、パナソニックの外で経験した立場からみると、なかの常識が外の非常識なっていることを感じることがある。世のなかからも見て、正しいことをできる会社にならなくてはいけない。

 2階は、「ビジネスモデル改革」である。コモディティ化するなかで、お客様にとっての価値はハードウェアの高性能化だけではなく、なにができるという点となる。ハードウェア同士の組み合わせ、ソフトウェアとの組み合わせ、そして、付随ビジネスを含めたソリューションを提供するといった形にレイヤーアップをしていかなくては、ニーズに応えられず、サスティナブルな会社にもなれない。事業ごとに、お客様の要求はどこにあるのかといったことを真剣に考えていく必要がある。

 そして、3階は、「選択と集中の実践」。事業のなかには、「立地」がよくないところもある。賢く戦っていくために、商品、地域、業界という観点から選択と集中を進めていくことになる。商品、地域、業界のいずれも苦しいというものがあれば、事業そのものをどうするのかということも考えていかなくてはならない。

――1階と位置づける「風土改革」では具体的にはどんな取り組みを行ないますか。

樋口 ここでは、「働き方改革」および「ダイバーシティ」に取り組み、コンプライアンスを含めた経営の近代化を進めていく必要がある。

 誰もがオープンに意見を交わして、正しいことを実行できる会社でないと、硬直化して、会社がだめになってしまうということは身に染みて体験している。世のなかの変化に対する感度を高め、社内での「内部消費エネルギー」を使わず、このエネルギーを外に向かって使うことで、最短距離でビジネスに邁進し、柔らかく組織横断で連携ができるクロスバリュー型組織の確立を目指す。

 そして、社員が生き甲斐を持って働いて、それによって会社も成長する姿が望ましいと考えている。働き方改革としては、大阪にいてはいけないということで、東京にカンパニーの本社機能を移した。門真で感度を上げてもあまり意味がない。東京で感度を高めることが大切である。

 今は東京のオフィスで、技術、デザイン、事業部、営業/SE、本社スタッフが入り交じっている。2018年4月からは、さらにまとまった形で、事業部から社員が東京に移動することになる。フリーアドレスなので、まだ入れることができる(笑)。

――東京にカンパニーの本社機能を移したことによるメリットはどんなところに出ていますか。

樋口 浜離宮に本社機能を移して、まだ3カ月だが、さまざまな部署が混じり合って、コミュニケーションが活発化している。組織全体がダイナミックに動けるようになってきたことに加えて、景気回復の追い風もあり、今期の数字には確実にプラス効果が出ている。体感的には東京への移転効果があると思っている。

 また、社内で立ち話のようなビジネスコミュニケーションが増えたり、チャットを活用するケースが増え、会議やメールの数が減っている。さらに、早く物事が決まっているという効果もある。事業部が出してくるフォーキャストについても、普段から緊密にコミュニケーションをとったり、顔をみたり、話を聞いたりしていると、数字の裏にあるストーリーがわかる。

 一方で、外部企業の人たちは、なかなか門真まで来てくれなかったが、東京に移転したとたんに多くの人が来てくれるようになった。効率的にミーティングができ、アップデートの情報も入るようになってきた。これは大きなメリットだと感じている。

原田 南門真から浜離宮に移転して以降、来ていただけるお客様の数は倍増以上になっている。また首都圏には導入決定権を持っているお客様が多く、さらに、パナソニックの社員が出向く距離が短くなり、1日に訪問できる数が倍以上になっている。すべてのスピードが速くなり、情報も多く入ってくる。東京は360度からさまざまな情報が入り、それによって、社員のレベルも底上げができたという肌感覚がある。

樋口 一方で、ICTの利活用も強制的に行ない、半年間で全社員が使うようになった。また、アウトプット志向に向けた人事制度改革をはじめている。さらに、「内向き仕事削減プロジェクト」を実施し、いままで当たり前にやっていた内向き仕事を見つめ直し、大胆に削減しようと思っている。長い間、なかにいると、次々と足し算のように内向き仕事が積もっていく。これをやめて、引き算をやっていくことにした。

