山田祥平のRe:config.sys

フルコンピューティングはオールマイティとの訣別

 今年のCOMPUTEXでは、IntelもMicrosoftも強く「フルコンピューティング」をアピールしている。その「フルコンピューティング」とは何なのか。そのためには何が求められるのだろう。

一歩進むと誰もついてこない、だから半歩進む

 スマートフォンは人々の仕事や暮らしを確かに大きく変えた。でもそれは決してフルコンピューティングじゃない。スマートフォンの世界を牽引しているQualcommですら、Snapdragon 8cxの性能をアピールし、その付加価値としてIntelアーキテクチャでは得られないであろうWindows環境の優位性と、フルコンピューティングの可能性を訴える。

 ある意味で、この30年間のノートPCは、クラムシェルのシェルから脱皮できなかった。いや、明確な意志で脱皮しようとしなかったといえるだろう。それを支えたのがWidnows 7だったわけだが、その時代も終わろうとしている。

 結局のところ、フルコンピューティングとは快適なWindows環境がもたらすものであるというのはどうしようもない事実だ。そのためにウィンドウを同時にいくつも開ける大きな画面と、文字を快速入力できるキーボードや、タッチを含めて使いやすいポインティングデバイスが求められる。それを集大成したのがクラムシェルノートだ。いつまでもそんな時代が続くわけがないと思っていたが、ちょっとずつ、何かが変わろうとしているのは確かだ。

 IntelがCOPMUTEX期間中に近隣のホテルで開催した、Technology Open Houseイベントでは、新しい技術をどのようにしてフォームファクタに落とし込んでいくかが数々のリファレンスとして披露された。

 そのなかでも個人的にグッときたのがクラムシェルのタブレットだ。ふたつ折り、すなわちフォルダブルはスマホや一部PCのトレンドとなりつつあるが、こちらは2枚のディスプレイをヒンジでつないだものとなっている。

 ふたつ折りのフォームファクタは今、1枚のディスプレイを折れ曲がるようにすることで、使うときは大きく、持ち運ぶときは小さくという両立を狙っているが、Intelの提案はちょっとちがう。言ってみれば物理的見開きディスプレイで、2枚は明確に分離されている。

 直近ではレノボが折りたたみディスプレイを持つThinkPad X1ファミリーの製品を開発表明しているが(ThinkPadから世界初の折りたたみディスプレイ採用で900gの2in1参照)、Intelのイベントで披露されていたのは、慣れ親しんできた技術を、どう使えば、これまでのコンピューティングが変わるかを明確に提案するものだ。一歩先に行ってしまうのではなく、半歩進む。その積み重ねが着実な進化となって未来のコンピューティングを創生するという考え方もあるということなのだろう。

20型相当のモバイルディスプレイの持ち歩きが現実的に

 クラムシェルノートPCを作る多くのメーカーは、天板をA面として、スクリーンをB面、キーボード面をC面、底面をD面と呼んでいる。

 Intelのふたつ折りPCは、AとDがフェルト状の素材で覆われ、BとCがタッチ液晶になっている。BとCが向かい合わせになって折りたためる機構だ。ヒンジは360度のいわゆるYOGAタイプとなっている。サイズ的には13型前後で、物理キーボードは装備されていない。タッチだけで使うことも想定されているようで、ソフトウェアキーボードをC面に表示させてクラムシェルノートのように使うこともできるが、より生産力の高いフルコンピューティングのためには、外付けでマウスやキーボードを併用するのが前提と考えてよさそうだ。

 テント型にして対面で使ったり、ポートレート、ランドスケープなど任意の方向でスタンドなどで支えて使うことができる。Windowsから見れば、ただ単に2枚のディスプレイが接続されているに過ぎないので、新しい技術というところは何もない

 ディスプレイ自体も分割され、1枚のディスプレイを折るというわけではないので、折れ目部分の堅牢性などがネックになることもない。その気になればすぐに製品化できそうだ。コストもそれほど高くならないだろう。でも今までにはありそうでなかった新しいフォームファクタだといえる。

 仮に13型のディスプレイが2枚なら対角は20型近くになる。20型のモニタを持ち歩くのはたいへんだが、ふたつ折りにできるのなら現実的だ。そして、それだけで生産性は一気に高まる。

 もっとも、快適な作業のためにはテーブルやデスクなどが必須となる。決してラップトップで使えるようなフォームファクタではない。説明員の話では、リファレンスモデルとしての実機の重量は約1.6kgだそうで両側ともにバッテリが搭載されているという。さすがに、片手で支え続けて作業するにはちょっとつらい。さらに外付けのマウスやキーボードを持つとなるとトータルの携行重量として2kg程度は覚悟しなければならない。

 でも、点のモバイルだけを想定すれば、こういうのが欲しかったと思うユーザーは少なくないのではないか。少なくとも、働き方改革が進むものの、会社からは1台だけのPCを貸与され、それですべての業務を済まさなければならないというユーザーが使うには重宝するのではないか。24型ディスプレイをモバイルするのはたいへんだが、ふたつ折りにできるなら現実的だ。

Intelわかってる

 結局のところ、誰もが複数のデバイスを所有し、臨機応変に、そのときに必要なフォームファクタのデバイスを使い分けることができれば、世の中の不便の多くは解消する。クラウドが浸透した今、通信断の可能性がゼロになったわけではないが、同期のメカニズムを使うことができるので、あらゆるものをローカルストレージにおくという必然性は薄まりつつある。

 それでも会社はその環境を与えてくれない。それどころか、業務に使うコンピュータは、ノートタイプに移行してしまっている。一昔前のように、デスクの上に20型超のモニタを置き、それにミニタワーなどのPCを接続し、フルキーボードとマウスで作業していた環境が、ノート1台に集約されてしまい、以前より不便を感じているユーザーは少なくないのではないか。やはりコストが最優先だということか。管理しなければならないPCが増えるのはカンベンという管理する側の事情も少なからずある。

 つまるところ、フルコンピューティングを決して1台のPCに求めてはならないということを今こそ考えるべきではないか。その当たり前のことがなかなか理解されない。環境を与える側も、与えられる側も、オールマイティは妄想であるということを再考するべきだ。でも、そうは問屋がおろさない。だから、こうしたフォームファクタが提案される。そのくらいIntelはエンドユーザー環境をわかっている。