山田祥平のRe:config.sys
モバイルノートPCにタッチパッドって本当に必要か
2019年6月7日 06:00
クラムシェルノートPCは、この数十年の技術の集大成として完成されつくした感がある。多くのユーザーからは、その画面がタッチに対応している必要性は感じないという声も聞こえてくる。本当にタッチ画面はいらないのだろうか。
働き方が変われば求められる仕様も変わる
PCの市場は、企業向けとコンシューマ向けに区別されることが多い。製品を提供するベンダー側も、明確にターゲット市場ごとの特性を考えて製品を企画する。ブランディングなどについても分けられていることが多い。
昨今のトレンドとして興味深いのは、コンシューマ向けのブランド製品に企業が興味を示していることだ。たとえば日本HPの企業向けモバイルノートのブランドはEliteBookだが、コンシューマ向けはSpectreだ。そのSpectreを求める企業が少なからずあるというのだ。そこは「カッコよさ」が理由だ。仕事で使うデバイスとはいえ、「カッコよさ」が求めれる時代になっているということだ。
企業向けの製品はコンシューマ製品の「ミーハー的」な要素を取り入れ、コンシューマ製品は企業向け製品の信頼性や堅牢性を、コストをにらみながら取り入れる。その好循環が今のPC製品のラインナップを作っていると言える。
ただ、企業のWindows 10移行ははじまって間もない。サポート切れ目前のWindows 7もまだたくさん使われている。だからというわけではないが、企業で使われる環境はまだまだWindows 7に最適化されたままで、その先の一歩を踏み出せていないと言える。各社の新製品発表でコメントを求めるたびに、企業ユーザーはタッチを求めないという話を聞くのだが、Windows 7による業務環境に依存しているというのは大きな理由の1つだろう。
GUIとポインティングデバイス
エンドユーザーがPCをGUIで使うようになって久しいが、ポインティングデバイスの決定版と言えば、やはりマウスだろう。個人的にもすでに30年以上のつきあいだ。
実際、自分の仕事場で大きなディスプレイを目の前に作業しているときにはマウスを使うが、そのディスプレイがタッチに対応していたらうれしいと思うことはまずない。操作のために、画面まで手を伸ばすのも億劫だし、なによりも、ちゃんとしたマウスはポインティングデバイスとして一流の仕事をしてくれる。だからタッチの必要性を感じないのだ。
一方、ノートPCはどうか。とくに、モバイルPCの場合でも、マウスを携行するユーザーは少なくない。カフェなどでもマウスを使って操作しているシーンをよく見かける。ただ、いつでもどこでもマウスを使えるとはかぎらない。電車のなかで座っているときのちょっとした作業にマウスをとり出すのはめんどうだし、そもそも使うスペースがない。また、カフェにしても、極端にせまいテーブルなどでは使いにくい。
多くのノートPCにはタッチパッドが備わっている。そのタッチパッドがマウスと同じくらいに使いやすければいいのだが、なかなかそうはいかない。タッチパッドを使うことで、指や腕の動きは抑制することはできても、なかなかマウスと同等とはいかないのだ。
Windows 7を使っていたころはあまり気にすることがなかったタッチパッドだが、なぜかここ数年使いにくさを感じるようになってきた。その理由がどこにあるのかを自分でも考えてみた。
まず、ポイントしてクリックするという操作以外の作業をタッチパッドで行なうことが増えていることに気がつく。
たとえば、頻繁におこなう操作としては2本指によるスクロールがある。これがうまくいくといかないでは作業効率は雲泥の差だ。そんなものはキーボードの方向キーを使えばいいという声が聞こえてくる。でも、アクティブではないウィンドウのスクロールができる2本指スクロールは使い勝手がいい。
せまい画面を有効に使いたいモバイルノートPCでは、スクロールさせるためだけにウィンドウをアクティブにすると、せっかく整えたレイアウトなのに、ほかのウィンドウ内のコンテンツが後ろに隠れて見えなくなってしまう。だから、ウィンドウの重なり順はそのままでスクロールができる非アクティブウィンドウの2本指スクロールは便利で、方向キーの使い勝手とはちょっと違う気軽さがある。
そして、そのスクロールのしやすさだが、これはタッチパッドの表面処理に大きく依存する。また、ドライバのチューニングもものを言う。これらによってはスクロールのしやすさが極端に変わるのだ。
なにがイライラするかと言うと、スクロールの途中でその認識が解除されてしまうことほどのストレスはない。たとえば、ブラウザを開いて、2本指でスクロールさせながらコンテンツを読んでいるときには、2本指をパッドの表面に接触させて上下方向に滑らせ、そして離したりを繰り返す。
そのとき、2本の指が完全に同時にパッド表面に接触するとはかぎらない。おそらくは、ごくわずかの時間差がある。それを「同時」と見なすかどうかはドライバのチューニングによるものだ。ここがうまく調整されていないと、スクロールしたいのに画面上のオブジェクトを選択する状態になってしまったり、クリックしたくもないバナーをクリックしたことになって、意図せずに別のページに遷移するといったハプニングが起こる。
タッチパッドの表面処理が大きく影響するのかと思って、タブレットやスマートフォン用の画面保護シートを買ってきて、タッチパッドのサイズに切り取って貼り付けてみたりしてみたが、スベスベ感などは自分の好みに合わせることができたものの、微妙なタイミングなどについては改善することはできない。
ただ、タッチパッドの表面コーティングは、時間とともにはげていき、新品当時の感触を永続的に維持することができないそうなので、滑りやすさに不満があるなら、この対策はおすすめだ。
タッチパッドとタッチ画面、二択ならどっちを選ぶか
タッチパッドの操作性に不満があるなら、スマートフォンのように画面を直接タッチできればいい。必ず、タッチの対象としてのウィンドウがアクティブになってしまうので、タッチパッドのようにアクティブではないウィンドウのスクロールなどは難しいが、少なくとも意図しない動きをすることはなさそうだ。
いろんな難癖をつけるようだが、やはり、これからのモバイルノートPCはタッチに移行していくのは明らかだ。デジタルネイティブで、しかもタッチネイティブなユーザー層が増えていくことを考えれば、タッチ画面に対応したモバイルノートPCを当たり前にしていくのは、製品を提供するベンダーのみならず、エンドユーザーのために製品を選択する企業のシステム部門にとっても重要なテーマだ。
画面をタッチ対応するためのペナルティとして、インセルやガラスなど、タッチの方式にもよるが、重量にして数十グラムの違いが出てくる。乱暴な考え方かもしれないが、もしかしたらタッチパッドを省略してタッチ画面のみにするという方法論もあっていいのではないか。タッチパッドはマウスの代用品だが、タッチ画面はマウスとは別物と言える存在だからだ。
もしかしたら、ノートPCにはタッチパッドのようなポインティングデバイスが必須というのは、Windows 7以前の環境に縛られての先入観にすぎないのかもしれない。