山田祥平のRe:config.sys

使いやすいキーボードならそれでいいのか

 コンピュータとの対話において、キーボードの存在がだんだん希薄になっている。タッチや音声による対話が主流になりつつあるからだ。それでも高速に比較的量のある文字を入力するにはキーボードは欠かせない。

合体されたもう1台のコンピュータとディスプレイ

 ここのところ、レノボのYoga Book C930を試している。約799gの10.8型画面のWindows 10 2in1 PCだ(レノボ、IPS液晶とE-Ink両搭載の10.8型2in1「Yoga Book C930」参照)。

 名称から想像できるように、フォームファクタとしてはヨガスタイル、つまり、ディスプレイを裏返してピュアタブレットとして使える。先代機と同様に、キーボード部分はE Inkディスプレイで、キーボードがそこに表示されたり、ペンでの手描きスケッチができたり、さらには、PDFを表示したりできるようになっている。

 キーボードを表示しての打鍵時には、本体がバイブレーションするほか、音やアニメーションでのフィードバックで「叩いた」感が演出される。これはなかなか楽しいし、わかりやすい。とくにバイブは打鍵ミスの削減に貢献しているように感じる。

 デュアルディスプレイがセールスポイントとなるこの製品だが、正確にはそうじゃない。実際には2台のコンピュータがヒンジで合体しているイメージだ。

 E Inkディスプレイ側のコンピュータはWindowsとは異なる環境だ。WindowsとUSBなどの方法で通信して、あるときはキーボードとして、あるときは、スケッチパッドとして、あるときは、ドキュメントビューワとして機能する。少なくともネットワーク通信を行なっているわけではないようだ。

 したがって、Windowsからはディスプレイとして認識されているわけではない。そこが惜しい。設定変更などでセカンドディスプレイとして使うことができるようになっていれば、いろいろと夢が広がる。PDFしか読めないビューワよりは、Kindleアプリをフルスクリーン表示できれば電子書籍を読むにも便利だ。

 ただ、そういう使い方をするとき、裏側にまわった液晶ディスプレイはどう振る舞うのが正しいのかという問題も残る。そういう意味では、現在の実装が現実的なのかもしれない。

スクリーンキーボードの自由度を駆使

 さて、キーボードとしてE Inkディスプレイを使う場合、キーボードレイアウトはデフォルトで複数のレイアウトが用意されている。英語レイアウトがよければそれを使えばいいし、日本語レイアウトがよければそれを使う。このあたりは、ソフトウェアキーボードのいいところだ。

 レノボ側では、このキーボードについて、サードパーティが任意のものを作成して提供するようなことを想定していないが、これが自由になれば、コンシューマデバイスとしてではなく、特定業務用にも展開できるかもしれない。

 あるいはYouTuber御用達のライブ配信用特別キーボードなどがあったら便利だ。ドローン操縦用、楽器演奏用など、いろんなバリエーションが考えられる。

 さて、このキーボードで、エディタやワープロを起動した状態で、指4本をベタッとキートップの上に降ろしてみる。一般的なキーボードで言うところのホームポジションだ。人間がやることなので、完全同時に4本の指を接触させるというのは無理だ。だから必ずエディタ上にゴミとしての文字が入る。そのゴミを削除してから目的の打鍵をスタートするわけだが、打鍵中はなかなか指をキートップの上で休めるという感じにはならない。

 まあ、これは慣れればなんとかなる。

 個人的にはキーボード打鍵で、CtrlキーとCapsLockキーを入れ替えたいので、ほかのPCでそうしているように、ユーティリティを使ってレジストリを書き換えたのだが、このキーボードは、ソフトウェア的に、CapsLockキーが押されっぱなしになることが想定されていない。

 たとえばクリップボードの文字を連続して貼り付けるときに、Ctrl+Vのコンビネーションを使うのだが、CtrlとCapsLockを入れ替えた状態でCapsLock+Vを押した場合、最初のワンストロークは正しく機能するが、CapsLockキーを押したままで、Vをもう一度叩いても、CapsLockキーはから指を離したことになっていて、Vが連続して入力されてしまう。じつに惜しい。

 ここがきちんと実装されていれば、このキーボードでの高速タッチタイプを練習する気になるのだが、気がそがれてしまっている。

標準から逸脱したレイアウト

 キーボードレイアウトについても自在になるスクリーンキーボードのメリットを活かし切れていない。たとえばスペースキーが短く、変換キーはNとMの間の下部に位置する。本当はMの真下にあってほしいのだ。物理キーボードの場合は、筐体内の基板位置などの影響を受けるので仕方がないとあきらめもつくが、方向キー部分を下にずらせば正しいレイアウトにできるはずだ。このあたりのツメが甘いと感じる。

 いずれにしても、キーボードのレイアウトは、どうしようもないことはわかっていても、キー同士の相対位置についてはきちんと守ってほしいと思う。それを守るために、右Altや右Ctrlを省略するといった決断も必要になるだろう。

 ただ、これらのキーを常用しているユーザーもいるだろうからそれが難しい。でも、この製品のように、ソフトウェアでレイアウトが自由になるのだから、キーレイアウトのバリエーションを増やすなどの方法で対応してほしいものだ。理想的には、キーボードレイアウトを自分で作れるようなユーティリティがあったらうれしいと思う。

 今後、プログラミング教育の必修化などで、教育現場においてPCが使われる機会がどんどん増えていくだろう。その過程では、GUIとポインティングデバイスだけでは不十分で、キーボードを使う場面も増えるはずだ。

 そのとき、子ども用のピアノがないのだから、子どもも大人と同じキーボードを使うべきというのはちょっと乱暴だ。手が小さいのなら、小さいキーボードを使ってもいいわけだ。

 子ども用に小ぶりのキーボードを持つノートPCをあてがうというのも悪くない。各キーの相対位置関係さえ厳守すれば、成長して手が大きくなって、標準的なキーボードを使うときに指が迷うことはないだろう。

 ここで大事なことは「腐っても標準」という点だ。今、各社のノートPC、場合によってはRealforceなどの単体高級キーボードなども、四半世紀近く使われてきた日本語キーボードのレイアウト、いわゆる日本語109キーボードレイアウトから逸脱しはじめている(愛と哀しみの変換キー参照)。同じベンダーのPCはすべて同じレイアウトというのでもなく製品によって異なっていたりするから事態は深刻だ。

 人間とコンピュータが対話する上で、きわめて重要なインターフェイスであるキーボードだが、こうして各社各様のレイアウトが蔓延するようになると、将来的に困ったことが起こりそうな気もする。画面に表示されるキーボードは、スマートフォンやタブレットでおなじみだが、そのソフトウェアキーボードの考え方を、さらなる高みに持ち上げたこの製品のE Inkキーボードだけに残念だ。