山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Onyx International「BOOX Poke Pro」
~Google Play利用可能、E Ink搭載の6型Android端末
2019年2月4日 11:48
Onyx Internationalの「BOOX Poke Pro」は、6型のE Ink電子ペーパーを搭載したAndroidタブレットだ。KindleやKoboなど、特定の電子書籍ストアと紐づいたE Ink端末と異なり、Google Playストアからさまざまなアプリをインストールして使える汎用のE Ink端末だ。
前回紹介した「BOOX Nova」は7.8型という画面サイズが特徴だったが、本製品は6型ということで、Amazonで言うと「Kindle Paperwhite」、楽天Koboだと「Kobo Clara HD」という、売れ筋と直接競合するモデルだ。ページめくりボタンなし、フロントライト搭載など、特徴もかなり近いものがある。
この両ストアの一方を使うだけならば、それら専用端末を使えばよく、本製品に手を出す必然性はあまりないが、両ストア以外の電子書籍ストアを使いたいか、あるいは複数のストアを併用したい場合は、Google Playストアから任意の電子書籍ストアアプリを導入できる本製品は、魅力的な選択肢ということになる。
もっとも前回の「BOOX Nova」同様、その使い勝手はかなり独特で、Androidタブレットの液晶がE Inkに変わっただけというわけでは決してない。前回同様、国内代理店であるSKTから借用した製品をもとにレビューをお届けする。
他社6型端末とほぼ同等。プラス1万円はむしろ割安な印象
まずは同じ6型サイズのE Ink端末との比較から。参考までに前回の「BOOX Nova」も併記している。
BOOX Poke Pro | Kindle Paperwhite(第10世代) | Kobo Clara HD | BOOX Nova | |
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発売月 | 2018年12月 | 2018年11月 | 2018年6月 | 2018年12月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 160×114×7.8mm | 167×116×8.18mm | 157.0×111.0×8.3mm | 196.3×137×7.7mm |
重量 | 170g | 約182g | 166g | 240g |
画面サイズ/解像度 | 6型/1,072×1,448ドット(300ppi) | 6型/1,072×1,448×ドット(300ppi) | 6型/1,072×1,448ドット(300ppi) | 7.8型/1,404×1,872ドット(300ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 16GB | 約8GB(ユーザー使用可能領域:約6GB) 約32GB(ユーザー使用可能領域:約27GB) | 約8GB | 32GB |
フロントライト | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵(手動調整) |
ページめくり | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ |
防水・防塵機能 | - | あり(IPX8規格準拠) | - | - |
バッテリ持続時間の目安 | 非公開(2,500mAh) | 数週間 明るさ設定10、ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時 | 数週間 | 非公開(2,800mAh) |
発売時価格(税込) | 25,704円 | 13,980円(8GB、広告つき) 15,980円(8GB、広告なし) 15,980円(32GB、広告つき) 17,980円(32GB、広告なし) | 14,904円 | 36,504円 |
備考 | Google Playストアを利用可能 OS : Android 6.0 CPU : 1.6GHz クアッドコア RAM : 2GB | 4Gモデルも存在 | - | Google Playストアを利用可能 OS : Android 6.0 CPU : 1.6GHz クアッドコア RAM : 2GB |
この表からもわかるように、6型のE Ink端末としては比較的ベーシックな仕様だ。サイズや重量はKobo Clara HDにわずかに負けているが、同じ6型のKindle Paperwhiteも含めて、製品の評価に影響をおよぼすような差はない。「同等」と言って差し支えないレベルだ。