――ダイバーシティでは、どんな成果がありますか。

樋口 先月、日本IBMから、カンパニー常務として、エンタープライズマーケティング本部のトップに山口(山口有希子氏)を迎え入れ、カンパニー常務の女性が3人になった。3人の女性常務には、ダイバーシティ推進の核になってもらう考えだ。

 この女性活用を、全社に広げるモデルにしていきたい。山口の採用は、私一人が決定するという不健全なプロセスで決めたものではなく、正当なハイアリング、コンセンサスのもとに採用した。ダイバーシティは女性だけが対象ではないが、圧倒的に女性のダイバーシティが遅れているので、そこから着手した。

 すでに、ダイバーシティ全国キャラバンを開始し、全拠点での啓蒙活動を行ない、ダイバーシティフォーラムも社内で開催している。新卒採用、キャリア採用、昇格といった点でも女性の活用を広げていく。エンタープライズマーケティング本部長に就任した山口は、メッセージを発信していく人材が不在であったため、その部分を統括してもらうことになる。

 これまでは、イベントでの展示、基調講演、PR、宣伝、ショールームなどの活動がバラバラであったことから、これを見直し、「顧客目線で見たときに響くメッセージはなにか」、「顧客からはなにが求められているのか」というところから逆算し、パナソニックの強みとすり合わせて、メッセージを発信していくことになる。

 第1弾のマーケティングキャンペーンもはじまっている。2018年1月4日から、夏目三久さんを起用したTV CMをスタートし、テレビ東京のWBSでは、3月まで毎日放映する。ここでは、「あした、現場で会いましょう」キャンペーンとして、現場に密着した形で、プロセスをイノベートしていくのが、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の役割であることを「流通編」と「物流編」として制作した。これ以外にも別バージョンを考えている。BtoBユーザー向けの雑誌、交通広告や屋外広告などのOOH、これまでコネクティッドソリューションズ社が遅れていたデジタルメディアを活用した発信も強化したい。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の山口有希子常務兼エンタープライズマーケティング本部長

山口 BtoB領域におけるマーケティングとは、課題の解決策を探している企業に対して、きちんとしたソリューションがあることや、それを提供できる実績と能力があることを伝え、信頼を勝ち得ることが重要である。

 コネクティッドソリューション社は、それぞれの分野でプロモーションをやってきたが、BtoBソリューション全体として同じメッセージを打ち出すことができていなかった。会社として目指す統一メッセージを社内外に発信し、BtoBのブランドを作り、これから進む道において、マーケットを作っていくことになる。

 第1弾のプロモーションでは、「現場お役立ちトータルインテグレータ」という目指す方向を示した。それを実現するための事例、事例を支える技術、営業現場、開発現場などの状況を発信していきたい。

――ソリューション提供によるレイヤーアップの取り組みにはどんなものがありますか。

樋口 IoT時代において、パナソニックの強みを発揮するには、クラウド上で動くマイクロサービスが必要であると考えた。これらをBtoB向けIoTサービスとして、「μSockets」を名づけた。Soketsは、創業者である松下幸之助が発明した二股ソケットからとったものであり、μはマイクロサービスという意味がある。

 μSocketsは、マイクロサービスのモジュールとして発表したものであるが、業界初となるIoTサイバーセキュリティ技術を投入した段階であり、まだ揃いきっていない。まずはフレームワークを作ったことに意味がある。そして、これをオープンにしていくつもりである。

 また、モノのトレーサビリティと人のトレーサビリティを得意とするベルギーのZetesを買収し、モビリティに特化した物流/人物認証ソリューションを提供することになる。日本だけでなく、米国にも展開していく。さらに、FA分野ではシーメンスと提携して、パナソニックのマシンだけでなく、他社の製品を含んだ統合環境で利用できるようにすることで、個々のマシンのオートメーション化だけにとどまらず、ニーズが高まる統合コントロールシステムの商談に弾みをつけたい。

