Hothotレビュー
タブレットとしても利用可能、世界初の折りたたみ式PC「ThinkPad X1 Fold」
~そして気になるLakefieldの性能は
2020年11月21日 09:50
レノボ・ジャパンから、画面を折りたためるフォルダブルPC「ThinkPad X1 Fold」が登場した。同社では「世界初の画面折りたたみ式PC」と銘打っており、13.3型のOLEDディスプレイを半分に折りたたみ、手帳のように持ち歩けることが大きな特徴だ。
背面のキックスタンドで自立させ、付属のキーボードと組み合わせてノートPCとして使えるほか、本体上にキーボードを重ね、画面の半分だけを用いた手帳サイズのミニノートとしても利用できる。さらにタブレットライクに読書を楽しめたりと、折りたたみの機構を生かしたさまざまな使い方が可能だ。
直販モデルはカスタマイズが可能だが、基本的にはOSとストレージ、5Gの対応の有無、さらには保証期間の違いのみで、プロセッサはCore i5-L16G7、メモリは8GBでいずれも固定、ディスプレイの仕様も共通だ。今回編集部から届いたモデルは、Windows 10 Pro 64bit、ストレージは512GB SSD、Wi-Fiのみ(5Gなし)という仕様だった。
13.3型ながら折りたたむとシステム手帳並みのコンパクトさ
本製品は従来のノートパソコンやタブレットといった枠に収まらない新機軸の製品だが、マットブラックの筐体、さらに赤のアクセントカラーを採用し、ThinkPad Xシリーズの名を冠している。背面にもThinkPad X1シリーズのロゴがあしらわれている。
ディスプレイは13.3型のOLED(2,048×1,536ドット)で、外見はタブレットのようだ。しかしながら、Core i5(Lakefield)、メモリ8GBを搭載し、OSにもWindows 10を採用した、純然たるWindowsパソコンだ。BTOでは5Gモデムも選択できる。
筐体はカーボンファイバー製で剛性は高く、ひ弱なイメージはまったくない。背面は100%本革のレザーフォリオと一体化しており、高級感もある。この背面には最大85度まで開くキックスタンドも搭載しており、立てて利用することが可能だ。
本体サイズは約299.4×236×11.5mm(幅×奥行き×高さ)と、フットプリントはA4サイズより一回り大きい。近い製品としては12.9インチiPad Proが挙げられるが、前述のようにカバーとキックスタンドが一体化していることもあり、厚みはややある。
一方、折りたたんだ時のサイズは約158.2×236×27.8mmと、システム手帳並みのコンパクトさだ。折りたたんだことで軽くなるわけではもちろんないのだが、このサイズならば、パソコン用でない小さなバッグにも余裕で入る。
重量は、本体が公称約973g(実測963g)、キーボードが178gと、PCとして見れば軽量だが、タブレットとして両手で持って使うことを考えるとややヘビー級だ。使い方によって評価は大きく変わりそうだ。同梱のキーボードとアクティブペン、およびACアダプタを持ち歩く場合は、さらにプラスアルファの重量が加算される。
本体にはUSB Type-Cポート(USB Type-C 3.1 Gen 2対応)が2基搭載されており、付属の65Wアダプタを用いて充電が行なえる。このUSB Type-Cポートは、筐体側面の長辺側と短辺側、それぞれに1基ずつ搭載されているので、利用スタイルに合わせて都合のよい側に挿すことができる。
カメラは前面カメラのみで、背面カメラは非搭載だ。Web会議やビデオチャットは問題なくこなせるが、タブレットのような写真撮影は不可能だ。またこのカメラは、最近のThinkPadシリーズでお馴染みの、物理的に覆う保護カバーが用意されていないので、ウェブ会議やビデオチャットのあとは、確実にカメラ機能をオフにする必要がある。
フレキシブルな有機ELパネル採用ながらほぼ完全にフラット
折りたたみのギミック、および画面について詳しく見ていこう。
本製品はフレキシブルなパネルを採用しており、継ぎ目がない状態で、半分に折り曲げることができる。スマホでは「Galaxy Fold」という先行事例があるが、そちらは伸ばした状態でも中央に一定のくぼみがあったのに対し、本製品のそれはほぼ完全にフラットで、使用中も気にならない。知らない人に見せたらびっくりするであろうレベルだ。
ヒンジの部分は無段階でスムーズに開閉できる。自重だけで広がったり閉じたりすることもなく、また固すぎて開閉しにくいといったこともない。適切にチューニングされている印象だ。画面をわずかに折り曲げて本のように持つ使い方(ブック・モード)にも対応する。
ベゼルのヒンジ部分は、シリコン製とおぼしき柔らかい素材で覆われている。実はこの柔らかい素材はヒンジ部に限らず、ベゼル全体を覆っており、外見上の一体感を醸し出している。滑り止めの効果もあるほか、手の脂がほとんどつかないのも好印象だが、素材の特性上、ホコリはやや付着しやすい。
ベゼルの幅は、横14mm、縦17mmと、現行の狭額縁ノートと比べると幅がある。もっともタブレットのように手で持って使う場合、指をかけられる幅が適度にあったほうが使い勝手がよく、そうした意味では実用性に振った仕様だと言える。
画面について特筆すべきなのは、アスペクト比が4:3と、ノートPCの多くを占めるワイド画面よりも縦方向に長いことだ。オフィスソフトを利用する場合など、天井方向に画面が広く使えるのはメリットだ。