ストレージは、Kindle Paperwhiteの32GBモデルにこそおよばないが、それ以外の8GBモデルの倍の容量がある。ただし本製品は読書専用ではないので、その他アプリが使う容量を考えると、それほど潤沢ではない。7.8型の「BOOX Nova」が32GBであることを考えると、やや心もとない印象だ。
解像度を含むE Inkパネルの仕様も、ほかの2製品とほぼ同等。バッテリ容量は「BOOX Nova」と比べてわずかに減っているが、画面サイズが違うので、その違いと考えれば実質イーブンと見てよいだろう。ページめくりボタンはなく、画面下部に物理バックボタンを備える仕様は、従来の「BOOX Nova」と同様だ。
フロントライトについては、暖色系と寒色系を切り替えられるのは利点だが、前回の「BOOX Nova」と違って両者の同時点灯ができないため、つねに暖色寒色どちらか一方を選ばなくてはならない。暖色系を使わないのならば、単純な明るさのコントロールしかできないほかの2製品のほうが、かえって使い勝手はよいように感じる。評価が分かれるポイントだ。
価格については、Kindle PaperwhiteやKobo Clara HDに比べてプラス1万円ほど高価だが、これはデバイスの性格の違いゆえ致し方ないだろう。むしろケースと保護フィルム、チャージャーが付属することを考えると、割安な印象すらある。
独特なセットアップ方法。Google Playストアの有効化がやや厄介
セットアップの手順は前回の「BOOX Nova」と同じで、Wi-FiのセットアップやGoogleアカウントへのログインは後回しとなり、言語および時刻周りの設定だけですぐにホーム画面が表示される。一般的なAndroidデバイスとはかなり異なる。
ホーム画面が表示されたら、設定メニューを開いて、Wi-Fiへの接続設定を行なう。完了すると時刻が自動設定されるのだが、本製品はGPSを搭載していないため、タイムゾーンだけは自前で設定する必要がある。このあたりのフローも「BOOX Nova」と同じだ。
続いて、Google Playストアの有効化を行なう。最初にアプリの管理画面からGoogle Playを有効にしたのち、GSF IDの登録を行なう。GSF IDが自動入力されなければ再起動をかけるか、時間をあけてもう一度トライすれば問題ない。代理店であるSKTのサイトで詳しく紹介されているので、そちらを参考にするとよいだろう。
「BOOX Nova」より軽快でサクサク動く
さて、本製品を実際に使ってみて「おやっ」と驚くのは、前回の「BOOX Nova」に比べてレスポンスが圧倒的に速いことだ。明らかにもっさり感があった「BOOX Nova」と異なり、本製品はきびきびと動作する。CPU(1.6GHz クアッドコア)やメモリ(2GB)といったスペックは相違がないはずなのだが、画面サイズの小ささが、の軽快さにつながっているのかもしれない。
もう1つ考えられる要因は、ホーム画面のデザインだ。新しいファームウェアが採用されていることは「BOOX Nova」と変わらないが、本製品はコンパクトな画面サイズに合わせたのか、メニュー列が左側ではなく下に配置されるなど、全体的に密度の高い、コンパクトなレイアウトになっている。もしかするとこれも高速化の一因かもしれない。
画質については300ppiということで、品質としては問題はないが、標準のモードとA2モードという、2つの表示モードのどちらを選ぶかで、表示の特性は大きく異なる。
具体的には、たとえば標準のモードは全体的にソフトフォーカス気味だがグラデーションは明確に段階があるほか、ストアによっては1ページ単位でめくられない問題があり、コミックでの実用性はあまり高くない。
一方のA2モードは、過剰にシャープネスをかけたようなざらつきはあるがグラデーションはオリジナルに近い滑らかさがあるほか、ページ単位で正確にめくることができ、なにより動作も軽快だ。どの電子書籍ストアを使うかにもよるが(後述)、基本的にはA2モードを用いることになるだろう。
これら表示モードは画面右上から切り替えられるほか、アプリの一覧でアイコンを長押ししたときに表示される「最適化」メニューから、特定のアプリを起動した時のみA2モードを自動オンにする設定が行なえる。標準とA2のどちらがよいかは、利用する電子書籍ストアアプリによっても異なるので、ここで自動的に切り替わるようにしておくとよいだろう。
なお本製品では、画面右上のアイコンが、「BOOX Nova」と一部異なっている。具体的には「BOOX Nova」にあったフロントライトのアイコンが本製品には存在せず、代わりに本製品では使いみちのない「ページめくり/音量切替」アイコンが搭載されている。フロントライト自体は通知領域から呼び出せるので支障はないのだが、少々不思議なチョイスだ。
