山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
フルモデルチェンジしスペックも大幅向上した7型タブレット「Amazon Fire 7(第12世代)」
2022年7月27日 06:18
「Fire 7(第12世代)」は、Amazonが販売する7型のメディアタブレットだ。KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonが提供するデジタルコンテンツに最適化されており、実売価格6,980円というリーズナブルな価格が大きな特徴だ。
AmazonのFireタブレットは7型、8型、10型と3つのラインナップが存在するが、8型と10型はすでにUSB Type-Cポートを搭載した新型へのフルモデルチェンジを終えている。今回の本製品のフルモデルチェンジも、その路線上にあるものだ。
スペックは決して高くはないものの、片手で握れるコンパクトさと、1万円を切るリーズナブルさで人気が高いこの「Fire 7」だが、今回の新モデルはそうした立ち位置に変化はあるのだろうか。筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心としたレビューをお届けする。
フルモデルチェンジしUSB Type-C採用、スペックも大幅向上
まずは従来モデルとの比較から。
Fire 7(第12世代) | Fire 7(第9世代) | Fire 7(第7世代) | Fire(第5世代) | |
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発売年月 | 2022年6月 | 2019年6月 | 2017年6月 | 2015年9月 |
サイズ(最厚部) | 181×118×9.7 mm | 192×115×9.6mm | 192×115×9.6mm | 191×115×10.6mm |
重量 | 282g | 約286g | 約295g | 約313g |
CPU | 2.0GHz クアッドコアプロセッサ | クアッドコア1.3GHz×4 | クアッドコア1.3GHz×4 | クアッドコア1.3GHz×4 |
RAM | 2GB | 1GB | 1GB | 1GB |
画面サイズ/解像度 | 7型/1,024×600ドット(171ppi) | 7型/1,024×600ドット(171ppi) | 7型/1,024×600ドット(171ppi) | 7型/1,024×600ドット(171ppi) |
通信方式 | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n | 802.11a/b/g/n | 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 16GB(使用可能領域 9.5GB) | 16GB(ユーザー領域9.4GB) 32GB (ユーザー領域23.6GB) | 8GB(ユーザー領域4.5GB) 16GB (ユーザー領域11.6GB) | 8GB(ユーザー領域5GB) 16GB (ユーザー領域11.6GB) |
バッテリー持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間 | 7時間 | 8時間 | 7時間 |
外部ポート | USB Type-C | microB | microB | microB |
スピーカー | あり | モノラル | モノラル | モノラル |
microSDカードスロット | ○(1TBまで) | ○(512GBまで) | ○(256GBまで) | ○(200GBまで) |
Alexa | ハンズモードのみ | ハンズモードのみ | - | - |
価格(発売時) | 6,980円(16GB) | 5,980円(16GB) 7,980円(32GB) | 8,980円(8GB) 10,980円(16GB) | 8,980円(8GB) 10,980円(16GB) |
備考 | ‐ | 16GBモデルは2016年4月に追加 |
3年ぶりのモデルチェンジとなった本製品だが、最大の違いはこれまで短辺側にあった前面カメラが長辺側へと移動したことだ。画面を横向きにした時に前面カメラが上部に来る配置、と言ったほうがわかりやすいかもしれない。これにより、全体的に細長かった筐体が短くなり、見た目にはずいぶんとコンパクトになった。
また長辺側も、前面カメラが移動してきたことによる幅の増加もごくわずか(3mm)で、手に持っても違いはほとんど感じない。片手でボディを握れるサイズという7型Fireの特徴を継承しつつ、全長が短く、コンパクトになったことになる。
スペック面では、クアッドコアであることに変わりはないが、従来まで3世代にわたって1.3GHzだったクロック数が2GHzへと上がっているほか、メモリも従来の1GBから2GBへと増量されている。その結果、もっさり感はかなり改善されている。ベンチマークは後述する。
バッテリ持続時間は、従来は7時間と、Fireシリーズの中でも短い部類だったが、今回は10時間へと改められている。伸びた理由は不明だが、重量の変化がほとんどないことからして、バッテリ容量を増やしたのではなく、OS側のチューニングによるものかもしれない。
Wi-Fiは、IEEE 802.11axにこそ対応しないものの11acに対応するなど、以前の11n対応に比べて機能が強化されたほか、microSDの上限も512GBから1TBへ、さらに外部ポートはMicro USBからUSB Type-Cに変更されるなど、フォームファクタも一新されている。文字通りのフルモデルチェンジだ。
ただし画面解像度は相変わらず1,024×600ドット(171ppi)のままで、現在市販されているタブレットの中ではもっともローエンドといっていいレベルだ。7型のFireは、かつて存在した「Kindle Fire HD 7」以外はこの解像度で固定となっており、そろそろ高解像度のモデルも見てみたいところだ。
唯一気になるのが、従来存在した32GBモデルがなくなり、16GBモデルのみのラインナップとなったことだ。メモリカードが1TBまで対応するので困ることはそうないのだが、これまでのFire 7は必ず2種類の容量をラインナップしていたので、方向性の変化と言える。32GBモデルがほしければ、Fire HD 8をチョイスするという選択肢もある。
ベンチマークでは従来モデルとの差が一目超然
