山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
ファーウェイ「MediaPad M5 lite 8"」
~LTEモデルでも2万円台後半で入手可能な8型タブレット
2019年7月26日 11:00
ファーウェイの「MediaPad M5 lite 8"」は、Android 9 Pieを搭載した8型タブレットだ。Wi-Fiモデルが実売2万円台前半、LTEモデルも2万円台後半から購入できるなど、リーズナブルな価格設定が際立つ一品だ。
7~8型のタブレットはその可搬性の高さから国内では人気が高いカテゴリだが、実際にはiPad mini一強と言っていい状態にあり、近年は各社から新製品が投入される機会も減りつつある。しばらくモデルチェンジが行なわれていなかったiPad miniが今春リニューアルしたことで、一極集中の傾向は今後ますます強まる可能性も高い。
こうしたなかでほぼ唯一、継続的に8型クラスのタブレットをリリースし続けているのがファーウェイで、5月に登場した本製品は、スペックはミドルエンドながら、ひととおりの機能をざっと抑えつつ、リーズナブルなプライスを特徴とする製品だ。
今回はメーカーから借用したLTEモデルをもとに、電子書籍ユースにおける本製品の使い勝手を、iPad mini(第5世代)や、Fire HD 8(第8世代)と比較しながらチェックしていく。プリインストールソフトやベンチマーク回りの評価は、掲載済みの西川氏のレビュー(LTE対応で3万円切りの高コスパ8型Androidタブレット「MediaPad M5 lite」)もチェックしていただきたい。
外観はFire HD 8に酷似も、性能は圧倒的に上
まずは仕様をざっと比較してみよう。iPad mini(第5世代)とFire HD 8(第8世代)に加えて、スペック的には本製品よりも上位となる、型番に「lite」を含まない8.4型モデル「MediaPad M5 8.4"」も併せて見ていく。
【表】スペック比較 | ||||
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MediaPad M5 lite 8" | Fire HD 8(第8世代) | iPad mini(第5世代) | MediaPad M5 8.4" | |
発売 | 2019年5月 | 2018年10月 | 2019年4月 | 2018年5月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 204.2×122.2×8.2mm | 214×128×9.7mm | 203.2×134.8×6.1mm | 212.6×124.8×7.3mm |
重量 | 310 g | 約369g | 300.5g | 約320g |
OS | Android 9 | Fire OS | iOS 12 | Android 8.0 |
CPU | HUAWEI Kirin710 オクタコア (4 x 2.2 GHz + 4 x 1.7 GHz) | クアッドコア1.3GHz×4 | 64ビットアーキテクチャ搭載A12 BionicチップNeural Engine組み込み型M12コプロセッサ | HUAWEI Kirin 960 オクタコア(4xCortex-A73 2.4GHz + 4xCortex-A53 1.8GHz) |
メモリ | 3GB | 1.5GB | 3GB | 4GB |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,920×1,200ドット(283ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi) | 8.4型/2,560×1,600ドット(359ppi) |
通信方式 | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n | 802.11ac MIMO対応HT80 | 802.11a/b/g/n/ac |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 5,100mAh(10.6時間のビデオ再生と62時間の音楽再生) | 10時間 | 最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生) | 5,100mAh(1080p動画を11時間再生可能) |
コネクタ | Micro USB | Micro USB | Lightning | USB Type-C |
microSDカード | ○ | ○(400GBまで) | - | ○ |
直販サイト価格(発売時) | 24,710円(32GB) | 8,980円(16GB) 10,980円(32GB) | 45,800円(64GB) 62,800円(256GB) | 37,800円 |
本製品は、画面がワイド比率ゆえ、アスペクト比4:3のiPad miniよりも、もう1つの比較対象であるFire HD 8に外観および画面サイズは酷似している。もっとも解像度は、200ppiを下回っているFire HD 8よりもはるかに高い上、重量も50g以上軽いなど、スペックとしてははるかに上だ。後述するが、レスポンスも圧倒的に高速である。
iPad miniと比較した場合、全体的に筐体が細長いものの、長辺のサイズや重量もよく似ている。解像度はやや及ばないが、それでも300ppi前後ではあるので、表示性能は同等クラスと言っていい。
それでいて価格は、2万円台の前半から入手できるということで、訴求力が高い。容量は32GBなのでiPad miniには及ばないが、microSDカードによる容量追加にも対応しているので、自由度は高い。iPad miniは予算的に厳しいユーザに合致する製品と言えるだろう。
SoCは同社nova lite 3にも使われているミドルエンド向けのKirin710で、上位モデルに当たる「MediaPad M5 8.4"」のKirin 960ほどのハイエンドではない。iPad miniとの最大の違いを挙げるならばここだろう。
多少気になるのは、USBがType-CではなくMicroで2019年発売のモデルとしてはやや古いこと、および厚みが8.2mmと、iPad miniの6.1mmと比べると分厚いことだ。iPad miniが薄すぎるのもあるが、2mmも差があると、手に持った時の印象はかなり異なる。
なお上位モデル「MediaPad M5 8.4"」は、発売は約1年前と古いが、スペック的にはこちらのほうがiPad mini(第5世代)に近く、価格も本製品より上ながらiPad miniよりも安価(実売3万円台前半)なので、最新機種にこだわらずに探すならば選択肢に入ってくる。興味のある方は、該当製品の筆者レビュー(ファーウェイ「MediaPad M5」)も参照いただきたい。
Androidタブレットとしては一般的。USBポートの位置が気になる?
