山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
アップル「iPad mini Retinaディスプレイモデル」で電子書籍を試す
~高解像ディスプレイと軽量な本体により快適な読書が可能
(2013/11/22 06:00)
アップルの「iPad mini Retinaディスプレイモデル(以下iPad mini Retina)」は、7.9型の薄型軽量タブレットだ。2012年に登場したiPad miniのデザインはほぼそのまま、2,048×1,536ドットのRetinaディスプレイを搭載した上位モデルという位置づけの製品である。
本稿ではこのiPad mini Retinaの基本的な特徴をざっとチェックしつつ、電子書籍端末として見た場合の使い勝手を紹介していく。
見た目は従来モデルとほぼ同一
まずは従来モデルとの比較から。兄弟製品にあたるiPad Airとも併せて比較する。
iPad mini Retinaディスプレイモデル | iPad mini | iPad Air | |
---|---|---|---|
発売年月 | 2013年11月 | 2012年11月 | 2013年11月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 200×134.7×7.5mm | 200×134.7×7.2mm | 240×169.5×7.5mm |
重量 | 約331g | 約308g | 約469g |
画面サイズ/解像度 | 7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi) | 7.9型/1,024×768ドット(163ppi) | 9.6型/2,048×1,536ドット(264ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n |
内蔵ストレージ | 16/32/64/128GB | 16GB | 16/32/64/128GB |
バッテリー持続時間(メーカー公称値) | Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生:最大10時間 | Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生:最大10時間 | Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生:最大10時間 |
価格(2013/11/20時点) | 16GB 41,900円 32GB 51,800円 64GB 61,800円 128GB 71,800円 | 16GB 31,800円 32、64GBモデルは終息 | 16GB 51,800円 32GB 61,800円 64GB 71,800円 128GB 81,800円 |
従来のiPad miniにRetinaディスプレイを搭載しただけのように思われがちな本製品だが、細部ではいくつか違いがある。1つは厚みと重量が若干増したことで、厚みは0.3mmと微々たるものだが、重量は約23g増しということで、従来モデルと持ち比べると、どちらが重いのか実感できる。とはいえ、単体ではまず分かるレベルではない。持ち比べて初めて分かる程度、というのがミソだ。
ラインナップとして見た場合は、スペースグレイ/シルバーというカラーバリエーションや、128GBモデルの追加など、iPad Airと共通となっている。Wi-Fi+Cellularモデルが存在するのも同じだ。ちなみに本製品の登場によって従来のiPad miniは16GBモデルだけが継続製品となり、その他の容量のモデルは終息している。
このほか、上記の表にはないがCPUはA5からA7へと進化し、同時に発表されたiPad Airと肩を並べた。そもそもA5はiPad 2相当ということで、決して新しいプロセッサではなかったので、この進化は予想された範囲と言える。メモリも従来の512MBから1GBへと増量されている。さらに目立たないが、Wi-Fiが新たにMIMOに対応したのもメリットだ。
セットアップの手順は、同じくiOS 7を採用したiPad Airと変わりはない。iPhone 5sに搭載されたTouch IDこと指紋認証を搭載しないのもiPad Airと同様で、それゆえロック画面の解除には手動でパスワード入力が必要になる。画面のクオリティを見比べない限りは、iOS 7にアップデートした従来モデルと並べても、違いはそうそう分かるものではない。
外観で唯一違いがあるのが、背面上部のマイクだ。本製品ではマイクがシングルからデュアルになったことで、上面中央に加えて背面上部中央にも穴が空くようになった。したがってここを見れば、画面を見比べなくとも、Retinaモデルであることが分かるというわけだ。
細部の表現力が劇的に向上。視野角によって若干の色合いの変化あり
さて、電子書籍端末として利用するにあたって気になるのは「従来のiPad miniと比べて表現力がどの程度向上しているか」および「サイズが異なるiPad Airとはどのくらい使い勝手に差があるのか」ということだろう。なにせRetinaディスプレイ以外はほとんど従来モデルの仕様に準じているわけで、論点は自ずからここに行き着く。この2点について、順に見て行きたい。
まずはRetinaディスプレイ採用による解像度の向上だが、これは以下の写真の通りである。すなわち、細部のクオリティの差は歴然で、細い文字はくっきりと表示され、コミックの細部のディティールも明らかに異なっている。かつて「iPhone 3GS」と「同4」、「iPad 2」と「同 第3世代モデル」を比べた時と同様で、一度Retinaディスプレイに慣れてしまうと元に戻るのは困難だ。
もっとも、製品のリリース時期を考えると、iPad miniは本来最初からこうあるべきだったとも言えるわけで、新鮮な驚きはそれほどない。いまや競合他社からも同等解像度を持つタブレット製品が続々とリリースされており、本製品だけが突出した存在ではなくなっているという事情も大きいだろう。例えばNexus 7は323ppi、Kindle Fire HDX 7も同じく323ppiといった具合で、本製品の326ppiと大差ない。