パッケージは、側面から見ると三角形になったフラストレーションフリー仕様だった従来モデルから箱側へと先祖返りし、上部にブリスターが取り付けられた仕様になっている。すでにFire HD 8は2020年のモデルチェンジで同様の仕様へと変更されており、本製品も追従した格好だ。
同梱品は、本体ポートがUSB Type-Cに代わったことで、ケーブルがUSB A-C仕様に変更になっているが、ケーブル、アダプタに加えてスタートガイドという構成そのものは同様だ。
セットアップ画面は従来とはデザインが一新されている。正確には、従来の第9世代モデルが発売された直後、2019年暮れにFire HD 10がリリースされたタイミングで変更されたデザインが、そのまま採用されている。以前はオレンジを基調とした派手なデザインだったのが、モノトーンの落ち着いたデザインになっている。
セットアップの流れ自体は大きな違いはないが、ロック画面を解除するためのPINもしくはパスワードの登録が必須になったのが、セキュリティ重視の昨今を反映している。ちなみにOSを最新版にアップデートした従来の第9世代モデルを初期化し、セットアップの手順を比較してみたが、これらの流れに目に見える違いはなかった。
ホーム画面は「おすすめ」、「ホーム」、「ライブラリ」という3つのタブに分かれており、かつての「本」、「ゲーム」、「ビデオ」、「ストア」、「アプリ」といった細かい区分は廃止されている。
そのため、多くの操作はホーム画面に並ぶアプリから起動する設計になっている。例えばアプリを新規にインストールしたければ「アプリストア」アイコンを、本を読みたければ「Kindle」アイコンをタップして開くといった具合だ。素のAndroidに近い設計に戻った形で、むしろ馴染みやすいという人も多いのではないだろうか。
「GeekBench 5」によるベンチマークスコアでは、シングルコアで約1.6倍、マルチコアは約3倍と、従来モデルと比較して圧倒的な差がある。体感ではここまでの差はなく、同社がいう「前世代機から最大30%高速化」というキャッチコピーのほうが実情に近いように感じるが、CPUのクロック数の向上、およびメモリの増加が、ダイレクトに影響しているのは間違いない。
解像度は従来と同様。見開き表示は厳しい
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。
解像度は従来と同じく1,024×600ドット(171ppi)と、完全なエントリークラスだ。コミックは細かいディティールや小さな文字がつぶれてしまうので、ディティールの緻密さが売りの作品は、その魅力を引き出せない。もとの作画のディティールがそれほど緻密でなく、かつ単ページ表示であれば、なんとか実用に耐えうるというレベルだ。
またコミック自体以外にも、ライブラリのサムネイルでは、表紙の巻数を表す数字や著者名が低解像度ゆえ読み取りづらいという問題もある。特にこれまで高解像度のデバイスを利用した経験がある人にとっては、これらはかなりストレスだろう。「価格相応」という表現が、これほど似合う製品も珍しい。
ちなみに本製品で見開き表示を行なった場合、6型クラスのスマホで単ページ表示を行なった状態と、画面サイズはおおむね等しくなるのだが、解像度の差は歴然としている。8型のFire HD 8であれば、見開き表示もギリギリ可能なのだが、本製品では見開きでの利用は考えないほうがよいだろう。
その一方でテキストコンテンツについては、フォントサイズを小さくしすぎなければ、という条件はつくものの、それほど支障なく読める。ルビなどは読みにくい上、全体的にエッジがギザギザになりがちだが、どうしてもという場合はフォントサイズを大きくすれば解消されるのだ、向き不向きでいうとコミック表示よりは向いている。
ところで本製品は、Androidアプリと同様に、音量ボタンでページをめくる機能が追加されている。本製品に限らずFire OS 7系列のモデルでは、この音量ボタンでのページめくり機能がアップデートで加わったようだ。Androidから乗り換えた場合に機能不足を感じがちな部分だけに、この改良はプラスだろう。購入した暁にはぜひ活用したいところだ。
新たにdマガジンアプリも利用可能に
ところでFireタブレットは先日新たに「dマガジン」に対応するようになった。解像度的にはかなり無理があるとはいえ、従来はアプリ自体がなかったことを考えると大きな進歩だ。そもそも広い意味ではKindleと競合するアプリであり、追加されたこと自体が革命的な出来事である。
本製品はピンチインアウト、ダブルタップによる拡大縮小はスムーズに行なえるので、部分的に拡大しながらであれば、読むこと自体に問題はない。本製品は従来モデルに比べてWi-Fiも高速化しているので(といってもマイナスがゼロになったレベルだが)、ストリーミングでの表示も実用レベルだ。
ただ、dマガジンの利用を前提にこれからFireタブレットを新規購入するのであれば、本製品ではなく、画面サイズに余裕がある10型モデル「Fire HD 10」などを優先的に考えたほうがよい。本製品はあくまで表示可能というだけで、試すぶんには問題なくとも、快適に読めるわけではないからだ。そのあたりは履き違えないようにしたいところだ。
突如脚光を浴びるようになったFireの「ある付加価値」とは
以上のように、これまでのもっさり感は大幅に改善されており、フォームファクタも一新されている。7型というサイズにこだわりがあり、8型などへの買い替えを考えていないのであれば、過去のモデルからの買い替えにも十分に価値があるだろう。
ところでFireタブレットは、ここに来てある付加価値が注目されるようになった。それは本の続刊をシームレスに購入できることだ。というのもGoogle PlayストアからダウンロードできるKindleアプリは、Google Playストアのポリシー改訂によってアプリ内での本の購入ができなくなり、ブラウザからでないと購入できなくなったからだ。
その点、本製品をはじめとするFireタブレットは、本を読み終えたら続刊をすぐさま購入したり、サンプルを読み終えたあとそのまま画面上で本を購入できる。他のプラットフォームで機能がなくなったことで従来からある機能がメリットとしてフォーカスされるのはあまりよいことではないが、相対的に本製品の価値が高まったのは事実だろう。
こうした利点に加えて、dマガジンへの対応という新しい展開もあり、これまでFireにあまり興味を持たなかったユーザにもアピールできる製品に仕上がっている。依然として見直される気配のない解像度を除けば、隙のないフルモデルチェンジと言えそうだ。