山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

ファーウェイ「Mate 30 Pro 5G」

~Google Playストア非対応で、電子書籍はどうやって読む?

ファーウェイ「Mate 30 Pro 5G」。直販ストア価格は141,680円(税込)

 ファーウェイの「Mate 30 Pro 5G」は、6.53型の有機ELディスプレイを搭載したAndroidスマートフォンだ。5Gに対応するほか、左右側面まで画面が回り込む超湾曲タイプのディスプレイの採用、4眼カメラの搭載など、同社のラインナップの中ではフラグシップモデルに位置づけられる。

 SIMフリーで提供される本製品の最大の目玉は、現時点では数少ない5Gに対応していることだが、もう1つ注目なのは、Googleモバイルサービス(GMS)に非対応、つまりGoogle Playストアを利用できず、同社独自のアプリストア「AppGallery」との組み合わせでの利用になることだ。

 一般的に、Google Playストアに対応していれば、どのような電子書籍ストアアプリが利用できるか、購入前に気にする必要はない。ほぼすべてが対応しているからだ。しかし本製品のようなオリジナルのアプリストアとなると話は別だ。利用したいと思っていた電子書籍ストアが新規の購入はおろか、購入済みコンテンツの閲覧すらできない可能性もある。

 今回はメーカーから機材を借用できたので、本製品が電子書籍ユースでどのくらい使えるのか、対応する電子書籍ストアアプリのラインナップを中心にチェックしていく。

画面サイズの割にはスリムな筐体。音量調整もタッチ式

 まずハードウェアの特徴をチェックしていこう。本製品の外見上の特徴は、両側面にまで回り込んだディスプレイだ。画面が左右側面にまで及ぶスマホは本製品が初めてではないが、本製品のそれは自然なカーブとともに側面に回り込んでおり、背面のオレンジのパネルとも相まって非常にスタイリッシュだ。

 画面サイズは6.53型(2,400×1,176ドット)だが、左右のベゼルが存在しないため、筐体は幅73.1mmと、見た目よりもはるかにスリム。画面サイズがほぼ同じ6.5型のiPhone 11 Pro Maxが横幅が77.8mmあるので、5mm前後もスリムなことになる。それゆえ片手でも握りやすいのが特徴だ。

 横幅がスリムな一方、厚みは9.5mmと、現行のスマホの中でもかなり厚い部類に入る。側面にディスプレイを配置することもあり、敢えて薄さを訴求しない設計なのだろう。もっとも前述の横幅のスリムさもあって、実際にはあまり厚みを感じないのも面白い。

 側面をディスプレイが占めていることもあり、搭載する物理ボタンは電源ボタンのみ。音量ボタンは、画面のサイドをダブルタップして画面上にスライダを表示し、それをなぞって操作する仕組みだ。同社はこれをサイドタッチ機能と称している。

 CPUは同社独自のKirin 990(オクタコア)、メモリは8GB、ストレージは256GB。通信機能は前述のように5G対応が特徴だが、Wi-Fiは11ax非対応で、11ac(Wave2対応)にとどまっている。NFC、防水防塵といった、ハイエンドモデルに欠かせない機能はしっかり抑えている。

 バッテリは4,500mAhとかなりの容量。充電はUSB Type-Cで同社独自のHUAWEI SuperCharge方式により最大40W対応とパワフル。ちなみにこれは専用充電器を使った場合で、一般的なUSB PD充電器をつないだところ、18W(9V/2A)での充電が行われることを確認した。

左右両側面まで回り込んだ超湾曲ディスプレイが外見上の大きな特徴
背面は鮮やかなオレンジ。3倍光学ズームに対応した4眼カメラを搭載する。背面からの出っ張りはごくわずか
USB Type-Cは最大40WのUSB PDによる急速充電に対応する
本体にある物理ボタンは右側面の電源ボタンのみ
音量ボタンはなく、側面をダブルタップすることでスライダが表示され、上下になぞって調整する仕組み。スマートではあるが直感的な操作は苦手
反対側でも音量を調整できる。このあたりは物理ボタンを省いたことによる利点だ
顔認証のほか画面内での指紋認証にも対応。以前レビューしたOPPO端末と比べても反応ははるかに良好
保護ケースは側面が大きく開いていることもあり、ケースというよりもプレートと表現すべき形状

セットアップはAndroidそのもの

 本製品はGoogle Playストアには非対応とはいえ、専用OSであるEMUIのベースになっているのはAndroid 10で、セットアップ手順はAndroidのそれと相違ない。HUAWEI IDのログイン画面など、いくつかの独自の画面が挟まることを除けば、フローは一般的だ。以下、代表的な画面を抜粋して紹介する。

