山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

第2世代になった「iPhone SE」で電子書籍を試す

~画面サイズはやや小ぶりも取り回しのよさとコスパは魅力

Apple「iPhone SE(第2世代)」。今回紹介するホワイトのほか、ブラック、(PRODUCT)REDをラインナップする

 「iPhone SE(第2世代)」は、Appleの4.7型スマートフォンだ。現行のハイエンドモデル「iPhone 11 Pro」と同じA13 Bionicチップを搭載しつつ、実売価格は44,800円からと、戦略的な価格設定を特徴とする製品だ。

 本製品は「iPhone SE」という型番では4年ぶりのニューモデルになるが、iPhone 5sの意匠を引き継いだ従来の4型モデルとは異なり、iPhone 8の系譜に連なる4.7型の筐体を採用している。型番こそ同じだが、実際にはまったくの別物と考えたほうがよい。

 では実際に、従来の「iPhone SE」および「iPhone 8」と比べて、どのような特徴をもつのだろうか。今回は市販のSIMロックフリーモデルを用い、第1世代のiPhone SEユーザである筆者の視点から、おもに電子書籍端末としての使い勝手をチェックしていく。

外見は従来のiPhone 8とそっくり。ホームボタン(Touch ID)を搭載する
右側面には電源ボタンを搭載。背面のカメラはシングルレンズ(広角)
左側面には音量ボタン、サウンドオン/オフボタンを搭載する
コネクタはLightningで、その左右にスピーカーを搭載する
カメラは背面から出っ張っているが、現行のiPhone 11ほどの突起ではなく、角も緩やか

iPhone 8とほぼ同じ外見ながら内部は最新

 まずは従来(第1世代)のiPhone SE、および実質的な前モデルであるiPhone 8と比較してみよう。

iPhone SE(第2世代)iPhone SE(第1世代)iPhone 8
発売年月2020年4月2016年3月2017年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ)67.3×138.4×7.3mm58.6×123.8×7.6mm67.3×138.4×7.3mm
重量148g113g148g
CPUA13 Bionicチップ
第3世代のNeural Engine
A9チップA11 Bionicチップ
Neural Engine
RAM3GB2GB2GB
ストレージ64/128/256/GB16/64GB64/128/256/GB
画面サイズ4.7型4型4.7型
解像度1,334×750ドット(326ppi)1,136×640ドット(326ppi)1,334×750ドット(326ppi)
Wi-Fi802.11ax(Wi‑Fi6)802.11ac802.11ac
コネクタLightningLightningLightning
防水防塵IP67-IP67
生体認証Touch IDTouch IDTouch ID
駆動時間/バッテリ容量ビデオ再生:最大13時間
ビデオ再生(ストリーミング):最大8時間
オーディオ再生:最大40時間
ビデオ再生:最大13時間
オーディオ再生:最大50時間
ビデオ再生:最大13時間
オーディオ再生:最大40時間
備考-2017年に32/128GBが追加-

 冒頭でも述べたように、本製品はiPhone SEという既存の型番を採用するものの、実質的にはiPhone 8の後継といえる仕様だ。上記の表を見ても、iPhone SEとiPhone 8、どちらに似ているかは一目瞭然だ。筐体サイズはiPhone 8そのままということで、保護ケース類も流用できる。

 ちなみに「SE」の意味についてAppleからは発表がないが「既存モデルをベースにしつつ第一線で通用するようハードウェアを換装したモデル」という位置づけだとすれば、確かにiPhone 5sをベースした第1世代モデルの面影はなくもない。

 そんな本製品だが、CPUは現行のiPhone 11 Proと同じA13 Bionicに置き換えられ、さらにWi-Fi 6(11ax)に対応するなど、正真正銘のハイエンドだ。さらに(Apple自身は公表していないが)メモリも3GBに増量されていたりと、細かいところまでそつがない。結果的に、iPhone 8とほぼ同じ外見ながら内部は最新という、じつにそそる仕様になっている。

 とはいえやはりiPhone 8がベースゆえ、ハードウェアの制約に引きずられている部分はある。例えばカメラは広角のみで超広角レンズは搭載せず、またiPhone 11 Proの売りである望遠レンズも非搭載だ。もちろん第1世代のiPhone SEからすると格段に進化しているが、写真を重視するユーザーにはややキツい。ナイトモードも非対応だ。

 またストレージの容量はiPhone 8から据え置きで、最大256GBとやや控えめだ。写真撮影をバリバリ楽しむ製品ではないため、容量据え置きなのは分からなくもないが、とはいえ3年前のモデルとまるっきり同じというところに、本製品の立ち位置がよくわかる。

