山田祥平のRe:config.sys

いつでもどこでもマルチディスプレイ




 自宅での環境を、そのまま出先にも持ち出したい。それは誰もが思うことだ。モバイルコンピューティングには、さまざまな制約が伴うが、その制約によって移動時の重量負担を軽くしたり、電源を確保できない状態での運用を可能にしたりもする。それに対して自宅作業での作業効率が高いのは、さまざまなリソースを制限なく使えるからだろう。作業効率の高さをかなえている要素の1つであるマルチディスプレイ環境について考えてみた。

●出張先でもマルチディスプレイ

 今週は出張で東京を離れている。7泊という比較的長期の出張だ。このくらいの期間の出張になると、その出張関連作業に専念する以外にも、併行していろいろな仕事をこなさなければならない。だが、普段、自宅で快適に作業している環境と比べれば大きく劣化した環境なので、それを少しでも近いものにすることを考えなければならない。

 自宅では、自作のPCに1,920×1,200(WUXGA)のディスプレイディスプレイを3台接続し、横向き、縦向き、横向きの順に並べて作業している。個々のディスプレイの役割は、ほぼ決まっていて、左の横向きディスプレイはiTunesやビデオ再生、PDFや文書類の資料閲覧など、中央の縦向きディスプレイはほぼ恒常的にブラウザ専用、右の横向きディスプレイにはメールクライアントやTwitterクライアント、インスタントメッセージクライアントが配置されている。

 マルチディスプレイが便利なのは、デスクトップ全体を物理的に分割して使うことができる点だ。ウィンドウを最大化するだけで、そのウィンドウが表示されているディスプレイ全体に最大化され、他のディスプレイの表示はそのままというのが、なんともインスタントで重宝する。デスクトップを仮想的に分割するユーティリティは、いくつか試してはみたが、たかだかWUXGA程度の解像度では、便利ではあっても窮屈感は否めない。

 ぼくのPCの使い方では、たぶんブラウザでの表示を見ている時間がいちばん長いと思われるので、縦向きディスプレイを中央に据えているが、作業によっては横位置の方が都合がいい場合もある。そのときには、ディスプレイを回転させればいいのだが、ディスプレイ同士の間隔をできるだけ詰めて設置したいので、回転させることができなくなってしまっている。このあたりは、まだ環境的課題として残ったままだ。

 この状態で、今、集中しなければならない作業、たとえば文章を書くエディタのウィンドウなどを中央の縦位置ディスプレイに置き、左の横位置ディスプレイに資料を置き、作業中にメールが届いたり、Twitterのタイムラインに変化があると、そちらを凝視するというような使い方になる。

 これを単一のディスプレイでやろうとすると、どうしても、タスクバーのタスクバーボタンの点滅といった機能に頼る必要が出てくる。ところが、作業に集中していると、それを見落としてしまうことが多いのだ。かといって、集中しているときに、中央に大きくポップアップされても困る。窮屈にウィンドウサイズを微調整して並べるのもめんどうだ。やはり、独立したディスプレイで粛々と物事が進行していてほしいと思う。

 そんなわけで、この環境で作業するようになって数年が経過しているが、すこぶる満足しているし、この環境での作業の効率がもっとも高いと思っている。

 その効率が、出張先では大きく劣化してしまうのだ。

●ユーティリティで複数台PCを論理的に接続

 7泊もの出張となると、持参するノートPCは予備を含めて複数台になる。基本的に大中小3台のノートPCをカバンに詰めて持って行く。愛機はLet'snoteなので、B10(1,920×1,080ドット)、S9(1,280×800ドット)、J9(1,366×768ドット)の3台だ。今回は、読みかけのジョブズの伝記を読み進めるために初代iPadを加えた。総重量は電源アダプタを含めて5kg弱といったところだろうか。昔に比べれば、ずいぶん軽くなったものだと思う。

 今回は、これに加えて外付けのキーボードを持って来ている。今回の出張は、宿泊施設内にこもっての作業時間が長く、しかも、そこそこ長い文章を書かなければならないからだ。自宅での作業にはテンキーつきの109キーボードを使っているが、さすがに持って来たのはテンキーレスだ。ただし、キータッチを同等にしたいので、ちょっと重いが自宅で使っているのと同じRealforceのテンキーレスUSBキーボードをスーツケースに入れてきた。

