山田祥平のRe:config.sys

おさわり厳禁クラムシェルノートの誤解

 ノートPCのフォームファクタは、主流が2in1になったように見えて、まだまだ伝統的なクラムシェルは健在だ。クラムシェルでありながらタッチスクリーンを装備する製品も見かけるようになった。ところが、タッチはあまりニーズがないという声も聞こえてくる。

第3のUXとしてのタッチ

 富士通のLIFEBOOK UH/B3を使いはじめた(富士通、13.3型世界最軽量クラムシェルを4コア/8スレッド/メモリ8GBに参照)。オーソドックスなクラムシェルPCだが、先代のB1ではなかったタッチスクリーンをサポートしている。

 その代償として、ディスプレイ表面が光沢になったが、UXとしてタッチができるかどうかは、その使い勝手を大きく左右する。これでかろうじて残る不満は画面のアスペクト比とLTE WAN非対応といったところくらいだろうか。

 もっともPCの環境にタッチを必須と主張するつもりはない。たとえば、自宅の仕事場では3台のディスプレイを並べて作業しているが、使いやすいマウスがあるので、タッチの必要性は感じない。優れたポインティングデバイスがあればそれでいいのだということがわかる。

 それにデスクトップPCの外部ディスプレイには、ある程度の距離をおいて対峙する。腕を伸ばしたときに指が届くか届かないかギリギリの距離だ。ちょっと遠い。なにかの操作をするときに、どうせキーボードのホームポジションから手を離すなら、前方の画面より傍らのマウスというケースが多い。それに、四六時中キーボードを叩いているわけでもない。腕を宙に浮かせてタッチするよりも、デスクなどに二の腕を預けられるマウスのほうが負担は少なくなる。

 その一方で、ノートPCはどうか。ホームポジションから大きく手を移動させないという点で、タッチパッドの存在は偉大だが、街中のカフェなどでノートPCを使っている人を見ると、そのほとんどがマウスを併用していることがわかる。彼らはなぜマウスを使っているのだろう。ノートPCとは別にマウスを持ち歩かざるを得ないというのは、タッチパッドになにかしらの不満を感じているということではないか。

パッドとタッチを併用する

 個人的には、ノートPCのタッチパッドを使っていて不満を感じるのは、スクロールとドラッグ、ドラッグ&ドロップの操作だ。パッドに独立した左右ボタンが装備されていればドラッグ操作などはなんとかなるが、スクロール、とくに2本指を使ったスクロールは、ちょっとしたはずみでオブジェクトの選択状態になったりして、使い勝手にストレスを感じることが多い。

 もちろんこれは、タッチパッドの表面処理にも依存する。さらにその表面処理の経年変化も気にする必要がある。

 昔のようにパッドの右辺をこすることでスクロールさせていた時代にはあまり感じなかったことだが、2本指スクロールを多用するようになって、この不満を感じるようになった。だったら、前のように右辺をなぞってスクロールするようにすればいいじゃないかという話だが、ショートカットメニュー表示のための右クリックが2本指タップで代替できるなど、2本指での操作で統一できたほうがいい。パッド右辺のスクロールは、スクロール方向の設定にも迷う。

 こうしたことをすべて解決してくれるのがタッチスクリーンだ。

使い勝手は親指が決め手

 ノートPCはデスクの上の外部ディスプレイよりも近距離で使うことが多くなる。その結果、操作する指も届きやすい。ただクラムシェルノートPCの本体部分と画面部分を結合するヒンジは軽い力で動くので、人差し指でタップするような操作ではグラグラして、それがストレスにつながってしまうかもしれない。

 だからこそおすすめしたいのが親指による操作だ。スマートフォンの操作にしても左手で本体を支えて人差し指で操作するほうをよく見かけるが、片手で持って親指で操作してみてほしい。ほとんどの操作がそれでことが足りることが実感してもらえるはずだ。もっとも最近の大画面ディスプレイでは、特定のボタンに指が届かないといった弊害もあるのだが、多くの作業は親指だけでことが足りる。

 ノートPCでも、画面の裏側をほかの指で支えつつ、親指で操作することができる。こうすれば画面部分がグラグラすることもない。もちろん、この要領でスクロールもOKだ。誤選択もなくストレスフリーでスクロールができる。

 さらに、ブラウザなどで参照しているページのズームイン、ズームアウトをピンチイン、ピンチアウトの操作でできる。スマートフォンの小さな画面ではいくら大画面といってもズームインした結果、ほかの部分が見えなくなったり、1行のテキストが画面の外にはみ出してしまうようなこともあるが、PCの画面ならまずそんなこともない。これは、1人でWebサイトをブラウズしているときはもちろん、ドキュメントなどを人に見せるときに、注目してほしい部分をグイッと大きくして見せられるという点でも便利だ。

 マウスもタッチパッドも人間が画面に対して正対していることを前提としたポインティングデバイスだが、タッチのUXはそうじゃない。斜めでも上からでもどんな向きでも、画面に対して望みの操作を実行できる。この違いも重要なポイントだ。

プラスのUXとしてのタッチ

 本当はいいことだらけのタッチ対応なのだが、どうしてこんなにニーズが高まらないのだろう。クラムシェルノートPCは、その画面をグルリと向こう側に折り返せるYogaスタイル、キーボード部分と分離できるコンバーチブルスタイルの機能を装備すると2in1 PCと呼ばれるようになる。当然、その場合はタッチ対応は必須の機能となる。なぜなら操作をするためのキーボードやタッチパッドが無効になり、タブレットと化したPCを直接操作する手段を用意しなければならないからだ。

 クラムシェルノートPCとの対峙では、目の前からキーボードとポインティングデバイスが消失することはない。そこにプラスアルファの要素としてタッチが加われば、ユーザーのPC操作の自由度は大きく高まる。代替ではなくプラスのUXがタッチなのだ。

 タッチ対応でノートPCの画面が汚れてしまうとか、指紋だらけになるのがいやだという声は確かに多い。だが、それは潜在的にあったらいいなと思っているということで、食わずギライとも言える。

 ちなみにタッチ対応にかぎったことではないが、個人的にPCのデスクトップは単色の白を設定している。理由は、ほとんどすべてのウィンドウ内が白バックなので、色の濃い背景では、ウィンドウと背景のコントラストが強くなり目が疲れやすいと感じるからだ。最近は、その言いわけとして指紋や汚れが目立ちにくいというのが加わった。気になる方はぜひお試しあれ。