山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
ファーウェイ「Mate 30 Pro 5G」
~Google Playストア非対応で、電子書籍はどうやって読む?
2020年5月9日 11:00
ファーウェイの「Mate 30 Pro 5G」は、6.53型の有機ELディスプレイを搭載したAndroidスマートフォンだ。5Gに対応するほか、左右側面まで画面が回り込む超湾曲タイプのディスプレイの採用、4眼カメラの搭載など、同社のラインナップの中ではフラグシップモデルに位置づけられる。
SIMフリーで提供される本製品の最大の目玉は、現時点では数少ない5Gに対応していることだが、もう1つ注目なのは、Googleモバイルサービス(GMS)に非対応、つまりGoogle Playストアを利用できず、同社独自のアプリストア「AppGallery」との組み合わせでの利用になることだ。
一般的に、Google Playストアに対応していれば、どのような電子書籍ストアアプリが利用できるか、購入前に気にする必要はない。ほぼすべてが対応しているからだ。しかし本製品のようなオリジナルのアプリストアとなると話は別だ。利用したいと思っていた電子書籍ストアが新規の購入はおろか、購入済みコンテンツの閲覧すらできない可能性もある。
今回はメーカーから機材を借用できたので、本製品が電子書籍ユースでどのくらい使えるのか、対応する電子書籍ストアアプリのラインナップを中心にチェックしていく。
画面サイズの割にはスリムな筐体。音量調整もタッチ式
まずハードウェアの特徴をチェックしていこう。本製品の外見上の特徴は、両側面にまで回り込んだディスプレイだ。画面が左右側面にまで及ぶスマホは本製品が初めてではないが、本製品のそれは自然なカーブとともに側面に回り込んでおり、背面のオレンジのパネルとも相まって非常にスタイリッシュだ。
画面サイズは6.53型(2,400×1,176ドット)だが、左右のベゼルが存在しないため、筐体は幅73.1mmと、見た目よりもはるかにスリム。画面サイズがほぼ同じ6.5型のiPhone 11 Pro Maxが横幅が77.8mmあるので、5mm前後もスリムなことになる。それゆえ片手でも握りやすいのが特徴だ。
横幅がスリムな一方、厚みは9.5mmと、現行のスマホの中でもかなり厚い部類に入る。側面にディスプレイを配置することもあり、敢えて薄さを訴求しない設計なのだろう。もっとも前述の横幅のスリムさもあって、実際にはあまり厚みを感じないのも面白い。
側面をディスプレイが占めていることもあり、搭載する物理ボタンは電源ボタンのみ。音量ボタンは、画面のサイドをダブルタップして画面上にスライダを表示し、それをなぞって操作する仕組みだ。同社はこれをサイドタッチ機能と称している。
CPUは同社独自のKirin 990(オクタコア)、メモリは8GB、ストレージは256GB。通信機能は前述のように5G対応が特徴だが、Wi-Fiは11ax非対応で、11ac(Wave2対応)にとどまっている。NFC、防水防塵といった、ハイエンドモデルに欠かせない機能はしっかり抑えている。
バッテリは4,500mAhとかなりの容量。充電はUSB Type-Cで同社独自のHUAWEI SuperCharge方式により最大40W対応とパワフル。ちなみにこれは専用充電器を使った場合で、一般的なUSB PD充電器をつないだところ、18W(9V/2A)での充電が行われることを確認した。
セットアップはAndroidそのもの
本製品はGoogle Playストアには非対応とはいえ、専用OSであるEMUIのベースになっているのはAndroid 10で、セットアップ手順はAndroidのそれと相違ない。HUAWEI IDのログイン画面など、いくつかの独自の画面が挟まることを除けば、フローは一般的だ。以下、代表的な画面を抜粋して紹介する。
独自アプリストア「AppGallery」に国内電子書籍ストアアプリは実質皆無
さて、電子書籍まわりについて、確認すべき点を順を追ってチェックしていこう。コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を、テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「グッド・バイ」を用いている。
本製品はGoogle Playストアには非対応であるため、独自のアプリストア「AppGallery」からアプリをインストールして使用する。同ストアを開くと「書籍」というカテゴリーが用意されており、その中にさまざまなアプリが並んでいる。この中から電子書籍を読むためのアプリを探すことになる。
しかしこの「書籍」は、ニュースアプリやRSSリーダーなど、厳密には電子書籍でないアプリも多数含まれるほか、タイトルの8~9割は中国語だ。上位から500件ほどチェックしたかぎりでは、日本でお馴染みの電子書籍ストアは旧イーブックジャパンの「ebiReader」くらいしかない。今は亡きWindows 10 Mobileでの電子書籍アプリの品揃えを彷彿とさせる。
しかもその「ebiReader」、日本国内ではすでに後継の「ebookjapan」アプリに入れ替わっており、5月26日で運用停止が予告されている。現時点ですでに、読めるのは旧イーブックジャパン時代に購入したコンテンツの一部だけで、新規購入も不可能だ。事実上ないものと考えたほうがよい。
