山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
GoogleのAndroid 5.0タブレット「Nexus 9」で電子書籍を試す
~4:3比率で電子書籍の見開き表示に最適なiPad対抗タブレット
(2014/11/29 06:00)
「Nexus 9」は、HTCが製造しGoogleが販売する、8.9型のAndroidタブレットだ。最新のAndroid 5.0「Lollipop」を搭載するほか、64bit CPUやIEEE 802.11acなど、さまざまな新しい技術が盛り込まれていることが特徴だ。
8.9型ということで、iPadと並べると「iPad mini」と「iPad Air」のほぼ中間のサイズとなる本製品だが、電子書籍用途で使用する場合、注目となるのは4:3という画面比率だ。Androidタブレットは一般的にワイド比率であるため、電子書籍を表示した場合は、大きな余白ができてしまう。
その点、Androidタブレットながら、iPadと同じ4:3の画面比率を持つ本製品であれば、単ページ表示でも見開き表示でも、余白が少なく、違和感のない電子書籍の閲覧ができる。本稿ではこの製品を、iPadシリーズのほか、AmazonのFire HDX 8.9などとも比較しつつ、電子書籍用途を中心にレビューしてみたい。
iPad Airシリーズのライバルとなるモデル。4:3の画面比率が特徴
まずはざっと基本的なスペックをチェックしておこう。
製品名 | Nexus 9 | Fire HDX 8.9 | iPad Air 2 | iPad Air |
---|---|---|---|---|
発売日 | 2014年11月 | 2014年11月 | 2014年11月 | 2013年11月 |
メーカー | Google/HTC | Amazon | Apple | Apple |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 228.25×153.68×7.95mm | 231×158×7.8mm | 240×169.5×6.1mm | 240×169.5×7.5mm |
重量 | 約425g | 約375g | 約437g | 約469g |
OS | Android 5.0 | Fire OS 4 | iOS 8 | iOS 7→8 |
画面サイズ/解像度 | 8.9型/2,048×1,536ドット(288ppi) | 8.9型/2,560×1,600ドット(339ppi) | 9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi) | 9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi) |
通信方式 | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n |
内蔵ストレージ | 16/32GB | 16/32/64GB | 16/64/128GB | 16/32/64/128GB |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 9.5 時間 | 12時間(書籍のみの場合18時間) | 10時間 | 10時間 |
カメラ | 前面+背面 | 前面+背面 | 前面+背面 | 前面+背面 |
価格(発売時) | 43,090円(16GB) 49,570円(32GB) | 40,980円(16GB) 47,180円(32GB) 53,280円(64GB) | 53,800円(16GB) 64,800円(64GB) 75,800円(128GB) | 51,800円(16GB) 61,800円(32GB) 71,800円(64GB) 81,800円(128GB) |
備考 | LTEモデルも存在 | - | LTEモデルも存在 | LTEモデルも存在 |
Android 5.0の搭載により64bitをサポートするようになったことは本製品の1つの目玉だが、Retinaクラスの画面解像度や、前面背面のカメラ、さらに802.11ac対応、MIMO対応などの仕様は、ライバル製品ともほぼ共通であり、突出した特徴というわけではない。従来のNexus 7やNexus 10と同じくメモリカードスロットがないのも、ここで比較対象となっている製品と同様だ。
その点、見た目に分かりやすい特徴として挙げられるのは、やはり4:3という画面比率だろう。この画面比率に絞って同クラスのタブレットを探すと、ライバルと呼べるのはiPadシリーズのみといっていい。本体の重量、および厚みを見ても、iPadにぶつけるために設計された製品と言っても過言ではないだろう。
そのライバルであるiPad Airは新製品のiPad Air 2で大幅な薄型化を果たしたため、厚みは結果的に大きく差を付けられてしまったわけだが、逆に重量は本製品の方が下回っており、解像度は同じQXGAながら画面サイズが小さいため画素密度も本製品の方が上だ。価格も16GBで比べると本製品が1万円安価なので、なかなか甲乙つけがたい。ただ、32GBが上限というのはいかにも心もとない。64GB以上の容量で製品を選ぶ場合、必然的に選択肢から外れてしまうのはマイナス要因だろう。
動作のサクサク感はプラス、バッテリの消費速度はマイナス
本製品はAndroid 5.0搭載ということで、従来のAndroid 4.4に比べて画面のデザインが異なるほか、設定画面で従来とは階層が異なっているメニューなどもあるが、セットアップの手順や使い方そのものは大きく変わらない。
