山田祥平のRe:config.sys

バンドでもないウォッチでもない普通のウェアラブルデバイスが欲しい

 世界がコロナ禍にあるからというのは考えすぎかもしれないが、スマートウォッチやスマートバンドの新製品が各社から続々発売されている。ラッシュといってもいい。段々バンドとウォッチの境目が微妙にもなってきているそのトレンドを考えてみる。

ウォッチとバンドの違いが曖昧に

 新製品が相次いで登場しているが、各社にお願いして借り出してみた。今、手元にあるのは、

の5製品だ。分類としては最初の3機種がウォッチ、残りの2機種がバンドということになっている。従来の心拍数モニターに加え、今のトレンドは血中酸素レベルの測定で、Mi Watch Lite以外はすべてが対応している。

 ただ、もはやウォッチとバンドというカテゴリ分けはずいぶん曖昧になってきている。できることがそれほど違わない。おおまかには丸型のディスプレイを持つのがウォッチで、矩形のディスプレイの場合はバンドと呼ぶくらいに考えてもいいくらいだ。最もMi Watch Liteのように、ディスプレイが矩形でもウォッチを名乗る製品はある。

 今、愛用しているのは、ずいぶん古い製品になるがMi Band 4だ。普通の腕時計をしていた数十年前から、PCを使うときには時計を外す。入浴はもちろん、水仕事をするとき、寝るときにも時計を外すといった習慣があって、それは今でも変わらない。時計の存在感はできるだけ希薄な方がよかったので、Mi Band 4のスリムな筐体をとても気に入って使っていた。

こんなスマートウォッチが欲しい

 個人的に、スマートウォッチに求める要件としては次の3点だ。

  1. 面積が小さくても、無駄なく情報を表示できるように画面が矩形であること
  2. 常時、時刻と曜日を含む現在日時をはっきりくっきりと表示できること
  3. 1カ月程度のバッテリ駆動時間が確保できること

 残念ながら、これらの3点をすべて満たす製品は、今回の製品の中にはなかった。今までもない。愛用しているMi Band 4は、時計を傾けると表示することはできても常時点灯モードはない。だが、1と3を満たす。心拍測定などをオフにすることで一カ月のバッテリ駆動時間を確保できる。毎月末にバッテリの残り容量を見ると数%になっているので、その夜だけ充電器にセットすればいい。バッテリのことは忘れるくらいで、だかららこそずっと使ってきた。

 新製品は色々なところが改良されて進化しているが、1~3のすべての要件を満たすことはできない。どこかで妥協が必要だ。常時点灯ができるのはMi Watchだけだし、バッテリ駆動時間もどれも2週間前後で、実感としてはそれより短い。

 各社の名誉のためにも書いておきたいが、各製品ともにすばらしいし、コストパフォーマンスにも優れている。サイズ感や重量、デザインなどの好みで選んでも大きな失敗にはつながらないだろう。

時計であることを捨てていないか

 各社の製品を使ってみて感じるのは、ウォッチやバンドがスマホから独立する傾向にあるということだ。どういうことかというと、ウォッチやバンドをスマホからコントロールするということがあまり想定されていない。時計側でしかできないことが多いのだ。

 各種の設定はもちろん、例えば、特定の運動をスタートしてその活動量を計測しようとしたときには、時計を触って操作しなければならない。スマホは結果を記録するだけだ。時計が単なるセンサーとしてだけ機能してくれるだけでいいのに、スマホ側が運動開始のトリガーにはなれず、結果を確認することしかできなかったりする。各製品ともに、特定のコンパニオンアプリをスマホにインストールし、Bluetoothで接続して使うのだが、その連携が今ひとつに感じられる。

 また、Androidの標準ヘルスアプリであるGoogle Fitとの連携も物足りない。最終的にこのアプリに統合されないと、他アプリとの連携ができなくなってしまうからだ。

 さらに、ウォッチフェイスはアナログ表示やデジタル表示のものが何十、何百と用意されているのだが、時刻と曜日を含んだ現在日時(できれば西暦年号も)をシンプルにはっきり大きく表示してくれるものが本当に見当たらない。これは好みの問題もあるには違いなく、個人的にはデジタル表示が好きなのだが、傍らの時計にふと目をやったときに、これらの情報がストレートに伝わってこないのだ。しかも、常時点灯ができないのものは時計であることを捨てている。

 時計に限らず、各社のスマートディスプレイを見て思うことだが、GoogleのNest HubにしてもAmazonのEcho Showにしても、表示されているのは時刻だけで、日付や曜日が表示されない。Windowsだって設定を変えない限り、タスクバー端の日付と時刻の表示に曜日は出てこない。

 このあたりを見てみると、GUIをデザインする国民性の違いなのかなとも思う。今回見た製品の中で常時点灯をサポートするのはMi Watchだけで、他の製品は腕に着けた時計を傾けての表示しかサポートしない。バッテリ駆動時間の兼ね合いもあるが、腕から外して傍らにおいた腕時計が時計として機能しないというのは、何とももどかしい。

スマホから独立傾向にあるスマートウォッチ

 スマホと連携することで様々な便宜を提供するスマートウォッチは、現在のWear OS(2018年以降)の前身であるAndroid Wearを2014年にGoogleが発表したときに、LG、Samsung、Motoloraから発売された。

 個人的には、LGのG Watchを気に入ってずいぶん長い間愛用していたが、そのうち充電ができなくなってしまって引退させた。あの頃は丸型ディスプレイというのが珍しく、G Watchは四角い形状だったが、むしろそれでいいと思ったのを覚えている。

 当時の製品と現在の製品では、同じようにスマートウォッチと呼ばれているにしても、明らかにその方向性は異なっている。OSも独自のものがほとんどだ。さらに、スマホのコンパニオンデバイスであることを徹底していた初期のスマートウォッチから、次第にパーソナルヘルスのためのトラッカーデバイスを強く志向するようになってきている。あの頃はスマホのセカンドディスプレイを目指していたのにだ。

 Googleのスマートウォッチ戦略は、それ以前からあった生体情報収集のための腕時計型端末からの脱皮をもくろみ、腕に着けるタッチ対応セカンドディスプレイとしての役割を与えるつもりだったはずだ。でも、それはついに市場に受け入れられることなく現在に至り、再びこれらのデバイスは、バリエーションに富んだ生体/運動情報の収集デバイスに回帰しつつあるようにみえる。スマホが時計のコンパニオンになってしまい、何やら主従が逆転しているようにもみえる。

 ポケットの中にあるスマホを取り出さなくても、時刻を知ったり、通知を確認したりといったことさえできればいいなら、数千円も出せば有象無象の製品がAmazonなどで見つかるだろう。それにプラスアルファの何かがあるかどうかが、著名なブランド製品の魅力であるはずだ。飛び抜けた価格にもかかわらず、Apple Watchが驚異的なシェアを維持している理由を含めてこの世界は魑魅魍魎だが、このままでは普通のスマートウォッチがなくなってしまいかねない。それでいいのだろうか。