山田祥平のRe:config.sys
老害上等、新しいカメラの古い使い方
2021年7月24日 09:50
似ているけれどちょっとだけ違うというのはやっかいだ。ちょっとしたことで手が迷う。操作に慣れ親しめば慣れ親しむほど、その違いが気になってしまう。でも劇的に違うのなら受け入れられるかもしれない。そう思って新しいカメラを買ってみた。
パソコンより軽いカメラ
ニコンのミラーレスカメラ「Z fc」が発売された。
発表当初は7月下旬と案内されていたが7月23日の発売が決定されたものの、想定を超える予約数で、時間をいただく可能性がアナウンスされていた上、レンズキットの1つである「Z fc 28mm f/2.8 Special Edition キット」は十分な供給量を用意できない見通しとのことで発売が延期されている。どうもこの28mm単焦点レンズを作るための部品供給が遅延しているらしい。
個人的には、最初、このカメラを購入するつもりはなかった。もう撮像素子がAPS-Cのカメラはやめようという気持ちがあったことや、ミラーレスのEVFに対して、今ひとつ、気持ちのよさがないことへの躊躇などが理由だ。また、センサークリーニングとボディ内手ブレ補正の機能がないのも気になっていた。
とりあえず触ってみようと思って7月5日に新宿のニコンプラザに行って実機を触り、スペックの気になるところをチェックしてきた。結果、愛用のD850とここまで違うのならまあいいだろうということで、その日のうちに量販店のサイトで予約した。
発売日が7月23日に決定したあとも手配中の表示が続き、前日になってもそのままだったが、23日の午前中に玄関のベルが鳴り、めでたく発売日当日に手にすることができた。恥ずかしながら、自分で所有する機材としては初めてのミラーレスレンズ交換式カメラへのチャレンジとなる。
購入したのは「Z fc 16-50 VR SL レンズキット」だ。ニコンのZマウントレンズは1本も所有していない。だから最初の1本となる。このレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」は、APS-CのZ fcに装着すると、35mm換算で24-75mmの画角が得られる。
135gという重量は常用ズームとしてうれしいし、最短撮影距離がワイド端で25cm、テレ端で30cmというのも使いやすそうだ。NCフィルタやフードが必要かどうかは迷うところでとりあえずペンディングだ。
Z fcの本体重量はバッテリやメモリカードを含んで445gなので、合計580gとなる。かろうじて634gの富士通(FCCL)製モバイルノートPC「LIFEBOOK UH」より軽い。
レンズの暗さはどうしようもないが、まあ、ISO感度を上げて帳尻を合わせるしかない。取材で使う場合、シャッター速度を遅くしての撮影がどんなに美しくても意味がない。被写体である人が動いてしまって被写体ブレを起こすからだ。だから、できる限りシャッター速度1/250未満を確保したい。
Type-C給電できるカメラ
通常、カメラの購入時には、バッテリと充電器を予備に揃えるのだが、今回はそれもしなかった。ニコンプラザで係員の説明を受けた時に、外部給電ができると聞いていたからだ。
モバイルバッテリでの給電もサポートし、推奨モバイルバッテリとして、Anker PowerCore III Elite 25600 87Wが挙げられている。
カメラ本体にはType-Cポートがある。メニューからの設定でこのポートを使ってUSB給電を有効にするか、無効にするかという設定がある。ここで言う給電は明確に定義され、以下のように充電と区別されている。
- 給電:カメラに電力を供給して動作できる状態にすること
- 充電:バッテリ内に電力を蓄えること
メニューで給電を有効にしておくと、カメラの電源がオンの場合には給電が行なわれ、カメラの電源がオフの場合は充電に切り替わる。給電のためにバッテリが装着してある。バッテリを外すと給電はできない仕様だ。
それでもバッテリが空っぽになってしまった場合も、手持ちのモバイルバッテリを使えば撮影が継続できるのは心強い。バッテリからバッテリへの充電は効率が悪いので、撮影を継続する時にはバッテリへの充電が切れた方がモバイルバッテリの持てる容量を有効に使えるはずだ。これで予備バッテリという手間と荷物が1つ減った。
ちなみに同梱のバッテリチャージャーは、単体のバッテリを装着して充電することができる。背面の銘板には8.4V 1.12A MAXと記載されている。約9.4Whだ。
一方バッテリはリチウムイオンで7.6V/1,120mAと銘板に記載されている。約8.5Whとなる。ちなみにこれらの情報はニコンイメージングの製品情報サイトには記載されていない。
