山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Apple「11インチiPad Pro(第2世代)」で電子書籍を試す
~画面サイズが近いiPad AirおよびiPadとの違いは?
2020年4月15日 11:00
Appleの「11インチiPad Pro(第2世代)」は、その名からもわかるように、11型のディスプレイを備えたiOSタブレットだ。
iPad Proは、ホームボタンがなくUSB Type-Cを採用したモデルへと2018年秋にフルモデルチェンジを行なったとき、画面サイズが10.5型から11型へと大型化された経緯がある。大がかりな進化を遂げた先代のモデルと異なり、今回のモデルは外見上の相違点はカメラくらいしかなく、どのような違いがあるのか気になるところだ。
今回は筆者が購入したWi-Fi+Cellularモデルを用い、従来モデルとの違い、および画面サイズが近いiPad AirおよびiPadとの比較を中心に、電子書籍用途での使い勝手を紹介する。
外観そのままも細かい改良。最大の違いは価格?
まずは従来モデルとの比較から。実質的に2世代前に相当する、10.5インチiPad Proも併せて掲載している。
11インチiPad Pro(第2世代) | 11インチiPad Pro(第1世代) | 10.5インチiPad Pro | |
---|---|---|---|
発売 | 2020年3月 | 2018年11月 | 2017年6月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 247.6×178.5×5.9mm | 247.6×178.5×5.9mm | 250.6×174.1×6.1mm |
重量 | 約471g | 約468g | 約469g |
CPU | 64bitアーキテクチャ搭載A12Z Bionicチップ Neural Engine 組み込み型M12コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A12X Bionicチップ Neural Engine 組み込み型M12コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ 組み込み型M10コプロセッサ |
画面サイズ/解像度 | 11型/2,388×1,668ドット(264ppi) | 11型/2,388×1,668ドット(264ppi) | 10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi) |
通信方式 | Wi-Fi 6(802.11ax) | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac |
バッテリー持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間 | 最大10時間 | 最大10時間 |
コネクタ | USB Type-C | USB Type-C | Lightning |
スピーカー | 4基 | 4基 | 4基 |
価格(発売時) | 84,800円(128GB) 95,800円(256GB) 117,800円(512GB) 139,800円(1TB) | 89,800円(64GB) 106,800円(256GB) 128,800円(512GB) 172,800円(1TB) | 69,800円(64GB) 80,800円(256GB) 102,800円(512GB) |
前回紹介した12.9型モデルと同様、従来モデルとの違いはごくわずかだ。ボディサイズはまったく同一で、重量の違いも3gと誤差レベル。画面サイズや解像度にも違いはない。iPadシリーズ中で唯一4:3でないアスペクト比も、そのまま受け継がれている。
また表にはないが、ディスプレイの仕様、具体的にはProMotionテクノロジーやTrue Tone、耐指紋性撥油コーティング、フルラミネーション、反射防止コーティングといった仕様も違いはない。要するに表示性能自体は従来そのままということになる。
プロセッサは、従来の「A12X Bionic」から「A12Z Bionic」へと向上しているが、既出の鈴木氏によるベンチマークにあるように(関連記事:超広角カメラに加えて深度スキャナまで搭載したタブレットの最高峰「iPad Pro」の実力に迫る)、実際の性能にはほとんど差がない。あくまでマイナーチェンジといったところだ。
メモリ容量は4GBから6GBへと増量されており、マルチタスクなどに有利な仕様になっている。またWi-FiはWi-Fi 5(11ac)からWi-Fi 6(11ax)へと高速化されており、対応Wi-Fiルータを用意することで、電子書籍のダウンロード速度は大幅に向上する。詳しくは前回の12.9インチモデル(関連記事:Apple「12.9インチiPad Pro(第4世代)」で電子書籍を試す)で検証しているのでご覧いただきたい。
