山田祥平のRe:config.sys

iPhoneは世界の共通語(だったのに)

 世界中でほとんど同じハードウェアが使われ、そのほとんどで同じバージョンのOSが稼働するiPhoneは、言わば世界共通語だ。iPhoneのAndroidに対する圧倒的な優位性がそこにある。だが、その状況にちょっとした変化が起こった。

ついにFeliCa対応したiPhone

 「iPhone 7」と「iPhone 7 Plus」が発表された。かつてほどの勢いがないとは言われているが、発表会翌日の盛り上がりは十二分で、「話題のスマホ」の面目躍如といったところか。

 発表会のライブを見て、噂されていたFeliCa対応が現実のものとなったことを知った。小さなことかもしれないが大きな一歩だ。ところがそれが日本で販売されるiPhoneだけの機能であることを知って、ちょっとガッカリした。

 日本で販売されるiPhone 7はモデルA1779、7 PlusにはモデルA1785という型番で、米国版等との違いは、対応周波数としてLTEのB11とB21という日本でしか使われていないバンドに対応していることと、FeliCaに対応していることとされている。これによって日本で使う場合の死角がまた1つ減る。

 FeliCa対応はApple PayにSuica、iD、QUICPayが対応したことで実現されている。アップルの解説サイトにも「日本国内で販売されたiPhone 7」で使えると明記されている。深読みすれば、型番を明記せずに「日本国内で販売されたiPhone 7」としているのだから、ハードウェアは同じかもしれないと淡い期待もしてしまうかもしれないが、現実的にはほかのモデルはチップとしてのFeliCaを搭載していないと考えるのが妥当だろう。

 外国に出かけると、特に、細かい料金が必要な公共交通機関の乗り降りが本当に面倒に感じる。言葉もおぼつかない上に、土地勘も怪しいのにチケットを買ったりするのはとてもやっかいで、それがいつも使っているスマートフォンでできるのは、どんなにラクか。

 先日はIFAのためにドイツ・ベルリンに出かけたが、空港に到着してすぐに7日乗り放題券を30ユーロのクレジットカード決済で購入した。それだけで、現地で交通機関を利用するときは何も考えなくていい。しかも、ドイツは乗車時に改札がないのでサイフの中に入れているだけだ。最初にそのカードを使う時に、タイムスタンプを打刻して1週間をスタートすればいい。

 今回のベルリンは、地上を走るS-Bahnという電車がしょっちゅうストップしていたので、仕方なくタクシーを利用したこともあったが、それもUBERを使えば、ススマートフォンだけで乗れてしまう。現金を使ったのは、ちょっとした休憩に飲むコーヒー代くらいだろうか。1.2とか1.3ユーロ程度なのだが、それだってクレジットカードで決済すれば、小銭を使う必要がない。これらが全てスマートフォンで済むのならどんなにいいか。日本国内で、おサイフケータイに依存した生活が染みついているだけに強い思いがある。

 同様に、日本にやってくる外国人にとっても、iPhoneで電車やバス、タクシーに乗れて、コンビニで買い物ができるというのは、相当に負担を軽減するに違いない。それができるようにしたインフラを整備するのがおもてなしというものだ。見知らぬ土地でバスに乗るのは相当ハードルが高いのだが、今は、Googleマップなどのおかげで、敷居がとても低くなっている。

 だが、少なくとも、今回のiPhone 7の世代では、それがかなわない。来年(2017年)の今頃登場するであろう“iPhone 7s”の世代を待たなければならないのか、それとももっと先の話になるのか。さすがに東京オリンピックの開催される2020年までには何とかなっているだろうが、他国のiPhoneを外国人が日本に持ち込んでもFeliCa決済ができないというのはちょっと残念だ。

 ただ、驚いたのは対応の早さだ。iPhoneがFeliCaを搭載するという噂は、ちょっと前からあったが、搭載したとしても、インターオペラビリティテストなどにかかる時間を考えれば、実際に使えるようになるのは早くても来年の春頃じゃないかと思っていたが、10月にはそれがかなうという。この対応のためには、相当前からアップルとSuicaサイドとの間で綿密な話し合いがもたれていたはずで、アップルとしては異例のことだったはずだ。しかもSuicaはApple Pay的にも都度認証が必要のない特別扱いだ。これは嬉しい誤算だが「日本国内で販売されたiPhone 7」というのがどうしてもひっかかる。

どの国にでかけても周波数ではまず困らないiPhone

 iPhoneが共通語というのは、通信の設定についても言えることだ。海外で現地のSIMを購入しても、たいていの場合は、自動的に通信設定が終わり、そのキャリアに接続される。APNの設定が必要な場合も、ショップの店員は、iPhoneについてはお手の物らしく、言語を日本語のままにしてあっても、迷うことなくメニューをたどって設定してくれる。

 周波数の対応についても申し分ない。周波数状況が極めて複雑な米国での利用にも不便はない。米国の大手キャリアのLTE対応は、

・Verizon:2/4/13
・T-Mobile:2/4/12
・AT&T:2/4/5/17/29/30

となっているが、これら全てに対応する。ヨーロッパは3/7/20があればいいし、台湾は3と8があればいい。また、中国のメガキャリア中国移動が使っているTD-LTEの38/39/41もフルサポートだ。だから、少なくとも、自分自身が出かける各国で周波数的に困ることはまずない。とにかく通信機なのだから繋がらなければ話にならない。CAなどによる高速化は、その次の段階だ。

 Androidでは、これだけの周波数をサポートしている端末が見当たらないので、米国用とそのほかの国用では別の端末を使っている。でも、iPhoneなら1台で済む。その対応周波数の充実ぶりは、リストを見れば分かるが圧倒的だ。現地SIMを調達するにしても、ローミングするにしても、現地で使われているできるだけ多くの周波数に対応していることは大切だ。そのリストに日本固有のモデルが追加されたのだ。

 余談だが、キャリにしても端末ベンダーにしても、LTEのバンドをxxxxMHz帯などと周波数で記すのはそろそろやめてもらえないだろうか。LTEのバンド番号は決まっているのだから、そのバンド番号さえ記載してくれればいいのにと思う。周波数が知りたい時にはちょっと調べれば分かる。でもその逆に周波数からバンド番号を調べるのは大変だ。

世界共通へのこだわりを捨てないで

 懸念があるとすれば、iPhone 7に日本モデルが特別に用意されたことで、日本独自の周波数やFeliCaに対応したのはいいが、そのモデルが諸外国でのApple Payにも対応し、ちゃんと使えるかどうかだ。外国人が自分のiPhoneのApple Payを日本で使えないのも困るが、日本人が自分のiPhoneのApple Payを外国で使えないというのも困る。

 この辺りの挙動はまだ発売前ということもあり、懸念事項の1つとして頭においておかなければならないだろう。

 防水、FeliCaといったいわゆるガラケーがガラケーたるための要件を、iPhoneが採用し、日本人にとって使いやすいスマートフォンになるのは悪いことじゃない。でも、その恩恵を世界中のiPhoneユーザーが享受できないようでは困る。なんといってもiPhoneは世界共通語なのだ。Apple Payが使えなかった日本で使えるようになったことは大きな前進ではあるが、ガラパゴスiPhoneへの道の第1歩にならないことを強く願いたい。