届いた実機に、手元のPD対応Type-Cアダプタを接続してみたところ、5V/1.5A程度での充電がスタートした。モバイルバッテリでも同様だった。9V超での充電を期待したのだがそうではなかった。つまり、PD非対応と考えたほうがよさそうだが、ネゴシエーションが行なわれているかどうかは調べていないので真相は異なるかもしれない。
Anker PowerCore III Elite 25600 87Wが推奨ということでの期待だったのだが、ちょっとがっかりだ。いずれにしても、このカメラに限ったことではないが、充電関連の仕様がしっかりと明記されていないのは改善してほしいものだ。このあたりはニコンプラザの係員に聞いても分からなかった。製品サイトで得られる情報以上のことは分からないのだ。
フィルムカメラの操作性を持つデジタルカメラ
肝心のカメラ本体の話をしておこう。このカメラはかつてのフィルム用一眼レフカメラのスタイルにインスパイアされたデザインをミラーレスデジタルカメラに採用したとされている。具体的には1982年発売の「FM2」の要素を取り込んでいるという。
残念ながら、個人的にはFM2のユーザーではなかった。手持ちのフィルムカメラで最も近いのは1980年発売のF3だろうと思う。値段も似ている。カメラを構えた時、ファインダーの左側にISOダイアル、右にシャッター速度ダイアルがあるのは同じだ。シャッターと同軸の電源スイッチの位置も近い。
ただF3では露出補正ダイアルがファインダーの左側で使いにくかったが、Z fcは右側にある。F3現役使用当時は、絞り優先で写真を撮るのが普通だったので、露出補正はレンズの絞りを変えるか、シャッター速度を調整するかで済んでいたから気にならなかった。
ちなみにニコンのフィルム一眼レフカメラのF一桁機では、F3以降で唯一F4だけが独立した露出補正ダイヤルを持っていた。これはこれで使いやすかった。
こうして過去に愛用したF3、F4、F5、F6のダイヤルやボタンの配置を見ていると、よくまあ、これだけ右に左に引っ越しさせて代替えの時に混乱しなかったものだと思う。でも、自分でもあまり苦労した覚えがない。なぜなら代替えすると、古いカメラを使わなくなってしまうからだ。
むしろ、併行して使うカメラで操作が違うと混乱する。今回は、Z fcを購入したが、それで手元のD850を使わなくなってしまうわけではない。必ず使い分けたり、同時に使ったりするはずだ。その時に基本的な操作の位置などが異なるのはちょっとやっかいだ。
直感で絵作りするには露出補正が手っ取り早いカメラがいい
現代の撮影シーンにおいて、個人的に最もよく使う機能は露出補正だ。一眼レフと違って撮影されるであろう光景の明暗が、EVFやスマホのスクリーンで撮影前に分かるので、すぐにいじりたくなる。実際の光の鉛筆を眺めず、撮影前に露出後の絵が確認できるからこそ頻度が高くなる。一眼レフを使っているときよりもずっとだ。
個人的には、ISOをオートに設定し、プログラムモードでシャッター速度と絞りが自動で変わるように設定、必要に応じて露出補正を手動で加える。だから、撮影時は、露出の補正だけは即座にできるのが望ましい。
スマホのカメラでも、なかなかスピーディには補正できない。カメラの自動化によってあまりにも多くのことが指示できるようになったが、直感的に好みを反映できるという点では露出補正はとてもストレートだ。
現行のデジタルカメラの多くは露出補正に際して小さな「±」ボタンを押しながらダイヤルを回すようになっている。だが、Z fcには大きな独立した補正ダイヤルが付いていて、それを回すだけで±3段で露出を補正できる。分かりやすくて手っ取り早い。実に即物的だ。
ダイヤルポジションには「C」というのがあって、ここにセットしておくと背面のコマンドダイヤルで補正ができるようになる。この機能は、メニュー設定で自動リセットを選ぶことができ、補正の戻し忘れを防げたりもするといった工夫もある。
とりあえず、現行のZマウントレンズのラインナップには、あまり食指が動かないので、当面は、手持ちのFマウントレンズが使えるように、追加でFTZマウントアダプタ-を発注した。
マウントだけで135gという重量はインパクトがあるが、背に腹は代えられない。ただ、カメラ本体にセンサークリーニング機能がないため、取材現場でのレンズの付け替えは最小限にしたいとは思う。また、レンズ内手ブレ補正機能がないので、古いタイプのAFレンズでAFが使えないなど制限も多い。
コロナ禍で、撮影に出かける機会も少なくなっているのだが、半導体不足の影響は、当面収まりそうもなく、気になるデジタル機器は買える時に買っておくのがよさそうだという判断もあった。
気持ちの上では、何がなんでもフルサイズセンサーという想いは自分の中で少し和らいでいるようにも感じている。でもカメラの使い方は古きに向かっているかもしれない。はてさて、新しいカメラは新しい当たり前を満喫させてくれるだろうか。
そうそう、最初に画像サイズを16:9に設定したのは言うまでもない。愛用のD850ではできなかった新しい当たり前だ。