山田祥平のRe:config.sys

本当に必要なのかを悩み続けるグラボ狂想曲

 Windows 11をちゃんと使うために、仕事で使うメインのデスクトップPCを6年ぶりに刷新しようともくろんでいる。インテルから第12世代のCoreプロセッサも出て、チップセットも新しくなったのでタイミングとしては悪くないはずだ。だが、そこに立ちはだかる高い壁……。

ビデオカード調達に失敗

 5年間という歳月は長いようで短い。PCを構成する要素は多々あるが、第1にプロセッサー、第2にメモリ、第3にストレージ、そしてそれらを統合するためのマザーボードといったところか。今は、マザーボードにあらゆる機能が実装されているのが普通なので、あれこれ考える必要もなく、オールインワンに近い状態の環境が手に入る。実にラクチンだ。

 ただ、GPUについてはいろいろと考えなければならないことがある。GPUの優劣はPCの使い心地に大きな影響を与えるのはわかっているのだが、そのためのコストが高止まりになっている。ハイエンドのGPUを選ぼうものなら、PC全体の価格と同等の金額を出してもまだ足りない。たとえばシステム一式30万円のPCに、それなりのGPUを積むためには、30万円の追加投資が必要になるということだ。この金額の投資はちょっと普通じゃない。ビデオカードはいつのまにか、CPUを抜き去り、PCシステムでもっとも高価なパーツのひとつになってしまったわけだが、それに気がつかないふりをすることができたりもするので話はややこしい。

 この原稿を書いている前夜、2022年1月27日23時に、ZOTACからコストパフォーマンスの高い製品としてZOTAC GAMING GeForce RTX 3050 Twin Edgeが発表された。予想市場価格は3万9,800円と、今の状況下では、それなりにリーズナブルなものになっている。各社から同時にGeForce RTX 3050搭載ビデオカードが発売されたが、これが最安値のようだ。個人的に、この価格は、システム全体のコストと用途を考えたときにギリギリのものだ。ゲームもマイニングもしない使い方のために、ビデオカードの購入で4万円超を投資する気にはなれない。

 が、各社ECサイトを開いて製品を買おうと試みたが瞬殺に近かったようで、どのショップでも品切れを起こしている。あきらめるしかない。

ビデオカードがそんなに高くなかった5年前

 GPUの高騰については長い間状況が改善していない。たとえば今現役で使っているPCは、2016年に自作した第7世代Core i7搭載機だが、ビデオカードとしてはRadeon RX 480が装着してある。当時の価格がいくらだったかは覚えていないのだが、ちょっと調べてみると3万円前後だったことがわかる。

 プロセッサ内蔵グラフィックスで済ませるか、6万円まで予算を拡げて上位のRTX 2060搭載ビデオカードを探すか、あるいは、5年前のRadeon RX 480を継続して使い続けるか。これを考えていると本当に夜も眠れないくらいだ。

 PC環境は、ほんの少しの投資で驚くような効果が得られるものと、大きな投資の割には実感として効果があまり感じられないものがある。そしてそれは、PCを何に使うのかという用途にも依存する。

 ビジネス用途にGPUがいらないわけではない。特にTeamsやZoomといったオンライン会議アプリはグラフィックスリソースが豊富な方が使いやすい。また、ブラウザのレンダリングの快適さもGPUの性能に依存する。単純に、インターネットを徘徊するだけでもGPUがその快適さを支援するのだ。PDFを参照するにしても、高解像度の写真や動画を編集するにしてもGPUの優劣が使い心地に与える影響は大きい。だがその効果がわかりにくい。一般的な作業では、比べるのが難しいのだ。

 プロセッサ内蔵グラフィックス時と、数十万円相当のビデオカード装着時で、どのくらい普段の作業の使い心地に違いがあるのかを経験したことはないのだが、普通に考えて、もう1台PCが買えそうな金額の投資に見合うだけの見返りがあるとは思えない。もちろんクルマとちがって、PCには制限速度がない。だから処理性能が高いに超したことはない。問題はそこにかけるコストのバランスだ。

 そういう意味ではプロセッサ内蔵グラフィックスはありがたいソリューションだ。インテルがここにもうちょっと本気を出してくれれば、戦わないユーザーにとっては嬉しいのだが、モバイル用プロセッサの統合グラフィックスにはそこそこ力を入れていても、デスクトップ用プロセッサはそうでもないように感じる。

 果たしてビデオカードのコストがシステム全体のコストの半分近くを占めることに価値を見出せるのかどうか。フレームレートの高低が勝負につながるゲーミングシーンで戦わないユーザーにとっては難しいところだ。

 仮にGPUがプロセッサ同等に大事なものだと考えたとしても、プロセッサと同額程度が限度に感じる。たとえばいま、第12世代のインテルCoreプロセッサは、ハイエンドのCore i9-12900Kが7万円代だ。ビデオカードもそのあたりでハイエンドのものが購入できれば納得できるようにも思う。健全なイメージとしては、マザーボード、ビデオカード、プロセッサがそれぞれ同額で全体コストの50%となるくらいなら納得できそうなのだが。

いつかはリーズナブルにハイエンドビデオカード

 PCのコストというのは本当にピンキリだ。望みのコンポーネントの組み合わせで構成できるのならメーカーやショップブランドのものを完成品で購入した方が結果的に安上がりだろう。自作のために好きなパーツを選ぶと際限がなくなってしまい、かなり高価な買い物になることを覚悟しなければならない。

 5万円出せば買えるPCと30万円を超えるようなPC、どちらも同じようなことができる。誰かと戦わないならなおさらだが、ビジネスの現場も戦場だといえばそれもそうだ。ゲーミングでもマイニングでもオフィスワークでも道具の処理能力は勝負に直結する。

 その勝負に対して適切だと思われる処理能力をどう調達するのか。そして、その調達に必要なコストはどのくらいが妥当なのか。制限速度のない世界の価値感は判断が難しい。

 それでも、高騰化するビデオカードの今の相場は需要が相場を決めるのはわかっていてもちょっとイビツすぎる。半導体の製造現場のトラブルもあるが、今のうちに、うまい落とし所を見つけておかないと、ベンダーは、大きなビジネスチャンスを逃してしまうことにもなりかねない。せっかくニッチがマスになりつつあるのだから、それをさらに増殖させる何かが必要だ。そうでなければ、GPUの価値を高めてきたベンダーの努力がむくわれない。彼らだって、このまま異様な高値が続くことを望んではいないだろう。

 だからこそPCに高付加価値をもたらすGPUの力を、もっとわかりやすく、そして具体的に伝える努力が必要だ。