山田祥平のRe:config.sys
薄軽強の次にくるもの
2024年7月6日 06:18
VAIOから世界最軽量325gの14型モバイルモニター「VAIO Vision+」が発売された。発売前からしばらく使わせてもらってきたが、まさに軽さは正義、もうこれは別世界だと痛感した。今回は、そのインプレッションをお届けしよう。
薄軽いにもほどがある
製品としてのVAIO Vision+を最初に見せてもらったとき、筐体を裸で手渡されたときに感じた薄軽さは、思わず「軽っ」と声をあげるほどだった。この感覚はなんとなくデジャブな感じがしたのだが、たぶん、634gの「FCCL LIFEBOOK UH-X/G2」を手にしたときに感じたのと同じものだと思う。
個人的に24型のモバイルモニターをスーツケースに入れて持ち運んでいた頃のことを思うと、本当にいい時代になったものだ。ちなみに当時は3kg前後の重量でモバイルを主張していたが、それで得られる環境は半端なものではなく、十二分に実用的だった。
あれがフルサイズの等身大Windows環境モバイルだとすれば、14型のモニターサイズがもたらすのはその6割程度のリッチさかもしれない。それでも本当に気軽に持ち運べる機動力はモビリティの真骨頂だといえる。VAIOのサイトには特設ページが用意され、開発者トークが掲載されているが、その中での迫田翼氏(開発本部 ITソリューションセンターソフト設計部 PCソフト課 兼開発本部 プロダクトセンター)の「持ち歩いたけれど使わなかった日でも損した気分にならない」という言葉が印象に残っている。
すでに各ECサイトでは有象無象のメーカーのモバイルモニターが、1.5万円、ひょっとすれば1万円を切るような価格で入手できるようになっている。画質の良し悪しは多少あるにしても、それぞれの製品はそれなりにきちんとしているように見えるし、実際、安物買いの銭失いにはならない印象だ。
そんな中で5万4,800円という価格でモバイルモニターを入手するには、それなりに説得力のある理由が必要になるだろう。自分を納得させるにしても、上司や会社をだますにしてもだ……。
これ以上そぎ落としたらモニターじゃなくなる
VAIO Vision+は14型ワイドの液晶モニターで、その解像度はWUXGA(1,920×1,200)。つまり16:10のアスペクト比のモニターだ。表面加工は非光沢で色域はsRGB100%をサポートする。
Windowsは96dpiが想定解像度だから、14型のWUXGAなら168%拡大が必要だ。基本的に25%刻みでしか拡大縮小できないので、Windowsは150%表示を推奨するが、人によっては175%表示がほしいかもしれない。100%表示できる23型超のフルサイズWindows環境に対して、14型のモニターサイズは6割程度のリッチさというのはそういうことだ。
本体裏にはアルミ製スタンドが実装され、ランドスケープ利用では本体だけで自立させて使える。装備されているのは本体右側面にUSB Type-Cポートが2つ、そして本体左裏に輝度調整用のスライダー、それだけだ。
2つのポートに機能差はない。どちらを使ってもいい。使っていないポートにUSB PD準拠の電力を供給すると、モニター自身が10Wを使い、残りをもう1つのポートにPCにパススルーする。ただし、パススルーできる上限は60Wまでで、仮に100Wアダプタを使ってもパススルーされるのは60Wだ。
機能としてはそれだけだ。思い切りがいい。あらゆるものをそぎ落としている。スピーカー等を搭載しているわけでもなければ、HDMI入力ができるわけでもない。だからゲーム機やビデオレコーダをつないで使うには向いていない。2つのUSB Type-Cポートは最初の入力が早い者勝ちで有効になる。2ポート入力を切り替えられるわけではなければ、USB Type-Cハブになるわけでもない。
入力された1系統の映像を映し出し、パススルー電力を管理する。調整できるのは輝度だけで、それ以外のことは何もできない。色温度やコントラストの調整もできない。本当に思いきった仕様に驚くが、だからこその世界最軽量325gだ。手元の実機は実測で318gだったので余計に軽く感じる。
ランドスケープ利用なら、背面のキックスタンドで自立させられる。あとはUSB Type-CケーブルでPCと接続するだけで、2画面を並べた体制でのマルチモニター環境が手に入る。
