山田祥平のRe:config.sys
今こそすべての日本国民に問うIMEのオンとオフ
2020年7月4日 09:50
日本語でコンピュータを使うためには、日本語の表示だけではなく入力ができる必要がある。そのための重要な仕組みとしてのIME。そのオンとオフについての新しい当たり前を考えてみた。
トグル切り替えとIME
PCの扱い方にはいろいろな流儀がある。何十年もPCを使ってきた人と、せいぜい数年前にPCを使いはじめたユーザーでは知識も違えばスキルも違う。「鳴かぬなら……」の家康/秀吉/信長のように、人それぞれで異なる。そのくらい極端だし、どれが正解ということもない。
個々のユーザーの違いが顕著に現れるのが日本語入力の方法だ。日本語を入力するためには日本語入力(IME)をオンにする必要がある。そして、いったんIMEをオンにしてからの行動様式がいろいろなのだ。
日本語は、漢字かな交じりで、さらに、英数字が混在して構成される。そのため、漢字、ひらがな、アルファベット、数字、記号を入力し分けなければならない。さらに、半角カタカナはこのさい無視するとして、アルファベット、数字、記号については全角と半角が存在する。
ざっくり言うと、どんな文字種を入力する場合も、IMEはオンのままで、入力後に半角、全角に後変換するパターンと、半角入力時はIMEを明示的にオフにするというパターンがある。予測変換やスペルチェック、カタカナ語→英語の変換などを考えると、半角入力時にもIMEのなかにいるほうが便利という考え方もあるかもしれない。
だが、個人的には全角の漢字かな交じり入力時はIMEをオンで、英数字入力時はIMEをオフにして入力してきた。「へっぉ」を「Hello」、「うぃんどws」で「Windows」に抵抗があるからなのだが、もしかしたら、日本語入力が今ほど便利ではなかった時代を引きずっているのかもしれない。
ともあれ、IMEのオンとオフは、PCでの作業効率を左右すると言ってもいいくらいに頻繁にする作業だ。そして、多くのユーザーは、オンとオフを単独のキー操作でトグル切り替えしてきた。日本語JISキーボードの場合、古くはAlt+半角/全角キーで、それが半角/全角キー単独でもできるようになり、もっと最近では変換キー単独でもオン/オフできる。同じ操作でオンをオフに、オフをオンにするのがトグルだ。モードが入れ替わる。
使用頻度を考えると、半角/全角キーはあまりにも遠い。それをAltで修飾して叩くなど言語道断だ。Windows標準のMicrosoft-IMEは長い間そうだったが、サードパーティ製のIME、たとえばジャストシステムのATOKなどは、最初からデフォルトで変換キーだけでオン/オフができるようになっていた。もちろん、Microsoft IMEにもATOKにもキーのカスタマイズ機能があるので、自分の使いやすいように割り当てを変更することができるが、普通のエンドユーザーにそれを伝えるのはたいへんだ。
スペースキーの左と右
多くのユーザーは日本語JIS配列に準拠したキーボードを使っている。英語配列(ASCII配列)を絶賛する声も聞こえてくるが、キーボードを好きなものに変更できるデスクトップ機ならともかく、実際に販売されているノートPCには日本語JIS配列のものしか提供されていないことが多い。だからJIS配列を選ばざるを得ないという状況が続いてきた。
日本語JIS配列では、横たわるスペースキーの左側に無変換キー、右側に変換キーが配置され、さらに変換キーの右側にカタカナキーがある。スペースキー両脇のこの3つのキーが、日本語キーボードを窮屈なものにしているのは言うまでもない。頻繁に使うスペースキーなのだから、もっと長くしたほうが便利ということで、変換キーを右に多少、横移動させてスペースキーを長くするトレンドもある。東プレのREALFORCEなどがそうだが、あまりにも長い間慣れ親しんでいたCキーの下に無変換キー、Mキーの下に変換キーという位置関係をズラしてしまうというのもどうかと思う。
いずれにしても、IMEのオンとオフは、それなりに頻繁に行なう操作なのだが、今オンなのか、オフなのかがわかりにくい。実際にはタスクバーの通知領域に表示されているのだが、入力時に視線が注目しているのはカーソル位置であることが多く、IMEの状態をつねに把握しておくのはたいへんだ。これは、オンとオフが同じ操作でトグルするということに起因すると言ってもいい。そして、USBプラグを抜き差しするときには必ず表裏を逆にしてしまうというマーフィーの法則的な失敗を繰り返す。