試用していて気になったのは、画面の光沢がきついことだ。ThinkPad Xシリーズの多くは非光沢仕様であるため、多少なりとも違和感はある。折りたたみが可能な本製品はそれだけ画面がさまざまな方向を向くため、映り込みを目にしやすいのも理由の1つだ。タッチ操作で指紋が付きやすいことと合わせて、神経質な人は気になるかもしれない。
キーボードを合体させてミニノートとしても利用可能
さて、画面を折り曲げられるギミックは、可搬性を高めるだけでなく、幅広い利用スタイルを可能にしている。
画面を折り曲げる操作をすると、専用ユーティリティ「Lenovoモードスイッチャー」が自動的に起動する。これは画面をひとつの大画面として使うか、それとも分割された2つの画面として使うかを選択するためのものだ。後者の場合は、オフィスソフトを並べて表示したり、ブラウザを見ながらメールを書くなど、さまざまな使い方ができる。
また、付属のBluetoothキーボード(Lenovo Bluetooth Mini Foldキーボード)を本体の画面上に直接載せ、残る半分の画面と組み合わせて、ミニノート風に使えるモード(ミニ・クラムシェル・モード)も用意されている。
キーボードを画面に載せた段階で隠された部分は無効化され、残る画面領域だけを使って作業が行なえるよう、起動中のアプリやタスクバーが再配置される。動画も併せて見てほしい。
実際のところ、ハードウェアキーボードではなく画面の下半分にソフトウェアキーボードを表示してお茶を濁す選択肢もあったはずだが、敢えて実用性の高いハードウェアキーボードを使えるギミックを搭載してきたのは、ユーザとしてはありがたい。ちなみに本体の電池残量が50%以上あれば、載せた状態でキーボードへのワイヤレス充電も行なえる。
面白いのは、このキーボードを挟んだまま本体を閉じると、折りたたんだ時に生じる画面の隙間がぴったりと埋まることだ。世界初の折りたたみスマホである「Galaxy Fold」を見てもわかるように、フレキシブルディスプレイを折り曲げると、ノドの部分にどうしても隙間ができてしまい、たたんだ両面が平行にならない。
本製品もそれは同様なのだが、付属のキーボードを挟むことで、この隙間部分が完全に消失し、天板と底面が平行になる。着脱式キーボードを、スキマをうめる緩衝材として使うこのアイデアは秀逸だ。キーボードが不要な時は取り外して持ち歩けるので、無駄に重くなることもない。
キーボード(Lenovo Bluetooth Mini Foldキーボード)についてもチェックしておこう。このキーボード、かなの印字こそないものの、日本語JIS配列を採用しており、Enterキーの形状も日本語キーボードのそれだ。ただし一般的な日本語106キーボードではアルファベットの「P」とEnterキーの間に2つあるはずの記号キーが省略されるなど、キー数は削減されている。キーピッチ優先で、代わりにこれらのキーを省いた格好だ。
そのため、このサイズのキーボードとしては、余裕のあるキーサイズとキーピッチを実現しているものの、記号類の入力はかなり癖がある。文章の装飾はほどほどに、手早くメモを取ったり下書きを書く用途では重宝しそうだが、据え置きで使う場合はあまりこだわらず、別のキーボードを組み合わせたほうが、作業効率は上がるだろう。
Lakefieldゆえ? ベンチマークのスコアはやや低め
ではベンチマークテストの結果を紹介しよう。今回利用したベンチマークソフトは、ULの「PCMark 10 v2.1.2177.0」、「3DMark Professional Edition v2.5.0.0」、Maxonの「CINEBENCH R20.060」の3つだ。比較として同じレノボの「ThinkPad X1 Carbon(2019)」、およびWindows 10タブレットである「Surface Go 2」の結果も加えてある。
ThinkPad X1 Fold | ThinkPad X1 Carbon | Surface Go 2 LTE Advanced | |
---|---|---|---|
CPU | Core i5-L16G7(1.4GB, 4MB) | Core i7-8565U | Core m3-8100Y |
ビデオチップ | Intel UHD Graphics | Intel UHD Graphics 620 | Intel UHD Graphics 615 |
メモリ | 8GB LPDDR4X 4266MHz | 16GB LPDDR3 2133MHz | 8GB |
ストレージ | 512GB SSD(NVMe/PCIe) | 256GB SSD(NVMe/PCIe) | 128GB SSD |
OS | Windows 10 Pro 64bit | Windows 10 Pro 64bit | Windows 10 Pro 64bit |
PCMark 10 v2.1.2177 | |||
PCMark 10 Score | 1,937 | 3,810 | 2,736 |
Essentials | 4,912 | 7,993 | 6,450 |
App Start-up Score | 4,883 | 9,554 | 7,945 |
Video Conferencing Score | 4,643 | 6,951 | 5,882 |
Web Browsing Score | 5,229 | 7,691 | 5,744 |
