山田祥平のRe:config.sys
スマホのなかのとつぜんのPC
2017年12月1日 06:00
スマートフォンをPCのように使う
Galaxy S8、S8+、Galaxy Note8、そして、発表されたばかりのファーウェイ Mate 10 Pro。今のところ、これらの製品が「まるでPCのように」使えるスマートフォンだ。
Galaxyは、DeX Stationと呼ばれるオプションのクレードルが必要で、さらに外部電源も必要だが、Mate 10 Proは、DisplayPort対応ケーブルだけでいい。また、USB Type-C対応の市販アダプタ等を使い、USBポートやHDMI出力などを実現することもできる。実際の利用シーンではHDMIへの変換が必要となる場合が多いのでコンパクトなポートデュプリケータを使うのが便利だ。
ちなみにGalaxyはDeX Stationがないと一般的なミラーリングしかできないが、DeX StationにMate 10 Proを装着すれば充電しながらPCモードで使うことができる。当然、保証外で自己責任となるが、GalaxyのオプションがMate 10 Proでも使えてしまうわけだ。
どちらも大画面ディスプレイを接続すると、フルHDでデスクトップ環境が表示される。スタートボタンがあったり、タスクバーにタスクボタンが並ぶなど、心配になるほど。まるでWindowsのデスクトップのようだがWindowsではない。あくまでも、Androidのホーム画面が大画面フルスクリーンに拡張されたものだ。
スマートフォンの画面との違いは、アプリをフルスクリーンではなく複数のウィンドウとして開くことができるマルチウィンドウに対応している点だ。ウィンドウ間のドラッグ&ドロップなどには対応していないが、コピー&ペーストなどはできる。
Windows OSとの違いにとまどい、そして慣れる
こうしてデスクトップを大画面に出力し、USBやBluetoothでキーボードやマウスを接続すると、確かにまるでPCを使っているかのようだ。DeXの文字入力ではSamsungのIMEに固定されてしまうが日本語入力も問題ない。
使い勝手として気になるのは、ウィンドウ表示ができるアプリとフルスクリーンでしか使えないアプリがあること。また、Twitterアプリはウィンドウサイズを自由に変更できるがFacebookアプリは固定ウィンドウサイズでフルスクリーン化もできない。一方、Microsoft Wordは、ウィンドウサイズも自由でフルスクリーンにもできる。
基本的に同じアプリを複数開くことはできない。たとえば、Chromeブラウザのウィンドウは1つしか開けず、複数のサイトを同時に参照することはできない。タブを使って切り替える必要がある。
Galaxyでは、この部分にうまく対応し、標準ブラウザでは8つまでのウィンドウが開けるようにするなどの工夫がされている。いずれにしても、こうしたモードにあらゆるアプリが最適化されるようになるまでだましだまし使っていく必要があるが、実用性という点ではすでに十分な域に達している。性能にも大きな不満はない。
オフィスに戻って大画面ディスプレイにスマートフォンを接続すれば、まるでPCのように作業ができる。あるいは、出張先のホテルで部屋に設置されているTVに接続しても同じように使える。もちろん、日常的に使っているアプリの種類にもよるが、これならノートPCはいらないと思うかもしれない。
スマートフォンのオールマイティモバイル化
以前も書いたように、モバイルには「点のモバイル」と「線のモバイル」がある。出先で腰を落ち着けて作業するのが「点」、電車などで移動しながら作業をするのが「線」だ。
この大画面出力をフル活用するためには外部キーボードとマウスなどのポインティングデバイスが必要になる。Mate 10 ProのPCモードでは、スマートフォン画面をタッチパッドとして使えるが外部キーボードはほしい。
つまり、この環境をオールマイティモバイルとして成立させるには、スマートフォン本体のほかに、モバイルディスプレイ、キーボード、マウスが必要になるわけだ。そして、その装備は、キーボードとマウスで300~500g程度。もし、モバイルディスプレイを携行するならその分の重量も必要だ。それなら1kg程度のノートPCを持ち歩いても大きな違いはない。
スマートフォンの大画面出力がかなえる環境は、モバイルPCの置き換えではなく、デスクトップで使われるPC環境の置き換えだ。管理がスマートフォンだけで済むので、PCを貸与しなくていいと喜ぶ管理者もいるはずだ。もっとも、スマートフォンにはスマートフォンの管理しづらさがつきまとうのはおいておく。
そして、その結論にたどり着いたとき、ユーザーとしては、自分が何のためにPC的なデバイスを使うのかを問われていることに気がつく。
近い将来、スマートフォンのようなデバイスと、PCのようなデバイスでできることはかぎりなく同等に近いものに収束していくだろう。それは間違いない。
コンシューマ的にはデータをクラウドに引っ越し、処理をAPIでクラウド側に委ねて結果だけをもらうフェイズにある。ローカルのプロセッサを使い、力任せにゴリゴリやる時代は終わりつつある。コンピュータリソースの多くはユーザー体験に使われる。ヌルヌルサクサクと好きなことができれば、処理される場所、データの在処はどこだってかまわないわけだ。まさに通信の安定と高速がもたらした環境だ。
その一方で、作業に応じた環境というものもある。近頃の若い人たちはインスタ受けを狙ってスマートフォンの画面で丹念にフォトレタッチしたり、ビデオをガリガリと編集したりするらしいが、その才能とテクニックを大画面マルチスクリーンで使えば、もっとインスタ受けするものができるに違いない。かと思えば、一眼レフで撮った画像をインスタに投稿するのは邪道だといった声もきこえてくるからおもしろい。
スマートフォンをPCとして使うためのお膳立て
こうしたことを考えると、ぼくらのパーソナルコンピューティングが、キーボードとポインティングデバイス、そしてディスプレイに強く依存していることに気がつく。
大きな画面でキーを心地よく叩いてマウスが使えれば、それはPC。小さな画面でフリック入力で文字を入力してタッチで投稿できれば、それはスマートフォンである。それを考えると、PCをコンパクトにして1kgを切るような重量に抑えたノートPCというのは、本当によく考えたものだと感心する。
仮にスマートフォンの処理能力がPCを超えるようなことがあったとしても、きっとノートPCは使われ続けるだろう。適材適所というものがあるからだ。そして、そこにはコンピューティングパワーはあまり関係なかったりもする。
スマートフォンをPC的に使うためにはお膳立てが必要だ。それはディスプレイとキーボードとポインティングデバイスだ。ある意味でPCがPCであるためのこれらのお膳立てがなければスマートフォンはスマートフォンでしかない。けれども、それを気軽に実現できる機能を実装し、スマートフォンの可能性を示したGalaxyやMate 10 Proの功績は偉大だ。