山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon「Kindle Fire HDX 7」
~大幅な軽量化と高解像度化を果たした新Kindle Fireの上位モデル
(2013/11/18 06:00)
Amazonの「Kindle Fire HDX 7」は、KindleストアやAmazon MP3ストアなど、Amazonが運営するストアで購入したコンテンツを楽しめる7型タブレットだ。すでに発売済みの「Kindle Fire HD 7(以下Fire HD 7)」の上位モデルにあたり、従来の「Kindle Fire HD(以下旧Fire HD)」の後継モデルという位置付けの製品だ。
大画面版の「Kindle Fire HDX 8.9」とともに11月28日に発売が予定されている本製品について、今回は一足先に発売された海外版を用いてレビューする。ハードウェアについては相違はなく、日本語にも対応しているが、国内で発売されるモデルとは若干異なる可能性はあるのでご了承いただきたい。
従来モデルに比べ約100gもの軽量化を実現
まずは従来モデルとの比較から。
Kindle Fire HDX 7 (2013年モデル) | Kindle Fire HD 7 (2013年モデル) | Kindle Fire HD (2012年モデル) | Google Nexus 7(2013) | |
---|---|---|---|---|
Amazon | Amazon | Amazon | ASUS | |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 128×186×9.0mm | 128×191×10.6mm | 137×193×10.3mm | 114×200×8.65mm |
重量 | 約303g | 約345g | 約395g | 約290g |
OS | Fire OS 3.0 | Fire OS 3.0 | 独自(Androidベース) | Android 4.3 |
画面サイズ/解像度 | 7型/1,200×1920ドット(323ppi) | 7型/800×1,280ドット(216ppi) | 7型/800×1,280ドット(216ppi) | 7型/1,200×1,920ドット(323ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n |
内蔵ストレージ | 16GB(ユーザー利用可能領域は10.9GB)、 32GB(ユーザー利用可能領域は25.1GB)、 64GB(ユーザー利用可能領域は53.7GB) | 8GB(ユーザー利用可能領域は4.8GB)、 16GB(ユーザー利用可能領域は11.9GB) | 16GB(ユーザー利用可能領域は12.6GB)、 32GB(ユーザー利用可能領域は26.9GB) | 16GB、32GB |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 11時間(書籍のみの場合17時間) | 10時間 | 11時間 | 約10時間 |
カメラ | 前面 | なし | 前面 | 前面+背面 |
電子書籍ストア | Kindleストア | Kindleストア | Kindleストア | Google Play ブックスなど |
価格(2013年10月18日現在) | 24,800円(16GB) 29,800円(32GB) 33,800円(64GB) | 15,800円(8GB) 17,800円(16GB) | 15,800円(16GB) 19,800円(32GB) | 27,800円(16GB) 33,800円(32GB) |
備考 | LTEモデルも存在 |
前回のFire HD 7のレビューでも触れているように、本製品は旧Fire HDの後継という位置付けの製品である。それゆえ、下位モデルに当たるFire HD 7および旧Fireでは省かれている前面カメラやHDMIを搭載するほか、クアッドコアのCPU、フルHDの液晶画面、さらにWi-FiはMIMOにも対応するなど、全部盛りと言っていい仕様になっている。敢えて足りないものを探すとすれば、本製品の大画面版にあたるKindle Fire HDX 8.9には搭載されている背面カメラがないことくらいだろう。
そんな中で目玉となるのはやはり軽さだ。旧Fire HDの約395gに対して本製品は約303gと、100g近い軽量化を果たしている。同じ7型タブレットであるNexus 7も2013年モデルで軽量化を果たしている(約340g→約290g)が、本製品は従来モデルが重かったとはいえ、それだけインパクトも大きい。Nexus 7を抜きにしても7型タブレットとしては十分に軽量な部類で、かつての「価格は安いがサイズや重量に難あり」というKindle Fireのイメージを完全に払拭していると言っていいだろう。
なおバッテリは、上記の表では11時間となっているが、コミック以外の読書においては、不要なシステムを自動的にシャットダウンすることで最長17時間まで楽しめるモードが搭載されている。このモードは本製品および大画面版のFire HDX 8.9にのみ搭載されており、下位モデルのFire HD 7や従来モデル、また汎用のタブレットと比較した際、強みの1つとなるだろう。
Fire HD 7と似て非なる筐体
複雑な面構成のボディ、電源ボタンや音量調節ボタン、背面のAmazonロゴなどは、発売済みの下位モデル「Fire HD 7」とよく似ており、遠目に見ると同一筐体のように見えるが、実際には全体のサイズや背面スピーカーなどのレイアウトが異なっており、全くの別設計である。