言語を選択したのちWi-Fi設定、その後HUAWEI IDの入力などを行なう
端末保護としてPINを設定したのち、顔認証、指紋認証を設定できる。その後必要に応じて旧デバイスからのデータ移行を行なう
画面中央、ナビゲーション方法は「3つのキーによるナビゲーション」を選ぶのが望ましい(後述)。その後おすすめのアプリが表示されるので必要に応じてインストールを実行
インストール完了。アプリはドロワー式ではなくすべてがホーム画面に並ぶタイプ
同社スマホではおなじみEMUIを採用。ベースはAndroid10ベースだ

独自アプリストア「AppGallery」に国内電子書籍ストアアプリは実質皆無

 さて、電子書籍まわりについて、確認すべき点を順を追ってチェックしていこう。コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を、テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「グッド・バイ」を用いている。

 本製品はGoogle Playストアには非対応であるため、独自のアプリストア「AppGallery」からアプリをインストールして使用する。同ストアを開くと「書籍」というカテゴリーが用意されており、その中にさまざまなアプリが並んでいる。この中から電子書籍を読むためのアプリを探すことになる。

 しかしこの「書籍」は、ニュースアプリやRSSリーダーなど、厳密には電子書籍でないアプリも多数含まれるほか、タイトルの8~9割は中国語だ。上位から500件ほどチェックしたかぎりでは、日本でお馴染みの電子書籍ストアは旧イーブックジャパンの「ebiReader」くらいしかない。今は亡きWindows 10 Mobileでの電子書籍アプリの品揃えを彷彿とさせる。

独自のアプリストア「AppGallery」。「書籍」カテゴリーにある日本語対応の電子書籍ストアアプリは「ebiReader」くらいだ

 しかもその「ebiReader」、日本国内ではすでに後継の「ebookjapan」アプリに入れ替わっており、5月26日で運用停止が予告されている。現時点ですでに、読めるのは旧イーブックジャパン時代に購入したコンテンツの一部だけで、新規購入も不可能だ。事実上ないものと考えたほうがよい。

「ebiReader」は旧バージョンなので、「ebookjapan」移行後に購入した書籍は表示できず、新規購入もできない。またテキストコンテンツはエラーが出て表示できなかった
Google開発者サービスをサポートしないことを警告するメッセージが表示されることも

 もっとも調べていくと「高速アプリ」と名付けられたカテゴリの中に、ebookjapanの新しいアイコンを使ったアプリがあるのを発見した。こちらを使えば現行のebookjapanのサイトを開いて購入済みタイトルを表示できるほか、新規購入も問題なく行なえる。ただよく見ると、ほかのAndroidスマホでアプリ経由で見るのとはデザインが大きく違っている。

 じつはこの「高速アプリ」、正確にはアプリではなく、ブラウザビューアを呼び出しているにすぎない。筆者が見たのはブラウザ版のトップページだったため、デザインに違和感があったというわけだ。実際、アドレスバーが非表示でスッキリしていることを除けば、通常のブラウザでホーム画面にショートカットを置くのと大差ない。

「AppGallery」の中に新しい「ebookjapan」を発見。ただし「高速アプリ」という特殊なジャンルで、ホーム画面のデザイン(中)も、ほかのAndroid端末でebookjapanアプリを表示した時のデザイン(右)とは異なる
じつはこれ、アプリではなくブラウザビューア。コミックおよびテキストいずれも表示は可能だが、テキストでは上下の余白が解除できなかったりと、使い勝手はよいとは言えない
高速アプリの正体は「高速アプリエンジン」なるブラウザ。ここに登録したアプリ(正確にはURLショートカット)はホーム画面に表示され、ここから起動できる。利用にはHUAWEI IDが必須

 そうした意味では、ブラウザビューアが用意されている電子書籍ストアであれば、そちらに直接アクセスしたほうがよい。たとえばKindleの場合、「Kindleマンガ」を呼び出せばコミックを読める。ブラウザ(HUAWEI Browser)を夜間モードに切り替えると、画面上の余白がほぼ真っ黒になるので、背景色と相まって没入感が高まる。

 ちなみに本製品は筐体両側面までディスプレイが広がっており、コミックはこれらの領域まで用いて表示される。それゆえ正面から見るとページ左右の余白がカットされたようになり、本製品よりも幅のあるiPhone 11 Pro Maxよりも、コミックのページは一回り大きく表示される。筐体サイズから想像されるよりも大きく表示されるのが面白い。

ブラウザでKindleを表示し、「Kindleマンガ」にアクセスすると、既存のライブラリを表示できる。夜間モードに切り替えると余白が黒になり、没入感が高まる
本製品は両側面も使ってページを表示するため、両サイドの余白が削られるかたちになり、結果として本製品より幅のあるiPhone 11 Pro Maxよりページを大きく表示できる
ただし画面の端ギリギリまで作画されていると側面に回り込んでしまい、見づらく感じる場合もある

