山田祥平のRe:config.sys

eSIMはいいSIMか

 総務省の「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」発表や武田総務相の発言もあり、eSIM周辺がにわかにホットな話題になりつつある。事業者の乗換を容易にし、料金の引き下げにも貢献するということで、来年(2021年)の夏までに指針を公開するということだが、実際の使い勝手はどうなのか。

レッツノートの画面サイズ再考

 レッツノートの秋の新製品としてデュアルSIM対応モデルのCF-LV9WTYQPが発表された。11月16日からの出荷が予定されている。ベースは14型フルHD画面のLV9で、レッツノートとしてはじめてeSIMを搭載する。Panasonic Store限定の発売でいわゆるレッツノートのプレミアムエディションとなっている。今回は、そのデモ機をしばらく使ってみた。

 パソコンとしての実力はCore i7-10810U搭載で、メモリは16GB、PCIe SSD 2TBと申し分のない内容だ。顔認証と指紋認証の両対応と使い勝手もいい。重量は11.5時間駆動のSバッテリ搭載で1,215g、18時間駆動のLバッテリで1,315gで、標準仕様ではSバッテリが搭載されているがカスタマイズでLバッテリにも変更できる。ちなみに、バッテリはSVシリーズと共通仕様のものを使う。

 価格は39万8,200円と高額だ。ただ、レッツノートの場合、バッテリが着脱可能なので、そのライフサイクルがバッテリの劣化に左右されることがない。本体はまだまだ使えそうなのに内蔵バッテリのヘタリとその交換費用でライフサイクルを終える機器が少なくないが、レッツノートにそのリスクはない。

 このスペックであれば4年くらい経過しても、バッテリを交換すれば十二分に現役機として使えるだろうと考えることもできる。レッツノートでは「バッテリーライフサイクルNAVI」と呼ばれるサービス(8,800円)が提供され、劣化・故障したバッテリを検知し、新しいバッテリと交換することができる。今回のeSIM搭載モデルでは、12月22日までこのサービスが無償で提供されるということだ。

 レッツノートの顔と言えばSVシリーズだ。12.1型画面を持つモバイルノートパソコンで、持ち運んで使うにも、据置で使うにもバランスがいい、ノートパソコンは今、13.3型、14型、15.6型の選択肢があり、それらよりもひとまわり小さい12.1型は、機動性の点では秀逸だ。

 ただコロナ禍のいま、モバイルノートパソコンに求められる要素に、ちょっとした変化が起こっている。ポータビリティという点では12.1型は優れているが、外出の機会が少なくなりつつある今、常置場所で作業するにはもう少し大きな画面が欲しいという声がある。

 外付けのモバイルディスプレイや据置ディスプレイを追加して小さなノートを使うといった選択肢もあるのだが、在宅での使用環境などの関係で、どうしても1台の筐体だけで完結したいという場合も多い。

 LV9の14型画面は、15.6型よりは小さいものの、13.3型よりは大きい。13.3型では画面のスケーリングを175%にしなければならなくても、14型画面なら150%でいいと思うかもしれない。何かを参照しながら何かをするという作業では、やはり少しでも大きな画面が望ましい。その一方で、大きすぎたり、外部に何かを接続するのはうっとうしいと、人間はわがままだ。

 同時に見渡せる情報量も増えることで、ほんの少しの違いなのだが、14型画面は家庭内での移動や、少なくなった出勤時の持ち運び、そして出張などでの持ち運びにさいするポータビリティにこだわりつつ、在宅での作業に少しでも大きな画面が欲しいというニーズに応えることができるものだと言える。

出かけるときだけWANが欲しい

 さて、レッツノートとして初搭載のeSIMだが、デュアルSIM対応ではあるが、通常のNano SIMスロットと排他仕様になっている。プリインストールされている「PC設定ユーティリティ」を使い、使用するSIMをeSIMか物理スロットに装着されたNano SIMかを選ぶ。切り替えにさいして再起動などは必要ないが、1~2分の時間を要する。

 eSIMに切り替えると、Windowsの設定で携帯電話会社のeSIMプロファイルを新規追加できるようになる。ここで各社のサービスを登録すれば、その場でLTE通信によるインターネット接続が可能になる。確かに、物理的なSIMのやりとりを郵送で行なったり、販売店頭に赴いたりする必要がなく、思い立ったときにすぐに利用を開始できるのは便利だ。総務省が本気でeSIM普及を促進しようとしているのも理解できる。

