Hothotレビュー

タブレットとしても利用可能、世界初の折りたたみ式PC「ThinkPad X1 Fold」

~そして気になるLakefieldの性能は

「ThinkPad X1 Fold」。本体色はブラックのみ

 レノボ・ジャパンから、画面を折りたためるフォルダブルPC「ThinkPad X1 Fold」が登場した。同社では「世界初の画面折りたたみ式PC」と銘打っており、13.3型のOLEDディスプレイを半分に折りたたみ、手帳のように持ち歩けることが大きな特徴だ。

 背面のキックスタンドで自立させ、付属のキーボードと組み合わせてノートPCとして使えるほか、本体上にキーボードを重ね、画面の半分だけを用いた手帳サイズのミニノートとしても利用できる。さらにタブレットライクに読書を楽しめたりと、折りたたみの機構を生かしたさまざまな使い方が可能だ。

 直販モデルはカスタマイズが可能だが、基本的にはOSとストレージ、5Gの対応の有無、さらには保証期間の違いのみで、プロセッサはCore i5-L16G7、メモリは8GBでいずれも固定、ディスプレイの仕様も共通だ。今回編集部から届いたモデルは、Windows 10 Pro 64bit、ストレージは512GB SSD、Wi-Fiのみ(5Gなし)という仕様だった。

13.3型ながら折りたたむとシステム手帳並みのコンパクトさ

 本製品は従来のノートパソコンやタブレットといった枠に収まらない新機軸の製品だが、マットブラックの筐体、さらに赤のアクセントカラーを採用し、ThinkPad Xシリーズの名を冠している。背面にもThinkPad X1シリーズのロゴがあしらわれている。

 ディスプレイは13.3型のOLED(2,048×1,536ドット)で、外見はタブレットのようだ。しかしながら、Core i5(Lakefield)、メモリ8GBを搭載し、OSにもWindows 10を採用した、純然たるWindowsパソコンだ。BTOでは5Gモデムも選択できる。

13.3型のOLEDディスプレイはフレキシブルタイプで、中央から曲げて折りたためるのが最大の特徴だ。この写真のように途中で止めた状態でのキープも可能
アスペクト比は4:3で、縦方向に長いのが特徴
背面。100%本革のレザーフォリオと一体化している
右上にはThinkPad X1シリーズのロゴがある

 筐体はカーボンファイバー製で剛性は高く、ひ弱なイメージはまったくない。背面は100%本革のレザーフォリオと一体化しており、高級感もある。この背面には最大85度まで開くキックスタンドも搭載しており、立てて利用することが可能だ。

 本体サイズは約299.4×236×11.5mm(幅×奥行き×高さ)と、フットプリントはA4サイズより一回り大きい。近い製品としては12.9インチiPad Proが挙げられるが、前述のようにカバーとキックスタンドが一体化していることもあり、厚みはややある。

上面
底面。USB Type-Cポートがある
左側面。USB Type-Cポートと、Nano SIMカードトレイ(5Gモデルのみ利用可能)がある
右側面。電源ボタン、音量調整ボタンがある
背面には最大85度まで開くキックスタンドが折りたたまれている
キックスタンドで自立させた状態。画面が横向きの場合のみ利用できる

 一方、折りたたんだ時のサイズは約158.2×236×27.8mmと、システム手帳並みのコンパクトさだ。折りたたんだことで軽くなるわけではもちろんないのだが、このサイズならば、パソコン用でない小さなバッグにも余裕で入る。

 重量は、本体が公称約973g(実測963g)、キーボードが178gと、PCとして見れば軽量だが、タブレットとして両手で持って使うことを考えるとややヘビー級だ。使い方によって評価は大きく変わりそうだ。同梱のキーボードとアクティブペン、およびACアダプタを持ち歩く場合は、さらにプラスアルファの重量が加算される。

2つ折りにした状態。片手で持てるサイズだ
革製のカバーもあいまってシステム手帳のようだ
正面。革製カバーによって上下からサンドイッチされているのが分かる
後面。革製カバーで覆われている
左側面。画面の間にある隙間は、キーボードを挟むことで埋められる(後述)
右側面
同梱品一覧。本体のほかキーボードとペン、USB Type-Cポートに接続する充電器が付属する
重量は実測963gと、PCにしては軽く、タブレットとしてはやや重い
キーボード+ペンは実測192g
ACアダプタ+ケーブルは実測264g

 本体にはUSB Type-Cポート(USB Type-C 3.1 Gen 2対応)が2基搭載されており、付属の65Wアダプタを用いて充電が行なえる。このUSB Type-Cポートは、筐体側面の長辺側と短辺側、それぞれに1基ずつ搭載されているので、利用スタイルに合わせて都合のよい側に挿すことができる。

