山田祥平のRe:config.sys

書籍は紙の書籍と同じサイズで読みたい

 コンテンツの宝庫ともいえるインターネットと汎用のスマートデバイスは切っても切れない関係にある。だが、パソコンやスマホ、タブレットなどの液晶画面は目にとって刺激が大きい。傍らの書類に目をやると、いかに読みやすいかを痛感する。長文をじっくりと読むとなると一般的な液晶画面はつらい。そのつらさを抑制するのがE Inkディスプレイだ。

大画面E Inkの魅力

 Onyx Internationalの正規代理店FOXが、Android搭載7.8型E Inkタブレット「BOOX Nova 2」、13.3型の「BOOX Max 3」の販売を開始した。ちょっと前からいろんなところでレビューされていたので、その存在が気になっていたのだが、同社にお願いしてしばらく使わせてもらった。

 借り出したのは「BOOX Max3」で、画面解像度2,200×1m650ドット(縦横比4:3)のE Inkディスプレイを持つタブレットだ。重量は490グラムある。縦横比が異なるので微妙ではあるが、本体そのものはA4用紙とほぼ同じくらいのサイズで、額縁分だけ面積が抑制される。ディスプレイのサイズは、単行本で言うところの四六判(188mm×130mm)見開きといったところだろうか。

 個人的には同じE Inkディスプレイを持つアマゾンのKindleの愛用者で、もしこうした端末がなかったら、もう、書物は読んでいないのではないかというくらいに愛用している。老眼が進む世代には救世主のような存在で、その恩恵をもたらしている立役者がE Inkディスプレイだ。

 だが、シリーズ中最大のディスプレイを持つKindle Oasisも、そのサイズは7型だ。文庫本よりひとまわり小さい。文字だけの本を読む分には、それほど不自由を感じないし、持ち運びにも便利なのだが、ちょっとややこしい本を読み進めるときには、もう少し画面が広ければよかったのになと思うことが多い。単行本を見開き状態で視野に入れると、文章を読み進めながら視線が前後の行を行ったり来たりするのだが、数行前をチラリと見ながら、現在行に視線を戻して咀嚼するといった読み進め方ができる。また、コミックを読むときも見開きで全体のイメージをつかむことができる。

 これをKindleでやろうとすると、Oasis程度の画面サイズでは難しいのだ。液晶画面でいいのなら10型程度のタブレットが各社から出ている。だがE Inkディスプレイの視認性を体験してしまうと、なかなか液晶には戻れない。

 BOOX Max3は、13.3型E Inkという、きわめて大画面のディスプレイを持ち、今、感じている不満を解消してくれるのではないかともくろんだのだ。

ドキュメントビューアー専用機とアプリプラットフォームの二面性

 BOOX Max3は、汎用のAndroidタブレットだ。ただ、Googleサービスと密接に紐付けられているのではなく、Android 9.0 を基盤に、Onyx社による独自シェルを載せ、同梱のワコムスタイラスペンによる手書きメモアプリや、各種ドキュメントの閲覧機能が統合された環境として提供される。

 ドキュメントビューアとしては、PDFはもちろん、EPUB、テキスト、Wordファイルなど、一般的なものを表示するのにとりあえず不便はない。

 汎用機としての真骨頂は、Google Playストアアプリを有効にできる点にある。つまり、Android端末用に配布されているあらゆるアプリをとりあえず稼働させることができる。
「とりあえず」というのは、画面がモノクロであることや、E Inkの描画の遅さなどによって利用に支障が出る可能性があるからだ。使ってみると、いかに、カラーに視角が助けられているかを痛感する。こればかりは試して見ないとわからない。ただ、日本語入力のためにATOK、電子書籍読書のためのKindleアプリ、クラウドストレージ利用のためのOneDriveを入れてみたが、特に問題なく使えるようだ。

 その一方で、稼働はするものの、使いたくないなと感じるアプリも少なくない。たとえばTwitterやFacebookなどのSNS、ニュースアプリなど、頻繁にスクロールして読みたい記事を読むといった場面では、とにかく描画が遅すぎてストレスがたまる。やはり、表示されたコンテンツをじっくりと読み、次のページに遷移するのは1~2分に一度といった頻度での操作がよさそうだ。まさに電子書籍にうってつけだ。

新しい当たり前には新しいコンテンツ

 本体下部前面には「戻る」ボタンが物理的に装備されている。このボタンは設定によってホームなどほかの機能に割り当てることもできる。

 また、下部側面には充電やデータ転送に使えるType-Cとともに、Micro HDMIポートがある。ここにPCのHDMI出力を入力し、プリインストールされたアプリ「モニター」を起動すれば、PCからは2,200×1,650ドット(縦横比4:3)の外部ディスプレイが接続されたように認識される。マウスクリックも難しいくらいに描画が遅いのだが、これまた固定された静的コンテンツの表示なら問題ない。

 たとえば、PCでKindleアプリを開いて最大化、コンテンツを表示させた上でShift+Windows+方向キーなどを使ってウィンドウを移動させるといった使い方をすれば、本体操作にストレスを感じることもない。もっとも、Kindleアプリやプリインのドキュメントビューアを使うかぎり、PCと切り離して使ってもとくに不便はないので、あくまでも補助的な機能として考えた方がよさそうだ。

 気になったのはディスプレイの反射だ。角度によって天井の明かりが映り込んだりする。Kindleではあまり感じなかったことなので、比べてみたが、反射率にそれほど大きな違いはないようだ。やはり、画面の大きさによるものなのだろう。もう少し反射率を低くすることを検討してほしいところだ。

 また、バックライトがないのも不便を感じるかもしれない。バックライトのないE Inkディスプレイは、外部の光がなければ、表示画面を見ることはできない。つまり、暗闇で読書というわけにはいかない。画面を見るには必ず灯りが必要だ。まさに、紙の書類や書籍と同じだ。

 税別価格は89,800円と、ちょっと購入に勇気がいる金額だ。だが、電子書籍を大画面でもっとリッチに読みたいという願望をかなえてくれる希有なデバイスだ。ベンダー側の製品企画としては、汎用Android端末として汎用アプリを入れられるのは、むしろオマケ的な付加価値で、本当は、手書き対応のドキュメントリーダーとしての付加価値を前面においているように感じるが、別バージョンとして、ハードウェアはそのままで、もっとシンプルなAndroidタブレットを用意してもいいかもしれない。

 それでもこうした製品を世に問う姿勢は素晴らしい。とにかく市場を確保しなければ意味がないからだ。そのチャレンジに挑むベンダー側には敬意を表したい。大画面E Inkディスプレイのニーズそのものは絶対にあると思う。書類はA4、単行本は見開きという旧来の当たり前を享受するには最適だ。新しい当たり前には新しいコンテンツが必要だ。その充実にはまだ時間がかかる。こういってしまうと実も蓋もないのだが、個人的には、15型クラスのKindleが(価格を抑えて)出てくればどんなにいいかと思っている。