出先で普通に横位置で使うことだけを想定するにしても、携行時の液晶面の保護を考えると、ノートPCと裸で束ねて持ち歩くというのはためらわれる。せめてプチプチ緩衝材を使った封筒などに入れて持ち運びたい。それなら325gに30g程度の追加で済む。これは画期的だ。
本体より重いカバーにはがっかりでも、携行する価値はたっぷりある
ところがVAIO Vision+にはカバースタンドが付属している。のべ20人ほどのメンバーが関わり、試作品を作るところまで進んでいたのにそれを破棄し、ゼロから考え直して作られたという同梱カバースタンドだ。気合いのは入れ方が違う。
このスタンドの役割は、VAIO Vision+を保護して携行するという基本的な役割はもちろんだが、もう1つの機能がある。それは、折り紙のようにトランスフォームし、VAIO Vision+を持ち上げてノートPCの液晶画面の上部にレイアウトするためのスタンドになるというファンクションだ。身の回りのいろいろなガラクタグッズを組み合わせて同じようなことができないか試してみたが無駄な努力だった。
出張先のホテルの客室などでは、それなりのサイズのデスクスペースがあって、ノートPCの脇に14型程度ならモニターを並べて置くことができるかもしれない。だが、モバイル環境はそんなに恵まれたところばかりではない。注文した飲み物を置いたままにするのも難しいような小ぶりのテーブルで作業しなければならないことも少なくない。そこまでするかといわれそうだが、そうしたほうが準備の時間を入れても仕事が早く終わるのだ。当然、やる。
限られたフットスペースにできるだけ広い作業領域を確保するには上方への拡張が手っ取り早い。狭い敷地に細長い高層ビルを建てるのと同じ理屈だ。
VAIO Vision+を入れずにカバースタンドを畳み、折り目と磁石での吸引にまかせてカバーを折り曲げると、尾ビレのようになって支え、カバーが縦位置に自立するようになる。その上部にVAIO Vision+を取り付け、VAIO Vision+のキックスタンドで角度を調整すると、手前に置いたノートPCの液晶ディスプレイ上部に、いい感じの仰角でVAIO Vision+をレイアウトできる。
設置時は、尾びれを手前に向けるところがミソだ。こうすることでカバーは手前に傾く。その上部にVAIO Vision+のキックスタンドを差し込んで角度調整することで、VAIO Vision+の画面をより垂直に近い状態にキープすることができる。
ものすごく考えられたトランスフォームだ。説明書なしでは想像がつかなかったが、分かってしまえば実にシンプルだし、迷いようがない。また、この構造でポートレート利用での固定も裏技としてサポートされている。ただしこれはカバーを裏返して使うため、あくまでも非公式な使い方なんだそうだ。
このカバースタンド、重量が440gある(実測では436gだった)。つまり、VAIO Vision+本体よりも重い。それがモニター2段重ね環境を得るための代償だ。
いろいろ考えた。今どきのノートPCは液晶を最大180度まで開けることが多いので、その状態でノートPCそのものを立てかけて、キーボード部分を覆うようにVAIO Vision+を置いての2段重ねも考えた。その場合、キーボードとポインティングデバイスは別途調達する必要があるし、自立のためのちょっとしたスタンドも必要で本末転倒だ。
VAIO Vision+の325gとカバースタンドの440g、本体だけならともかく、合計765gは「持ち歩いたけれど使わなかった日でも損した気分にならない」というには重すぎる。ケーブルだって40gくらいはある。325gくらいにダイエットした改訂版のカバーがあとで提供されるようなことがあったらと、無理を承知で願いたくなる。それに欲をいえば両端L型プラグの取り回しのいい細いケーブルも欲しいところだ。
VAIOらしいって何なのかは別にして
VAIOは2024年7月1日に創立10周年を迎えた。カッコイイ、カシコイ、そしてホンモノであることを追求してきた同社だが、その10年目の節目に、まさにVAIOならではの製品が提示されたのだと納得する。とても心強いし、VAIOらしいと思う。
単に薄軽強を訴求するだけではなく、製品の付加価値を説得力あるロジックとものづくりで具現化し、積極的に新しい世界観を提案する姿勢。今回のVAIO Vision+では、そのカバースタンドに込められた執念にも近いスピリッツにVAIOの凄みを感じてしまった。
きっとまだまだ大丈夫だ。