 カメラは前面カメラのみで、背面カメラは非搭載だ。Web会議やビデオチャットは問題なくこなせるが、タブレットのような写真撮影は不可能だ。またこのカメラは、最近のThinkPadシリーズでお馴染みの、物理的に覆う保護カバーが用意されていないので、ウェブ会議やビデオチャットのあとは、確実にカメラ機能をオフにする必要がある。

USB Type-Cポートは、長辺側と短辺側に分散して配置されているので、利用スタイルによって一方がふさがっていてももう一方を使って充電できる
カメラは前面カメラのみで、ヒンジ部のすぐ隣りにある。物理カバーは備えない

フレキシブルな有機ELパネル採用ながらほぼ完全にフラット

 折りたたみのギミック、および画面について詳しく見ていこう。

 本製品はフレキシブルなパネルを採用しており、継ぎ目がない状態で、半分に折り曲げることができる。スマホでは「Galaxy Fold」という先行事例があるが、そちらは伸ばした状態でも中央に一定のくぼみがあったのに対し、本製品のそれはほぼ完全にフラットで、使用中も気にならない。知らない人に見せたらびっくりするであろうレベルだ。

 ヒンジの部分は無段階でスムーズに開閉できる。自重だけで広がったり閉じたりすることもなく、また固すぎて開閉しにくいといったこともない。適切にチューニングされている印象だ。画面をわずかに折り曲げて本のように持つ使い方(ブック・モード)にも対応する。

 ベゼルのヒンジ部分は、シリコン製とおぼしき柔らかい素材で覆われている。実はこの柔らかい素材はヒンジ部に限らず、ベゼル全体を覆っており、外見上の一体感を醸し出している。滑り止めの効果もあるほか、手の脂がほとんどつかないのも好印象だが、素材の特性上、ホコリはやや付着しやすい。

2つ折りにしてたたむことができる。可動は極めてスムーズだ
ヒンジ部はベゼルごと軟質樹脂で覆われている。硬質な樹脂でないことは、外観からはほとんどわからない
便宜上「折りたたむ」と表現しているが、完全に「く」の字でピシッと2つ折りになるわけではなく、中央部分に約1cmほどの幅があり、そこをたわませる形で折り曲げている

 ベゼルの幅は、横14mm、縦17mmと、現行の狭額縁ノートと比べると幅がある。もっともタブレットのように手で持って使う場合、指をかけられる幅が適度にあったほうが使い勝手がよく、そうした意味では実用性に振った仕様だと言える。

ベゼル幅は横が14mm。やや広めだが、タブレットとして両手で持つならばむしろ使いやすい
縦は17mm。こちらはもう少しスリムでもよさそうだ
ランドスケープモードで持った状態。一定のベゼル幅があるので保持しやすい

 画面について特筆すべきなのは、アスペクト比が4:3と、ノートPCの多くを占めるワイド画面よりも縦方向に長いことだ。オフィスソフトを利用する場合など、天井方向に画面が広く使えるのはメリットだ。

 試用していて気になったのは、画面の光沢がきついことだ。ThinkPad Xシリーズの多くは非光沢仕様であるため、多少なりとも違和感はある。折りたたみが可能な本製品はそれだけ画面がさまざまな方向を向くため、映り込みを目にしやすいのも理由の1つだ。タッチ操作で指紋が付きやすいことと合わせて、神経質な人は気になるかもしれない。

キーボードを合体させてミニノートとしても利用可能

 さて、画面を折り曲げられるギミックは、可搬性を高めるだけでなく、幅広い利用スタイルを可能にしている。

 画面を折り曲げる操作をすると、専用ユーティリティ「Lenovoモードスイッチャー」が自動的に起動する。これは画面をひとつの大画面として使うか、それとも分割された2つの画面として使うかを選択するためのものだ。後者の場合は、オフィスソフトを並べて表示したり、ブラウザを見ながらメールを書くなど、さまざまな使い方ができる。

専用ユーティリティ「Lenovoモードスイッチャー」。画面を折り曲げる操作によって自動的に表示される
左右に分割表示した状態。天地サイズが必要なアプリを並べて表示するのに便利だ
本体を縦置きにして、上下に分割表示してアプリを並べることもできる

 また、付属のBluetoothキーボード(Lenovo Bluetooth Mini Foldキーボード)を本体の画面上に直接載せ、残る半分の画面と組み合わせて、ミニノート風に使えるモード(ミニ・クラムシェル・モード)も用意されている。

