山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
「Surface Go 2」は電子書籍ユースで使えるか
~Windowsタブレットで電子書籍を読むための最適解を検証
2020年8月31日 06:50
いま電子書籍を読むためにタブレットを選ぶとなると、真っ先に候補に上がるのは何と言っても「iPad」だろう。これまで対抗勢力だったAndroidタブレットは、近頃は新製品も激減しており、また製品によってはGoogle Playストア非対応の場合もある。むしろAmazonの「Fire」タブレットのほうが、Kindleにしか対応しないとはいえ、存在感があるくらいだ。
もっとも、電子書籍ユース以外の汎用性も考慮するのであれば、ほかにも候補はある。その筆頭が日本マイクロソフトの「Surface」シリーズだ。一般的には別売のタイプカバーを接続した2in1 PCデバイスとして扱われることが多いが、ピュアなタブレットとしても利用できる。
ふだんWindowsを利用しているユーザーであれば、サブPCとしても重宝するSurfaceを、タブレット購入にあたり最有力候補に挙げる人も多いはずだ。今回、そのSurfaceシリーズの中でエントリーモデルに当たる「Surface Go 2」を購入したので、電子書籍ユースでの実力をチェックしていく。
横向きを基準としたデザイン。重量はやや重め
まずは基本的なスペックを確認しておこう。画面サイズは10.5型で、アスペクト比は3:2と、Androidタブレットに多いワイド比率よりも、iPadのアスペクト比である4:3に近い。1,920×1,280ドット(220ppi)ということで、iPad/iPad Airの264ppiよりは低いが、200ppiの大台はなんとかクリアしている。
背面にはキックスタンドが付属しており、デスク上に立てた状態で本を閲覧できるほか、手に持つ場合の支えにもなる。ただし取り外しはできず、そのせいもあって重量は544gと、iPad Airに比べると100g近く重い。それゆえ両手持ちであっても長時間キープするのはつらい。キックスタンドのぶん厚みがあるのも要注意だろう。
今回の「Surface Go 2」が従来モデルの「Surface Go」と異なる点として、画面の大型化、バッテリの長寿命化に加え、USB Type-C端子を搭載し、USB PDによる急速充電にも対応したことが挙げられる。従来と同じマグネット脱着式のSurface Connectも搭載しているが、充電環境を他デバイスと統一するために、USB PDに1本化するのもありだろう。
USBポートはこのUSB Type-C×1のみということで、拡張性には乏しい。通常のノートPCスタイルで使う場合は、USB Type-C接続のハブを導入するなどして、USB Type-Aの周辺機器を接続できるようにしておいたほうがよいだろう。今回検証する電子書籍ユースであれば、基本的にそのままで問題ないはずだ。
セキュリティはWindows Helloによる顔認証に対応している。同じく顔認証に対応したiPad Proでは、本体を横向きにするとカメラが画面左側に来て手で覆ってしまいがちだが、本製品は横向きにした状態でカメラが上部にあるため、そうした問題はない。
ややわかりにくいラインナップ。電子書籍ユースではタブレットモードを利用
本製品にはCPUがPentium GoldとCore m3のモデルがあり、メモリやSSDの容量が異なるほか、最上位モデルのみLTEに対応する。さらに法人向けモデルもあり、こちらはWindows HomeではなくWindows 10 Proがプリインストールされる。メーカーの製品ページの説明は非常にわかりづらく、初見ユーザー殺しのラインナップだ。
ひとまず言えるのは、個人向けモデルは共通してWindows 10 Homeがインストールされており、また初期状態では、Windowsストアのアプリのみ利用できるSモードに設定されているということだ。
そのため多くの場合、セットアップ完了後にまずこのSモードを解除するのが、最初の作業ということになる。その上で、今回のようにタイプカバーを装着せずにタブレットとして利用するならば、タッチ操作に適したタブレットモードに切り替えて使用することになる。
タッチに最適化した電子書籍ストアアプリはほとんど存在しない
さて電子書籍の表示について。表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」を用いている。
冒頭にも述べたように本製品はiPad/iPad Airと同等の10.5型、かつ1,920×1,280ドット(220ppi)ゆえ、クオリティ面で支障はない。本音を言えば解像度はもう少し欲しいが、少なくとも前回紹介したFire HD 8 Plus(189ppi)よりはずっとマシだ。
またアスペクト比が3:2ということで、画面が横に長いAndroidタブレットに比べると余白が生じにくいことが挙げられる。厳密には左右にわずかに余白ができるのだが、気になるレベルではない。視野角などについても問題はなく、表示面において問題は感じない。
むしろ問題はアプリだ。Windowsタブレット向けにMicrosoft Storeでアプリを用意している電子書籍ストアは「紀伊国屋書店Kinoppy」くらいで、その他のストアがホームページ上で「Windows用」として配布しているアプリは、マウス操作を前提に設計されたデスクトップ向けソフトばかりだ。タッチでの操作は不可能ではないが、これを「対応」とするのは抵抗がある。
