山田祥平のRe:config.sys

Ctrl+スペースで行こう

 PCのキーボード周辺が騒がしい。発売されるノートPCのキーボードのスペースキーは長くなるものが多く、その両端のキーを左右にシフトさせる傾向にある。その一方で、Windowsは変換キーと無変換キーの役割を変更する計画を明らかにした。ホームポジションに指を預ければ、あとは指先がなんとかしてくれるというタッチタイプの大前提は、これからどうなっていくのだろう。

スペースキー周辺の不動産

 日本語を入力するにはIMEをオンにする。日本語の入力をやめるにはIMEをオフにする。欧文以外の言語圏にいるPCのユーザーにとって、この操作は宿命ともいえるもので、それを回避することは難しかった。もちろん、賢いIMEは、オンにしたままでも、ある程度の欧文入力をサポートしてくれてはいたが、その振る舞いは絶対ではなかったし、余計なストレスを感じないためにも、欧文入力時にはIMEをオフにするというのが手っ取り早かった。

 IMEのオン/オフは、かつて、Alt+半角/全角キーに割り当てられていた。そのうち、修飾キーとしてのAltを押さなくても半角/全角キー単独でオン/オフができるようになった。個人的には半角/全角キーの位置は、頻繁なオン/オフにはホームポジションから遠すぎるので、半角/全角の機能をスペースキーの右にある変換キーに割り当てていた。これならホームポジションに指があっても右手親指を自然におろすだけでオン/オフができたからだ。

 Windowsにおけるキーの割り当てや入れ替えをかなえるユーティリティは、昔からたくさんあって、かなり自由になる。それらに助けられて何十年もWindowsを使い続けてきたし、IMEそのものにもキーアサインの変更機能があって、比較的自由なカスタマイズが可能だ。

 ただ、キーアサインの変更は、しかるべき位置にしかるべき名前のキーがあるということが大前提だ。たとえば日本語キーボードにおける変換キーはMキーの直下、無変換キーはCキーの直下にある。その前提が守られていたからこそ、これらのキーを有効に活かすことができていた。

 ところが、その大前提が崩れはじめている。

 最初に困惑したのはNEC PCのLaVie Zだった(LaVieが謳う軽さは正義参照)。Mキーの下までスペースキーが伸び、変換キーがそのしわよせをうけ、大きく右にシフトさせられた。これが2013年頃の話である。当時のNEC PCの見解としては、ほとんどのユーザーにとって、これでとくに問題はないということで、後継製品もキーの位置関係はそのままだ。

 2017年、さらに困ったことがおきた。愛用しているデスクトップ用キーボードである東プレのREALFORCEが刷新されてR2世代となり、キーレイアウトに変更が加えられたのだ。こちらもスペースキーが長くなり、無変換キー、変換キーともに左右にシフトしている。変換キーは<キーのほぼ真下に位置する。キー一個分右にシフトしてしまったのだ(愛と哀しみの変換キー参照)。

 かと思えば、HPのEliteBookなどは、どちらかというと無変換、変換ともに左にシフトしている。このままだと、各社ともに、バラバラな方針のキーレイアウトが採用されていく流れが加速する可能性も出てきた。

IMEのオン/オフはトグルから単機能に

 そして直近では、Windows 10の19H1、つまり来春に行なわれることになっている機能更新で、Windows標準の日本語IMEのキーアサインが変更されることが発表された。

 Insider PreviewのFast ringのなかでも段階的な導入ということで、手元の環境はまだ更新されていないのだが、画面キャプチャを見ると、無変換キーにIMEオフ、変換キーにIMEオンが割り当てられている。

 これまでのIMEオン/オフは、トグルでオンとオフを切り替えてきた。半角/全角キーを一度押すとオンになり、もう一度押すとオフになる。現在の状態がオンかオフかで次の状態が決まるのだ。

 新たに追加となったキーアサインでは、明確にオンにするキーとオフにするキーが別のキーに割り当てられる。変換キーを何度押してもオンのままだし、無変換キーを何度押してもオフのままだ。

 これによって、オンにするには右親指、オフにするには左親指という指の動きが求められるようになる。だとすれば、ホームポジションに対する変換キーと無変換キーの位置関係は、タッチタイプにとって重要な要素となるだろう。

 もちろん設定の変更によって従来と同じようにもできるので、単なるキーアサインの追加にすぎないともいえる。パワーユーザーにとっては大きな問題ではないかもしれない。でも、どんなキーボードでもほぼ同じであることが約束されていたキーの位置関係が微妙に変わっていくことが容認されつつある今、日本語入力にさいしてMicrosoft IMEをデフォルト設定のままで使う一般的なユーザーにとって、キーボードごとに微妙に使い勝手が異なる可能性が出てくるということだ。

 ビジネスの現場であれば、リース切れなどで使っているPCの機種が変わったらキーボードも微妙に違っていて仕事の効率が下がるということも起こりうる。また、自宅と私物と会社のPCがそれぞれ微妙にキーボードレイアウトが異なることもあるかもしれない。

Ctrl+スペースなら指が迷わない

 もう、いっそのこと無変換、スペース、変換、カタカナ・ひらがなキーに、すべてスペースを割り当て、IMEのオン/オフにCtrl+スペースをトグルで割り当てようかとも思った。Ctrlキーを押すことに抵抗がなければ、こうしておけば、ほとんどすべてのキーボードで混乱することもなさそうだ。

 でも、よく考えたら、それではまるで英語キーボードだ。最初から英語キーボードを使えば、こんなことで悩む必要はないのかもしれないが、日本で入手できるあらゆるノートPCに英語キーボードが用意されているわけではない。

 今、キーボードをまともに打てない人が増えているという話が聞こえてくる。とくに、若年層に目立ったりもしているとか。また、2020年から順次実施されることになっている小学校から高等学校でのプログラミング教育必修化の話題もある。

 いろいろな現場で使われることになるキーボード。そして日本語入力。子どもたちがおそらく最初に使うことになるPCの、そのもっとも基本的な面がバラバラでよいのかどうか。今のうちに歯止めをかけておかないと、ちょっとまずいことになりそうな気がする。

 ということで2018年分の連載はここまで。いろいろあった年だった。2019年も引き続き、よろしくお願いしたい。読者諸氏におかれましては、ぜひ、よいお年を!!