本製品の大きな売りであるカメラは、iPhone 11シリーズと同じく超広角のレンズが追加されている。一方でiPhone 11 Proシリーズにある望遠レンズは搭載しておらず、仕様としてはiPhone 11に近いものがある。代わりに追加されているLiDARスキャナは、距離計測に用いるものだが、対応アプリも含めてまだまだこれからの機能だ。
注目すべきなのは価格で、従来モデルに比べて同容量で1万1千円(1TBモデルは3万3千円)も安くなっている。また最小容量も64GBから128GBへと増え、それでいながら5千円値下げされたことで、84,800円から入手可能になっている。下位のiPad Airは最上位の256GBモデルが71,800円なのでまだ価格差はあるが、これまでに比べ間隔が詰まってきた印象だ。
額縁が細くコンパクト感のあるボディ。充電速度がややアップ
パッケージの内容、セットアップの流れは従来と大きく変わっておらず、戸惑うところはない。同時発売の12.9インチモデルとも同様で、画面サイズの差を除けばまったく同一と言っていいほどだ。
実際に手で持つと、現行のiPad Airよりも軽く感じられるのが面白い。実際には本製品のほうが重いのだが、額縁の細さからそう錯覚してしまっているようだ。筆者は電子書籍ユースでは日頃からiPad miniを常用しているが、iPad miniの大型版くらいにしか感じない。
端子は従来と同じくUSB Type-C、Appleの表記で言うところの「USB-C」に対応している。パッケージに付属するのは最大出力18WのUSB PDに対応した充電器だが、本製品は従来と同じく最大45WのUSB PDに対応しているので、充電器を買い替えればそれだけ高速な充電が可能になる。
テスターをつないで試したところ、接続時は15V/3AのPDOが選択される(つまり規格上は最大45W)が、実測では20Wちょっとだった従来モデルと異なり、本製品はピーク時は30Wを若干上回る出力で充電が行なえているようで、つまり従来モデルより充電が速くなったことになる。ただしハードウェア的には裏付けはなく、OSアップデートで変わる可能性もある(今回試した従来モデルは1つ古いiPadOS 13.3)。
また本稿では詳細な使い勝手は割愛するが、iPadOS 13.4では日本語入力が強化されており、自動的に漢字変換を行なう「ライブ変換」に対応している。またマウス対応も強化されたほか、5月にはトラックパッドを搭載した「Magic Keyboard」も発売予定となっている。
なお「Magic Keyboard」は、本製品に加えて従来モデルにも対応するが、従来モデル用に販売されていた「Smart Keyboard Folio」は本製品に流用できず、本製品の登場に併せてモデルチェンジされた新しい「Smart Keyboard Folio」への買い替えが必要になる(カメラ周りの穴のサイズが修正されている)。このあたりの互換性を勘違いして、無駄な出費を投じないよう注意したい。
コミック表示のライバルとなるのはiPad Air?
さて、電子書籍での利用について見ていこう。コミックの表示サンプルは、うめ著「大東京トイボックス 1巻」を使用している。
従来モデルが登場した時点では、iPad Airが一時的にラインナップから消滅していたほか、ローエンドのiPadも画面サイズが9.7型と、現行モデルよりひとまわり小さかった。そのため本製品は、画面の大きさや薄さ、軽さなど、あらゆる面で優位性があった。
しかし現在は、本製品よりも薄く軽い10.5型の「iPad Air」が1つ下のグレードとして存在するほか、無印のiPadも画面サイズが10.2型へと大型化している。解像度は3製品とも横並びであり、電子書籍を読む目的だけに絞れば、本製品の優位性はそれほどなくなっている。
これら3製品の具体的な違いは、以下の表をご覧いただくとよいだろう。どこが違うのかはっきりとわかるはずだ。
11インチiPad Pro(第2世代) | iPad Air(第3世代) | iPad(第7世代) | |
---|---|---|---|
発売 | 2020年3月 | 2019年3月 | 2019年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 247.6×178.5×5.9mm | 250.6×174.1×6.1mm | 250.6×174.1×7.5mm |
重量 | 約471g | 約456g | 約483g |
CPU | 64bitアーキテクチャ搭載A12Z Bionicチップ Neural Engine 組み込み型M12コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A12 Bionicチップ Neural Engine 組み込み型M12コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A10 Fusionチップ 組み込み型M10コプロセッサ |
