山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Alexaハンズフリーに対応した5,980円からのAmazon「Fire 7(第9世代)」

Fire 7(第9世代)

 Amazonの「Fire 7(第9世代)」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonが提供するデジタルコンテンツを楽しむための7型タブレットだ。5,980円から入手可能なリーズナブルさに加えて、新たにAlexaハンズフリーに対応したのが大きな売りだ。

 7型、8型、10型という3つのモデルが定期的にマイナーチェンジを行なっている「Fire」シリーズだが、この7型モデルはエントリークラスの製品ということもあってか、マイナーチェンジの頻度もメインストリームの8型モデルに比べて低めだ。今回の第9世代モデルは、2017年以来、約2年ぶりのリニューアルとなる。

 どちらかというとリーズナブルな価格が注目されがちな「Fire 7」だが、今回は音声アシスタントAlexa搭載という新基軸を打ち出してきている。しかし実際には本体のハードウェアもかなり強化されているほか、Fire OSもAndroid 7.1ベースとなるなど、全体的に進化の跡が見られる。本稿では発売されたばかりの市販品を用いたレビューをお届けする。

製品外観。従来と同じく、通常では縦向きで使うことを想定したデザイン
横向きで使うこともできるが、アスペクト比の関係で天地はやや窮屈で、あまり実用的ではない
側面にはmicroSDスロットが用意される。対応容量は256GBから512GBへと増加している
上部には電源ボタン、Micro USBコネクタ、イヤフォンジャック、音量ボタンが用意される。配置は従来と同じだが、ボタンの色がFire HD 8と同じくブラックに改められた

容量が上がって価格は安く。性能はおよそ3割アップ

 まずは従来モデルとの比較から。

【表】Fire 7シリーズのスペック
Fire 7(第9世代)Fire 7(第7世代)Fire(第5世代)
発売年月2019年6月2017年6月2015年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ ※最厚部)192×115×9.6mm191×115×10.6mm
重量約286g約295g約313g
CPUクアッドコア1.3GHz×4
RAM1GB
画面サイズ/解像度7型/1,024×600ドット(171ppi)
通信方式IEEE 802.11a/b/g/nIEEE 802.11b/g/n
内蔵ストレージ16GB(ユーザー領域9.4GB)
32GB (ユーザー領域23.6GB)
8GB(ユーザー領域4.5GB)
16GB (ユーザー領域11.6GB)
8GB(ユーザー領域5GB)
16GB (ユーザー領域11.6GB)
バッテリー持続時間(メーカー公称値)7時間8時間7時間
スピーカーモノラル
microSDカードスロット○(512GBまで)○(256GBまで)○(200GBまで)
Alexa-
価格(発売時)5,980円(16GB)
7,980円(32GB)
8,980円(8GB)
10,980円(16GB)
備考--16GBモデルは2016年4月に追加

 これを見るとわかるように、従来の第7世代モデルとの大きな違いは、容量が増えて価格が下がったことだ。同じ16GBモデルで比較すると、従来は10,980円だったのが、今回は5,980円と、4割近く安くなっている。相変わらずの価格破壊力だ。また新たに32GBモデルがラインナップされている。

 このほか、細かく見ていくと、重量が10g弱軽くなっていたり、microSDの対応容量が256GBから512GBへと倍増しているほか、バッテリ駆動時間がわずかに短くなっていたりと、プラスもあればマイナスもある。

 ストレージのユーザー使用可能領域が2GB以上減っているが、これは従来Android 5.1をベースにしていたFire OSが、Android 7.1ベースに改められたのが理由のようだ。本製品の上位モデルに当たるFire HD 8も、昨年(2018年)発売された第8世代モデルでFire OSがAndroid 7.1ベースになったとき、ユーザー領域が11.1GBから9.6GBへと減少している。

 これだけ見るとマイナーチェンジ程度の違いに見えるが、ベンチマークを取ってみると、従来モデルよりはるかに高いスコアを叩き出して驚かされる。具体的には、Ice Storm Unlimitedのスコアが「4638」だったのが、「6150」となり、Fire HD 8の「6004」をも上回っている。およそ3割アップといったところだ。