Productivity | 2,287 | 6,376 | 4,828 |
Spreadsheets Score | 2,535 | 7,040 | 5,525 |
Writing Score | 2,064 | 5,775 | 4,220 |
Digital Content Creation | 1,757 | 2,947 | 1,786 |
Photo Editing Score | 2,667 | 3,659 | 2,268 |
Rendering and Visualization Score | 1,006 | 1,928 | 1,021 |
Video Editting Score | 2,022 | 3,629 | 2,461 |
PCMark 10 Modern Office Battery Life | 6時間16分 | 5時間53分 | 6時間28分 |
Performance | 3515 | 6690 | 3749 |
CINEBENCH R20.060 | |||
CPU | 669 | 1,380 | 未計測 |
CPU (Single Core) | 204 | 388 | 未計測 |
3DMark Professional Edition | |||
Night Raid | 4,061 | 4,867 | 3,043 |
Graphics Score | 5,163 | 4,867 | 3,376 |
CPU Score | 1,839 | 4,873 | 1,952 |
Sky Diver | 4,218 | 3,931 | 2,575 |
Graphics Score | 4,142 | 3,552 | 2,487 |
Physics Score | 4,329 | 7,891 | 3,344 |
Combined score | 4,690 | 4,137 | 2,387 |
Time Spy | 450 | 396 | 275 |
Graphics Score | 401 | 344 | 243 |
CPU Score | 1,522 | 2,935 | 1,154 |
Fire Strike | 1215 | 1079 | 732 |
Graphics Score | 1311 | 1138 | 799 |
Physics Score | 4593 | 9461 | 3466 |
Combined score | 459 | 398 | 261 |
Fire Strike Extreme | 612 | 509 | 未計測 |
Graphics Score | 626 | 509 | 未計測 |
Physics Score | 4585 | 9324 | 未計測 |
Combined score | 249 | 211 | 未計測 |
Fire Strike Ultra | 325 | 288 | 未計測 |
Graphics Score | 316 | 279 | 未計測 |
Physics Score | 4583 | 9240 | 未計測 |
Combined score | 151 | 131 | 未計測 |
本製品に搭載されるCore i5は、低消費電力が特徴のLakefieldで、CoreとAtomを組み合わせた5コアという変則的なCPUだ。本製品のような小型PCにはもってこいだが、今回の比較対象である2019年モデルのThinkPad X1 Carbonに搭載される第8世代のCore i7と比べるとベンチマークにおいてはやや分が悪い。
さらにメモリは8GBということで、16GBを搭載する比較対象とはどうしても差が出てしまう。本製品は直販モデルでもメモリは8GB固定で増やせないので、この点は注意すべきだろう。ただし3DMarkでは、ハードウェアの差が出やすいCPU ScoreやPhysics Scoreは別にして、全体的に善戦している。
もう一方の比較対象であるSurface Go 2は、ラインナップの中で最上位の、Amber Lake YのCore m3搭載モデルということで、今回のベンチでも一部では本製品より上のスコアが出ている。トータルでは本製品のほうがイーブンかやや上だが、これらを見る限り、PCにカテゴライズされる製品とはいえ、ややタブレット寄りの印象を受ける。
既存のノートPCやタブレットにはないワクワク感
さまざまな新機軸の機能を組み込んだ本製品は、キーボードやペンも同梱されたパッケージとなっており、それゆえ価格は30万円台(直販モデルで税込327,426円~)とかなりのものだ。今回の評価機のWindows 10 Pro 64bit、512GB SSDという構成だと、eクーポン適用時で税込361,680円とさらに高くなる。
もっともこのクラスのノートパソコンで20万円台はありえる価格で、そこにタブレットとして使える付加価値をつけた製品と考えれば、そう違和感はない。ノートパソコンとタブレット、買い替えのサイクルがちょうど一致する時期ならば、じゅうぶん射程圏に入ってくる製品だろう。なにより使っていて感じるワクワク感は、既存のノートパソコンやタブレットにはないものだ。
製品が個人向けなのか法人向けなのか、ターゲットがやや分かりにくいのも、テレワークの浸透などでワークスタイルが個人寄りになっている昨今、トレンドに合致していると言える。あらゆるシーンにフィットするオールインワンのデバイスを探している人であれば、ひときわ高い満足感を得られるであろう1台だ。