山田祥平のRe:config.sys

DX Reloaded

~そしてカメラをIoT

 身の回りにあるデバイスが特に人間が意識することなくネットワークに接続され、何かしらの役に立つことをしてくれる。それができなくて何がIoTだとも思う。世の中にネットワーク対応デバイスは数多くあるが、そういう基本的なことができているかどうか……。

DX引退させてをDXを選ぶ

 最後に買ったデジタル一眼レフカメラがニコンD800だ。発売日に入手したのでそれが2012年。5年ほど前だ。以降、ぼくの中でデジタル一眼レフカメラの進化はそこで停止していた。途中でEOS 6Dを購入しているがレンズを揃える余裕がなくて待機させることが多い。先日のCESも、この5年前のカメラD800を手に渡米した。

 こんな商売をしているのに、5年間も同じデジタルカメラを使っているとは何ごとかと自分でも思う。だが、それと同時に、5年前のデジタル機器でもゴミにならないという時代がやってきていることに、ちょっとしたうれしさもある。デジタル機器がスマートライフのための普通の道具になったような気がするからだ。

 D800は、FXサイズと呼ぶ35mmフルサイズのセンサーを持つニコンの一眼レフカメラだ。このカメラを購入した直後に自分で決めたことが2つある。ニコンがDXサイズと呼ぶAPS-Cサイズセンサーのカメラを買うのはもうやめようということと、GPSを装備しないカメラを買うのはやめようということだ。位置情報を持たない写真は、デジタルデータとしてつまらない。

 ぼくの中で最後のAPS-CサイズセンサーのカメラはD300だった。こちらは10年前の製品だ。D800を購入した時にどうしようかとも思ったが、まあ、役に立つこともあるに違いないと思って置いておいたが、結局D800の入手以降はまるで使わなくなり、APS-Cセンサー専用のたくさんのDXレンズといっしょにタンスの肥やしになっていた。

 昨今、ミラーレスレンズ交換式カメラが話題になることも多かったし、ちょっと仕事に使うカメラを考え直そうとしていた。丸1日動き回るような取材では、D800が少し重く感じることも少なくなくなってきたからだ。やはり寄る年波には勝てない。

 そして至った結論がDXセンサーへの回帰だ。当然、FXセンサーよりも小さいのでダイナミックレンジの点では不利だし、フルサイズと同じ画角を得るためのレンズが広角になってしまうのでボケない。でもまあ、取材の写真は被写界深度が深い方が良い場合が多いし、望遠側の焦点距離を稼げる点でも有利だと、10年前と同じ理屈で自分を納得させた。それに多くのミラーレスレンズ交換式カメラよりもセンサーサイズは大きい。

 そして、D300を復活……させたわけではない。D300の重量ではD800から変える意味がない。そこで、ニコンのラインナップを確認してみると、最新のDXカメラは数機種あるがカタログスペックを確認してみると、センサーのクリーニング機構があるのは5600からのようだ。それだけの理由でD5600を選んだ。

 今回は、DXのハイエンド機D500は対象外だ。D300同様に重量的にD800からの乗り換えの意味がないからだ。だが、D5600への乗り換えなら本体重量はD800の半分になる。大口径の明るいレンズといっしょに使ったとしても、これまで使っていたD800の重量内で収まるかもしれない。

 D5600の購入時にD300は下取ってもらった。10年前のデジタル機器に値段がついて買い取ってもらえることそのものに、ちょっとした驚きを感じたりもした。もっとも取得時の金額を思えば目眩がするような額ではある。

信念を破って得られた最新機種の恩恵

 そしてD5600が手元にやってきた。このカメラにはGPSも付いていないし、フルサイズセンサーでもない。D800を購入した5年前に決めたことに準拠していない。まあ、こういうこともある。豆腐のような信念だと自分でも思う……。

 実際に購入して見ていろんな点での使い勝手が高まっていることを感じた。特にスマートフォン連携についてはいい意味で期待を裏切られた。Bluettooth LE対応で、ペアリングしたカメラがオフの状態でも通信が途絶えず、オンデマンドで仕事をする。

 SnapBridgeというアプリがiOS用とAndroid用に配布されているのだが、このアプリ、最低限のことをする限りは、これまで使ってみた同種のアプリの中でもっとも使い勝手がいい。

 カメラとスマートフォンを連携させてぼくが何がしたいのかというと、

  • (1)デジカメで写真を撮る
  • (2)スマートフォンにその写真を送る
  • (3)写真にコメントを付ける
  • (4)SNSに投稿する

 それだけのことだ。この一連のフローを全部スマートフォンで完結させればいいのだが、スマートフォンのカメラ機能ではちょっと心細いケースも多いし、スマートフォンとデジカメの両方でそれなりのショットを押さえるというのもたいへんだ。

 SnapBridgeを使えば、デジカメで撮影した写真を200万画素相当にリサイズし、それを片っ端からペアリングしたスマートフォンに送ってくれる。送られてきた写真は、スマートフォンのSNSクライアントアプリにとってみれば、スマートフォンのカメラで撮影した写真と変わらない。

 記者会見などでノートPCをその場で開いているのであれば、ノートPCでコメントを書いて、それをスマートフォンのクリップボードに送り、写真に貼り付けて投稿できる。このあたりの流れは、Windows用のSnapBridgeがあればもっと便利になるはずだが、残念ながらWindows用のSnapBridgeは存在しない。

 こうしたことができるカメラはこれまでにもあったが、例えばピア・ツー・ピアのWi-Fiでスマートフォンとカメラが接続したり、5GHz帯に未対応など、その世界観がどうにも不自由なものばかりだった。

 以前は、ブロードバンドルータを持ち歩いていたので、そこへの接続がいったん切れてしまうのもいやだった。今だと、スマートフォンを自宅に持ち帰って自宅のWi-Fiに繋いでいるのに、それを切り替えなければならなかったりと、とにかくデジカメのWi-Fi機能は鬼門に感じていた。

 だが、SnapBridgeによるD5600の接続では、こうしたことをいっさい意識せず、カメラとスマートフォンが勝手に繋がって勝手に仕事をしてくれるという点で実に気が楽だ。

  • (1)撮りたい時にカメラに電源を入れて写真を撮る
  • (2)撮影が終わったらカメラの電源を切る
  • (3)カメラの電源の状態とは関係なく撮影後の写真がスマートフォンに送られる

 こんな具合に当たり前の仕事を当たり前にこなしてくれるのだ。撮影時にはスマートフォンから時刻情報と位置情報を取得して、写真に埋め込んでくれる。これまでD800を使う時には外付けGPSを使っていたが、それよりスマートだ。これならGPS内蔵でないカメラを買った言いわけも立つというものだ。

 転送速度は爆速ではない。1枚あたり10秒くらいはかかっているだろうか。でも、それであまり不自由は感じないし、転送されていることを意識することはほとんどない。ただ、バッテリ消費へのインパクトはそれなりにある。カメラもスマートフォンもだ。だからカメラ用の予備バッテリは購入した。

 でも、得られる便利さは極上だ。SnapBridge自体は、まだ少しバグも残っているようで、いつまで経っても転送が始まらないようなことが起こったり、何もしていないのに設定が解除されてしまったりと少し不安定なところもある。でも、カメラとのペアリング状態が解除されることはないのであまり大きな問題には繋がらない。まあ、そのうち治してもらえるだろう。

 カメラとスマートフォンがBluetoothで常時接続するだけのことが、IoTというのはちょっと乱暴かもしれない。でも、それを使う人間が意識しないところで「繋がること」の恩恵が得られている。やはりこうでなくっちゃと思う。