ちなみに全体の色合いは、iPad Airに比べるとやや赤みがかって見えるが、これはiPad Airが緑や黄が強めに出るのも要因であり、単体で見た場合はとくに不自然さは感じない。どちらかというと、従来のiPad miniに比べ、角度の変化による色合いの変化が大きいことのほうが気になる場合がある。以下の写真で確認してほしい。
コミックを読むには本製品でもiPad Airでも問題なし。雑誌には不向き
続いて、サイズが異なるiPad Airとはどのくらい使い勝手が違うのかを見て行こう。本製品とiPad Airはいずれも同じ2,048×1,536ドットであり、それでいて画面サイズは本製品が7.9型、9.7型と差があるため、本製品のほうが密度が高いことになる。画素密度で言うと前者が326ppi、後者が264ppiだ。
では実際の本と比較した場合にサイズの差がどのくらいあるかだが、iPad Airは画面の表示サイズがおおむねコミックの単行本大で、本製品は本体の外寸がコミックの単行本大だ。つまりiPad Airはコミックの原寸表示が可能(実際はそれよりも若干大きい)で、本製品ではひとまわり縮小されることになる。
もっとも、紙のコミックでは文庫版のように小さな判型も存在しており、それよりは大きく表示されるので、読書には何ら支障はない。そればかりか、Retinaディスプレイの採用で解像度が上がったことで、画面を横向きにして見開き表示にしても、文庫版のコミックに近い感覚できちんと読めてしまう。テキストコンテンツに関しては、むしろ画面を横向きにして表示した方が、文庫本らしさを再現できて良い。
一方、雑誌やムック本など判型の大きな書籍を表示するには、いかにRetinaディスプレイとはいえ、本製品では絶対的なサイズが足りない。コミックを楽しむだけであれば本製品でもiPad Airでも問題なく、軽さ優先かサイズ優先かといった利用スタイルで決めればよいが、雑誌やムック本を快適に読みたければiPad Airをチョイスしたほうがよいというのが筆者の意見だ。
コミックは電子書籍ストアごとの解像度の差が顕著に
さて、ディスプレイの高解像度化に伴って発生するようになった、もう1つの問題もチェックしておこう。それは、電子書籍ストアごとのコンテンツの解像度の違いが、Retinaディスプレイによって一目瞭然になってしまったという問題だ。同一のコンテンツ、とくにコミックを表示していても、電子書籍ストアAではくっきり表示されるのに、ストアBで細部がつぶれて表示されるという問題である。
電子書籍のデータが作られるにあたっては、元データが版元から制作会社に届けられ、そこで各ストア向けのデータに作り変えられる。この際、従来の低解像度ディスプレイに合わせて作られたデータは、Retinaの解像度では無理矢理引き伸ばされて表示されるため、結果としてぼやけてしまう。Retina以前であれば解像度が高いデータは表示の時点で縮小されてしまい、結果的に横並びになってしまっていたが、Retinaディスプレイの登場によって本来の力を発揮しうるようになったという話である。
具体的にどういうことか、サンプル画像(うめ氏「大東京トイボックス 1巻」)を用いてご覧いただこう。1枚目の画像は従来のiPad miniで、BookLive!、eBookJapan、iBook、Kindle、紀伊國屋書店Kinoppy、koboの各データを表示したもので、それほど各ストアの画質に差はない。ところが2枚目の画像、iPad mini Retinaで表示した場合は、ストアごとのクオリティの差が一目瞭然になる。
上記の写真を見ると一目瞭然だが、下段中央=紀伊國屋書店Kinoppyの解像度がずば抜けて高く、そのあとを上段中央のeBookJapan、次いで残り4社が追う状況になっている。各社ごとに並び替えた比較画像(いずれも左がiPad mini、右がiPad mini Retina)を以下に掲載するので、こちらも参考にしてほしい。
念のために断っておくと、これは今回サンプルとして使用したコミックのわずか1ページを比較しただけで、別のサンプルではまったく違う傾向を示す可能性はある。とはいえ各社とも大枠のレギュレーションに沿ってデータが作られているはずで、同じ傾向を示すコミックがある一定の割合で存在していると見て間違いないだろう。
長い目で見ると、各社ともRetina対応データへの差し替えをランニングチェンジで行なっていくことになるだろうが、1~2年前と違ってコンテンツ数が莫大な数となった現在では、一朝一夕にはできないだろう(差し替えよりはコンテンツ数を増やすことにリソースを振り分けるほうがビジネス上はメリットが大きいはずだ)。
こうしたことから、もしこれから新規に電子書籍ストアを選ぶのであれば、コンテンツ数や価格、使い勝手などの条件が横並びであれば、現時点で高解像度データを持つストアを選ぶという考え方も、Retinaディスプレイを使うにあたっては現実味を帯びてきそうだ。
画面サイズ優先ならiPad Air、軽さ優先なら本製品
ざっと見てきたが、前回のiPad Airと同様、電子書籍コンテンツを楽しむのに適したタブレットだと言える。iPad Airとの用途の違いは先に述べたように、雑誌などの大判コンテンツを読む必要があるか否かで、それを除けば「多少重くなっても画面サイズの広さを優先するならiPad Air、画面サイズが小さくても軽さを優先するならiPad mini Retina」という判断でおおむね正解だろう。同じ容量であればiPad mini Retinaのほうが価格が約1万円安いので、予算を重視するならそうした選択肢もありだ。
また今回試用しているのはWi-Fiモデルだが、外出先でコンテンツをダウンロードするのであれば(予算はさておき)Wi-Fi+Cellularモデルという選択肢もありだろう。モバイルルーターやMVNOのSIMカードは月々の転送量がシビアな場合があるので、数十MB単位のコミックを外出先で頻繁にダウンロードしていると、あっという間に制限に達してしまいかねない。こうした場合、転送量の制限が緩いWiFi+Cellularモデルのほうが重宝するだろう。いずれにせよ、どの選択肢でも基本性能に不満はまったくなく、快適な読書が楽しめるはずだ。