画面サイズ/解像度 | 11型/2,388×1,668ドット(264ppi) | 10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi) | 10.2型/2,160×1,620ドット(264ppi) |
通信方式 | Wi-Fi 6(802.11ax) | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac |
バッテリー持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間 | 最大10時間 | 最大10時間 |
コネクタ | USB Type-C | Lightning | Lightning |
スピーカー | 4基 | 2基 | 2基 |
価格(発売時) | 84,800円(128GB) 95,800円(256GB) 117,800円(512GB) 139,800円(1TB) | 54,800円(64GB) 71,800円(256GB) | 34,800円(32GB) 44,800円(128GB) |
実機でコミックを表示して比較すると、ほかの2製品に比べて、表示サイズは確かにひとまわり大きいのだが、かといってiPadとiPad Miniのような極端なサイズ差があるわけではなく、また解像度も差がない(いずれも264ppi)ため、わざわざ本製品を選択する理由にはなりにくいのが現状だ。
優位性があるとしたら、余白の表示だろうか。純正の電子書籍ストアであるApple Booksは、Kindleなどと違って、コミックの余白は黒く塗りつぶされる仕様になっている。そのため、額縁が白いiPad AirおよびiPadで表示すると、ページ端が白、余白が黒、額縁が白と、見事に黒帯がサンドイッチされた状態になる。
その点、本製品は額縁が黒なので、余白が白でも黒でも馴染むほか、もともとiPadの中で唯一アスペクト比が4:3ではなく若干横長なため、余白そのものの面積が狭く目立ちにくい。つまりiPad Proとのマッチングを重要視した仕様で、この点においては他の2製品よりも有利だ。
逆にマイナスとなるのは、額縁幅がスリムなせいで、電子書籍を持ちにくいことだ。iPadおよびiPad AirはTouch IDボタンがあるぶん額縁の幅が広く、本体を横向きに持った時も本体左右端に指の置き場がある。
しかし本製品はスリム額縁ゆえ、本体を持つと画面に指がかかってしまうことがよくある。とくに不安定な姿勢で持とうとすると、もろにページを挟む格好になりがちだ。あからさまな誤作動がなくとも、意図せずメニューが表示されることはしょっちゅうある。気兼ねせずに使えるのはどちらかと言われると、iPad AirおよびiPadに軍配が上がる。
また前回の12.9型モデルのレビューでも触れているが、Apple Booksでの決済時には、電源ボタンを押す時に高い確率でFace IDのカメラを覆ってしまい、顔認証に失敗しがちだ。Touch IDを採用した従来型のiPadでは起こり得ない問題だけに、今後どう対応していくかは難しいところだろう。
「12.9インチ以外でなるべく大画面」のニーズを満たす製品
今回の第2世代11インチiPad Pro、デバイスとして優秀であることは疑う余地はない。事実、個々のスペックや機能を見ていくと、超広角レンズを搭載したカメラにせよ、11axに対応したWi-Fiにせよ、高価なだけのことはあると感じるポイントは多数ある。
ただ、iPad Airのほうが優秀か、もしくはiPad Airでも十分と感じるポイントがいくつかあり、それらが電子書籍用途に集中してしまっている。前述の額縁の握りにくさ、本体の重量および薄さ、さらにはフルラミネーションディスプレイなどの画面加工がそれで、ここに価格という要因を加えると、iPad Airで十分では? という結論になりがちだ。
もっともこれはApple側としても先刻承知なはずで、本製品は多くの用途において最上の体験ができるデバイスとして開発されている。唯一第2世代のApple Pencilに対応することは、5月に発売されるMagic Keyboard対応もそれだ。超広角カメラもそうだし、現段階では先行投資に近いLiDARスキャナもそうだろう。
従って、ほかの目的で本製品を購入した上で、電子書籍にも使うのであれば、何らかの致命的な欠点があるわけではなく、いっこうに問題はない。ただ電子書籍のためだけにカジュアルに購入するデバイスではないというだけだ。そこを取り違えさえしなければ、12.9型までは不要だが、なるべく大きな画面で電子書籍を楽しみたいというニーズを満たしてくれるだろう。