 パブリックセーフティ分野は、当社の強みが発揮でき、差別化ができるドメインであり、マイクロソフトとの連動により、Azure上のさまざまなソリューションを組み合わせた形でニーズに応えることができるようにした。リアルタイム指揮統制支援や予兆管理などで、日本マイクロソフトと協業を進めている。

――今回のCES 2018では、北米市場において、パナソニックノースアメリカの社内分社として、パナソニックシステムソリューションズノースアメリカを2018年4月1日で設立することを発表しました。この狙いはなんですか。

樋口 パナソニックは事業部制が強く、事業部ごとに紐づいた形で海外子会社が存在していた。今回の新会社は、コネクティッドソリューションズ社関係の子会社を統合し、ソリューションセリングやレイヤーアップの体制を確立するのが狙いである。

 お客様のニーズを把握しつつ、自社製品同士の組み合わせや他社製品との組み合わせ、あるいはソフトウェアとの組み合わせによって、ソリューションを提供する組織にしていきたい。

パナソニックシステムコミュニケーションズノースアメリカの中山正春社長

中山 新会社では、業界向けのソリューション力の強化を目的に「デジタルソリューションセンター(DSC)」を新設する。共通プラットフォームでソリューション開発を進める考えであり、北米市場においては、公共セキュリティ分野、製造分野、フード&リテール分野、物流分野、テーマパークなどにフォーカスし、それぞれの分野に特化したソリューションを提供していくことになる。

 米国市場に対してソリューションを提供するだけでなく、得意領域であるFA分野を中心に、米国からほかのリージョンをサポートするといった体制も整える考えだ。これまで分散していたそれぞれの会社を合計すると約100人のSEが在籍していたが、新会社の設立に伴い、SEを集約するとともに、これを倍増させ、効果を最大限に発揮したい。

――コネクティッドソリューションズ社では、営業利益率10%を目指していますが、それに向けた課題はなんですか。

樋口 営業利益率10%は、創業者が掲げた健全な利益率の水準であり、これをターゲットにしていきたい。課題を挙げるとすれば、現時点で、利益率が低い事業があるという点である。利益改善はすべての事業において行なっているものであり、なかには、いまは利益率が低いが、インキュベーションフェーズにあり、将来の刈り取りを目指しているところもある。それ以外に将来の見通しがつかない領域は課題になる。

 具体的になにかということについては言及は避けるが、こうした事業に関しては、立地を選ぶなど、なんらかのアクションを取っていくことになる。ビジネスとしての目利きが必要であり、感性やセンシティビティをあげた形でオペレーションをしていくことになる。2階の「ビジネスモデル改革」、3階の「事業立地改革」を進め、ベースとなる1階のカルチャー&マインドの「風土改革」を組み合わせることで、営業利益率10%を追求していけるだろう。

――創業者である松下幸之助氏の言葉で経営に活かしているものはなんでしょうか。

樋口 新卒で松下電器産業(現パナソニック)に入社してからの12年間、毎朝、松下電器の社員が「遵奉すべき精神」を唱和してきたが、そのときには、はっきり言うと、共感して唱和していたわけではなかった。若いときには、「唱和するのはイヤだな」くらいに思っていた。

 松下電器をやめてから、25年間外で働き、経営に近いところに近づくにつれて、社員に言ってきたこと、あるいは自分が大事に思っていたことが、創業者の言っていることと同じだったことがわかった。これはパソナニックに戻って、若いときには見なかった創業者のビデオなどを見て気がついたものである。最初の12年の間に刷り込まれたものなのか、本当は共感していたのかはわからないが、自分でもびっくりした。

 尊敬されるものや、背骨といえるものがないと、人はひとつにならない。そして、大きくなる会社は核としてそういうものを持っている。これは経営者の器と比例するものになる。私にとっても、創業者の言葉は重要なものになっている。