本製品に向いた電子書籍ストアはどれか
さて、本製品はE Ink端末としてはベーシックな6型サイズゆえ、前回の「BOOX Nova」と異なり、画面サイズで選ばれることは考えにくい。またKindleか楽天Koboのユーザーにとっては、両社の専用端末のほうが価格も安く、きちんと最適化されているため、本製品に手を出す必要はあまりない。
では、電子書籍ユースで本製品が選ばれるのはどのようなケースか。必然性があるとすれば「Kindle・楽天Kobo以外の電子書籍ストアを使いたい場合」および「(Kindle、楽天Koboも含めた)複数の電子書籍ストアを、1台の端末で併用したい場合」にかぎられるだろう。
そこで今回は、Kindle以外の電子書籍ストアアプリと本製品の相性についてチェックしていく。本製品自体、「BOOX Nova」に比べてきびきびと動くため、電子書籍ストアアプリ側で大きな問題がなければ、それらとの組み合わせで、実用的に使えるはずだからだ。
複雑な操作までチェックするとストアごとに記事が1本書けるボリュームになりかねないので、今回は「購入済み本のダウンロード」、「ページめくりを中心とした基本操作」に絞ってチェックを行なっている。対象ストアは楽天Koboのほか、紀伊國屋書店Kinoppy、BookLive!、BOOK☆WALKER、eBookJapan、hontoの6ストアで、アプリはいずれも1月26日時点の最新版を用いている。
楽天Kobo
楽天Koboは、本を開いたり画面を切り替える時のアニメーション効果がややわずらわしいものの、レスポンスは高速で、A2モードはもちろん標準のモードでも実用的に扱える。ページめくりは、タップした場合はエフェクトなしで切り替え、スワイプした場合はスライドエフェクトで切り替えとなるのもわかりやすい。
色は全体的に薄めだが、コミックなどのコンテンツではコントラストもはっきりしており読みやすい。またライブラリ画面で、木目調デザインの本棚のような過剰な装飾がないのも、扱いやすさを高めている。全体的には本製品での利用に非常に向いたストアと言えるだろう。
唯一気をつけたいのは、デフォルト設定そのままだとクーポンプレゼントなどの通知がバンバン飛んでくること。E Inkではそのたびに画面の書き換えを強いられるので、わずらわしい上に電池の消耗にもつながる。普段は通知をオンにしている人も、本製品ではオフにしておいたほうがよいだろう。
紀伊國屋書店Kinoppy
紀伊國屋書店Kinoppyは、回転して切り替わる本棚や、コンテンツを選択すると下にスライドして表示されるメニューなど、随所に存在するアニメーションのエフェクトはやや目障りだが、ログインから本棚への移動、コンテンツのダウンロードから表示まで、フロー自体はスムーズで、全体の流れのなかではそれほど気にならない。
気になるのは色の薄さで、なかでもメニュー類はコントラストが弱く、書いてある文字が読み取れないこともしばしばだ。だ。本来なら最適化メニューで若干濃いめに設定してやりたいところだが、いざ調整すると途端にサムネイルが真っ黒になったり、メニューが真っ白になって文字が見えなくなったりする。しばらく試したかぎりでは、デフォルトのままで使うのが望ましいように感じられた。
ただし全体的に動きはきびきびとしており、A2モードに切り替えなくとも、通常のモードで快適なページめくりが可能だ。ほかのストアに比べると、本製品の相性は良好な部類に入る。
BookLive!(BookLive!Reader)
BookLive!Readerは、ページ送り効果が初期設定では「スライド」になっているのをオフにし、タップ設定を「タップ&フリック」から「左右エリアタップ」に変更する必要があるが、それ以外は全体的に快適に読むことができる。アニメーションのエフェクトはないわけではないが、がまんできないほどではない。
ただし、ダイアログなどで背景との境界線の色が薄いのか、背景に埋没して見分けがつかないケースが散見される。またテキストコンテンツについては、ページ送り効果を「なし」にしていても、スライドによく似た動きが発生し、コマ送りのような動きになってしまう。実質的にコミック専用と考えておいたほうが、がっかりせずに済むだろう。
もう1つ気になったのは、端末の登録台数の上限に達している場合、アプリではなくブラウザから解除を行なわなくてはいけない仕様だ。アプリ、ブラウザ、さらに解除後に戻ってもう一度アプリと、都合3回ものIDとパスワードの入力を強いられるこの仕様は、テキスト入力が苦手な本製品では大きな負担だ。E Ink向けに設定を変えるべき箇所が多い点も考慮すると、あまり積極的に利用をおすすめしない。
BOOK☆WALKER(BN Reader)
