やじうまミニレビュー

人気左手デバイス「TourBox」のiPad対応版。動画編集で期待していたけど……

やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。

 左手デバイス「TourBox」シリーズに、iPad対応モデル「TourBox Elite Plus」が登場した。価格は4万3,967円。

 筆者は昨年末に最新のiPad miniを購入し、その性能の向上に驚かされた。特に動画編集をスムーズにこなせる点に感心し、最近はショート動画をiPadのみで制作することが増えている。

 そんな折、iPad対応のTourBox Elite Plusを提供いただいた。本製品を活用することで、iPadでの動画編集が効率化できるのか、実際に試してみたので紹介する。

TourBox Elite Plusについて

TourBox Elite Plus

 TourBoxは、ノブやダイヤル、ホイールなどのさまざまなボタンを備え、動画や写真編集、イラストなどのクリエイター用途に好適とする左手デバイス。TourBox Elite Plusは、従来のPCに加え、iPadでも利用できるようになったモデルである。

 iPadとの接続は簡単で、iPadに専用アプリ「TourBox Console」をインストールし、アプリの指示に従ってペアリングするだけで完了する。

TourBox Console
アプリの指示に従えば簡単にペアリングできる

 筆者は以前、有線接続モデルの「TourBox NEO」をPCでの動画編集に使用していた。以前に別の左手デバイスレビューでも触れたが、TourBoxはカット編集など特定の作業には便利で効率化できたと感じたが、より高度な編集には活用しきれなかった。

 その点、iPadでの動画編集は比較的シンプルな作業のみを行なうため、TourBox Elite Plusが適しているのではないかと期待していた。

背面。単3形電池2本で駆動する

TourBox Elite PlusはiPadでの動画編集で使えるのか?

Premiere Rushで使おうとしてみたが......

 本題になるが、結論から言うとTourBox Elite PlusでiPadでの動画編集は厳しいと感じた。本製品は、ハードウェア自体の完成度は高いのだが、特にiPadでの動画編集におけるソフトウェア面の最適化が不十分である。

 本稿の執筆時点で、iPad用に公式プリセットが用意されているアプリは「Procreate」、「Clip Studio Paint」、「Final Cut Pro」、「LumaFusion」の4つのみで、動画編集向けのFinal Cut ProとLumaFusionのプリセットは1月下旬に追加されたばかりだ。

現時点で用意されている公式プリセット

 今回のレビューにあたり、Final Cut Proで試してみたところ、公式プリセットを使用しても一部機能が正常に動作しなかった。具体的には、ノブによるフレーム移動やボタンでの動画再生/停止が意図しない動作を示していた。

 入力言語を英語に変更したり、TourBox Elite PlusのキーボードタイプがANSIに設定されているかを確認してみたりと、公式ヘルプなどに記載された対処法を試してみたが、問題は解決しなかった。このことから、ソフトウェアがまだ動画編集用途に最適化されていない可能性が高いと判断した。

 公式プリセットですらこの状態であるため、プリセットが用意されていないアプリでの使用はさらに難しい。実際、筆者が普段iPadの動画編集で使用している「Premiere Rush」は、公式の製品ページでは対応していると記載されているものの、プリセットが用意されておらず、ほぼ使い物にならなかった。

 TourBox Consoleには汎用のカスタマイズプリセットが用意されているが、基本的にキーボードショートカットの割り当てが主で、たとえばFinal Cut Proのプリセットで可能なダイヤルによるフレーム移動などの設定は適用できない。

 一応、AdobeのiPadOS向けのショートカットリストを参考にPremiere Rush用のプリセットを作成してみたが、期待通りの動作にはならなかった。さらに、iPadではキーボードショートカットのHUD表示ができないため、ボタンの割り当てを覚えるのに苦労する点も不便に感じた。

カスタマイズプリセット
キーの割り当ては主にキーボード基準がメイン
一部システム設定ができるほか、ベータ版でジェスチャー操作も割り当てできる

イラスト用途なら便利

本体にはスケルトンカラーを採用

 iPadでの動画編集用途では厳しかったTourBox Elite Plusだが、イラスト用途では問題なく、むしろかなり便利に使えそうだ。

 家族に絵描きがいるので、iPadのClip Studio Paintで試してもらったところ、特に入力設定などを変更することなく、ノブやダイヤル、ホイールなどの主要なボタンが正常に動作していた。本人も使い始めてすぐに便利だと言っていた。

 また、従来のTourBoxシリーズと同様に、本製品はPCでの使用には全く問題なく、動画編集でも快適に動作する。筆者は有線接続のTourBox NEOを使っていた分、無線接続が可能になったことでより便利に感じた。

 ただ、PCに使うだけなら「TourBox Elite」で十分なため、本製品を選ぶ理由は筐体カラーくらいだろうか。TourBox Elite Plusの本体カラーには、これまで周年記念の限定カラーとして展開していたスケルトンデザインの「クリアートランスパレント」を採用している。見た目にこだわるユーザーにとっては魅力的かもしれない。

iPadでの動画編集用途には時期尚早。だが希望も

公式サイトより

 現時点では、iPadでの動画編集にTourBox Elite Plusを活用するのは難しい。対応アプリが限定的で、特に動画編集アプリの最適化が不十分なため、期待したような作業効率の向上は感じられなかった。

 もし、iPadでTourBox Elite Plusを使おうと考えているなら、現状ではProcreateやClip Studio Paintなどのイラスト用途を前提にするのが無難だ。今後のソフトウェアアップデートで対応アプリが増え、最適化が進めば、動画編集でも有用になる可能性はある。

 2月末のアップデートでは、プリセットのインポート/エクスポート機能が追加され、ユーザーが作成したプリセットの共有できるようになった。公式サイトにはユーザー作成のiPad用プリセットが公開され始めている。

 対応プリセットの増加やソフトウェアの最適化により、本製品の真価が発揮される日が来るかもしれない。今後のアップデートに注目したい。