第1世代のiPhone SE(右)との比較。型番は同一だがまったくの別物だ
背面。サイズだけでなく、デザインから素材に至るまであらゆる部分が違っている
現行モデルでは最大サイズとなるiPhone 11 Pro Max(右)との比較。ホームボタンの有無で大きくデザインが異なる
背面。カメラ部こそ異なるが、ガラス製の背面パネルや、Qi対応である点は共通だ
幅がほぼ同じPixel 3(右)との比較。重量はいずれも150gを切っており、このクラスのスマホとしては軽量だ
背面。Pixel 3は指紋認証センサーが正面ではなくこちら側にあるため、正面の画面占有率は高くなっている
厚みの比較。左が本製品、右は上から第1世代iPhone SE、iPhone 11 Pro Max、Pixel 3。それほど極端な違いはない

指紋認証はむしろ電子書籍向き?

 では開封していこう。iPhone 8以降のiPhoneは、USB PDによる急速充電に対応しているが、本製品に付属するのはiPhone 8などと同じ5Vの充電器と、USB Type-A仕様のLightningケーブルだ。ちなみにiPhone 8と同じくワイヤレス充電にも対応している。

 今回購入したのはApple直販のSIMフリーモデルだが、セットアップ手順にとくに変わった点はない。そもそもの製品のコンセプトからして、他のモデルにないフローが存在するわけはなく、このあたりは予想通りといったところだ。強いて挙げれば、Face IDである現行のiPhone 11シリーズにない、ホームボタンのバイブ設定の画面が挟まるくらいだ。

付属品。iPhone 8と同じ5V充電器と、USB Type-A仕様のLightningケーブルが付属する
セットアップではホームボタンを押した時の感触を設定する画面が途中に挟まる(左)。今回購入したのはSIMフリーモデルで、プリインストールアプリはごく一般的だ(中、右)

 現行のiPhone 11シリーズとの大きな違いに、指紋認証(Touch ID)を採用していることが挙げられる。顔認証(Face ID)は、いかに認識スピードが速くても、端末を顔の前に持ってきてからでないと実行できないのに対し、指紋認証は端末を顔の前に持ってくる時点で認証が完了できているので、スピードだけならば勝負にならない。

 とくに電子書籍用途では、隙間時間でちょくちょく読み進めることが多く、そのたびにロック解除→読む→またロックというプロセスを繰り返しがちなので、小回りの効く指紋認証との相性はよい。手袋をしている機会の多い冬場ならまだしも、マスクの着用によりFace IDそのものが機能していない現状ではなおさらだ。

 なおホームボタンについては、iPhone 7以前の物理的に押し込まれるタイプではなく、押した感触がバイブレーションで返ってくるiPhone 8と同じ仕様を採用している。第1世代iPhone SEを長年愛用してきた筆者からすると、このホームボタンの感触は最初は違和感があるが、すぐに慣れるので大きな問題でない。なおバイブは3段階で調整できる。

ホームボタンは押した感触がバイブレーションで返ってくるタイプ。こうした仕様1つを取ってもiPhone 8の後継であることがわかる

 もう1つ、第1世代iPhone SEとの相違点として、側面が曲面加工されているため、両側から挟むような持ち方がしづらいことが挙げられる。これは形状に起因する問題なだけに、使っていて慣れるものではなく、別の持ち方を自分なりに編み出す必要がある。筆者は早々にあきらめ、指を通すバンドをケース背面に貼って使っている。

側面が垂直にカットされていた第1世代のiPhone SEと違い、片手で握るのは難しい。筆者は早々にあきらめて背面に貼り付けるバンドを導入した

 もう1つ特徴的なのはベゼルの配色だ。今回発売されたホワイト、ブラック、(PRODUCT)REDという3色のカラーバリエーションはいずれも、正面のベゼルが「黒」になっている。後者2つは既存モデルの時点で黒だったので問題はないが、ホワイトモデルは背面がホワイトなのに正面が黒という「コレジャナイ」感が強い配色になっている。

 このベゼル色の統一はコストダウンのためと見られるが、今回のホワイトモデルは背面が上品なパールホワイト、側面もやや系統の違うマットなホワイトということで、ベゼルもホワイト系で統一できなかったのは正直もったいない印象だ。

本体色がホワイトのモデルもベゼル色は黒。同社の製品ページでホワイトモデルを正面から撮った画像が少ないのは、これが理由かもしれない
「筐体はホワイトだがベゼル部は黒」という配色は、かつてのiPhone 3GS(右)と同様。約10年を経て先祖返りした配色と言える