 現時点で、eSIMサービスに熱心な事業者としてはIIJのIIJmioがある。とくに、そのサービスの1つである「IIJmio eSIMサービス データプランゼロ」は、月額料金150円で、最初の1GBを300円、追加1GBごとに450円で利用できるサービスだ。

 また、プロファイルの再発行手数料が無料なので、パソコンからiPhoneやiPad、PixelといったeSIM対応デバイスをとっかえひっかえするにも追加コストがかからない。

 申し込みには、そのときだけ別途インターネット接続が必要だ。クレジットカードとメールアドレスを登録すると、設定用のアクティベーションコードが送られてくるので、それを登録すればすぐに使えるようになる。アクティベーションコードはかなり長い英数記号の羅列だが、QRコードが提供されているので、スマホ画面などで表示させた上で、パソコンのカメラで読み取れば登録ができる。レッツノートの前面カメラで問題なく登録ができた。

 大手のキャリアではKDDIが同様のeSIMサービスを提供している。維持に月額150円がどうしてもかかってしまうIIJのサービスに対して、月額料金も契約事務手数料も無料だが、1Gbあたり1,500円と高額だ。

 いずれにしても、eSIMによって、通信に使う容量を、必要なときに必要なだけ気軽に購入できることがわかる。だが、問題は、契約時の事務手数料や毎月の維持費だ。IIJmioのサービスなら契約事務手数料が3,000円かかる(10月末まではキャンペーン中でゼロ円)。月額料金150円の20カ月分だ。これらがなければ、本当に、まるで乾電池を購入するように、必要なときだけデータ容量を購入し、通信に使うことができる。

 このコロナ禍で出張は激減しているため、毎月のランニングコストを払ってまでパソコンにLTE通信を装備しなくてもいいと思っていても、突発的に数日間の出張業務が入ってしまうかもしれない。そんなときに、泥縄的にeSIMを登録することができれば、出張期間の快適なインターネット接続が得られる。

 総務省はeSIMを、キャリア乗換のハードルを下げるためのものと認識しているようだが、使い切りのサービスとしての可能性も考慮してほしい。かつて、UQコミュニケーションズのWiMAXサービスでは1dayサービスが提供され、WiMAX内蔵パソコンで1日単位の利用を気軽に申し込むことができてとても便利だった。料金も500円ちょっとで無制限容量とリーズナブルだった。

 時代は変わったが、パソコンでのeSIMでも、こうしたサービスが提供されるようになることを期待したい。まさにeSIMならではの使い方ではないだろうか。

 ちなみにKDDIはシンガポールのCircles Life社と協業し、MVNO新会社としてKDDI Digital Lifeを11月に設立する。日本でのサービスインは来春を目途としていて、eSIM活用による完全オンライン型のデータ通信サービス提供を考えているそうだ。eSIM前提なので4G LTEのサービスになるが、使い放題のサービスになるらしい。こうした展開も楽しみだ。

パソコンくらいはストレスフリーで使いたい

 レッツノートは12.1型のSVと12型のQVを使ってきたし、今はアップデートされないので縁遠くなってしまった10.1型のRZの機動性はデビュー時においては出色の出来だった。そんななかで、14型、しかも16:9のレッツノートというのは、どうにも異色で親近感がわかず、いわば食わず嫌いの状態だった。

 今回、使ってみて感じたのは、画面サイズのみならず、たとえばキーボードのフィーリングについても、ほかのレッツノートは多少のガマンを強いられていたのだなということだ。

 モバイルは、どうしても犠牲を伴う。レッツノートSV、QVのキーボードは縦方向こそ縮小されているが、その犠牲を最小限に抑え、画面サイズが小さくても、横方向のピッチ横19mm、ストローク2mmを死守しているが、キーピッチが同じはずのLVのキーがもっとも打ちやすい。縦方向のピッチが広いことと、各文字キーのサイズが均一だから指が迷わず、ストレスがないのだろう。

 SVなどでは、エンターキーを含め、右手小指の守備範囲のキートップをちょっと小さくすることでキーボード全体の横幅のつじつまをあわせている。サイズをコンパクトにすることで犠牲になっていた部分が、こんなところにもあったのだなと痛感する。

 また、筐体サイズの大きさからか、熱設計に対しても余裕があるようで、同じプロセッサを搭載したSVやQVよりキビキビと使えることが体感でもわかる。vPro対応待ちで第11世代のCore機は先の話になることだけが残念だ。

 コロナ禍で、いろいろなストレスがたまっている方も多いと思う。パソコンを使うときくらいは、ストレスフリーを堪能してもいいんじゃないか。