山田祥平のRe:config.sys

Dの呪縛

 一眼レフカメラからミラーレスカメラへの移行はなかなかふんぎりがつかない。レンズ交換式カメラの世界における時代の流れとしては確実なことはわかっているのにだ。このもどかしさはいったい何なのだろう。

FとZはクルマの両輪

 フィルムの時代から、ずっとニコンの一眼レフカメラを使ってきた。学校を出て取材の仕事をするようになってしばらくして、まともなカメラが必要になり、同行することが多かったカメラマンに相談したら、これを買っておけば間違いないと、ニコンのF3をすすめられた。F3は1980年の発売だが入手したのは82年くらいだったはずだ。まだ手元にある。モータードライブもなければAFもない、手ブレ補正なども夢物語の時代のカメラだ。

 以来、ニコンのカメラで仕事をしてきた。最初に手に入れたデジタル一眼レフカメラは「D1」だったが、それまでフィルム一眼レフカメラで使っていたレンズが問題なく使えたので、ボディだけを購入すればよかった。デジタルの時代になってからもニコンの一眼レフカメラを買い替えてきたが、さすがにフラグシップ機を日常的に持ち歩くのは体力的に無理と感じるようになった。

 そして、2017年秋にD850を購入した。これが今、現役で使っているカメラとなっている。その後、カメラにもレンズにも大きな投資はしていない。

 ニコンが本気でミラーレスカメラに取り組みはじめたのは「Z」シリーズで新マウントをデビューさせて「Z6」と「Z7」を投入したときだと考えていい。2018年の秋だ。当時のニコンは従来のFマウントと新しいZマウントをクルマの両輪のようにして併存させていくと言っていた

 じつは「D850」購入の半年前に「D5600」を購入している。フルサイズがオーバースペックに感じる現場で使うためのAPS-Cセンサーのカメラ、ニコンで言うところのDXカメラだ。軽量が魅力でかなり愛用したが、そのレスポンスやファインダーを覗いたときの印象が今1つに感じるようになり、そのうち使わなくなって処分してしまった。

 そうこうしているうちに、ニコンのZシリーズのファームウェアが更新され、2019年暮れのファームウェアでのソニー製対応に加えて、ProGrade製、Lexar製のCFexpressカードに対応したというニュースを耳にした。確実に前進している。Z6、Z7は、すでに発売から1年半が経過しているので、今から入手するする気持ちはないのだが、改めて、その使い勝手はどうなのかと気になりはじめた。なんだか外堀から埋められているような気分だ。

 というわけで、ニコンにお願いして、Z6をしばらく使わせてもらった。

DXとFXのいいとこどり

 もし、今からでも購入するとしたらZ7ではなくZ6だろうなと思う。決め手は感度だ。Z7の画素数は4,689万に対してZ6は2,528万と、画素数が半分しかないが問題はない。だが、ISO感度にしてもAFの検出範囲の点でもZ6が1段分有利だ。仕事では比較的暗所での撮影が多いことを考えるとZ6がよさそうだ。

 あわせて2本のレンズも借り出した。「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」と「NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR」だ。

 Z6はフルサイズセンサーを持つカメラだが、DXレンズを装着すればAPS-Cセンサーカメラとしての撮影ができる。従来のフルサイズデジタル一眼レフカメラでもDXレンズの装着はできるが、ファインダー内で撮像範囲をクロップする。結果としてファインダーが小さくなってしまうということだ。だが、ミラーレスカメラのファインダーはEVFなので、レンズがDXだろうがFXだろうが見え心地は変わらない。だったらより軽量になるDXレンズとの組み合わせを試そうと思ったのだ。

 今、Z6を手に入れたとしても、ZマウントのFXレンズを同時にそろえるほどの経済的余裕はない。総入れ替えはなかなかたいへんだ。それにラインナップを見てみても、もうちょっと様子見が必要だと感じている。ミラーレスカメラのメリットの1つは小型軽量化が可能だという点だが、フルサイズ対応のFXレンズはまず高性能な重量級のものが並び、ズーム域でも取材用としては物足りない。

 だったらカメラもDX対応機でよいのではないかという迷いもある。たとえば、2019年秋に発売されたZ50はZ6よりも200g以上軽くて食指をそそる。だが、実際に手に持って試してみると、レスポンスの点で物足りない。Z一桁に対して1年のアドバンテージがあるのに、Micro USBというのも萎える。イメージセンサークリーニング機能がないというも不安だ。

 これからそろっていくであろうボディとレンズのラインナップがどのようになるかはわからないが、少なくとも現時点ではFXボディとDXレンズの組み合わせは、ミラーレスの長所を堪能するための最適解ではないかと判断した。フルサイズの魅力を楽しみたいなら、手元に大量にある一眼レフ用Fマウントのレンズを「マウントアダプター FTZ」で使えばいい。おそらくDXのフラグシップ機というのは出てこないだろうとも考えられる。だが、いろんな意味でフルサイズセンサーボディとDXレンズの組み合わせは融通がきくし、機動性も高く実用的なのだ。ミラーレスならではのDXとFXの協働、ニコンなら、そういう柔軟で積極的なソリューションを用意できる。

ファインダーのアイデンティティ

 ミラーレスカメラで個人的に重要視しているのはやはりEVFでの見え具合だ。ハイエンド一眼レフカメラの光学ビューファインダーは、もしかしたら肉眼で見るより美しいかもしれないと思っているくらいで、写真を撮るという行為においてとても重要なモチベーションとなる。

 Z6のファインダーは十二分に美しいが、電子ビューファインダーの限界も感じる。やはり光学ファインダーの美しさには届かない。ホワイトバランスやピクチャーコントロール、露出補正などの設定内容がファインダー内画像にリアルタイムで反映されるのだが、それが微妙に遅れるというのもストレスだ。この機能はオフにもできるのだが、それではせっかくのEVFの意味がない。

 個人的に、カメラ背面の液晶でライブビューを確認しながらの撮影は、実際の取材ではあまりすることがない。プレスイベントなどで後方の席しか確保できず、前方席の観客が邪魔な場合は仕方がなくカメラを頭上に掲げ、背面液晶のライブビューでレリーズするが、基本的にはファインダーを覗く。だからやはりEVFの見え方は、一眼レフからミラーレスへのもっとも高いハードルとなっている。

 Z6のEVFは視野率100%の有機ELだ。ファインダー倍率は0.8倍と、一眼レフのD850の光学ファインダー0.75倍より大きい。それがDXレンズ装着時にも同じサイズで使える。0.5型で約369万ドットもある有機ELなのだから、スペックとしては十分だとは思うのだが、実際に覗いて使ってみると、本当に微妙な遅延などでちょっとしたストレスを感じるのは否めない。光学ファインダーと比べるほうが悪いのだが、多くのプロフェッショナルが、ミラーレスへの移行をためらう理由の1つとなっているのは間違いなさそうだ。

 仮に画素数がもっと増えたとしても、それを最適に制御するには内部での処理性能の向上が必要だ。もはやカメラは光学機器としてよりも、電子機器としての性格のほうが強くなっている。足回りとしてのデジタル面での進化をさらに求めたいところだ。そしてそれはコストとの戦いでもある。

 ニコンはもうすぐ「D6」を発売する。事実上の同社最高峰のカメラだ。そしてミラーレスではなく一眼レフカメラである。コロナウイルス感染症の影響で延期になったが、過去のフラグシップ機がそうであったようにオリンピックを強く意識した製品であるのは間違いない。このカメラが一眼レフであるのはなぜなのかということの意味をじっくり考えてみる必要がありそうだ。