 キーボードを画面に載せた段階で隠された部分は無効化され、残る画面領域だけを使って作業が行なえるよう、起動中のアプリやタスクバーが再配置される。動画も併せて見てほしい。

【動画】フラットに開いたランドスケープモードから、半分に折り曲げてミニ・クラムシェル・モードへと切り替え、キーボードを載せた時の挙動。タスクバーとウィンドウが画面の上半分に移動するのがわかる

 実際のところ、ハードウェアキーボードではなく画面の下半分にソフトウェアキーボードを表示してお茶を濁す選択肢もあったはずだが、敢えて実用性の高いハードウェアキーボードを使えるギミックを搭載してきたのは、ユーザとしてはありがたい。ちなみに本体の電池残量が50%以上あれば、載せた状態でキーボードへのワイヤレス充電も行なえる。

Lenovo Bluetooth Mini Foldキーボード。側面にはペンホルダーも用意されている
本体は超薄型だが、一定の打鍵感はある。トラックポイントは残念ながら搭載しない
曲げて角度をつけた本体の上にキーボードを乗せる。マグネットで本体に吸着する
隠れた部分の画面が無効化され、タスクバーやアプリが画面の上半分に再配置される
ミニ・クラムシェル・モードの完成
横から見たところ。ノートPCとして何ら違和感のない外見で驚かされる
キーボードを打鍵中。一部キーは省かれているものの、そのせいでキーピッチには余裕がある

 面白いのは、このキーボードを挟んだまま本体を閉じると、折りたたんだ時に生じる画面の隙間がぴったりと埋まることだ。世界初の折りたたみスマホである「Galaxy Fold」を見てもわかるように、フレキシブルディスプレイを折り曲げると、ノドの部分にどうしても隙間ができてしまい、たたんだ両面が平行にならない。

 本製品もそれは同様なのだが、付属のキーボードを挟むことで、この隙間部分が完全に消失し、天板と底面が平行になる。着脱式キーボードを、スキマをうめる緩衝材として使うこのアイデアは秀逸だ。キーボードが不要な時は取り外して持ち歩けるので、無駄に重くなることもない。

キーボードを載せた状態でそのまま閉じることができる
キーボードを挟むことで、横から見た時に目立っていたヒンジ部分の隙間が完全に埋まり、天板と底面が平行になる

 キーボード(Lenovo Bluetooth Mini Foldキーボード)についてもチェックしておこう。このキーボード、かなの印字こそないものの、日本語JIS配列を採用しており、Enterキーの形状も日本語キーボードのそれだ。ただし一般的な日本語106キーボードではアルファベットの「P」とEnterキーの間に2つあるはずの記号キーが省略されるなど、キー数は削減されている。キーピッチ優先で、代わりにこれらのキーを省いた格好だ。

 そのため、このサイズのキーボードとしては、余裕のあるキーサイズとキーピッチを実現しているものの、記号類の入力はかなり癖がある。文章の装飾はほどほどに、手早くメモを取ったり下書きを書く用途では重宝しそうだが、据え置きで使う場合はあまりこだわらず、別のキーボードを組み合わせたほうが、作業効率は上がるだろう。

キーは日本語JIS配列だが、一部のキーが省略されているため、キー数は73にとどまる
「P」とEnterキーの間にあるべきキーが省かれ、役割が「O」「P」に吸収されている。下段もおおむね同様だ
キーを一部省略していることもあってか、キーピッチは19mmとフルキーボード並。6列なのもポイントだろう
タッチパッドは幅64mm
縦は32mm。決して広いわけではないが、操作性は良好だ
筆者私物のThinkPad USBキーボード(すでに廃番)をアダプタ経由で接続した状態。見るからにThinkPadらしいルックスになる
PFU「HHKB Professional HYBRID Type-S」を置いた状態。幅はぴったりだ
付属のLenovo Bluetooth Mini Foldキーボードは本体の上に載せずに使うこともできる
本体を縦置きにして使うことも可能。ただしキックスタンドは縦置きには非対応なので、スタンドは別途調達する必要がある
付属のペン。後部のキャップを抜き、USB Type-Cケーブルで充電して使用する
Windows Inkで手書きを行なっている状態

Lakefieldゆえ? ベンチマークのスコアはやや低め

 ではベンチマークテストの結果を紹介しよう。今回利用したベンチマークソフトは、ULの「PCMark 10 v2.1.2177.0」、「3DMark Professional Edition v2.5.0.0」、Maxonの「CINEBENCH R20.060」の3つだ。比較として同じレノボの「ThinkPad X1 Carbon(2019)」、およびWindows 10タブレットである「Surface Go 2」の結果も加えてある。

