山田祥平のRe:config.sys

軽さは正義をキープするムサシの決意

 FCCL(富士通クライアントコンピューティング)の世界最軽量PCに「FMV Zero WU6-L1」が追加された。QualcommのSnapdragon X X1-26-100を搭載し、Arm版Windowsが稼働する。富士通 WEB MARTの直販限定モデルとして、既存のCore Ultra搭載機(FMV Zero WU5-K3)と併売されている。残念ながら重量の更新はなかったが、FCCLの新たな決意を感じる展開だ。

Snapdragon搭載でようやく確保できたまともなバッテリ駆動時間

 2カ月以上前になるが、2025年11月28日に武蔵中原にあるFCCLの研究開発拠点を訪ねてきた。しつこく次のムサシ(634)はどうなるのかと、関係者に会うたびに探りを入れていたら話をしたいと呼び出された。話を聞き終わったところで、発売前のFMV Zero WU6-L1実機を手渡され、今日まで使ってきた。その間には、ジャストシステムの日本語ATOK最新版がArm版Windowsに対応してリリースされたりもした。

 今回のFMV Zero WU6-L1は、既存機の圧倒的な軽さ634gをキープしたままで、長時間駆動を追求した製品だ。そして、世界最軽量のCopilot+ PCという称号を獲得した。つまり、驚異的なバッテリライフと電源非接続時のパフォーマンスを確保した。そこがポイントだ。

 SoCにはQualcomm Snapdragon X X1-26-100(8コア、最大3.0GHz)が採用されている。いわゆるWindows on Arm機としてのCopilot+ PCだ。

 このシリーズの634gという世界最軽量は駆動時間を犠牲にして実現したといわれている。ユーザーの便宜を考えない軽量化手法という声も聞こえていた。実際、この重量のキープはかなりの難題で、2020年10月に発表されたモデル以降変わっていない。今回のキープも、かなりの難産だったようだ。

 同機の内蔵するバッテリは2セルで31Whだ。2023年に13.3インチフルHDから14インチ16:10アスペクト比のディスプレイに変わった当時のカタログスペックではバッテリ駆動時間は11時間だったが、2025年冬モデルでラミネート形のパウチ型増量バッテリパーツを選んで従来機の25Whが31Whとなって18時間に延び、さらに今回Snapdragon採用で21時間に達した。この値はアイドル時のものだが、たとえばJEITA3.0での動画再生をしても13時間となる。

 バッテリ駆動時間のカタログスペックは話半分と考えていい。それでも従来機は3~4時間は残量を気にしないで使えてきた。さすがにそれでは少ないという不安を感じるユーザーの気持ちも分からないではない。

 Snapdragon搭載でバッテリ駆動時間が延びた結果、実際に使った感覚では1時間を超える駆動時間の延びが獲得できているように感じる。実利用では6時間を超えて使えると思う。ようやくまともなバッテリ駆動時間を確保できたと関係者もいう。

Copilot+ PC化と軽量キープの両立

 実際にモバイルPCを常用しているユーザーであれば分かると思うが、一般的な文房具としてPCを使っていても、外出時に6時間を超えてPCを使うことはまれだ。最近は、AC電源を確保できる場所も多い。行動範囲の中で、そうした場所をリサーチしておけば、昼休みの短い時間で継ぎ足し充電などをすることでバッテリ残量を復活できる。ちなみに、USB PDで100Wを受電できる仕様となっていて、80%まで1時間で充電できるのは心強い。

 このバッテリ駆動時間を目安に、充電に要する時間を想定して運用ができれば、たいていのことには困らない。誰もが24時間PCに向き合っているわけではない。どうしても長時間駆動が求められる日だけ、それなりのサイズのモバイルバッテリをカバンに忍ばせておけば済む話だ。7.5W以上のUSB PD給電なら充電ができる。これも仕様だ。10,000mAh程度のモバイルバッテリの重量は200g前後だ。おそらくそれがあれば稼働時間は倍になる。634gの本体と併せても864g。それで12時間近くの稼働が期待できれば十分ではないか。

 軽さは正義。これはムサシの真骨頂だ。開発側としては634gという世界最軽量をどんなことがあっても守る覚悟がある。

 今回の開発はSoCが異なることから従来とは異なる基板の設計からスタートした。重くなるかもしれないという懸念が当初からあって、さすがに634gは無理ではないかという予測もあった。SoCの放熱部品がちょっと増えたりもしたし、周辺の電源パーツに変更もあった。

 当初、開発現場では重量増を懸念し、4セルモデルのみを出す予定でいた。しかし、トップダウンでQualcommムサシ(634gモデル)の投入が決定してしまった。現場としては及び腰にならざるを得ない難題だったが、そこから12層ある基板の未使用層を抜き、基板内の銅箔をメッシュ状に削り取るなど、0.1g単位の執念の軽量化作業を断行した結果、約10gのダイエットに成功し、634gを死守したのだ。

 さらにはCopilot+ PC対応も大きな負担になった。モダンスタンバイの稼働時間やWebブラウジングの制約など、一般には知られていない要件を満たさなければならない。いろいろと検討を重ねる中で、Snapdragonの性能を最大限に引き出すには、デュアルファンでなければ無理という結論に達した。