フロント周りにしても前面カメラが追加されており、ボタンなどの細部を除けば、共通の部品はほとんどなさそうだ。本稿では取り扱わないが、純正品として用意されているORIGAMIカバーにしても、同じ7型でありながら、外寸サイズが異なることから、HDXとHDで別のものが用意されているといった具合だ。
また、しばらく使い続けているとその差が顕著に出てくるのだが、本製品の背面は「Fire HD 7」と同じように見えて、明らかに指紋が付きにくい。おそらく滑り止めも含めて特殊な処理が施されているものと考えられる。こうした仕様に現れない隅々にまで手が入っているのも、上位モデルである本製品ならではといったところだ。
セットアップ手順およびインターフェイスはFire HD 7と同等
セットアップ手順については前回レビューしたFire HD 7と共通で、特に難解な手順はなく、また本製品ならではのプロセスもない。新Kindle Fireファミリーが搭載するAndroidベースの独自OS「Fire OS」の仕様に準ずる以上、これは当然だろう。
インターフェイス周りも同様で、ホーム画面ではさまざまなアイテムを左右フリックでスクロール表示できる「スライダー」が中央にあり、ゲーム/アプリ/本/ミュージック/ビデオなどの「コンテンツライブラリ」が上部に並ぶレイアウトを採用している。Fire HD 7で新たに採用された、画面を下から上にスワイプすることで表示されるクイックスイッチ機能や、おやすみモードについても同様だ。
違いといえば、カメラが搭載されていることでFire HD 7になかったカメラアプリがショートカットに追加されていたり、センサーが搭載されたことで明るさの自動調整モードが追加されているといった程度だ。以下、旧Fire HDとの比較という形でスクリーンショットを紹介する。
高解像度化で細部の表現力が向上。細かい文字などで顕著
本や音楽といった各コンテンツについては、全体的にデザインがシンプルになり、画面のファーストビューになるべく多くの情報を詰め込もうとしているといった変化はあるものの、操作方法ががらりと変わってしまうような極端な違いはない。Fire HD 7との比較で言うと、例えば10文字表示されていたところに11文字表示されているといった細かい違いはあるが、基本的には同一である。
もっとも本製品は画面解像度が1,920×1,200ドット(323ppi)ということで、1,280×800ドット(216ppi)のFire HD 7および旧Fire HDに比べると、細部の表現力は圧倒的に向上している。iPhone/iPadのRetinaモデルと非Retinaモデルほどの差はないが、本製品にいったん慣れてしまうと、旧Fire HDには戻れなくなるという意味では近いものがある。以下、画面の拡大写真でご確認いただきたい。
ベンチマーク上はNexus 7をも凌駕
基本的にできることは下位モデルのFire HD 7と同一ということで、パフォーマンスについてチェックしておこう。
本製品はプロセッサにSnapdragon 800(2.2GHz、クアッドコア)を採用しており、OMAP4470(1.5GHz、デュアルコア)のFire HD 7や、OMAP4460(1.2GHz、デュアルコア)の旧Fire HDに比べると、パフォーマンスの強化が著しい。ベンチマークソフト「Quadrant Professional Ver.2.1.1」による比較は以下の通りで、桁違いとも言える数値を叩き出している。RAMが2GB(前述の2モデルはいずれも1GB)というのも大きく影響しているようだ。
製品名 | 発売年 | Total | CPU | Memory | I/O | 2D | 3D |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Kindle Fire HDX 7 | 2013年モデル | 20311 | 75189 | 17072 | 6694 | 330 | 2271 |
Kindle Fire HD 7 | 2013年モデル | 3186 | 7154 | 3753 | 2345 | 254 | 2424 |
Kindle Fire HD | 2012年モデル | 2222 | 5749 | 1899 | 1765 | 280 | 1419 |
Kindle Fire | 2012年モデル | 2032 | 4732 | 1979 | 937 | 391 | 2123 |
Nexus 7 | 2013年モデル | 5209 | 13498 | 8066 | 2150 | 245 | 2088 |
単体のベンチマークアプリによる簡易テストであることは差し引いていただく必要はあるが、下位モデルのFire HD 7を上回っているのは当然としても、参考値として並べているNexus 7(2013)すら凌駕しているのは驚きである。余談だが、旧Fireの後継である下位モデルのFire HD 7も、2D性能を除けば旧Fire HD以上のパフォーマンスであることも分かって興味深い。
もっとも、(当然といえばそうだが)電子書籍ビューアとして使っている限りでは、こうした違いは感じにくい。また動画再生においても、筆者がサンプルで使っているフルHD動画は、下位モデルのFire HD 7でも十分滑らかに動いてしまうので、本製品が突出してスピーディとか滑らかに感じられるかというと、そうしたこともない。
