山田祥平のRe:config.sys

急がば回るな的ショートカット

 定番ワープロアプリWordのデフォルトショートカットキーの内容が見直されているそうだ。由緒あるアプリであるだけに、カンタンには変えられない。その反応を見るべく、Microsoft 365 Insiderでのテストが開始されている。

諸刃の剣だがやめられないショートカット

 アプリのショートカットというのはとてもやっかいな存在だ。OS標準のものがあるかと思えば、アプリごとに勝手に割り付けられたものもあるし、場合によっては、OSやアプリのユーザーが、自分自身で定義したものもある。とにかく、自分の慣れ親しんでいない異なる環境では、著しく作業効率が落ちてしまうが、最低限の操作で作業を進めることができるため、多くの場合は、生産性を高めることができる。いわば諸刃の剣でもあるわけだ。

 ショートカットというのは、その名の通り、近道を意味する。特定のキーコンビネーションの打鍵によって特定の機能を実行するもので、たとえば、よく知られているものとしては、文字列や図形などのオブジェクトを選択した上でCtrlキーを押しながら文字キーCを叩くことで、選択されているオブジェクトがクリップボードにコピーされる。そして、Ctrlキーを押しながら文字キーVを叩くことで、カーソル位置にクリップボードの内容が貼りつく、といった具合だ。

 コピー、切り取り、貼り付けについてはWindowsであれば編集メニューで実行できるし、多くの場合、リボンやツールバーなどにそのためのボタンが用意されている。ちなみに、ショートカットキーコンビネーションにおいて、Ctrlキー、Shiftキー、Altキー、Windowキーは、ほかのキーと組み合わせて使うため、修飾キーとも呼ばれている。ただ、昨今のOfficeアプリには、ファイル、編集と並ぶクラシックなメニューバーが存在しない。

プラスとマイナスで画面を拡大/縮小

 今回、Microsoftが様子見でテストしようとしているのは、編集画面の拡大/縮小と、書式なしでのペーストだ。

 それぞれを細かく見ていこう。

 まず、編集画面の拡大縮小については、

  • Ctrl + -(文字キーマイナス) 縮小
  • Ctrl + +(文字キープラス) 拡大
  • Ctrl + 0(文字キーゼロ) 100%表示
  • Ctrl + マウスホイールの回転 拡大/縮小

が定義される。

 マイナス、プラス、ゼロについてはテンキーの同キーでも同じ結果が得られる。えっ? と思う方もいるかもしれない。このショートカットは、ブラウザ等では以前からお馴染みのものだからだ。EdgeにしてもChromeにしても、ずっと前からこの操作で画面の表示を変えることができていた。

 また、最新といえるWindows 11のバージョン22H2では、メモ帳ではこのショートカットが有効だが、ワードパッドではマイナス、プラスを使ったズームができない。Wordは一足先にプラスとマイナスキーを使った拡大/縮小のショートカットを導入しようとしているが、Excelでは、このキーコンビネーションは行と列を挿入または削除する機能に割り当てられている。かと思えば、Ctrlキーを押しながらマウスのホイールを回転させることで拡大/縮小する機能は、多くのアプリで使えるようで、PowerPointでも大丈夫だ。

 ところが、アドビのPhotoshopやIllustratorは、逆に、プラスとマイナスキーを使った拡大/縮小はできるが、Ctrlキーとマウスホイールのコンビネーションでは横方向スクロールになっている。そりゃ、混乱もするはずだ。

テキストとして貼り付ければ書式が崩れない

 書式なしでのペーストについては、Windowsは、

  • Ctrl+Shift+V

を使おうとしている。なぜ、こんなキーコンビネーションが必要かというと、たとえばブラウザで見ているページ内から、コピペで文字列等を別の文書に持ってこようとしたときに、コピー後に貼り付けたときに、ページ内で表示されていたときの書式が反映されてしまい、結果として文書内の書式が乱れてしまうからだ。

 そうしたことを回避するために、多くのアプリでは「形式を選択して貼り付け」という機能が用意されている。Wordの場合なら、Alt+Ctrl+Vでの貼り付けで、この機能を呼び出せるし、通常通りCtrl+Vで貼り付けても、ボタンが表示されて貼り付け時の書式を変更することができる。