従来のNexusシリーズと同様、プリインストールアプリは少なく、一覧表示にするとほぼ1ページに収まってしまうほどの量だ。利用目的が不明なアプリが初期状態で多数存在しているのが苦手なユーザにとってはむしろ好印象だろう。ちなみに電子書籍ストアアプリとしては、Google純正の「Google Playブックス」がプリインストールされており、Googleアカウントを登録すればすぐに利用できる。
使ってみて気になるのは、バッテリ消費が思いのほか早いこと。ほぼ購入直後のデフォルト設定のままフル充電で放置しておいて2日目の晩には10%以下まで低下していたことがあったほどで、技術仕様に書かれた「インターネット使用時最長9.5時間、動画再生最長9.5時間、待機時最長30日間」という公称値は、測定環境が異なることを差し引いてもやや疑問符がつく。本稿の主旨とは異なるので正確な測定は行なっていないが、6,700mAhものバッテリを搭載する割には、かなり消費が早い印象だ。必要に応じ、Android 5.0の新機能であるバッテリセーバー機能を活用すると良いだろう。
また、動画再生などCPUパワーを必要とする処理を行なっていると、背面が熱を持つのも気になる。具体的には本体上部、カメラ付近の温度上昇が著しい。電子書籍を読むなどCPUパワーをあまり消費しない用途では気にならないが、使い道によっては注意した方がよさそうだ。もっとも動作自体はサクサクで、フルHDの動画を再生しても、コマ落ちなどの症状は見られなかった。俗に言う「もっさり感」とは全くの無縁だ。
一方、使ってみてメリットと感じられるのは、画面を横向きにした際に、スピーカーが画面の左右にきちんとレイアウトされ、かつ正面を向いて音が出ることだ。スピーカーが底面にあるiPad AirやAir 2の場合、画面を横向きにして両手で本体を持つと、右手でスピーカーを塞いでしまう場合があった。本製品ではそのような問題は起こらない上、Fire HDX 8.9のように、スピーカーからの音が背面に抜けてしまうこともない。音楽や動画の鑑賞には、極めて向いた製品と言っていいだろう。
ベンチマークソフト「Quadrant Professional Ver.2.1.1」による他製品との比較は以下の通り。2013年モデルのNexus 7に比べると、CPUおよびI/Oを中心に大幅な改善が見られる。Android 4をベースとするFire OSを採用したFire HDX(旧Kindle Fire HDX)シリーズがAndroidタブレットに比べて相対的に高い値を示すのは、従来と同じ傾向なので、こちらはあまり気にしなくてよいだろう。
製品名 | OS | Total | CPU | Mem | I/O | 2D | 3D |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Nexus 9 | Android 5.0 | 13529 | 41041 | 8903 | 14844 | 391 | 2465 |
Nexus 7 | Android 4.4 | 5141 | 13908 | 7435 | 2038 | 247 | 2078 |
Fire HDX 8.9 | Fire OS 4 | 23850 | 91409 | 17852 | 7167 | 498 | 2326 |
Kindle Fire HDX 8.9 | Fire OS 4 | 20933 | 78366 | 16989 | 6719 | 333 | 2259 |
Kindle Fire HDX 7 | Fire OS 4 | 21032 | 79529 | 16589 | 6477 | 324 | 2242 |
もう1つ、今度はベンチマークソフト「3DMark Ice Strom Unlimited」を用いてiOSデバイスおよびFireシリーズと比較してみた。OS間で正しい比較ができているとは必ずしも言い難いが(詳細はこちらの記事を参照されたい)、性能を見るに当ってのおおよその目安にはなるだろう。使用環境の都合上、OSのバージョンにばらつきがあるのはご容赦いただきたい。
Nexus 9 | Nexus 7 | Fire HDX 8.9 | iPad Air 2 | iPad Air | |
---|---|---|---|---|---|
Ice Storm score | 25642 | 10545 | 17928 | 21766 | 15048 |
Graphics score | 38540 | 10347 | 19670 | 31638 | 19042 |
Physics score | 11809 | 11300 | 13686 | 10404 | 8677 |
Graphics test 1 | 217.1 FPS | 52.8 FPS | 100.4 FPS | 148.1 FPS | 103.2 FPS |
Graphics test 2 | 136.5 FPS | 39.2 FPS | 74.5 FPS | 128.4 FPS | 69.1 FPS |
Physics test | 37.5 FPS | 35.9 FPS | 43.4 FPS | 33.0 FPS | 27.5 FPS |
OS | Android 5.0 | Android 4.4.4 | Fire OS 4.4.3 | iOS 8.1.1 | iOS 7.0.4 |
4:3の画面は電子書籍の表示に向く。自炊データの閲覧にも最適