こうしたことから、これら電子書籍ストアのコンテンツを本製品で読むには、紀伊国屋書店Kinoppy以外は、現時点ではEdgeやChromeなどのブラウザを用いた、ブラウザビューアでの表示が最適解になる。今回試した主要電子書籍ストア(後述)の中で、楽天Kobo以外はすべてブラウザビューアに対応している。
ブラウザビューアも問題は山積み
もっともネックはいくつかある。1つは基本的にコミックがメインで、テキストを表示できなかったり、またできても表示が不完全な場合があることだ。
たとえばKindleやBookLive!は、ブラウザビューアで読めるのはコミックのみでテキストは非対応、またebookjapanはテキストの文字組みや行間・余白の違和感が大きく、常用にはつらい印象だ。前述の紀伊國屋書店KinoppyのWindows並に使えるブラウザビューアは、今回試した中ではBOOK☆WALKERくらいだ。
またコミックも、ライブラリと本を行ったり来たりしているうちは問題ないが、起動後に全画面表示に切り替える操作が必要だったりとiPadやAndroidタブレットにない手間がかかる。またブラウザビューアということもあり、長押しすると表示されるのは専用メニューではなくブラウザ固有のコンテクストメニューだったりと、期待していた操作ができずにストレスがたまることもしばしばだ。
操作性にも問題がある。ページめくり時、スワイプの開始地点が画面の端にかかると、ページがめくられずにアクションセンターが表示されたり、アプリ切替の画面が表示されたりする。いずれもWindows 10のタッチ操作におけるデフォルトの操作だが、iOS/Androidタブレットと同じ感覚でページをめくると、誤ってこの操作をしがちだ。ページめくりはスワイプではなく極力タップを使ったほうが、ストレスにならないだろう。
上記のストア別の動作状況をざっとまとめたのが以下の表で、かなり癖があることがわかる。今回はチェックしたのは本を開いてページめくりができるかどうか(テキストは文字サイズ/行間/余白調整の可否)のみだが、まだまだ細かいところでは制限もありそうだ。
ブラウザビューアをなるべく使いやすくするTipsとは
ではブラウザビューアをなるべく使いやすくするためには、どうすればよいだろうか。ひとつは各電子書籍ストアへのURLショートカットを、タブレットモードにおけるホーム画面、すなわちスタートメニューに表示しておくことだ。こうすれば起動が容易になるほか、画面切り替えの面倒さを軽減できる。
具体的な手順としては、各電子書籍ストアのブラウザビューアをEdgeで表示した状態で、「…」アイコンをタップして「アプリ」→「このサイトをアプリとしてインストール」を選択。するとこのURLショートカットがアプリとしてスタートメニューに表示されるようになるので、長押しして「スタートにピン留めする」をタップする。
これにより、各電子書籍ストアのアイコンが、スタートメニューに表示されるようになる。ブラウザビューアのトップページ以外にも、ライブラリやストアなど、固有のURLさえあればなんでも登録できるので、アクセス性が格段に向上する。とくに複数のストアを使い分けている場合は必須だろう。
もう1つ、画面の回転や夜間モードへの切替など、読書中によく使う機能は、アクションセンターから呼び出せるようにしておくことだ。初期設定ではアイコンが隠れてしまっている場合があるので、事前にざっと確認しておくとよい。
これだけやると、操作性はiOSやAndroidタブレットにかなり近づき、そこそこ実用的になる。またタスクバーの設定で「タブレットモードでタスクバーを自動的に隠す」をオンにしておき、天地をなるべく広く使えるようにしておくのも重要だ。
差別化ポイントになりうるキックスタンド
以上のように、電子書籍を読めるか読めないかという問いに対しては「読める」という回答になるのだが、快適かと言われるとかなり微妙だ。ここまで見てきた操作性を中心とした問題以外にも、スリープモードからの復帰に時間がかかるといったWindowsタブレット自体の弱点も、あらかじめ織り込んでおく必要がある。
こうしたことから、電子書籍ユースをメインにこれからタブレットを購入するという段階であれば、積極的にお勧めしづらい。すでに手元にあるSurfaceを使って電子書籍を楽しみたいのであれば、まずは前述の紀伊國屋書店Kinoppyを、それが難しければブラウザビューアでも対応の幅が広いBOOK☆WALKERを第一候補にストアを選ぶことをおすすめする。
ただし本製品ならではの利点もある。それは背面のキックスタンドを用い、自由な置き方ができることだ。タブレットでの読書時は、常時手に持って宙に浮かせたまま本を読むだけでなく、ソファにもたれて本体を膝の上に置いたり、あるいはベッドに寝転がって胸の上に置くような姿勢をとることもある。
こうした場合にキックスタンドを用い、手を離しても読書に適切な画面の角度をキープできるのは、ほかのタブレットにはない長所だ。縦向きには対応しないとは言え、紙の本を読む時に読書スタンドを使う人は、便利に感じることもあるはずだ。また今回は未検証だが、microSDが使えることを魅力に感じる自炊ユーザーもいるかもしれない。
最後に価格だが、グレードによって大きく異なり、上位のCore m3/メモリ8GB、LTE対応のモデルになると10万円前後まで跳ね上がるが、Pentium Gold/メモリ4GBの下位モデルになると、6万円台から入手が可能だ。Windowsタブレットであることにこだわりつつ、電子書籍以外で使う目的が軽めの作業ということであれば、これらローエンドモデルも選択肢に入ってくるだろう。