 それもそのはず、じつは本製品はSoCがFire HD 8相当にグレードアップしている。開発者ページによると、従来はMediaTek MT8127(32bitクアッドコア)だったのが本製品はMediaTek MT8163V/B(64bitクアッドコア)と64bit化をはたしている(ただしカーネルは32bit)。

 またCPUも、Arm Cortex-A7(1.3GHz)から、Fire HD 8と同じArm Cortex-A53(1.3GHz)へ、GPUはArm Mali-450 MP4からArm Mali-T720 MP2へと差し替えられている。ハードが一新されているにもかかわらず、製品ページでは単に「クアッドコア1.3GHz×4」などとしか書かず、むしろAlexa対応を前面に出しているのが、じつにAmazonらしいと言えばらしい。

左が本製品(第9世代)、右が第7世代。外観の変化はほぼないが、ベースとなるAndroidのバージョンが異なるためか、アイコンがひとまわり小さくなり、間隔が広がっている
背面。従来の「Amazon」ロゴが、おなじみの矢印状のロゴマークへと差し替えられている。このほかスピーカーも側面へと移動し、背面左下から姿を消している
Fire HD 8(右)との比較。画面サイズの差は1インチとはいえ、かなりの面積差がある
iPad mini(第5世代)との比較。天地のサイズは近いが、横幅がまったく異なる
厚みの比較。いずれも左側が本製品、右が上から第7世代モデル、Fire HD 8、iPad mini(第5世代)。決して薄型とは言えない厚みだ
ベンチマークアプリ3DMark「Ice Storm Unlimited」によるスコアの比較。左が本製品、右が従来モデル(第7世代)。スコアはおよそ3割アップといったところだ

外観はほぼ同一。セットアップ手順は小変更あり

 外観およびセットアップ回りの手順を見ていこう。なお本稿執筆時点でのFire OSのバージョンは「6.3.1.2」となっている。

 パッケージは従来と同じフラストレーション・フリー仕様で、同梱物についても違いはない。外観はほとんど見分けがつかないレベルで、約10gという重量の相違も、持って気がつくことはまずない。プラスチック感の強い筐体、指紋が付きやすい画面など、チープさを感じさせる部分もそのままだ。

 ただしよく見ると、背面の「Amazon」ロゴが、Amazonの段ボールなどでおなじみの矢印マークに差し替わっているほか、背面下にあったスピーカーが側面に移動するなど、細部に違いが見られる。上面の電源ボタンおよび音量調整ボタンが、従来モデルではシルバーだったのがブラックに改められたのも相違点だ。

外箱は従来と同じフラストレーション・フリー・パッケージ仕様
ミシン目に沿って開封する
同梱物一覧。従来と同じく、各国語版の保証書とスタートガイド、USBケーブル、USB-ACアダプタが付属する
USB ACアダプタの形状は従来モデルと同一
従来モデルと異なり、側面にスピーカーを備える
従来モデルではスピーカーは背面左下にあった。Alexaの利用を前提とした変更と見られる
上面、ボタンやポート類の配置は同じだが、従来モデル(下)と異なり、ボタンの色が黒に改められている。目視で確認しにくく、個人的にはマイナス評価だ
このほかの相違点として、ロック画面では従来モデル(右)ではなかった検索窓が追加されている

 セットアップの手順は、AlexaおよびFreeTimeの手順が追加された一方、以前あったSNS接続の設定画面がなくなっている。機能としてはなくなったわけではないのだが、もはやあまり注力されていない印象だ。

 また購入時点ですでにユーザーのアカウントが登録されている仕組みも廃止されたようで、Amazonのサイトから購入しても、アカウントの手入力が必要だ。詳しい発表がないので不明だが、先日発売されたKindle(第10世代)も同じ仕様で、コストの関係で省かれたと考えるのが妥当だろう。