コミックは等倍ではやや厳しい。テキストとは相性よし

 さて電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」を用いている。とくに断りがない限り、電子書籍ストアはApple Booksを使用している。

 本製品は4.7型ということで、電子書籍を表示する端末として見た場合、画面はかなり小さめだ。現行のiPhone 11 Pro Maxは画面サイズが6.5型、横幅も約68mmと余裕があるが、本製品の画面の横幅は58mmということで、つまり横幅が約1cm狭い。そのぶん、コミックを表示するとページサイズが圧縮されてしまう。

画面の横幅は約58mm。余裕のあるサイズ、とはさすがに言えない
iPhone 11 Pro Max(上)は約68mmということで、1cmもの差がある。ただし第1世代iPhone SE(下)よりは1cm近く大きい
第1世代iPhone SE(右)との比較。かなり致命的と言っていいサイズ差がある。余談だがApple Booksは余白が黒に塗りつぶされる仕様で、ベゼルが黒の本製品との相性はよい
iPhone 11 Pro Max(右)との比較。本製品は解像度こそ十分だが、細かいセリフを読み取るには画面の絶対サイズが不足している

 解像度そのものは326ppiと十分ゆえ、拡大縮小を行ないながらであれば読めなくはないが、それだとストーリーに集中できない。作画の密度も関係するので、この作家は本製品でも読める、この作家はちょっと難しいといった具合に、じょじょに頭の中で線引きができあがってくる。そうした制約がつく時点で、決してコミック向きの端末ではない。

 とはいえ、第1世代iPhone SEだと、コミックは拡大しながら読むことすら厳しかったので、本製品はまだ「読める」うちに入ると言えなくもない。要は本人が過去にどのようなデバイスを使ってきたかだろう。逆に軽量な本製品に慣れたあとでiPhone 11 Pro Maxを使うと、どれだけ画面サイズが広くて快適でも、重さに耐えられない可能性はある。

等倍では読み取りにくいセリフなどは適宜ダブルタップで拡大縮小しながら読むことになる
Apple Booksでダブルタップで拡大したサイズは、iPad mini(右)で見開き表示をした場合のサイズにほぼ等しい
これは拡大のない通常サイズでの比較。やはり画面の小ささは否めない

 一方で、テキストコンテンツを表示するには、本製品は非常に快適だ。第1世代iPhone SEは1画面に表示できる情報量が少なく、ガラケーを想起させる不自由さだったが、本製品はサイズ的にも手頃だ。またiPhone 11 Pro Maxのように、1行が縦に長すぎて目で追うと疲れることもない。小説などを読むツールとしては、かなりいい線を突いている印象だ。

テキストコンテンツを第1世代のiPhone SE(右)と比較したところ。画面サイズに対する文字量も適切で読みやすい印象だ
iPhone 11 Pro Max(右)は1画面あたりの文字量は多いものの、1行がかなり上下に長いことから目が疲れがちだ
Apple Booksでは読書目標を設定できる(初期値は5分)。読書習慣をつけるにはうってつけだ

最低限の画面サイズ+軽さを考慮すると及第点。大型モデルも欲しい

 以上のように本製品は、テキストコンテンツを読むツールとしては優秀、一方でコミックの表示は困難さを覚悟する必要がある。とはいえ、最低限の画面サイズを備えつつ、150gを切るデバイスは、ほかの電子書籍端末を含めてもなかなかなく(最近では前述のPixel 3くらいだ)、そうした意味では貴重な製品といえる。

 現実的に、本製品の購入を検討している人が電子書籍の読みやすさを考慮して価格が約3倍もするiPhone 11 Pro Maxに転向することはまずないはずで、それよりは拡大機能を活用したり、またスマホリングやバンドの活用で片手でもハンドリングしやすい環境を整えるのが良策だろう。なにせコスパが高いだけに、それだけ手をかけてやる価値はある。

第1世代iPhone SEと違い、仰向けになった状態で画面を見るのはやや厳しいが、背面にスマホリングなりバンドを付けておけば問題ない

 一方、将来的に「iPhone 8 Plus」の後継に相当する大型モデルが登場すれば、ちょうどよいポジションに収まる可能性はある。現状、iPhoneの中で画面幅が60mmを超える大型モデルは、iPhone 8 Plusの終息によってiPhone 11 Pro Maxのみになってしまったので、今後そこがどう再編されるのかは要注目と言えそうだ。

Kindleはページの余白が白で表示されるため、余白が黒のApple Booksに比べると、どこからどこまでがベゼルなのかがよくわかる(右はiPhone 11 Pro Max)