 幸い今回は、手持ちの装備に加えて、訪問先で液晶ディスプレイを1台借りることができた。解像度は1,600×900ドットで、しかもアナログ入力なのだが、台数は多い方がいい。人によっては高い解像度のディスプレイを1台ですませたいというケースもあるようだが、個人的には、解像度が低くても複数のディスプレイがあった方がうれしい。

 これだけ役者が整えば、それらをさまざまな方法で接続して、できるだけ自宅に遜色のない環境を作ることができる。

 まず、メインに使うノートPCは、もっとも処理能力の高いB10だ。その右側にS9を置き、左側には借りてきたディスプレイ、さらにその左にJ9を置いた。リリーフとして使えるようにiPadもたてかけておけるようにした。

 外付けキーボードとマウスをB10につなぎ、外付けディスプレイをB10のアナログRGB端子に接続する。これで2台のマルチディスプレイ環境ができあがった。これでもノートPC 1台に比べれば、相当効率は良くなる。最近は、ホテルの部屋にHDMI入力ができる薄型TVが設置されているケースが多いので、こうした環境は比較的簡単に作れてしまう。

 今回は、せっかく持って来ている2台のノートPCとiPadを使えるようにしてみた。ノートPC相互は、個別に稼働させ、メインに使うB10に接続したキーボードとマウスでコントロールできるようにする。そのためには、先日、マイクロソフトからリリースされた無保証のユーティリティ「Mouse without Borders」を使いたい。

 このユーティリティは、ローカルネットワークを使い、複数台のPC間でマウスとキーボードを共有するというもので、クリップボードの共有や、任意のPCのスクリーンキャプチャが撮れるといった便利な機能を持っている。今まで使ってきた同種のユーティリティの中では、もっとも使い勝手がいいので、気に入ってはいるのだが、1台のPCをルーターにして、他のPCをそこに接続してインターネット接続を共有するような環境では、うまく相手を見つけられなくなってしまうことがあり、今回は、以前から愛用している「Dokodemo」を使ってしのいでいる。すでに開発を終了し、作者のサイトは閉鎖されているが、ダウンロードサイトなどでカンタンに見つけることができるはずだ。

 こうしたユーティリティを使うことで、実質的に4台のディスプレイを横に並べて使っているのとほぼ同等の環境が得られるわけだ。できないのは、ウィンドウや選択したオブジェクトをドラッグで異なるPCに持って行けないことくらいだ。Mouse without Bordersでは、ファイルをエクスプローラウィンドウ間でドラッグ&ドロップできるのが便利なのだが、今回は前述の理由であきらめている。

●部屋の装備総動員でデスクトップ拡張

 今回は、これに加えてiPadがある。iPadを外付けディスプレイとして使うユーティリティは数多く存在するが、個人的には「Display Link」が気に入っている。まず、ノートPC側に、無償提供されているソフトをインストールすると、仮想的なディスプレイドライバがインストールされ、iPad側で無償のユーティリティアプリを稼働させると、その一覧からPCを選ぶことができ、iPadをn台目のディスプレイとして使えるというものだ。画面表示はAeroも有効で、並べて使ったときの違和感もない。

 使い勝手的には、部屋を出るときなどに、iPadをスリープ状態にすると、いったん接続が解除されてしまうので、部屋に戻ってきて作業を再開するときに再接続しなければならないといった手間がかかるのがわずらわしい。

 これら複数台のPCを並べて設置するためには、部屋にあったアイロン台を利用した。この手のアイロン台はビジネスホテルなどでも部屋の装備としておいてあることが多いので、それほど特殊なものではないはずだ。アイロン台で物理的なデスクトップを拡張し、ユーティリティとケーブルで論理的なデスクトップを拡張した形だ。

 ミーティングなどで、部屋から出るときには、3台のノートPCのうち、J9かS9のどちらかを持ち出す。そして、戻ってきたら定位置に置き、電源を入れると、何事もなかったかのように無線LANに接続され、B10のキーボードやマウスから操作することができるようになる。擬似的とはいえ、自宅の環境と、似たような環境が得られている。これなら、多少重い思いをしても、複数台のPCと外付けキーボードを携行した甲斐があったというものだ。

 次の長期出張は、年頭のCESになるはずだ。願わくば、予約しているホテルの部屋に置かれたTVが薄型液晶のもので、HDMIケーブルで使えるといいなと思っている。