山田祥平のRe:config.sys
世界を見るには大きな窓が必要だ
2020年4月11日 11:00
新型コロナウイルス感染症拡大抑止に伴う緊急事態でテレワーク特需が起こっているという。いろんな意味で今ほどPCの重要度が認識されている時代もかつてなかったと言える。さまざまなツケが回ってきている真っ最中ではあるが、ケガの功名としてアフターコロナの世界観に活かすくらいの心意気を持とう。転んでもただでは起きてはいけない。
できることからはじめよう
Googleが教員向け遠隔授業を支援するサイト「家から教えよう」を公開している。これまでとは異なる方法論で教育の現場を支えなければならなくなった学校教員に対して参考になる情報やツールを案内するサイトだ。
ビデオによる遠隔授業の方法やオンラインテストの作成、生徒同士のディスカッション、保護者との連絡、教員同士のコミュニケーションまでを、とにかくすぐにはじめられる情報として提供している。現場の先生方はたいへんだとは思うが、今こそ、さまざまな工夫でこの状況を乗り切るべく努力してほしい。
地域にもよるが、連休明けまでの学校休校などに伴い、教育の崩壊までが議論されるようになり、その流れのなかで、文科省の補正予算案では、学校再開支援のためGIGAスクール構想での1人1台体制を今年(2020年)度中達成を目指すことが盛り込まれたとも言う。
「災害や感染症の発生等による学校の臨時休業等の緊急時においても、ICTの活用によりすべての子供たちの学びを保障できる環境を早急に実現」をもくろみ、「令和5年度に達成するとされている端末整備の前倒しを支援、令和元年度補正措置済(小5,6、中1)に加え、残りの中2,3、小1~4すべてを措置」という(PDFへのリンク)。
ただ、完璧な体制を考えるのも大事だけれど、とにかくできることからはじめてほしいと思う。企業におけるテレワークも同様だが、かつてオフィスに通勤していたときとかぎりなく同じことができるようにしようとするばかりに、初動が遅れてしまうのでは意味がない。
極端な話、テキストやデータはメール、音声は携帯電話という前時代のインフラに戻しても、何もしないよりはずっとましだ。その「まし」を積み上げながら、最終的に完全なものに仕上げるべく行動すればいい。デジタルトランスフォーメーションとはそういうものではないか。プロセスの痕跡を残さずに、結果としての行動の加筆修正ができるのがデジタルの強みだ。
もっともセキュリティには十分な注意が必要だ。マカフィーによれば、従業員が自宅に移動してリモートで作業をするようになった今、サイバー犯罪者が家庭のITシステムとネットワークを狙って企業にアクセスするようになっているという(記事へのリンク)。
組織が従業員をリモートで安全に管理するための時間がほとんどないままに、大規模な労働力が在宅勤務するようになったものの、多くの企業ではリモートで全社員をサポートするリソースを持たないというのが実状だとも言う。ただでさえコロナウイルスで困惑しているのに、コンピュータウイルスまで蔓延してしまったら壊滅状態になる。
そして、こうしたタイミングで注意が必要なのはビジネスメール詐欺だ。上司や同僚と顔をつきあわせることなく、いろいろな業務が進むなかで、頻繁にメールでの連絡が行なわれ、そのなかにそれらしいメールが混じっていると、なりすましなどを見破れずに被害にあってしまう。他人事だと思っていた振り込め詐欺が、身近な脅威になりつつあるわけだ。
求められる大きな窓
個人的には外出自粛の動きに伴い、自宅で作業する時間が長くなっている。オンラインでの発表会やセミナーへの参加、社外との対面打ち合わせが禁じられた在宅勤務中の相手とのオンラインミーティング、そして、電話やメールで着信する連絡への対応だ。
ぼくらのような職業にとって、今の状況はオフィスへの束縛であり、テレワークとは対局の状況にあると言ってもいい。それでも通常の商売で言えば、仕入れが制限され、在庫が乏しくなっているということでもある。ライターとは言え、ゼロからの生産は不可能だから、致命傷にもなりかねない。
これまでは、自宅の環境がもっともよくなるように整備し、出張や取材などのモバイルワークはその縮小相似形としてのテレワークで、出先でもできるだけ自宅に近い環境が得られるように考えてきた。仕入れのために工夫してテレワークし、その結果としての在庫を活かして、自宅の最高の環境で作業するという段取りだ。その工夫を活かす現場が今は激減しているというわけだ。
4月に入って使ったモバイルネットワークのデータ量を調べてみたら、たった0.26GBだった。3月も0.5GBに満たない。いかに、外で通信していないかがわかる。それでもこの環境に耐えつつ、アフターコロナの到来を待つしかない。
冒頭で、テレワーク特需が起こっていると書いたが、とにかく見える世界をひろげるために、スマートフォンで完結することなく、PCを最大限に活用し、理想的には大きなディスプレイをPCに接続することをおすすめしたい。それがどうしても無理なら、通常のTVだってかまわない。
Windowsデスクトップは23型フルHDのときに100%スケーリングで出力することを前提に設計されている。それより小さい画面の場合、デスクトップをスケーリングすることで視認性を確保する。そのため、同じサイズで情報を表示した場合、ノートPCでは15.6型フルHD画面で68%、13.3型フルHD画面で58%の情報量しか得られない。
動画をフルスクリーンで見るような用途であれば、スマートフォンの画面でも、小さなタブレットでも、ノートPCでもなんとか実用になるが、テキスト主体のドキュメントを読み書きしたり、広い範囲を見渡したいワークシートでの作業、これらを複合的に組み合わせた作業などには支障が出てくる。
だからこそ大きな画面が必要だ。ぼくが出張でもモバイルディスプレイと称して24型ディスプレイを持ち歩いていたのは、こうした事情を想定してのことだ。
もっとも家庭にあるTVの多くは解像度がフルHDだとしても、Windowsの想定する23型フルHDより大画面だ。Windowsには拡大方向にスケーリングする機能はあるが、縮小表示する機能はない。仮に50型TVにWindowsのデスクトップを投影すると、表示サイズが218%になるだけで、情報の量としては23型と変わらない。
情報の量もスケーリングするためには、さらなる解像度が必要となる。オリンピックに備えて大画面4K TVを調達していたというのであれば、それを活かすというのも1つの手だ。
いずれにしても、Windowsの想定する100%スケーリングの23型画面でも、日常的に使っているノートPCにつないでみるだけで、自分の視野が大きく拡がることに気がつくだろう。今、必要なのは大きな窓として外界を見つめる視野だ。
とまあ、こんな論調を展開して、24型ディスプレイやHDMIケーブルが品薄になるようなことが起こらないことを祈ろう。