 従来機のムサシはシングルファンだった。その割り切りは634g実現には不可欠だ。バッテリ駆動時でも性能が落ちないことはSnapdragon採用の大きな魅力でもある。Snapdragonの性能を最大限に引き出すにはデュアルファンが必要だが、ムサシは634g実現のためにあえてシングルファン構造という割り切りを選択した。

世界最軽量の死守

 Snapdragon対応についてはQualcommのリファレンス通りに作業を進めることができ、同社のサポートも厚く、大きなトラブルはなかったという。ただ、従来のムサシの中に入れるというハードルを超える作業の中で、リファレンスとの乖離が発生、BIOSの変更が必要になった。また、内製のマイコンにも手を入れなければならなかった。

 さらにはプリインストールアプリのArm対応も必要だった。Windows on Armの互換性については法人向けのアプリが使えなくなる懸念で、法人ユーザーから敬遠される可能性もあった。いつまでニッチなアプリを使うのかということも議論する必要があるが、なかなかレガシー依存を変えようとしない日本の企業にも問題があるようだ。

 Windows on Armを導入した実際の現場では、購入時には不安も多かったが、使ってみると意外に不自由しないと評価されているようだ。FCCLの調べでは返品率はとても低いそうだ。法人は情シスが互換性を検証する。本当は業務端末として使われる現場用のPCをSnapdragon搭載機に変えたいというのが商品企画側の本音だ。

 もちろん、Windows OSのカーネルレベルにアクセスするソフトウェアや特定のハードウェアを直接制御するドライバに関してはエミュレーションの対象外となるため、必要な現場では依然として運用上の大きな壁として立ちはだかってはいる。だが、Snapdragon採用によるバッテリ駆動時間の延長は、それらの懸念をカバーして補えるほどの魅力にもなっている。

 負荷をかけた際のパフォーマンスが高く、Lunar Lake搭載機よりも2割ほど高い性能を発揮する点も魅力だが、シングルファン構造への割り切りは634g実現に不可欠であり、SoCのピーク性能を極限まで引き出す設計にはなっていない。

 しかし、特筆すべきは『ピーク性能の上限』ではなく『バッテリ駆動時の性能維持率』だ。電源接続時を100%とした場合、バッテリ駆動時でもCPU性能約99%、グラフィックス約98%を維持する 。絶対的なピーク性能を追わずとも、場所を問わず常に100%の力を発揮できる特性が、この割り切りを実用的なものにしている。

 ムサシは最新のSnapdragon X2シリーズを採用せず、あえて第1世代のエントリークラスQualcomm Snapdragon X X1-26-100 (8コア、最大3.0GHz)を採用している。その理由は熱設計の限界と、世界最軽量の死守だ。

 最新のSnapdragon X2シリーズは最大18コアなど多コア化と高性能化が進んでいる。その発熱をシングルファンで処理するのは物理的に困難だ。X2の熱を逃がすために冷却モジュールを大型化すれば、基板の層を抜いてまで10gのダイエットを行なった「634g」というアイデンティティが崩壊してしまう。

 さらにX2シリーズはピーク消費電力が高い。省電力性に優れた8コアの「X1-26-100」だからこそ、小容量バッテリでも成立するバランスを見出せたといえる。

 そして肝心なのが価格だ。ただでさえ特殊な基板で製造コストが跳ね上がっている中で、プレミアムなSoCを採用すると、最終的な販売価格が手の届かないものになってしまう。

 この重量でフルスペックのWindows PCを持ち歩き、実用的なバッテリ駆動時間を確保できることのすばらしさは、実際に使ってみればすぐに分かる。極端かもしれないが、カバンに入れたにもかかわらず、あまりの軽さに入れたこと自体を忘れ、出かける前に中身を再確認してしまうほどのレベルだ。

 余談だが今回使用した実機のキーボードは「ピクトブラック かな表記なしキーボード、文字色: 黒基調」だった。いわゆる墨色表記だ。これはちょっと使いものにならない。キーボードバックライトもないので、機動性とユーザビリティを考えると、ここは必ず「ピクトブラック かな表記なしキーボード、文字色: 白基調」を選ぶべきだ。ちょっと暗い場所で目的のキーをすばやく押せるかどうかはユーザビリティを大きく左右する。せっかくBTOができるのだから、購入するならそちらを選んでほしいと、老婆心ながら忠告しておきたい。

 これからのAIの時代、PCはパートナーだ。しっかりしたキーボードですばやく文字を入力でき、さまざまな思考の自由が手に入る超軽量PCの存在は心強い。手にとって持ち出すことを躊躇せずに済む携行性に、これまでと同じようにこれからも頼りたいと思う。そこにはスマホとは別次元の使い勝手が求められる。

 高性能PCが乗用車ならムサシは軽快な自転車やバイクに相当する。どちらも必要なのだ。それにスマホがあれば何も怖くない。個人的には増えたバッテリ駆動時間をWANで使いたいなとも思う。次のムサシにはスタンドアロンで通信できる翼がほしい。