山田祥平のRe:config.sys

みんな違うと困るし、みんな同じだとつまらない

 iOS(iPadOS)とAndroid、そしてWindows、さらにはChrome OS。すべて、エンドユーザーが一般的に使うOSだ。併用することも多い。はじめてコンピュータにふれる子どもたちはもちろん、十二分にコンピュータを知り尽くした熟練者であっても、その作法の違いに慣れ親しむのはなかなか難しい。

スマートデバイスとの対話

 コンピュータとの対話に欠かせないのはシェルだ。キーボードだったりマウスだったり、あるいはタッチだったり音声だったりと、操作方法は異なるにせよ、OSの種類や世代によってさまざまなシェルが使われてきた。OSの差異は多くの場合、ソフトウェアとしてのシェルが隠蔽し、さらにはアプリが覆う。OSとセットでシェルがOSの顔として執事役を引き受け、アプリの世界への誘いを請け負う。

 Windowsはハードウェアごとに各社各様のシェルが乱立し、初心者を混乱させてしまった過去がある。1990年代、Windows 3.1の頃だ。そこに悪意はなく、PCの差別化のために、より優しく直感的に操作ができるようにしようという親心だったのだが、決して成功したとは言えない。A社のPCのユーザーがつまづいたときにB社のPCのユーザーに相談してもわけがわからないという状況を生み出してしまったからだ。

 その一方で、Windowsは2種類のシェルが共存している。実体はExplorerで同じだとしてもユーザーから見れば別物だ。Windows 10で言えば、スタートメニューとExplorerだ。コンピュータをアプリから使うか、ファイルから使うかというエンドユーザーの両方の作法をうまく吸収している。だから大きな混乱はない。

 さらには、Microsoftは各社PCにプリインストールされるWindowsの体験を、できるだけ共通なものにしようとしているので、今は、個々の差別化はなかなか難しい。コモディティとなってしまったWindowsには、それが最良の道なのだと思う。

混乱をきわめるAndroidのUI

 モバイルOSについてはどうだろう。iPhoneやiPadを使うかぎり、iOSの作法に慣れてしまえば困ることはない。Appleという同じ会社がハードウェアとOSの両方を提供しているから混乱のしようがない。

 その一方でAndroidは今、混乱の極みと言ってもいい。直近で手元で使っている端末は、よくまあここまで違うようにしたものだと妙な感心をしてしまう。

 まず、最近手にした楽天モバイルのRakuten MiniとXiaomiのMi Note 10

 Androidのシェルは、ホームアプリ、ランチャーなどとも呼ばれ、多くのサードパーティ製シェルも存在し、それぞれが熱心なファンを抱えている。

 この2機種のデフォルトシェルはインストールしたアプリをすべてホーム画面に配置する。いわゆるアプリドロワーと呼ばれるアプリをまとめる機能が提供されていない。そういう意味ではiOSと同じで、iOSに慣れたユーザーにとっては身近だと言える。自分が使いたいアプリを探すときに、ドロワーを探すという作業をスキップすることができ、目の前にあるものがすべてだからだ。

 だが、数十個までならまだしも100個に近づくあたりでこの作法は破綻する。どこにどのアプリがあるのかわからなくなってしまう。またRakuten Miniは、ホーム画面が複数の画面にまたがる場合の遷移が縦方向だ。ほとんどのAndroidは横だからちょっとした違和感がある。

 メジャーなところではGalaxy Note 10+。こちらもそれなりにクセがある。アプリドロワーはある。またホーム画面を縦方向にスワイプすることでアプリの一覧を参照できる。だが、それを開いたあと一覧のスクロールが横方向なのだ。それでもインストール済みのアプリを検索するファインダーの検索ボックスは用意され、比較的容易に探しているアプリを見つけられる。目的のアプリさえ起動できればその先は、あらゆるアプリでほぼ同じ作法世界が待っている。

待たれるリファレンスUXの開放

 みんな違うと困るし、みんな同じだとつまらない。それは十二分に理解できるが似ているのに違うというのも困る。それを当たり前のように相談に乗れるキャリアショップというのはすごいと思う。でも解決に結びつく方法論もある。規範を示せばいい。よりどころとなる「お墨付き」だ。Androidなら本当はGoogleが提示すべき案件だということになる。

 そこで、Pixel 4を見てみる。PixelはGoogleは否定するだろうけど、実質的にAndroidのリードデバイスと考えていい。あらゆるAndroidの規範となる立場だ。

 Android 10のPixel 4では、ホーム画面の上方向スワイプでアプリの一覧が表示される。並ぶのはアイコンだ。アプリの名前も併記されるが短すぎてよくわからない。順序は五十音順(アルファベット順)のみだ。こちらも検索ボックスがあるので使いたいアプリの名前の一部を入力すれば見つかる。

 また、Android 10では、Androidの過去におけるアイデンティティとでも言うべきナビゲーションバーではなく、ナビゲーションジェスチャーという作法が提案されている。

 ナビゲーションバーはホーム画面の下部に並ぶ3つのボタンで知られている。一般的なAndroidでは、左から「戻る」、「ホーム」、「起動中のアプリ一覧」だった。Galaxyは伝統的に「起動中のアプリ一覧」、「ホーム」、「戻る」の順で、戻るの位置が逆だったが、そこはそこ、ちゃんと順序を入れ替える設定が用意されている。

 ナビゲーションジェスチャーは、これらのボタンを非表示にしてしまい、下から上のスワイプで「ホーム」、同じ下から上でもいったん停止すれば「起動中のアプリ一覧」左または右からのスワイプで「戻る」といったことができるようになっている。これはこれで慣れれば使いやすい。個人的にはすっかり慣れてしまい、ほかの端末を使うときに困ってしまう。だが、直感的かどうかと言うとどうだろう。

 今のところ、Pixelランチャーにもっとも近く、併行して使っても混乱しないUIを提供しているのはHuaweiだ。Andorid 10に更新されたP30 Proを見ると、ホーム画面にすべてのアプリを表示するかドロワーに収納するかが選べたり、ナビゲーションについてもPixel互換のジェスチャーと旧来の3つのキーによるナビゲーション、さらには3つのキーの並び順の変更などあらゆるカスタマイズができるようになっている。

 しかもHuaweiは、Android 9の時代からこの機能をサポートしていた。いわばPixelは、後出しジャンケンだと言ってもいい。じつに見事だ。全部同じになるのではつまらないだろうけれど、同じにする機能は提供してほしい。Huaweiはそのあたりのバランスが絶妙だ

 Googleは、このPixel用ホームアプリ「Pixel Launcher」を他社機で使えるように提供していないのが残念だ。他社機で使える標準シェルさえあれば、多くの問題は片付くと思う。

 ガラケーの時代に、らくらくフォンどころか、それぞれの端末で各社独自のUIを提供して苦労したことをモバイルシーンは覚えていないのだろうか。設定アプリに並ぶ項目がまちまちというのも困る。

 春には小学校のプログラミング教育必修化もはじまる。余裕があればそのあたりのことも考慮にいれてほしいものだが、いったいどうなることやら……。