ThinkPad X1 FoldThinkPad X1 CarbonSurface Go 2 LTE Advanced
CPUCore i5-L16G7(1.4GB, 4MB)Core i7-8565UCore m3-8100Y
ビデオチップIntel UHD GraphicsIntel UHD Graphics 620Intel UHD Graphics 615
メモリ8GB LPDDR4X 4266MHz16GB LPDDR3 2133MHz8GB
ストレージ512GB SSD(NVMe/PCIe)256GB SSD(NVMe/PCIe)128GB SSD
OSWindows 10 Pro 64bitWindows 10 Pro 64bitWindows 10 Pro 64bit
PCMark 10 v2.1.2177
PCMark 10 Score1,9373,8102,736
Essentials4,9127,9936,450
App Start-up Score4,8839,5547,945
Video Conferencing Score4,6436,9515,882
Web Browsing Score5,2297,6915,744
Productivity2,2876,3764,828
Spreadsheets Score2,5357,0405,525
Writing Score2,0645,7754,220
Digital Content Creation1,7572,9471,786
Photo Editing Score2,6673,6592,268
Rendering and Visualization Score1,0061,9281,021
Video Editting Score2,0223,6292,461
PCMark 10 Modern Office Battery Life6時間16分5時間53分6時間28分
Performance351566903749
CINEBENCH R20.060
CPU6691,380未計測
CPU (Single Core)204388未計測
3DMark Professional Edition
Night Raid4,0614,8673,043
Graphics Score5,1634,8673,376
CPU Score1,8394,8731,952
Sky Diver4,2183,9312,575
Graphics Score4,1423,5522,487
Physics Score4,3297,8913,344
Combined score4,6904,1372,387
Time Spy450396275
Graphics Score401344243
CPU Score1,5222,9351,154
Fire Strike12151079732
Graphics Score13111138799
Physics Score459394613466
Combined score459398261
Fire Strike Extreme612509未計測
Graphics Score626509未計測
Physics Score45859324未計測
Combined score249211未計測
Fire Strike Ultra325288未計測
Graphics Score316279未計測
Physics Score45839240未計測
Combined score151131未計測

 本製品に搭載されるCore i5は、低消費電力が特徴のLakefieldで、CoreとAtomを組み合わせた5コアという変則的なCPUだ。本製品のような小型PCにはもってこいだが、今回の比較対象である2019年モデルのThinkPad X1 Carbonに搭載される第8世代のCore i7と比べるとベンチマークにおいてはやや分が悪い。

 さらにメモリは8GBということで、16GBを搭載する比較対象とはどうしても差が出てしまう。本製品は直販モデルでもメモリは8GB固定で増やせないので、この点は注意すべきだろう。ただし3DMarkでは、ハードウェアの差が出やすいCPU ScoreやPhysics Scoreは別にして、全体的に善戦している。

 もう一方の比較対象であるSurface Go 2は、ラインナップの中で最上位の、Amber Lake YのCore m3搭載モデルということで、今回のベンチでも一部では本製品より上のスコアが出ている。トータルでは本製品のほうがイーブンかやや上だが、これらを見る限り、PCにカテゴライズされる製品とはいえ、ややタブレット寄りの印象を受ける。

既存のノートPCやタブレットにはないワクワク感

 さまざまな新機軸の機能を組み込んだ本製品は、キーボードやペンも同梱されたパッケージとなっており、それゆえ価格は30万円台(直販モデルで税込327,426円~)とかなりのものだ。今回の評価機のWindows 10 Pro 64bit、512GB SSDという構成だと、eクーポン適用時で税込361,680円とさらに高くなる。

 もっともこのクラスのノートパソコンで20万円台はありえる価格で、そこにタブレットとして使える付加価値をつけた製品と考えれば、そう違和感はない。ノートパソコンとタブレット、買い替えのサイクルがちょうど一致する時期ならば、じゅうぶん射程圏に入ってくる製品だろう。なにより使っていて感じるワクワク感は、既存のノートパソコンやタブレットにはないものだ。

 製品が個人向けなのか法人向けなのか、ターゲットがやや分かりにくいのも、テレワークの浸透などでワークスタイルが個人寄りになっている昨今、トレンドに合致していると言える。あらゆるシーンにフィットするオールインワンのデバイスを探している人であれば、ひときわ高い満足感を得られるであろう1台だ。

フレキシブルディスプレイでもっとも訴求力が高いのは、紙の本と同様のスタイルで楽しめる電子書籍かもしれない。こちらは追って別のレビューで詳しく紹介する