やじうまミニレビュー

持ち運びに便利なUSB PD 30W対応の超小型充電器「Anker PowerPort Atom PD 1」

~高効率で低発熱な窒化ガリウムを採用

やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。
Anker「PowerPort Atom PD 1」。実売価格は3,499円

 「Anker PowerPort Atom PD 1」は、最大30WでのUSB PD(USB Power Delivery)による急速充電が行なえる充電器だ。GaN(窒化ガリウム)の採用により、30W対応の製品としては、驚異的な小型化を実現している。

 発表からしばらく大人気で、Amazon.co.jpでは長らく入手困難だった本製品だが、最近になって在庫が潤沢になってきたようだ。筆者もようやく購入することができたので、レビューをお届けする。

このサイズにして最大出力30W

 USB PDアダプタとしての本製品の最大の特徴は、約41×55×35mm(幅×奥行き×高さ)という小型の筐体でありながら、最大30Wの出力に対応していることだ。

 一般的に、USB PDアダプタの本体サイズは、最大出力に比例している。最大30Wのアダプタともなると、スマートフォンなどによく付属している最大18Wのアダプタに比べ、2~3倍程度の体積があるのが普通だ。

 しかし本製品は、最大18Wのアダプタと同等の体積でありながら、最大30Wの出力に対応している。30Wあれば、スマートフォンはもちろんタブレットでも急速充電が可能になるほか、一部のノートPCでも充電が行なえるので、外出時に持ち歩く荷物の量を劇的に減らせる。

約41×55×35mmと、筐体サイズは超小型。パッケージにケーブルは付属しない
背面。プラグは折りたためない
iPhone付属の5Wアダプタ(右)との比較。ふたまわりほど大きい
横から見たところ。奥行きはわずかに大きい程度

 このコンパクトさの秘密は、冒頭にも記したGaN(窒化ガリウム)なる半導体だ。このGaNは従来の半導体、具体的にはシリコンと比べて電力損失が少ないため、アダプタに使われているシリコンダイオードなどをこれに置き換えれば、高効率な充電を可能にするとともに発熱量を抑えられ、結果として筐体サイズの小型化につながるわけだ。

 つまり本製品の超小型筐体は、本来は放熱のために空けておくべき内部の空間をギリギリまで切り詰めるなど、安全性を軽視した設計によって強引に実現しているわけではなく、きちんと技術的な裏付けがあって小型化できているわけである。他社の小型アダプタとの最大の違いはそこにあると言っていい。

11インチiPad Pro充電速度が劇的アップ

 USB PDアダプタとしての形状はオーソドックスで、正面にUSB Type-Cポート×1、背面にプラグがある。

 実物を見ると、プラグ上下の幅がやや広く感じられるが、家庭用コンセントに差し込んでも、ギリギリ上下に干渉しない。これならば自宅内はもちろん、出張先のホテルなどで使う場合も便利だろう。ただし問題なのはむしろ横幅で、コンセントが横配置の電源タップでは、隣に干渉する可能性はある。

本体正面に最大出力30WのUSB Type-Cポートを備える。ほかのポート、たとえばUSB Type-Aなどは備えない
ややずんぐりした筐体だが、家庭用コンセントに差し込んでも、隣接するコンセントに差しているのがACアダプタなどでなければ、干渉することはない

 出力は最大30Wだが、本体のシルク印字によるとPDO(Power Data Object)は、5V/3A、9V/3A、15V/2A、20V/1.5Aの4つ。テスターで確認してもこれと同じ値で、またログを見てもおかしな挙動は見られなかった。

市販されている最大30Wのアダプタの多くは、上記4つのほかに12V/2.5Aに対応していることが多いが、本製品はそうではないようだ(12Vは規格上必須ではないのでとくに問題はない)。試したところ、最大18WのPixel 3では9V/2Aが、最大30Wの11インチiPad Proでは15V/2AのPDOが選択され、充電が開始された。

底面。PDOは「5V/3A」、「9V/3A」、「15V/2A」、「20V/1.5A」の4つ
テスターでチェックしたところ。本体の印字と同じPDOだ
11インチiPad Proを接続した場合のUSB PDのログ。同じPDOが送出されている
11インチiPad Proでは、いったん5V/3Aで接続が確立したのち、すぐに15V/2Aに切り替わって急速充電が開始される

 さて、本製品に最適な製品としてすぐに思い浮かぶのが、11インチiPad Proだ。最大30WでのUSB PDでの充電に対応しているが、付属のUSB PDアダプタは最大出力18Wなので、最大出力30Wの本製品に取り替えることで、さらなる充電速度のスピードアップが見込める。

本製品(左)と、11インチiPad Pro付属のアダプタ(右)。サイズはほぼ同等だが、前者が最大30Wであるのに対し、後者は最大18Wである
横から見たところ。奥行きについては本製品(左)のほうが明らかに短い

 実際にどのくらい変わるかというと、バッテリが完全になくなった状態から1時間の充電を行なった場合、付属の18Wアダプタであれば49%までしか回復しないところ、本製品であれば69%まで回復する。効果の差は明らかだ。

付属の18Wアダプタであれば49%までしか回復しない
本製品であれば69%まで回復する

 また、実際に使ってみて秀逸だと感じたのは、発熱が非常に少ないことだ。iPad Pro付属の18Wアダプタは、熱くてさわれないほどではないものの、握りしめるのはちょっと遠慮したいほど発熱する。「これは熱くなりすぎて危険なのでは」と感じるギリギリ手前で踏みとどまっている印象だ。

 それに対して本製品は、もちろんある程度は熱を持つのだが、常時ほんのりあたたかいというレベルで、また充電が完了すると、それらの熱もサッと引く。どこまでがガリウムの特性なのかわからないが、使っていて安心感は間違いなくある。

 いずれにせよ、本製品は廉価なUSB PDアダプタのように、異常な発熱を示したり、手で持てなくなることもなく、充電も安定している印象だ。また今回試したかぎりではコイル鳴きのような、廉価な製品にありがちな不具合もなかった。

プラグの折りたたみは今後の課題か

 以上のように、コンパクトな筐体ながら最大30Wの急速充電に対応した本製品だが、最大のネックと言えるのが、背面のプラグが折りたためないことだろう。プラグが折りたためないと、持ち歩くときにかさばるだけではなく、バッグに入れたときにプラグの先端が別のデバイスに当たって傷つけてしまう危険がある。

 もっとも本製品は、プラグを収納できるほど内部の空間に余裕がないとみられ、無理にスペースを作ろうものなら、全長が2cmほど長くなってしまう。

それゆえ現状では、ユーザーの側で傷をつけないよう、配慮をするしかない。これについては同社をはじめ、今後ガリウム採用の小型アダプタを発売するメーカーの創意工夫に期待したいところだ。

本製品と同じくガリウム採用のUSB PDアダプタとしてはRAVPowerの「RP-PC104」(右)があり、こちらは45W対応でプラグも折り畳めるが、左右プラグに干渉しがちなのがネックだ。実売価格も当初の5,000円~7,000円台へと突入しつつあるのが気になるところ(RAVPower、窒化ガリウム採用で最薄クラスの45W USB ACアダプタ参照)