山田祥平のRe:config.sys

eSIMの存在意義

 携帯電話サービスがオンラインで契約できるようになりつつある。思い立って申し込めば、1時間後には、その回線が使える。MNPも同様だ。物理的な書類や機材のやりとりも必要ない。もちろんハンコも。そのデジタル化に貢献しているのがeSIMだ。でも、本当にeSIMは便利なのか。

思い立ったらすぐに契約、すぐに使える

 総務省が後押ししていることもあり、eSIM関連の話題がホットだ。ご存じの通り、一般的なモバイル端末は、小指爪先サイズのICカードとしてのSIMを装着して通信ができるようになる。SIMは、Subscriber Identity Module Cardの頭文字をとったもので、電話番号などの契約者情報と結びつく。そのため、端末を代えても、SIMを入れ替えるだけで、特定の電話番号の端末として機能する。在宅勤務などが浸透し、企業などで使われる端末が、異なる場所に散在するような場合に端末を配布するときにも好都合だ。

 ただ、爪先サイズとはいえ、物理的なICカードだ。めったに入れ替えないとしても紛失の心配もあれば、契約時にはなんらかの流通手段でやりとりする必要がある。作業に慣れない一般的な消費者にとっては、その入れ替えのハードルも高い。

 eSIMは、機器に埋め込まれた特別なモジュールがダウンロードされたデータを読み込んで機能する。物理的なSIMとは異なり、データとして機器に書き込まれる。だから、契約の場合の対面販売なども必要なければ、物理的なSIMを運ぶ流通もいらない。契約には本人確認が必須だが、それにつていもeKYCを利用することで、本人の顔情報と、免許証などの本人確認書類との照合することで自動的に行なわれる。

 KYCはKnow Your Customerの頭文字で、本人確認を意味する。その頭についた「e」はそれを電子的にオンラインで行なう技術であることを示す。eKYCは物理SIMでも同様で、もはや電話の契約にリアルショップに赴く必要はない。

 ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのMNO4社は、その契約をオンラインでできる。eSIMを発行すれば、申し込んで1時間後には契約回線を使えるようになる。

 eSIMを利用するには、eSIM対応端末が必要だ。スマートフォンは、2枚の物理SIMを装着できるものが増えてきていたが、今は、そのうち1つをeSIM対応させるものが主流だ。たとえばiPhoneシリーズなどがそうだし、GoogleのPixelシリーズもその方式だ。その一方で、キャリア端末として人気の機種についてはまだeSIM対応が進んでいない。たぶんキャリアがあまり熱心ではないのだろうと推測されるが、総務省の後押しは、この状況を変えてしまうことになりそうだ。意図としては、キャリア間の乗り換えのハードルを下げるというのがあり、eSIMは、その利便性を確保するために有効だとされている。

まだまだハードルの高い設定作業

 そこで各社のeSIMを体験契約してみることにした。楽天モバイルはサービスイン時に新規契約したときに体験済みなので、今回は、ドコモの「5Gギガホプレミア」、auの「使い放題MAX 5G」、ソフトバンクの「メリハリ無制限」をeSIMのみ新規契約してみた。

 ドコモとソフトバンクはオンライン契約では、いわゆる事務手数料はかからない。auについては今なお事務手数料3,300円が必要だ。

 これらのプランの使用料は音声通話無料オプションなどをつけない限り7,238円(ドコモのみ7,315円)/月で無制限のデータ通信ができる。ちなみにドコモは申込時の名前や連絡先情報などが自動照合され、「みんなドコモ割」が自動適用された。

 契約の流れは3社ともにほぼ同じだ。契約終了後に届くメールで記載されている手順通りに、eSIMをダウンロードし、それを使うように端末を設定すればいい。

 やっかいなのは、eKYCでスマホのカメラを使って自分の顔や本人確認書類などを映したりする必要があるため、PCでの申し込み手続きができないことだ。大きな画面、入力しやすいキーボードが目の前にあるにもかかわらず、スマホを片手にチマチマと情報を入力する必要がある。これは3社ともに同様だ。なお、どのキャリアも契約時に電話番号は選べなかった。