続いて、電子書籍端末としての使い勝手に絞って本製品をチェックしていこう。
本製品はAndroid 5.0がプリインストールされているが、特にAndroid 5.0だから新たにこんなことができる、という違いがあるわけではない。むしろ発売直後の段階ではAndroid 5.0への対応の遅れが目立ち、たびたび強制終了したり、ハングアップしたり、また特定のフォーマットにのみ対応できないアプリがいくつもあった(現時点では一部を除きほぼ解消)。メジャーバージョンアップということもあり、Android 4.x系列のマイナーアップデートに比べると、こうした不具合はかなり多かったと言える。
もっとも、現時点ではその多くは問題にならないレベルに改善されているほか、まだ対応が果たせていないアプリについても、ここで突然Androidそのものをサポートしなくなることは、少し考えにくい。対応までにかかる時間の差こそあれ、これからどの電子書籍ストアを利用するか考える段階で、とくに制約となることはないだろう。
むしろ画面の比率が実際の本に近い4:3の本製品は、多くのAndroid端末のように、見開き表示にした際には左右に、単ページ表示にした場合には上下に無駄な余白ができることがないので、電子書籍の閲覧に極めて向いた製品だ。サイズが8.9型で、解像度も俗に言うRetinaクラスなので、雑誌なども(やや小さめではあるが)十分に閲覧に使える。またiOS版の電子書籍アプリと比べた場合、ブラウザでストアを開き直さなくともアプリ内で電子書籍が買えるなど、購入と閲覧がシームレスに行なえるのはメリットの1つだ。
では、本製品で電子書籍を読むにあたってどのストアを利用すれば良いかだが、これはアプリが対応さえしていれば、特に大きな向き不向きはない。ただ、4:3という画面比率を活かすのであれば「ナビゲーションバーを非表示にできるか」はチェックしておいた方がよいというのが、個人的な意見だ。
というのも、各社のビューワの中には、読書時もページが全画面表示にならず、下部にAndroidのナビゲーションバーが表示されたままになるビューワがあり、その場合は必然的に天地サイズが縮小されてしまうからだ。またホームボタンなどは非表示になるものの、ナビゲーションバーの領域は黒く塗りつぶされたままというビューワもある。せっかくの4:3という画面比率を生かせないのは、少々もったいない。
もちろんこれだけのために利用中のストアを乗り替えるのはナンセンスだが、Nexus 9に適した電子書籍ストアをこれから探す段階であれば、チェックしておきたいポイントではある。以下、本稿執筆時点における電子書籍ストア4社の最新ビューワによるスクリーンショットを掲載しておくので、参考にしてほしい。
ちなみに電子書籍関連でもう1つ、本製品の強みを活かせるのが、いわゆる「自炊」用途だ。iOSでも自炊データの閲覧に使えるビューワは存在するが、Androidであれば、「ComittoN」や「Perfect Viewer」のようにNASなどのネットワークフォルダに自炊データを置いたまま閲覧可能なアプリが利用できる。大量の自炊データをその都度呼び出して楽しむという使い方をするならば、柔軟な運用ができる組み合わせとしておすすめしたい。
タブレットとしての「総合力」でおすすめできる製品
Nexus 9という製品自体、あまり際立った特徴のある製品ではない。厚みにせよ重さにせよ、1つ1つの特徴を取り上げれば同等以上の製品は存在するし、IEEE 802.11ac対応も、iPad Air 2が対応した今となってはそれほどエッジが効いた機能ではない。Android 5.0も、既存製品へのバージョンアップ提供が始まった今となっては、そのためだけに本製品を買う必要は、特段なくなったといっていい。
その点で本製品の強みとなるのは、ずばり「総合力」だろう。飛び抜けた何かがあるわけではないが、それぞれが平均点を上回っており、欠点らしい欠点がない。さまざまなタブレットが購入の候補に上がりつつも、絞り込んでいった結果最終的にこれが残った、そうした経緯で選ばれやすい製品だと言える。ほぼ同じタイミングでiPad Air 2が登場したことでインパクトが薄れたが、それがなければもっと注目されていただろう。
電子書籍については、やはり画面比率が4:3であることで、ほかのAndroidタブレットと比べて電子書籍の表示に向いていることは明らかだ。同じ4:3比率のiPadと比べた場合も、iOSと違ってビューワ機能とストア機能がシームレスに連携できること、またネットワーク経由での読み出しに対応した自炊ビューワが利用できるなど、利点は多い。動画再生などでは背面の発熱がやや気になるが、電子書籍用途であれば問題にならないのも、ある意味では電子書籍ビューワ向きの製品と言える。
唯一、電子書籍ストアはほぼKindleストアしか利用せず、またタブレットの汎用的な使い方にあまり興味が無いユーザには、先日リニューアルしたAmazonのタブレット「Fire HDX 8.9」の方がおすすめできる。画面がワイド比率で余白ができやすいことを差し引いても、端末重量が本製品より50gも軽量なほか、バッテリも長寿命、またビューワとストアの親和性も本製品に比べてはるかに上だからだ。
ただし価格は同容量帯でおよそ2,000円差とほんのわずかなので、これらの条件に当てはまらないのであれば、汎用性の高い本製品の方が、差額なりのメリットはあるはずだ。ともあれ、買って損はしない製品というのが、3週間ほど使用した筆者の評価である。電子書籍を含め、プライベートからビジネスまで幅広く、かつ長期にわたって使えるタブレットを探しているユーザーにおすすめしたい。