山田祥平のRe:config.sys
モバイルノートにタッチは不要なのか
2019年9月6日 06:00
昔ながらのレガシーなクラムシェルモバイルノート。スマートフォンなどでタッチ操作に慣れ親しんだ世代なら、デスクトップで使う大きなディスプレイでさえ、つい、スマートフォンのように指でさわってしまうこの時代に、なぜ、タッチ不要論がはびこるのだろうか。
ラップトップ最軽量を追う
世界最軽量にこだわるFCCL(富士通クライアントコンピューティング)を各社がひたひたと追う。
今、IFA取材のためにドイツ・ベルリンに滞在中だが、プレス向けのイベントが開幕前からはじまっている。そんななかで、ASUSが、14型のビジネスラップトップとしては世界最軽量880gの「ASUSPRO B9」を発表した。発売は2020年第1四半期と、ずいぶん先の話だが、こうした製品が登場してくると、富士通もボーッとしていられないはずだ。
発表会後、タッチ&トライの会場で、海外のプレスと話しながら実機をさわっていて、思わず「heavy!」とつぶやいたら、「富士通?」とつっこまれた。最軽量は「LIFEBOOK UH-X/C3」と把握しているのはさすがだ(ついに約698gまで軽量化。強度も増した富士通13.3型モバイルノート参照)。
13.3型と14型の違いがあるとはいえ、ほぼ同じフットプリントで、698gと880gでは200g近く違う(正確には182g)。手に取っただけで、あの軽さがよみがえる。
その一方で、この夏、FCCLはタッチ操作に対応した868gの「LIFEBOOK WU3/D2」を発売した。「タッチに対応したペン内蔵型の13.3型ワイド液晶搭載2in1コンバーチブルノートPCとして世界最軽量」となっている(富士通、世界最軽量868gのワコムペン内蔵13.3型2in1参照)。ASUSの14型クラムシェルよりも軽いのだが、698gの軽さを知っているとズシリと感じてしまうことは否めない。
それでもタッチはあったほうがいいと、個人的には思う。たとえ、ディスプレイの表面が指紋だからけになったとしてもだ。
モバイルノートのタッチパッドの使いにくさに今さら閉口
個人的にモバイルノートにタッチ対応が欲しい理由として、タッチパッドがあまりにも使いにくい点がある。もちろん機種にもよるのだが2本指でのスクロールがどうしても思いどおりにならない。でも、画面のタッチ操作なら不満がほぼない。
逆の理由でタッチを嫌う層もいるだろう。Windowsはスマートフォンやタブレットとは違い、ウィンドウがオーバーラップする。画面を区切るだけのタイルとは異なるので、アクティブなウィンドウという概念に支配される。
操作対象のウィンドウは基本的に最前面にくるので、一部が見えているウィンドウを操作しようとしたとたんにアクティブになって、ウィンドウ全体が最前面に出てくる。その結果、それより小さなウィンドウが奥に隠れてしまう。
だが、2本指やマウスホイールによる操作の場合は、それがない。ウィンドウの一部が見えていればアクティブにしなくてもスクロールができるのだ。だからタッチは使いにくいというのにも説得力がある。
キーボードのホームポジションから手を離したくないという気持ちも強いかもしれない。だからマウスさえ使わず、タッチパッドを駆使して操作する。
もし、Windows PCのタッチパッドがMacBook並みに使いやすかったら、モバイルノートにタッチ対応など望まないかもしれないなと、ないものねだりをしたりもする。いったい違いはどこにあるのだろうか。
消耗品としてのタッチパッド
今、Windowsノートの多くはMicrosoftの高精度タッチパッドを使っている。さまざまなジェスチャーをサポートしているのが特徴で、2本指によるスクロールはそのもっとも基本的なものだ。
そして、その使い勝手は、タッチパッドの表面が繊細な操作にたえられるように材質やコーティングが吟味されているかどうかと、ジェスチャーをするために必要十分な広さが確保されているかどうかにある。
これをつきつめると、たとえば、丸いタッチパッドをもつレッツノートなどは完全にアウトだ。あの小さな丸型タッチパッドで4本指のジェスチャーを駆使できるとしたら名人芸だ。だからというわけではないが、今なおレッツノートは高精細タッチパッドを採用していないし、あいかわらず、円周をクルクルなぞるスクロールをサポートしている。2本指でのスクロールサポートはあるが、円の面積がせまくて使いにくい。
タッチパッド表面の違いも使い勝手に大きな影響を与える。試しに、何種類かのスマートフォン用画面保護シートを買ってきてタッチパッドのサイズに切り抜いて貼りつけてみたりするのだが、確かに、シートごとに使い勝手は変わる。タッチパッドの表面は、多くの場合、消耗品に近い存在だが交換は難しい。購入直後の操作感が維持できていないなと思ったら試して見るといいだろう。百均で買えるようなシートでもずいぶん使い勝手が変わることを実感できるはずだ。
不自然に慣れ親しむ
そもそも、コンピュータを相手としたインタラクティブな対話は、古くはコマンドで、それがグラフィカルなものに変わった。グラフィカルな対象は実際に指し示して伝えたほうがいいのでマウスのようなデバイスが生まれた。発明した故ダグラス・エンゲルバート氏にかつて会ったとき、「マウスほど不自然なものもないが、慣れだよ慣れ」と言っていた。すぐにもっと使いやすいデバイスが考えられるはずと思っていたらしいが、その登場を待たずに逝去された。
タッチパッド、画面のタッチなどは、マウスに代替する方法論ではあるが、世のなかの多くのユーザーが、カフェなどでモバイルノートとマウスをどや顔で組み合わせて使っている光景をよく見かけるくらいだから、やっぱりマウスの魅力からは逃れられないのかもしれない。だからこそ、余計にモバイルノートにタッチ対応は不用という意見が大勢を占めるのだろう。とくにWindows PCのユーザーにその傾向が強いように感じる。
モバイルノートは引き算でできたフォームファクタだ。LIFEBOOKを見ればわかるように、ペンとタッチをサポートした結果、180g近く重くなってしまったのだから、軽量を追求するなら言語道断だろう。つまり、余計な足し算だ。おまけに360度折り返せるようなコンバーチブル機構のために余計に重くなっている。
それでもモバイルノートにタッチ機能は必要だと思う。コンピュータと自然な対話ができる未来のためだ。誤解を怖れずに言えば音声より重要だ。そして、そのために、マウスに匹敵するタッチのオペレーションを再発明する必要がある。
たぶんMicrosoftも、そのことの重要性に気がついているのだろう。いよいよ2in1 PCをタブレット形状で使うときのタッチ操作の改善に取り組みはじめたのはうれしいニュースだ(Windows 10プレビュー版、2in1 PCのタブレットモードがデスクトップよりの操作性に参照)。すでにInsider Previewに参加している一部のユーザー向けに公開されているが、なんだ、たったそれだけ?、というくらいに些細な変更点ではある。それでも、はじめないことには終わらない。誰もが納得できるようなタッチ操作の改革をめざしてほしいものだ。