令和の時代、USBでさえType-Cプラグが新しい当たり前になりつつあり、表と裏を考えなくてもよくなったのだから、このトグルという操作をなんとかしたほうがいいかもしれないと感じていた。
そんなタイミングで、Windows 10 May 2020 Updateがリリースされ、細かいことだが、このバージョンからは、Windows標準の日本語入力システムであるMicrosoft IMEにおいて、エンドユーザーが容易に変更できるキーの割り当てGUIが用意された。このGUIへのアプローチの方法はいろいろあるが、設定アプリの検索ボックスにIMEと入力して、「日本語IMEの設定」-「キーとタッチのカスタマイズ」で開くのが簡単だ。
このGUIでは、「各キーに好みの機能を割り当てる」として、
・無変換キー
・変換キー
・Cntrl + Space
・Shift + Space
にオン/オフ関連の機能を割り当てることができる。用意されている選択肢としては、
・IME-オン
・IME-オフ
・IME-オン/オフ
などがある。
この割り当てによってオンとオフを変換キーと無変換キーに個別に割り当てたらどうかというのがWindowsの提案だ。つまり、
・無変換キー → IMEオフ
・変換キー → IMEオン
でいけますよ、というわけだ。利点としては、今、IMEがオンなのか、オフなのかをエンドユーザーが意識する必要がなくなる。オンにしたければ変換キー、オフにしたければ無変換キーを叩けばいいのでわかりやすい。
ちなみに英語キーボードを接続している場合にもこのGUIは表示され、存在しない変換キーや無変換キーに機能を割り当てることができてしまう。ここは英語キーボードにおけるスペースキーの左のAlt、右のAltを無変換、変換に割り当てられるようにするべきではないかとも思う。
もちろんMicrosoft IMEにしても、ATOKにしても、ずっと以前からキーカスタマイズ機能によって同じことはできたのだが、Windowsとして、おそるおそる、新しい当たり前を浸透させようとしていることが見て取れる。
当然、いきなりデフォルト仕様が変わってしまってはエンドユーザーの大混乱は必至だ。だからまだ、デフォルトにはしない。あくまでも提案だ。うがった見方をすれば、その背景にはMac OSの日本語入力操作の存在もあるにちがいない。MacのJISキーボードの場合、スペースキーの左に英数キー、右にかなキーがある。そして日本語入力は、トグルではなく英数キーでオフ、かなキーでオンとなる。
個人的に今回は、Windowsの新しい当たり前に乗ってみることにした。変換キーにオン、無変換キーにオフを割り当ててみた。常用の日本語IMEであるATOKも同じようにキーカスタマイズした。
何十年も慣れ親しんできたIMEのトグル操作なので、まだまだ間違うことは多く、ストレスはたまる。でも、そのうち慣れるだろうと、ちょっと泣きながら新しい当たり前を先行体験しているところだ。
誰でもできるキーカスタマイズ
Windowsのキーカスタマイズと言えば、Microsoft謹製のWindows機能拡張ユーティリティであるPowerToysにおいて、Keyboard Managerという機能が提供されるようになった。キー、そしてショートカットのリマップを設定する機能だ。
この機能を使えば最終的にはCtrlとCaps Lockキーを入れ替えたり、通常の貼り付けショートカットCtrl+Vを履歴つき貼り付けショートカットのWindows+Vに設定したりといったことができるようになる。
まだプレビュー版なので、CtrlキーとCaps Lockキーの入れ替えには不具合があって使えないが、そのうち解消されるだろう。
キーボードはGUIの浸透でコンピュータと対話するための必須要素ではなくなったかもしれないが、文字、数値データの入力というもっとも基本的な役割を担う重要なデバイスだ。カスタマイズしすぎるといろいろ不都合なことが起こるかもしれないが、Windowsの標準機能として誰もが簡単にカスタマイズできる機能として提供されるのなら、それを活かしてみるのも悪くない。やろうと思えば何でもできるが、誰でもできるかどうかも大事というのが新しい当たり前だ。