電源を入れてセットアップ開始。まずは言語を選択
SSIDを選んでパスワードを入力する。詳細オプションからはプロキシやDHCPのオン/オフが設定できる
従来はAmazonのサイトから購入すると、開封した時点ですでにアカウントが登録されていたが、手動登録へと変更されたようだ
クラウド上にほかのFireシリーズのバックアップが存在する場合は、復元するか否かを尋ねられる
オプションを選択する。Fire HD 8と同様、以前はこの画面にあったバックアップにまつわる選択項目がなくなった。また次画面、SNSへの登録画面も省かれている(いずれも機能自体は存在している)
ソフトウェアアップデートが行なわれたあと、Alexaを有効にするかを尋ねられる。今回新しく加わった画面だ
子供向けの設定を行なうための「FreeTime」の設定画面が追加されている
Kindle Unlimitedの申込画面。必要なければスキップして先へと進む
おすすめの本やTV番組、アプリ、ゲームの導入を促す画面が相次いで表示される
以上でセットアップ完了。数ページにわたるチュートリアルが表示されたのち、ホーム画面が表示される

ホーム画面ほかは順当に進化。Alexaまわりの項目が追加に

 ホーム画面は、デザインそのものは従来と同じなのだが、昨年(2018年)発売のFire HD 8と同じく、上段の「本」、「ビデオ」、「ゲーム」などの並びにあった「最近使ったコンテンツ」が「おすすめ」へと再編されている。

 また画面上から下にスワイプすると表示されるクイック設定には、Alexaのハンズフリーモードを有効にするためのアイコンが追加されている。上記のホーム画面の「おすすめ」は、従来モデルをアップデートしても同じ仕様になるが、このAlexa関連の項目については、本製品、つまり第9世代モデルのみの対応となる。

 このほか、設定画面では各項目の下に詳細が記載されるようになったことで、特定の項目を探しやすくなった。これは昨年発売のFire HD 8や、今年(2019年)春に発売されたKindle(第10世代)でも採用されていた機能で、使い勝手からして大きなプラスだ。全体としては、順当な進化と言えるだろう。

 ただしばらく試用したかぎりでは、前述のベンチマークにあった、約3割の性能向上は実感できない。スクロールなどの基本操作はとくに問題なくとも、メニューの切り替えのような操作ではなかなかスパッと画面が切り替わらず、ストレスを感じる従来の特徴は相変わらずだ。エントリーモデルの域を出ないことは、念頭に置いておいたほうがよいだろう。

ホーム画面。Alexaアプリや、FreeTimeのアイコンが新たに追加されている
画面を上端から下へとスワイプするとクイック設定画面が表示される。従来なかったAlexaのアイコンが追加されている
ホーム画面を左右にスワイプすることでコンテンツページが表示される。これはおすすめ画面で、下段にはニューストレンドが表示されている。タップするとブラウザ(Silk)が起動する
「本」カテゴリ
「ビデオ」カテゴリ
「ゲーム」カテゴリ
「ストア」カテゴリ。ここのみデジタルコンテンツでないせいか背景色が白だ
「アプリ」カテゴリ
「ミュージック」カテゴリ
設定画面。項目の下に詳細な項目が記載されるようになり、目的の項目をより探しやすくなった

表示性能はあくまで必要最小限

 続いて電子書籍ユースで重要な、画面回りの表示性能について見ていこう。

 本製品の解像度は1,024×600ドット(171ppi)ということで、現行のタブレットとしてはあくまで必要最小限であり、品質を期待するレベルではない。テキストの場合、文庫本と同等の文字サイズにするとジャギーが目立つし、また作画密度が高いコミックは、細い線がつぶれたり、斜め方向の線がカクカクするなどの問題が随所に見られる。

 これら品質は、同じコンテンツを別の高解像度デバイスで表示したことであればかなりつらいはずで、価格相応の割り切りが必要になる。たとえば動画の場合、AmazonビデオでHD(高画質)を購入しても標準画質での再生となるので、すでにほかの高解像度デバイスを所有しているならば、本製品の表示性能をシミュレーションするのに役立つかもしれない。