もっとも調べていくと「高速アプリ」と名付けられたカテゴリの中に、ebookjapanの新しいアイコンを使ったアプリがあるのを発見した。こちらを使えば現行のebookjapanのサイトを開いて購入済みタイトルを表示できるほか、新規購入も問題なく行なえる。ただよく見ると、ほかのAndroidスマホでアプリ経由で見るのとはデザインが大きく違っている。
じつはこの「高速アプリ」、正確にはアプリではなく、ブラウザビューアを呼び出しているにすぎない。筆者が見たのはブラウザ版のトップページだったため、デザインに違和感があったというわけだ。実際、アドレスバーが非表示でスッキリしていることを除けば、通常のブラウザでホーム画面にショートカットを置くのと大差ない。
そうした意味では、ブラウザビューアが用意されている電子書籍ストアであれば、そちらに直接アクセスしたほうがよい。たとえばKindleの場合、「Kindleマンガ」を呼び出せばコミックを読める。ブラウザ(HUAWEI Browser)を夜間モードに切り替えると、画面上の余白がほぼ真っ黒になるので、背景色と相まって没入感が高まる。
ちなみに本製品は筐体両側面までディスプレイが広がっており、コミックはこれらの領域まで用いて表示される。それゆえ正面から見るとページ左右の余白がカットされたようになり、本製品よりも幅のあるiPhone 11 Pro Maxよりも、コミックのページは一回り大きく表示される。筐体サイズから想像されるよりも大きく表示されるのが面白い。
ブラウザビューアの活用のほか、別のアプリストアを使う手も
電子書籍を楽しむためのもう1つの方法は、本製品のアプリストア「AppGallery」を使わず、別のアプリストアを経由し、電子書籍ストアアプリをインストールする方法だ。メジャーどころではAmazonが用意している「Androidアプリストア」がそれで、これを使えば前述のebookjapanアプリに加え、Kindleアプリをインストールできる。
もっともこの方法を使ったからと言って、お目当ての電子書籍ストアアプリが見つかるとは限らない。前述のブラウザビューアにしても、電子書籍ストアがその仕組みを用意していなければ話にならない。電子書籍ストアにこだわらなければ解決策はいくつもあるが、特定のストアが使えるかは総じて運次第といった印象だ。
ちなみに解像度やページめくりの挙動など、表示性能や操作性には大きな問題はないが、一点だけ難があるのは、本製品独自のナビゲーションだ。本製品はシステムナビゲーションを2種類から選べるのだが、ここで「ジェスチャー」を選択していると、画面の左端から内側にスワイプする動きが、画面を戻るためのジェスチャーになってしまう。
つまり、読書中にページをめくったつもりが、前の画面、つまりライブラリの画面に戻るという事態が発生してしまう。これを避けるには「ジェスチャー」ではなく「3つのキーによるナビゲーション」を選択しておけば、従来のAndroidと同じ操作方法になり、ページめくりも気を使わずに行なえるようになる。
最後にもう1つ、エアジェスチャー機能に含まれる「エアスクロール」にも触れておこう。これは画面の手前20~40cmの距離で手をかざし、画面に触れることなくスクロールが行える機能だ。具体的な動きは動画を参照いただきたいが、画面に手をかざしてアイコンが表示されたら、手招きするか、もしくはその逆の動きをすることで、画面が上下に1画面単位でスクロールする。
左右スクロールの機能はないが、たとえば前述のebookjapanのブラウザビューアでは、スクロールの方向を横ではなく縦にできるので、電子書籍の閲覧に使うこともできる。ライブラリや、あるいは(動画内で紹介しているように)ストアのランキングページをスクロールする用途でも、使い道はありそうだ。
ただしこの機能を使う時は、スマホから完全に手を離した状態で操作することになるので、どちらかというと電子書籍ではなく、料理をしながらレシピを確認するといった用途のほうが適切だ。またジェスチャー1回での移動量が決まっているので、長距離スクロールでは逆にストレスになる可能性はある。
必要どころのアプリをどれだけ増やせるか
以上ざっと使ってみたが、本製品で電子書籍を読むには、ブラウザビューアを使うか、あるいはほかのアプリストア経由でアプリをインストールするか、現時点ではこの2択となる。既存のAndroidスマホ、およびiPhoneに慣れていると、物足りなさを感じるだろう。
一方で、ハードウェアとしての完成度は高く、画面の大きさの割には筐体はスリムで持ちやすく、またレザー風の加工を施した背面カバーは高級感もあり、所有欲を満たしてくれる。ただしここまで見てきたように、ソフトウェア面では付け焼き刃の印象は少なからずあり、本製品の課題はまさにそこにあると言えそうだ。
Google Playストア非対応であるが故の問題は電子書籍だけでなく、ほかのジャンルのアプリにも言えることで、もう少し長い目で見ていく必要があるだろう(ちなみに著名どころではLINEに非対応だ)。「高速アプリ」という仕組みはさておき、必要どころのアプリをどれだけ急いで増やせるかが、今後のカギとなりそうだ。