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Intelが考える会社の便利と個人の便利




 IntelのIT最高技術責任者兼情報戦略本部長 エドワード・ゴールドマン氏が来日し、同社IT部門の説明会が開催された。ご多分にもれず、同社においても、ITにおける「コンシューマ化」の波は、放置できない重要なテーマになっているようだ。

●Intelが考えるコンシューマ化とは

 ゴールドマン氏は、ITのコンシューマ化は、すでに閾値を超えたとし、これからは、あらゆる企業がコンシューマ化を取り入れることになるだろうという。ちなみに同社はコンシューマ化を次のように定義しているという。

コンシューマ化(名詞): ハードウェア、および、アプリケーションの両方について、パーソナル・ライフにおけるテクノロジー体験が、仕事で使うことが期待されるテクノロジーに対して与える影響力が増え続けること

 ちょっとわかりにくい表現だが、コンシューマが日常的に体験しているITが、仕事の現場にも求められるようになり、それを受け入れざるをえない状況であると考えていいだろう。

 世の中で使われているPC的なデバイスは、当然、企業内で仕事クライアントとして使われるPC以外に、個人が私物として所有する、さまざまなものがある。家庭で使われているPCはもちろん、よりパーソナルなデバイスとして、昨今では、スマートフォンやタブレットといったデバイスの浸透が著しい。これらは個人がいつも身につけているものだ。

 ご存じのとおり、企業で使われるPCは、セキュリティ上の理由から、多くの制限が加えられている。企業ごとに基準は異なるだろうが、アクセスできないサイトがあったり、使える状態になるまで何重にも関門があり、それをパスワード等でクリアしなければ使えなかったり、あるいは、ノートPCを会社外に持ち出すことすら禁止している企業もある。

 その一方で、個人が自分のために所有して使うデバイスは、いわば野放し状態で、何の制限もなくバリエーションに富んだITを堪能できる。しかも、自己責任なので、そのセキュリティはゆるく、スマートフォンにパスワードさえ設定していないケースもあるし、それを誰も非難しない。

 検索サイトでの検索結果が表示されれば、そのどれをクリックしても、目的のページに飛んでいけるし、それによって、ほぼ瞬時に問題が解決できるケースは多い。その代償として、危険なトロイの木馬を踏んでしまい、デバイスや個人的な情報資産が何らかのダメージを受けることもあるわけで、その損益分岐点をにらみながら、コンシューマはITを堪能しているように見える。

 ゴールドマン氏は、ワイヤレスの浸透を例にあげ、その浸透にはたった10年しかかかっていないとし、それに加えて毎年変化が起こっているハンドヘルドデバイスと、次々に登場するさまざまなサービスを組み合わせることで、簡単に自宅で作業ができる環境が整っていることを強調した。つまり、プライベート空間の方が効率がよかったりするわけだ。そして、どうしてそれが企業内においてはできないのかという従業員からのプレッシャーが、多くの企業のIT部門を悩ませ続けているという。

 Intelも、毎年、新卒社員を数多く雇用している。そして、その世代を特徴付けるキーワードとして「ケータイ世代社員」、「1人当たり複数デバイス」、「私物持ち込み」といったものが挙げられる。彼らにとって、ケータイは肌身離さず持ち歩くものであり、1人が複数台のデバイスを持つことや、企業で仕事をする際にも、私物デバイスを併用するのは「新しい当たり前」であり、なぜ禁じられるのか理解に苦しむのだ。

●デジタルネイティブにとっての新しい当たり前

 個人が私物デバイスを仕事の現場に持ち込むと、部門としてのサポートができなくなってしまう。誰もがそう思うだろう。それをどうすればいいのかについては、まだ、明確なビジネスケースとして確立されていないとゴールドマン氏。しかも、法務、人事的な問題もある。たとえば、個人が自分のデバイスを職場に持って行って、職場のリソースである無線LANに接続したとき、あるいは、充電のためにコンセントを拝借した場合、それによって支払いが発生しないのかといった点だ。

 さまざまな問題を模索しながら、Intelでは、独自のサポートをしながら、どのくらいの強度のセキュリティを確保できるかといったことを把握するために、積極的にインフラを提供する方向で進めているそうだ。ゴールドマン氏によれば、Intel自身がこのテーマに対する解を得ない限り、同社の顧客に対して提案ができないだろうという。

 いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる世代は、インターネットを使えば何でもできると信じている。実際、大学生時代はそれをやってきたわけだが、企業に入ったとたん、それができなくなってしまうのでは、それまでに身につけたITリテラシーが無駄になってしまう部分も少なくない。これは企業にとっても個人にとっても不幸なことだ。

 ゴールドマン氏にいわせれば今は岐路なんだそうだ。つまり「古きよき日よさらば」というわけだ。

 さらにIntelが推進するUltrabookも、コンシューマ化の傾向によりいっそうの拍車をかける。デバイス中心の世界から、ユーザー中心の世界への移行だ。このことによって、1995年から2002年頃に作られた従来のセキュリティモデルでは、新たな拡張に対応できなくなってきているという。Ultrabookはコンシューマ製品が登場し始めているが、当然引き続いて、vPro対応などを考慮した企業向けの製品も出てくるだろう。高い処理能力を持つ持ち運びしやすいPCが、より広範に普及していくということだ。

 それに、企業におけるビジネスのスタイルも変わりつつある。たとえば、外部とのコラボレーションや協業などでは、それにともなうコミュニケーションやデータのやりとりで、企業相互がネットワークを介して互いに出入り自由な環境が求められる場合もある。Intelではこうした状況において、ほぼ半年をかけて新しいアーキテクチャの構想を練り、18カ月かけてその影響を評価してきたという。

 当然、相手あってのものなので、セキュリティについてはパートナー企業を説得することも重要なテーマだ。トラステッド、セミトラステッド、アントラステッドという3つのレイヤーで、さまざまな要素を考える方法論に収束しつつあるという。この多層トラスト管理は、「OK」か「NG」かという2つの状態しかなかった旧来のセキュリティモデルに、曖昧な「セミ」の概念が取り入れられたということだ。

 モビリティとコラボレーションがインターネットの境界を曖昧にし、クラウドはデータセンターの境界を曖昧にし、そして、コンシューマ化はエンタープライズの境界を曖昧にするとゴールドマン氏。エンタープライズ市場とコンシューマ市場という、実にわかりやすい2つの側面を考えるだけでよかったのも今は昔、「曖昧」が新しい当たり前になりつつある。だが、そのギャップも、セキュリティモデルを明確にすれば、企業ITは十分にアプローチできるとゴールドマン氏は言う。

●便利の融合に向けて

 職場のPCでPC Watchのサイトを見るのは許されるのか。職場のPCで夜のデートのレストランを予約するのは許されるのか。逆に、家庭のPCで風呂敷残業(持ち帰り残業)をしたら、企業はその使用料金を支払わなければならないのか。顧客の連絡先電話番号満載の私物携帯電話を紛失したら、それは誰の責任になるのか。打ち合わせのメモを私物の手帳にボールペンで書き付けたら、それは自社を裏切ることになるのか。

 考えなければならない問題は山積みだ。だが、情報資産の漏洩に臆病になっているだけでは何も始まらない。締めれば締めるほどIT部門はラクができるし、サポートの負担も軽くなる。今の企業ITは、そこに甘えることで、本当なら生み出せていたはずの何かを抑制してしまってはこなかったか。言うのは簡単だが、やるのはたいへんなのだという気持ちもわかる。でも、もうそんな時代じゃない。会社の便利と個人の便利は、やはり、融合しなければならないのだと、強く感じた。