セットアップ手順は一般的なAndroid 9のそれに、ファーウェイ独自のEMUI関連の設定が加わっており、手順の数はやや多め。プリインストールアプリはGoogle製アプリ+ファーウェイの独自アプリといったラインナップで、全体的にシンプルだ。電子書籍アプリはプリインストールされていない。
ホーム画面はAndroidの一般的なそれだが、画面を横向きにした時に、ホームボタンなどを含むナビゲーションバーが画面の下から横(右端)に移動するため、横向きで使う場合でも天地が圧迫されないのはメリットだ。またこのナビゲーションバー自体を非表示にし、ジェスチャー操作に一本化することもできる。
iPad miniおよびFire HD 8と比べた場合に違いとして挙げられるのがセキュリティだ。iPad miniはTouch IDによる指紋認証にのみ対応しているが、本製品は指紋認証は非対応で、顔認証にのみ対応している。
最近のスマートフォンでは、指紋認証と顔認証の両方に対応した製品が増えており、そうした仕様が理想ではあるが、このあたりはコスト的にもやむを得ないだろう。パスワードもしくはPINにしか対応しないFire HD 8よりはよほどいい。
しばらく実際に使ってみて気になったのが、USBポートが底面の中央ではなく、かなり右寄りに配置されていることだ。おそらくスピーカーを中央に配置するのを優先したためだろうが、市販のタブレットスタンドなどはUSBポートが中央にある前提で設計されている場合が多く、こうしたアクセサリとの組み合わせでは、不便に感じることもありそうだ。
また背面のカメラはやや突起があるため、最薄部で比較するとFire HD 8(9.7mm)よりも1.5mm薄いが、カメラの厚みを加えた最厚部で比較すると、両者の厚みにそれほど違いはない。カメラ部の厚みは実測9.6mmあるので、実質ほぼイーブンだ。
解像度も十分、コミックの見開き表示にも対応可能
電子書籍ユースについて見ていこう。とくに断りがないかぎり、ストアはKindleストアを利用している。テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「グッド・バイ」を、コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いている。
本製品は8型ということで、縦向きではコミックのほぼ原寸表示が可能だ。表示サイズはFire HD 8とはほぼ同等で、iPad miniはアスペクト比の関係で、本製品のほうがひとまわり小さくなる。
本体を横向きにしての見開き表示も可能だ。さすがに天地サイズは窮屈だが、解像度が283ppiあるため、見開きになると細い線がまるで描写できないといった問題はない。200ppiを切っているせいで見開きにすると細部がつぶれるFire HD 8(189ppi)とは、ここが最大の違いだ。
一方で、従来から同社の7~8型クラスのタブレットにみられる問題は、本製品でも解決されていない。それはKindleなど一部の電子書籍ストアアプリで、画面を横向きに固定している場合でも、ホーム画面やライブラリ、ストアの画面などが強制的に縦向きになることだ。
そのため本製品では、見開きで読んでいた本を閉じて、次の本を開こうとライブラリに戻ると、そのたびに画面が90度回転して縦向きになってしまう。確認したかぎりではKindleのほか、楽天Koboやebookjapanでも同様の症状が見られ、快適な利用を妨げてしまっている。
この問題は「ローテーションコントロールPro」など、アプリごとに向きを制御できるアプリを導入することで回避できるが、他社の7~8型クラスのタブレットではお目にかからず、ファーウェイ製品でのみ以前から集中的に発生している問題なので、そろそろタブレット側での解決を望みたいところだ。
ただし本製品は、画面が横向きだとナビゲーションバーが画面右に配置される仕様なので、外部アプリを使うなどの力技で画面を横向きに固定してしまえば、ナビゲーションバーが画面下に配置されるほかの8型タブレットよりも、天地が息苦しくないという利点がある。工夫次第でメリットになることもありそうだ。
選択肢が減りつつある7~8型タブレットのなかでも貴重な製品
以上ざっとチェックしたが、解像度などの表示性能まわりはまったく問題ない。それ以外の部分も、前述のように画面が横向き表示にならないなど細かい問題はいくつかあるが、このクラスのタブレットとして完成度は高い印象だ。
パフォーマンスも、ベンチマークではiPad miniに大差をつけられているが、電子書籍ユースでそれらの差を実感する機会はまずない。一方、Fire HD 8と比べると、画面の切り替わりの速さや読み込みの速さなど、性能の差はなにかにつけて実感することが多い。
これに加えて本製品は、Androidならではの、電子書籍ストアアプリ内で本が買えるというメリットがある。なによりFire HD 8と違ってGoogle Playストアが利用できるのは大きな強みだ。また(見開き表示ではボタンの左右が逆になるが)音量ボタンでページめくりが行なえるのも利点だろう。
以上を総合すると、iPad miniでは価格的に条件に見合わず、またKindle以外の電子書籍ストアや、さまざまなアプリが使える汎用性の高さ、および実用レベルの性能と利便性の高さに魅力を感じる人に向いた製品と言える。Androidで競合が減りつつあるなか、これだけの総合力がある製品は貴重だ。
なお画面を横向きにした状態では、スピーカーが左右に配置されるので、動画鑑賞にも向く。もともと本製品はHarman Kardonのチューニングによるスピーカー性能が1つの売りであり、電子書籍に加えて動画鑑賞を楽しみたいユーザーにも、とくにおすすめできる製品と言えそうだ。