テキストコンテンツ(太宰治著「グッド・バイ」)の比較。上段左が本製品(171ppi)、上段右が第7世代モデル(171ppi)、下段左がFire HD 8(189ppi)、下段右が第5世代のiPad mini(326ppi)。解像度の差をそのまま反映したディティールだ。171ppiと189ppiの差は意外にあることがわかる
コミック(うめ著「大東京トイボックス 1巻」)の比較。上段左が本製品(171ppi)、上段右が第7世代モデル(171ppi)、下段左がFire HD 8(189ppi)、下段右が第5世代のiPad mini(326ppi)。斜め方向の線の滑らかさがまったく異なる

 画面サイズについては、7型まではギリギリ片手で握れるのに対して、8型はかなり難しいので、上位のFire HD 8とどちらを買うか悩んでいるようであれば、そこが1つの判断基準になるだろう。

 とはいえ本製品も、ベゼルの厚みはそれなりにあり、6.5型のiPhone XS MaxやPixel 3 XL/3a XLなど現行の大画面スマートフォンと比べると、あきらかに大柄だ。本製品はあくまでも家庭内で使うためのタブレットであり、スマートフォンのように持ち歩きを前提としたデバイスとはまったく異なることを、あらためて実感させられる。

左が本製品、右が従来の第7世代モデル。見た目はまったく同じだ
左が本製品、右がFire HD 8。ひとまわり大きく、解像度もわずかに高い。ただし片手で持つのは難しく、本製品との違いとなる
左が本製品、右がiPad mini(第5世代)。解像度の違いよりもむしろ画面サイズの差が目立つ
iPad mini(第5世代)を見開き表示にした状態。単ページあたりの表示サイズはさすがに本製品のほうが上だ
6.5型のiPhone XS Max(右)との比較。画面サイズが0.5インチしか違っていないとは思えないほど表面積に差がある
読書中のメニューなどは、Android 7.1ベースとなったためか、見た目は若干違っているが、機能的には相違はない。ハイライト、メモ、辞書検索などの機能も同様だ
セットアップ画面からは省かれたSNS連携機能だが、テキストコンテンツを表示してのシェア機能としてはTwitter、Facebookともに健在だ
ブルーライトをカットするBlue Shade機能も搭載。オン・オフは画面上のクイック設定から行なえる

ライバルはFire HD 8。Alexaは差別化要因になりにくい?

 以上のように、トータルでは価格相応と言える部分は多いものの、性能自体は従来モデルに比べて強化されていることに加えて、Alexaを搭載し、なおかつ容量が増えて価格が下がるなど、製品としては順当に進化していることがわかる。

 表示性能はもう少しがんばってほしいところだが、Fireシリーズのほかの製品とのバランス上、これ以上上げられない事情も理解できる。そうした位置づけを知った上で、予算がかぎられている人、家族もしくは子供向けにどうしても独立したデバイスが1台必要な場合の候補ということになるだろう。

 そんな本製品のライバルとなるのはずばり「Fire HD 8」だろう。価格は8,980円とワンランク上になるが、SoCやCPUが本製品と同等であることに加え、解像度も高く、また画面もひとまわり大きいので、コミックの見開き表示も(文庫本サイズ程度だが)できなくはない。

 Fire HD 8はAlexaに対応しない(正確には日本語版で無効化されている)ので、Alexa対応を条件にするならば本製品が有利だが、Fire HD 10のような「Showモード」には対応しないので、手が離せないときの調べ物の補助としては使えるが、スマートスピーカーを置き換えられるレベルではない。

 現行のFire HD 8は2018年発売のモデルで、いつ新製品が出てきてもおかしくない点は留意する必要はあるが、Alexaが不要ならば有力な選択肢になることは間違いない。また今後Fire HD 8が海外版と同様にAlexaに対応することがあれば、そのときは文句なしにFire HD 8のほうがおすすめということになるだろう。

Alexaの設定画面。ホームボタンを長押しせずにウェイクワードだけで呼び出せるハンズフリーモードはサポートするが、専用のスタンバイ画面を表示する「Showモード」はサポートしない
ハンズフリーモードをオンにしておけば常時Alexaが有効になり、読書中でも呼び出せるようになる。起動するとホームボタン上に青色のバーが表示される