 だが、最初から書式なしでテキスト情報だけを貼り付けたいことは多い。形式を選択するにはワンアクション余計なステップが必要でまどろっこしい。ちなみに、このショートカットについては、昨年(2022年)秋にExcelが一足先にテストに入っている。

 Windowsでは、標準機能として、貼り付けについてはクリップボードの履歴を保存し、必要なものを貼り付ける機能がサポートされている。この機能は、履歴をネットワーク共有し、同じMicrosoftアカウントで使っているPC同士で共有することもできる。こちらについては、Windows+Vで履歴を参照し、「テキストとして貼り付け」を実行することで、書式なしでのペーストができる。

貧乏くじをひいたPowerToys

 個人的にお気に入りのPowerToysでも、キーボードショートカットで興味深い変更があった。新しい機能として、「プレーンテキストとして貼り付け」 がサポートされるようになったのだが、最初はそのためのデフォルトショートカットキーとして、

  • Ctrl+Windows+V

が割り当てられた。

 ところが、こともあろうにWindowsが、このキーコンビネーションに対して、クイック設定で使えるようになるボリュームミキサーの機能を割り当てたのだ。これは、現在、Windows Insiderでテスト中のもので、正式に採用されるかどうかは未定だが、サウンドデバイスの切り替えや、空間オーディオのオン/オフ、アプリごとのボリューム調整などができる。VはVolumeの頭文字だからVを使おうと、Windowsチームは軽く考えたのだろう。

 PowerToysは、このバッティングに遭遇し、いったんはデフォルトに設定したキーコンビネーションを取り下げ、

  • Ctrl+Windows+Alt+V

をデフォルトの設定に変更した。

 エンドユーザーにとっては、キーコンビネーションは簡単に変更できるので問題はないのだが、作る側は大変だなと思う。ちなみに個人的には、バッティング前に使い始めたので、Ctrl+Windows+Vを使い続けている。4つのキーを押すのは大変だ。困るかどうか、どうするかは、一般のユーザーに、ボリュームミキサーの機能が提供されるようになったときに考えるつもりだ。経験的には音量ミキサーを使う頻度は低いので、ショートカットキーは必要ないかなとも思っている。

あらゆる場面で同じ機能を同じショートカットで

 そんなわけで、とにかくバッティングがやっかいなショートカットキーだが、それをうまく手なずけることができるのがPowerToysのキーボードマネージャー機能だ。キーの再マップと、ショートカットの再マップを自在に設定できる。できないのは、CtrlキーとCapsLockキーの入れ替えくらいだ。設定はできるのだがうまく機能しない。

 この機能を使うことで、アプリごとにまちまちなショートカットキーコンビネーションを、概ね、OS、アプリを横断してグローバルに統一することができる。

 たとえば、Ctrl+Hは、ChromeやEdgeブラウザで履歴を呼び出すために使われているが、WordやExcelでは検索と置換だ。検索の標準的ショートカットといえばCtrl+Fなのだが、これはWordではナビゲーションパネルの呼び出し、ExcelではCtrl+Hと同じダイアログを呼び出す。このあたりを自分の使いやすいように整理すればいい。

 PowerToysのキーボードマネージャーで定義した再マップは、一般的なデスクトップアプリはもちろん、ストアアプリでも有効だ。以前は、Windows NT時代からある「RemapKey」というユーティリティを使っていたが、このユーティリティで定義したものは、ストアアプリでは無効だった。なので今はCtrlとCapsLockの入れ替えだけに使っている。

 また、Chromeなど、ショートカットキーをユーザーが定義することができないアプリでも定義したショートカットは有効なので、Wordとブラウザで使うWordやGoogleドキュメントの編集画面をほぼ同じキーアサインにするといったこともできるので重宝している。Wordなどではキーカスタマイズができるが、そのほかのアプリもというと、アプリごとに設定しなければならなかった。カスタマイズ機能がない場合は手も足も出なかった。でも、PowerToysならグローバルな設定ができる。

 そんなわけで、奥が深いショートカットキー事情。ただ、あまりやりすぎると、家族や友人、パブリックスペースのPCなど、標準的な環境を使わなければならないときに四苦八苦してしまうからご注意を。