ブラウザビューアの活用のほか、別のアプリストアを使う手も

 電子書籍を楽しむためのもう1つの方法は、本製品のアプリストア「AppGallery」を使わず、別のアプリストアを経由し、電子書籍ストアアプリをインストールする方法だ。メジャーどころではAmazonが用意している「Androidアプリストア」がそれで、これを使えば前述のebookjapanアプリに加え、Kindleアプリをインストールできる。

 もっともこの方法を使ったからと言って、お目当ての電子書籍ストアアプリが見つかるとは限らない。前述のブラウザビューアにしても、電子書籍ストアがその仕組みを用意していなければ話にならない。電子書籍ストアにこだわらなければ解決策はいくつもあるが、特定のストアが使えるかは総じて運次第といった印象だ。

Androidアプリストア。Kindleやebookjapanのほか、ストアにひもづかないアプリだとPerfect ViewerやSideBooksがラインナップされる
Kindleアプリはコミック、テキストともに問題なく表示でき、また余白や行間などアプリらしいきめ細かな調整が行える

 ちなみに解像度やページめくりの挙動など、表示性能や操作性には大きな問題はないが、一点だけ難があるのは、本製品独自のナビゲーションだ。本製品はシステムナビゲーションを2種類から選べるのだが、ここで「ジェスチャー」を選択していると、画面の左端から内側にスワイプする動きが、画面を戻るためのジェスチャーになってしまう。

 つまり、読書中にページをめくったつもりが、前の画面、つまりライブラリの画面に戻るという事態が発生してしまう。これを避けるには「ジェスチャー」ではなく「3つのキーによるナビゲーション」を選択しておけば、従来のAndroidと同じ操作方法になり、ページめくりも気を使わずに行なえるようになる。

システムナビゲーションの「ジェスチャー」がオンだと、ページをめくろうとしてこのようなタブが表示されることがしばしば。このまま離すと前の画面(電子書籍の場合はライブラリ一覧)に戻ってしまう
電子書籍はストアを問わず左右スワイプでページをめくることが多いため、本製品で電子書籍を読む機会が多い場合はシステムナビゲーションを「3つのキーによるナビゲーション」にしておいたほうがよい

 最後にもう1つ、エアジェスチャー機能に含まれる「エアスクロール」にも触れておこう。これは画面の手前20~40cmの距離で手をかざし、画面に触れることなくスクロールが行える機能だ。具体的な動きは動画を参照いただきたいが、画面に手をかざしてアイコンが表示されたら、手招きするか、もしくはその逆の動きをすることで、画面が上下に1画面単位でスクロールする。

 左右スクロールの機能はないが、たとえば前述のebookjapanのブラウザビューアでは、スクロールの方向を横ではなく縦にできるので、電子書籍の閲覧に使うこともできる。ライブラリや、あるいは(動画内で紹介しているように)ストアのランキングページをスクロールする用途でも、使い道はありそうだ。

 ただしこの機能を使う時は、スマホから完全に手を離した状態で操作することになるので、どちらかというと電子書籍ではなく、料理をしながらレシピを確認するといった用途のほうが適切だ。またジェスチャー1回での移動量が決まっているので、長距離スクロールでは逆にストレスになる可能性はある。

「エアスクロール」を使うと画面に触れずに上下スクロールが行える。手をかざした段階で上下どちらに移動するか予め決めておかなくてはならないのがやや使いづらい
【動画】「エアスクロール」で画面を上下にスクロールしている様子。上部に表示されるアイコンは、手のかたちを認識して、上向きと下向きの2種類のどちらかが表示される

必要どころのアプリをどれだけ増やせるか

 以上ざっと使ってみたが、本製品で電子書籍を読むには、ブラウザビューアを使うか、あるいはほかのアプリストア経由でアプリをインストールするか、現時点ではこの2択となる。既存のAndroidスマホ、およびiPhoneに慣れていると、物足りなさを感じるだろう。

 一方で、ハードウェアとしての完成度は高く、画面の大きさの割には筐体はスリムで持ちやすく、またレザー風の加工を施した背面カバーは高級感もあり、所有欲を満たしてくれる。ただしここまで見てきたように、ソフトウェア面では付け焼き刃の印象は少なからずあり、本製品の課題はまさにそこにあると言えそうだ。

 Google Playストア非対応であるが故の問題は電子書籍だけでなく、ほかのジャンルのアプリにも言えることで、もう少し長い目で見ていく必要があるだろう(ちなみに著名どころではLINEに非対応だ)。「高速アプリ」という仕組みはさておき、必要どころのアプリをどれだけ急いで増やせるかが、今後のカギとなりそうだ。

側面にまで画面が回り込んでいるのは本製品の特徴だが、側面も反応してしまい使いづらく感じる場合は、アプリ単位でオフにしてしまってもよいだろう
側面をオンにした状態(上)とオフにした状態(下)。オンだと側面にページが回り込むことでページ全体が大きく表示され、その影響で上部の黒帯が狭くなっていることがわかる