 申し込み終了後すぐ、登録したアドレスにメールが届き、そこにeSIMダウンロードのための手順が記載されている。注意しなければならないのは、ダウンロードのためのURLがQRコードで提供されるため、そのeSIMを使う端末以外でQRコードを表示させる必要があることだ。その端末でQRコードを表示させてしまった場合は、そのQRコードを別のカメラで撮影し、その写真を実際に使う端末に読ませるといった手間が必要になる。もちろんこの時点では、これから開通する回線以外のインターネット接続が必要になる。

 ドコモの場合は、ダウンロード前に利用する端末のEIDを登録する必要がある。これはeSIM対応機の端末情報欄で確認できる。製品が入っていた空き箱にも記載されているそうだが、それを探し出すのは至難の業だ。

 EIDは数字32桁で構成されている。これを入力するのもたいへんだが、正しく入力すれば、ドコモが指定するeSIMサーバーに接続するだけで、紐付けの作業が完了して開通する。

 一方、auは、QRコード読み取りのみの登録だ。

 また、ソフトバンクはアクティベーションコードが発行されるのでQRコードを読み取る必要はない。ただし、My SoftBankへ新規登録してログインが必要になる。ワンタイムパスワードがメールで届くので、それを入力すればダウンロードができる。

 au、ソフトバンクともにダウンロード後、開通の手続きが必要だ。これも別の端末が必要になる。最初、それを見逃していて、ダウンロードしたもののいつまでたっても通信ができずに困惑してしまった。ドコモの場合は、EID入力により、ダウンロード後、即時開通となる。

入れ替えだけなら物理SIMがカンタン

 物理SIMでは、端末からSIMを取り出し、別の端末に装着するだけで入れ替えができる。一方、eSIMでは、端末を変更する場合、eSIMを再発行させ、再ダウンロードする必要がある。

 auは、新規登録後、3日経過しないと再発行ができない。また、その受付時間が9:00~20:00だ。また、ソフトバンクはすぐに再発行ができるが、受付時間が9:00~21:00となっている。夜遅くに翌日のために設定しておこうとしてもそれができないので注意が必要だ。

 結果として、24時間いつでも手続きが可能で、EID32桁の入力というめんどうな作業があるとしても、それだけで紐付けと開通が完了するドコモがもっともカンタンでわかりやすかった。

 eSIMは、思い立ったときにすぐに新規契約したり、MNPしたりするときの敷居を下げるかもしれないが、機種変更するのは物理SIMの方がずっとカンタンで手っ取り早い。このあたりの手順については、まだまだ改善の余地がありそうだ。具体的にはドコモ方式のように、手持ち端末のEIDを控えておくなり、登録しておくなりし、Webでどの端末で使うかを指定すれば、自動的にその端末が開通するというような方法がよさそうだ。

 電話番号へのこだわりがなければ、eSIMは、契約と解約を実にカンタンにできるという点には注目しておきたい。ただ、auは今のところオンラインでの解約はできない。

 契約と解約がカンタンだと、使いたい回線を使いたいときだけに利用できる。たとえば、旅行や出張のある月だけ、iPadやPCなどの端末用に使い放題の契約を追加するといった使い方だ。もっとも、よく計算して確認しないと、現状で使っているプランを上位に変更したほうが安上がりということもあるので注意が必要だ。オンラインでの手続きのほとんどは事務手数料がかからないので、気軽に変更等の手続きができるということを改めて確認しておこう。セカンドブランドの20GBや、端末追加オプションの30GBでは足りないといったケースでは便利なはずだ。

 その一方で、通信料金が高いと嘆く前に、自分の契約がどうなっていて、何にどのくらい支払っていて、不便な点を改善するには何をすればいいのかを知っておくべきだ。コンビニ弁当の支払いまで電話料金に含めてとらえられてはキャリア側もかわいそうだ。

 また、この敷居の低さで、各社ともに新規契約特典の見直しも必要になるだろう。それを目当てに契約解約を繰り返すようなユーザーが旨みを得るようではまずい。逆に、本当に短期での契約解約が必要なユーザーにとっては、それを繰り返しただけでブラックリストに登録されて、次回以降の契約を断られるようなことがあってもならない。とにもかくにも、まだまだ、課題は山積みだ。