山田祥平のRe:config.sys

ソフトウェアが自由にならないパソコンはパソコンじゃない

 Windowsがいいとか、やっぱりmacOSだ、いやAndroidだiOSだと、こだわりは人それぞれだ。だが、それはパソコンがアプリを自由にインストールして、その利用環境を好きなようにできるからだ。それができなければパソコンを名乗れない。

2台のパソコンがヒンジで合体

 コンピュータの名前はThinkBook Plus、そして、寄り添うOSの名前はWindows。ごく普通のふたりは、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしてパソコンになりました。でも、ただひとつ違っていたのは、新居には、見たこともない別のコンピュータがいたことだったのです……。

 レノボからThinkBook Plusが発売された。2020年明けのCESで発表されてから約1年、満を持しての登場で、本当に楽しみにしていた。

 この製品は13.3型フルHD液晶を持つ約1.4kgのWindowsモバイルノートパソコンだ。だが、天板面に10.8型相当のE Inkディスプレイを実装し、ノートパソコンを閉じた状態でも、メールを読んだり、予定表を確認したり、メモをとったり、ドキュメントを表示したりといったことができる。

 レノボにはかつてYoga Book C930という製品があった。こちらもE Inkを実装し、そこにソフトウェアキーボードを表示させてパソコンを操作することができた。リアルなキーボードは装備されていなかったのだが、これはこれでイノベーションを感じたものだ。

 ThinkBook PlusはYoga Book C930とは異なり、一般的なノートパソコンと同様にリアルキーボードを装備している。だからWindowsで作業する分には本当に普通のパソコンとして機能する。だが、液晶を閉じると、天板面に実装されたE Inkディスプレイがもう1台のコンピュータとして機能する。

 つまり、2台のコンピュータがヒンジで合体しているという点ではYoga Book C930と同様なのだが、同次元で連続していないディスプレイとなるので使い勝手はまるで異なる。Yoga Book C930のときにはWindowsまたはAndroidの汎用OSといっしょに使うヘルパー的な存在が想定されていたが、ThinkBook Plusでは、E Ink側のコンピュータはWindowsが寝ているときに働く留守番役というコンセプトになっている。

Kindle読書に最適化と思いきや

 じつは、ThinkBook PlusがCES2020で発表された当時、メイン液晶の裏側にあるE Inkディスプレイは、Windowsから見たときにセカンドディスプレイとして機能していた。こちらは編集長が現地で確認した体験を記事にしている。

 この情報を聞いたときには狂喜乱舞した。というのも、Windowsのセカンドディスプレイとして機能するということは、Windowsアプリであれば何でも使えることを意味するからだ。

 E Inkは、再描画が遅く、頻繁にインタラクティブな操作をするには向いていない。どちらかと言えば、ずっと同じ情報を表示し続けるための用途に重宝するものだ。だが、頻繁に操作をしないということを前提にすれば、反射型のE Inkは目にも優しいし、明るいところでの視認性にも優れている。まさに紙そのものだ。

 そこでピンときたのがKindleだ。つまり、リフロー対応した文字中心の長大な電子書籍をじっくりと読むのに最適ではないかと思ったのだ。現時点で、専用ハードウェアとしてのKindleで最大画面を持っているのはKidle OASYSで、7型のE Inkを装備している。ただ、もう少し画面が大きければいいのにという気持ちがつきまとっていた。

 それを払拭してくれそうな印象を持ったのが、Onyx Internationalによる13.3型の「BOOX Max 3」だった。13.3型のE Inkディスプレイは、単行本で言うところの四六判(188mm×130mm)見開きといったサイズで申し分ない。

 何よりも、OSがAndroidなので、一般的なアプリをGoogle Playストアで探してインストールできるという点で自由度が格段に高かった。本当に気に入ったのだが、値段に二の足を踏んで買わずじまいになってしまった。

 この製品はすでに絶版となっているようでAmazonなどで探しても在庫切れが続いている。現在の後継モデルとしては、BOOX MAX Lumiが相当するようだが、フロントライトがつくなど高機能化しているものの、さらに高額になってしまったようだ。

 だが、ThinkBook PlusならWindows用のアプリが使える。13.3型のような大画面ではないが、Kindle OASYSよりもずっと大きい。しかも、Windowsノートパソコンを入手したら付随する付加価値分だと思えば、その金額も多少はリーズナブルに感じることができる。

 ちなみにこの原稿を書いている時点でNEW YEAR セール限定価格として11万3,520円という価格になっている。この価格を第10世代Core i5プロセッサ、8GBメモリ、256GB SSDの13.3型フルHD液晶搭載のモバイルノートパソコンとして見たときにどう判断できるかだ。

発表時とは異なる仕様で登場

 ところがだ。発売された製品をレノボから借り出して確認してみると、E InkディスプレイはWindowsのセカンドディスプレイではなくなっていた。ひとことで言うと、Windowsのストレージを拝借するコバンザメコンピュータになってしまっていた。

 こうなるとタチが悪い。つまり専用機なのだ。少なくともエンドユーザーにとってはOSもアプリもシェルも独自仕様で我が道を行く。

 もちろんWindows側のデスクトップ版Outlookとの連携や、手書きメモの機能、WordやPowerPoint、OneNote、PDFなどのデータファイル、さらにはテキストファイル、EPUBといった形式のファイルを表示できる。それで十分だというユーザーも少なくないだろう。

 だが、期待していたのは汎用的なWindowsパソコンのディスプレイとして、使い慣れた、あるいは必要なアプリを自由に使えるという環境だった。とつぜんの仕様の変更でそれができなくなってしまっているのは残念で仕方がない。

 これはオマケにすぎないのであって、オマケに大きな期待をしても仕方がないとも思うのだが、個人的には2020年、最大のガッカリだった。いろいろ大人の事情もあったのかもしれないが、レノボはもっと大きなイノベーションを起こせる企業だと思っているだけに残念だ。

 ということでコロナ禍で激動の2020年もいよいよ終わりだ。2021年がどのような年になるのか想像もつかない。もう元には戻らないというのは本当なのか……。いずれにしても、1年間ご愛読いただき感謝したい。2021年もよろしくお願いします。