BN Readerは、初期設定のページめくりが「スライド」になっているのをオフにする必要があるのと、テキストコンテンツはページ上下左右のマージンがほとんどないので、余白を設定してやらないとそのままでは見にくい問題はあるが、それ以外の操作は支障なく、動作もかなりきびきびとしている。
表示についても、A2モードに切り替えなくとも、通常のモードのまま利用が可能だ。画面を読み込んでいる間、それを知らせるアイコンが表示されない(おそらく背景色に埋没してしまっている)ため、ステータスがわかりにくい場合があるのが、多少気になるくらいだろうか。
木目調の本棚など、画面全体がグレーがかっているケースは多いが、コントラストが比較的はっきりとしているせいか、同様にグレーがかっているほかのサイトに比べると、視認性はそこまで低くない。全体的には快適な利用が可能で、十分におすすめできるレベルだ。
eBookJapan(ebiReader)
ebiReaderは、ざっと使ったかぎり、複数の問題がある。1つはページめくりのスライドエフェクトを解除できないこと。A2モードに切り替えるとレスポンスは大きく向上するが、スライドのエフェクト自体がオフになるわけではない。Kindleほどではないが、目障りなことに変わりはない。
また同ストアの特徴である、本棚の「背表紙表示」モードは、正確なタップが難しい本製品では、きわめて使いにくい。表示モードを「表紙表示」へと切り替えるのは必須だ。
さらに本アプリは、背景色が薄いグレーであることが多いほか、メニュー類のテキストも100%の黒ではなくグレーが使われていることが多いため、コントラストが弱く読みにくい。最適化メニューで調整しようとすると、サムネイルが真っ黒に潰れるなどの問題が発生するので、初期設定のまま使うしかない。
このほか、ボタンが画面の端ギリギリに配置されているせいで、ベゼルの段差に邪魔されてタップできない場合があったりと、ストレスになる箇所はほかのストアよりもかなり多い。個人的には、本製品での利用はあまりおすすめしない。
honto
hontoは、ログイン直後にすぐ本棚が表示されるなど、購入済みコンテンツを読むにはユーザーフレンドリーな仕様で、かつ本棚も装飾が少ないため、E Inkでの表示に向いている。設定画面も見やすく、メニュー類も含めた画面の見やすさは、今回紹介している電子書籍ストアのなかでもトップクラスだ。色合いがやや濃いせいか、視認性が高いのもよい。
残念なのはページめくりのエフェクトが解除できないことで、とくに標準のモードではコミック/テキストを問わず、ページをめくるたびにカクカクした動きになる。そのため、それらが緩和されるA2モードの利用は必須だ。ややざらついたA2モードならではの画面表示を許容できるかが、評価の分かれ目となるだろう。
またコミックに関しては、見開き単位のデータを左右1ページずつ表示する仕様のためか、ページの中心線が左もしくは右にずれていることが多い。これは設定の「見開き表示」のチェックを外せば解消されるが、初期状態でオンになっているためわかりにくい。
とはいえ全体的に挙動はスムーズで、A2モードの表示さえ許容できれば、実用的に使えるレベルだ。なお楽天Koboと同様、デフォルト設定のままだとクーポンの通知が高い頻度で表示されるため、電池の消耗を避けたければ、設定からオフにしておくことをおすすめする。
「BOOX Nova」より良好なレスポンス、ストア選びが肝心
以上ざっと見てきたが、ハードウェアは前回の「BOOX Nova」より軽快でサクサク動くことから、前章で述べた電子書籍ストアアプリのうち、相性のよいものを選んで使えば、快適な読書が楽しめる。言い方を変えれば、ストア選びが肝心なデバイスということになるだろう。
今回試したなかでおすすめのストアを挙げるならば、楽天Kobo、紀伊國屋書店Kinoppy、BOOK☆WALKERの3ストアについては、かなり快適に利用できる。いずれもA2モードでなくとも標準のモードのまま利用可能なのもよい。これらストアを中心に使っているユーザーには、本製品は魅力的なデバイスだろう。
これ以外のストアは、時間をかけてカスタマイズすれば快適に使える可能性はあるが、いずれも初期設定の段階ではE Inkには不向きな挙動が多いほか、A2モードでの表示が必須だったりと、先の3社に比べると積極的にはおすすめしにくい。ちなみにKindleもこのグループで、利用者が多いKindleとの相性の悪さは、少々考えものだ。
それにしても、前回紹介した7.8型の「BOOX Nova」で、本製品並みのレスポンスが実現できていれば、電子書籍ユーザーにとって非常に魅力的だったはずで、かえすがえすも残念だ。本製品はレスポンスなどは良好ながら、見開き表示ができる画面サイズではないからだ。ラインナップごとのムラの解消は、BOOXシリーズの1つの課題と言えそうだ。