そうした意味では、本製品のポテンシャルを最大限に発揮しうるのは、動画よりも負荷のかかる一部のゲームということになるだろう。また今回は未検証だが、本製品にはMiracast対応のディスプレイに画面を伝送できる機能が搭載されているので、デュアルアンテナかつデュアルバンドのWi-Fiと併せて、そちらを快適に使う場合にも貢献しうるはずだ。逆に、こうした点に積極的に魅力を感じないのであれば、下位モデルのFire HD 7でも十分、という判断になるかもしれない。
軽量化のメリットは大も、画面端にみられる青帯に注意
本稿執筆時点で約2週間試用してるが、旧Fire HDより100g近く軽いこともあり、ハンドリングの快適さが全く違う。旧Fire HDでは手に持って読書しているうちに疲れてしまい、読むこと自体をやめざるを得ない場合があったが、本製品ではそこまでの負担は感じない。Kindle Paperwhite並み、と言うとさすがオーバーだが、感覚的には旧Fire HDよりもE Ink端末に近い。
また、下位モデルのFire HD 7では、スピーカーが本体を手で持った際に指先で隠れてしまう位置にあるのだが、本製品ではスピーカーが画面の上部寄りにレイアウトされており、どのような持ち方をしてもまず指先で塞がれることがなく、それゆえ画面に没頭できる。また下位モデルのFire HD 7では長時間使っているとロゴ上部が熱を持つという問題があったが、本製品ではそうした問題もないようだ。動画やゲームを中心に楽しむユーザーにとっては、大きなメリットだろう。
1つ気になるのは、画面の端に青帯がみられることだ。具体的には、白いページなどを表示した際に、画面の端に青色のグラデーションがかかって見える。昨年発売されたKindle Paperwhiteの初代モデルで、E Ink画面の下ににじみが見られるという現象があったが、症状としてはこれに近く、画面の輝度にかかわらず発生する(画面の短辺よりも長辺がこの傾向が顕著)。米Amazon.comのカスタマーレビューを見ても、同様の指摘がいくつか見られるので、個体の問題ではないようだ。
この件に関しては製品ページに注釈があり「白色LEDではなく青色LEDを採用」したことが原因であり「忠実な色彩を再現するため」の措置であると説明されている。が、技術的にどうかはさておき、背景色が基本的に白である電子書籍では、かなり気になるのは事実だ。特に本製品を縦向きにして電子書籍を読む場合、横書きの英文だと上から下に目を走らせるので画面長辺にみられるこの青帯はあまり気にならないのだが、縦書きの日本語コンテンツでは右から左に向かって視線を走らせるため、どうしても青帯が目に入りやすい。
なお、下位モデルのFire HD 7ではこの青帯は発生しない。横に並べるとはっきりするのだが、両者はディスプレイの色温度も全く異なっており、解像度も違うことからして、液晶パネルが全く別物のようだ(ちなみにFire HD 7と旧Fire HDは、見比べた限りでは液晶パネルの特性は近いように感じられる)。部材の特性である以上、ファームアップで解消される可能性は低いと推測されるので、気になる人は取扱店店頭のデモ機で購入前にチェックすることをおすすめする。
競合はKindle Fire HDX 8.9?
ざっと見てきたが、為替レートの関係で従来モデルよりも価格が上がっているとはいえ、同じ16GBモデルで比較すると、本製品が24,800円、Nexus 7が27,800円。32GBモデルだと本製品が29,800円、Nexus 7が33,800円。先に述べたようにハードのスペック面では本製品のほうが優位だが、これはあくまでベンチマーク上の話で、そもそも製品の位置付けが全く違う。むしろこの程度の価格差なら、汎用性を重視してNexus 7を取るか、KindleなどAmazonのコンテンツとの親和性を優先して本製品を取るか、といった話になるだろう。
ちなみに発売になったばかりのiPad mini Retinaは、16GBが41,900円、32GBが51,800円で、価格だけを見るとかなりの差があるが、こちらも製品の位置付けからして本製品との2択という状況にはなりにくい。先のNexus 7や、本製品の下位モデルであるFire HD 7も含めて、用途や予算を考慮して見極めるべきだろう。16GBで31,800円の非Retinaモデルという選択肢もある。
一方、旧Fire HDから買い替える価値があるかどうかについては、動画やゲームなどでハードウェアの性能不足を嘆いていた人には間違いなくおすすめできるが、そうでない人にとっては機能ではなく画面の美しさや軽さにどれだけ投資できるかという話なので、人によって判断が大きく変わってくるはずだ。先に述べた画面端の青帯が許容できるかどうかもポイントになるだろう。ちなみに下位モデルのFire HD 7は16GBで17,800円とコストパフォーマンスは悪くないが、ハードの仕様としては旧Fire HDと同等である上、カメラがないといった要因もあり、新規に買う場合はおすすめできるにせよ、旧Fire HDからの買い替えの対象にはなりにくい。
むしろ、本製品にとって一番強敵となる競合製品は、ほかならぬ本製品の大画面版、「Kindle Fire HDX 8.9」だろう。8.9型の大画面でありながら本製品と約70gしか変わらない374gということで、少しでも大きな画面サイズを求めるのであればこちらも選択肢に入ってくる(価格は1.5万円高くなるのが唯一の悩みどころだろう)。次回はこのKindle Fire HDX 8.9について詳しくお届けしたい。